容易に導入して徹底管理できるクラウドVDI
「Azure Virtual Desktop」

リモートでのビジネスコミュニケーションの需要が増えている昨今、仮想デスクトップサービス(VDI)の需要が高まっている。しかし、自社サーバーやデータセンターに仮想デスクトップを構築する場合、環境構築の複雑さやハードウェアベンダーの選定など、さまざまな手間が発生する。さらに、高額な初期コストと陳腐化への懸念などもある。それらの問題を解決するため、いま注目を集めているのがマイクロソフトのクラウドVDI「Azure Virtual Desktop」(AVD)だ。

日本マイクロソフト
パートナー技術統括本部
シニア クラウドソリューションアーキテクト
高添 修 氏

 日本マイクロソフト パートナー技術統括本部 シニア クラウドソリューションアーキテクトの高添 修氏は、同社が提供するAVDをこう説明する。「AVDは、マイクロソフトが提供するクラウドVDIです。VDI構築に必要なサーバーやストレージ、ネットワーク、監視ツールなどのシステム要素を全てマイクロソフトが提供するため、導入期間も初期コストも大きく削減できます。クラウドならではのパターン化されたソリューションのため、従来では半年、1年以上かかっていた導入までのプロセスを大幅に簡素化でき、新型コロナウイルス対策として数週間で実運用環境まで作り上げるといった事例も出てくるような、スピード感のあるビジネスを実現する仕組みを提供しています」

 AVDが出てくる前、マイクロソフトは「リモートデスクトップモダンインフラストラクチャー(RDMi)」という方向性を示していた。それは、オンプレミスで環境構築するためコストや手間がかかるという従来のVDIのイメージを払拭し、VDIの世界をよりモダンにしていくという指針だ。その理念のもと開発を進め、Azureに実装したのがAVDとなった。動作環境はWindows Serverにも対応しているため、これまでWindows ServerでVDIを実現していた企業の移行もスムーズだ。VDIは敷居が高いという固定概念を捨て、AVDと向き合うことでVDIビジネスへの参入が容易になると高添氏は提言している。

 VDIの提案時に次に導入の壁となるのが、管理プレーンのコストだ。VDIベンダーはそこでビジネスをしているのだが、AVDは違ったアプローチによりコストを抑えている。「AVDはMicrosoft 365 E3やE5などのライセンスを購入していれば、管理プレーンのコストがかかりません。Azure上でネットワークを使ったり仮想マシンを立ち上げたりストレージを使ったりした分の利用料が、従量課金制のコストとして発生しますが、仮想マシンの電源を落とせば課金されないため電源管理をすることで価格を抑えられます」(高添氏)

 AVDは設定もしやすい。準備手順は、次の通りだ。Azureポータル上にAVDの管理メニューが用意されているので、ここでAVD用の仮想マシンのリージョンを東日本、西日本など選択していく。Azure上に用意されたOSは英語版なので、日本語化するなどのイメージ管理作業は事前に必要だが、ウィザードのような画面でネットワーク、ドメインを設定していくと、スムーズに環境が作れるという流れだ。「AVDなら、6ページ程度のAzureポータル画面にVDI環境の必要項目を入力するだけで環境を構築できますし、利用者はリモートデスクトップのクライアントツールを使ってログオンし、アイコンをダブルクリックすればAzure上で稼働するWindowsに接続することができます」(高添氏)

AVD はAzure ポータルから設定の変更が可能だ。仮想マシンのシリーズやサイズを自由に選べる。

Windows 365とAVDの相違点とは?

 マイクロソフトは、7月14日から数日、世界中のパートナー企業が参加するバーチャルイベント「Microsoft Inspire 2021」を行った。その中で、AVDのアップデートも発表しており、高添氏はその概要について次のように紹介する。「Windowsにインストールするアプリケーションをお持ちのIT企業が、自社のAVD上にアプリをインストールして、アプリケーションそのものをサービスとしてお客さまに提供できる新しいライセンスモデル『リモートアプリ ストリーミング』が新たに加わりました。このライセンスモデルにより、売り切りの製品を持つIT企業が容易にアプリケーションをサービス化でき、お客さまも自社でインストール作業などが不要になるため、新たな価値創出を実現できます。また、通常AVDでは、要件となるライセンスが必要ですが、リモートアプリ ストリーミングでは5.5ドルや10ドルといった新しいサービス料金とプラスしてAzureの利用料がかかる代わりに事前のライセンス要件が不要になります」

 さらに同日、仮想PCサービス「Windows 365」が発表されたが、このWindows 365と仮想デスクトップサービスのAVDは混合されやすい面があるので、両者の違いについても正しい認識をした上で提案を行うことが重要だ。Windows 365では、最初から一人1台、クラウド上にPCを置く「クラウドPC」と位置付けており、管理者や投資をする責任者が意思決定しやすいように予測可能な固定料金の形式をとっている。CPUやメモリー、ストレージの容量など仮想マシンのスペックにより金額を固定できるのは、クラウド上で物理PCのスペックを選んでいるかのようである。

 一方、AVDは従量課金なので、電源を止めたら支払う分は安くなり、使ったら使った分課金されるというシステムだ。1台の仮想マシンに対して複数ユーザーが接続できる「Windows 10マルチセッション」にも対応しており、仮想マシンをプール化することで少数の仮想マシンリソースを多くのユーザーで共有できるので、徹底したコストの最適化も可能だ。従業員の利用形態や企業の利用要件などを意識して、細かく設計する必要がある場合はAVDが便利だ。またシトリックス・システムズやヴイエムウェアとAVD協業も進んでおり、AVDでは難しい細かな要件にはパートナーエコシステムで対応することができる。

 AVDの具体的な利用シーンについて、高添氏は次のように説明する。「日本では、金融・ヘルスケア・公共・文教などでVDI需要が多いですが、AVDは特定の業務・業種に限らず提案できます。企業の吸収・合併、統合など、企業を取り巻く環境も変化し、コロナ禍で従業員が一斉にリモートアクセスできる環境が必要になった時でも迅速に対応できるなど、突然大規模な労働環境の調整が求められるケースに対応します。従量課金制ですので、短期雇用者向けに働く環境を一時的に提供し、雇用期間が満了したら利用を止めるという使い方も適しています」