AWSサービスを自社導入して提案に反映、
中小企業のクラウドビジネスが急成長

テレワークの実施やクラウドの活用が遅れている中小企業の顧客に向けて、クラウドビジネスを勢いよく伸ばしている企業がある。本社のある埼玉県内の中小企業を中心にPCの販売、サーバーやネットワークの構築、システムの提供、これらの運用・保守など、ITに関わる製品やサービスを全般にわたり提供しているアストンだ。同社は自らAWSの「Amazon FSx for Windows File Server」を利用して得た運用のノウハウや利用コストの実績を、顧客への提案に反映することで成約件数を伸ばしている。さらにAWSのサービスを利用してビジネス領域を拡大する計画もあり、その勢いは加速するばかりだ。

関心は高いが利用コストが課題
自社導入の実績で不安を払拭

アストン
執行役員
Total Office Networkグループ担当
桑田将海氏

 アストンの執行役員 Total Office Networkグループ担当 桑田将海氏は、近年のビジネスの変化について次のように説明する。

「近年は埼玉に隣接する東京のお客さまが増えており、さらに東京のお客さまが展開する拠点への対応によって地方にもビジネスが拡大しています。またコロナ禍以降のテレワーク対応によってクラウドサービスの需要が高まっています。特にこの1年間は実際にクラウドサービスを導入するお客さまが急増しています」

 アストンの主要顧客層となる従業員100名規模の企業ではテレワークを本格的に実施する時期を見計らっている顧客が多かった。ところがテレワークが長期化するとともに、国や全国の自治体がテレワークに関する補助金や助成金を充実させたことで、テレワークの実施が遅れていた中小企業も本格的なテレワークを実施し始めた。それに伴い、在宅ワーク時に容易かつ安全にデータにアクセス、利用できるクラウドのストレージサービスへの関心が高まった。ただし桑田氏はこう指摘する。

「2011年の東日本大震災以降、サーバーのデータ保護やシステムのバックアップを遠隔地で行うなどの目的でディザスタリカバリーのニーズが増えており、クラウドサービスへの関心が高まっていました。しかし中小企業にとって負担しにくいコストがかかると思われていたため、なかなか導入が進みませんでした」

 クラウドが普及した昨今は利用料金も低下し、クラウドサービスがぐっと身近になっている。しかし依然、クラウドサービスの利用コストに不安を抱く中小企業が多いという。

 そこでアストンはAWSの「Amazon FSx for Windows File Server」(Amazon FSx)を自ら導入し、実際に支払う利用コストを顧客への見積に反映することで、ビジネスを伸ばすことに成功している。

豊富なサービスを組み合わせて
あらゆる要望への対応をAWSで完結

 クラウドビジネスの魅力について桑田氏は「当社ではオンプレミスのサーバーおよびシステムの構築や保守サービスなどを提供していますが、クラウドビジネスは設置や設定といった作業のために現地に赴く必要がなく、ビジネスを全国展開しやすいなどのメリットがあります。クラウドビジネスは売上の単価が小さいと指摘されがちですが、構築や設定、サポートなどを遠隔で時間やコストをかけずに行えるため利益を確保しやすいことも魅力です」と説明する。

 さらに「導入後の利用管理や設定変更といった業務を支援するサービスをビジネス化することで利益を拡大できます。またお客さまの業務の状況に応じてサービスメニューから別のサービスを追加で提案しやすく、ビジネスを伸ばす機会も期待できます」と話を続ける。

 数あるクラウドの中からAWSを選んだ理由について桑田氏は「AWSはサービスが豊富で、AWSのサービスを組み合わせることでお客さまのあらゆる要望に応えられます。そのためAWSに関する知識とスキルを習得すれば、ビジネスを幅広く展開できます。それに加えてAWSのサービスは直感的に操作でき、構築、設定が容易で、ビジネスに参入しやすいという特長もあります。実際に当社のエンジニアが使ったところ、誰にも聞かずに構築、設定ができました」と評価している。

 こうしてアストンはAmazon FSxを導入し、ファイルサーバーとして社内でデータの共有やバックアップなどに活用している。そして実際に利用しているデータ量や利用頻度、月額のコストなどを部署ごとに集計し、社内で公開している。

 桑田氏は「Amazon FSxの利用料金は非常にリーズナブルなのですが、利用状況や月額料金を社内に公開することでコスト意識が高まり、不要なデータを削除するなど運用が効率化され、利用料金の節約につながっています」と説明する。

中小企業のクラウド導入を促進
AWS上で新たなビジネス展開も計画

 アストンが実際にAmazon FSxを導入、利用して、その利用状況やかかるコストを社内で情報共有していることで、顧客への提案に説得力が加わり成約率がぐっと向上したという。前述の通りテレワークに関する補助金および助成金を利用してモバイルPCやWi-Fiルーターを購入する顧客が増えており、その際にテレワークと相性の良いクラウドサービスを提案している。

 具体的にはバックアップやファイルサーバーといった中小企業でも導入するメリットが分かりやすく、しかも導入が容易で利用コストも低いAWSのAmazon FSxや「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)などを提案することで関心を持ってもらえるという。

 利用コストに不安を感じている顧客には、アストンでのAmazon FSxの利用実績を反映した見積を提示することで多くの顧客が導入を決断するという。その効果は「10社に提案すると、9社はAWSの何らかのサービスを契約してくれる」(桑田氏)という勢いだ。

 AWSのサービスによってクラウドビジネスを伸ばしているアストンでは次の展開として、同社が提供したオンプレミスのサーバーをAWSへ移行する提案や、システム開発会社と協業してAWS上でSaaSを提供するなどの検討を進めている。

 例えばアストンがAWS上にSaaSのインフラを構築し、そのプラットフォームを通じてパートナーとなるシステム会社が会計システムを顧客にSaaS提供するビジネスを準備している。またアストンがエンジニア派遣事業で社内利用しているスタッフ管理システムを、同様にAWSを利用してSaaS提供する計画もある。

 桑田氏は「会計や人材派遣のスタッフ管理といった特定用途のシステムは一定の需要があり、安定したビジネスが期待できます。システム会社はインフラに関する負担から解放されて製品開発に専念でき、SaaS提供によってビジネスを容易に拡大できます。当社はコールセンターを運営しており、顧客からの問い合わせにも対応できます。今後は当社のコールセンターシステムもAWSに移行したいと考えています」と意欲を語る。

Company Profile

アストン
https://aston.jp/
本社:埼玉県さいたま市南区南本町1-8-9スカイビル7F
設立:1998年6月
社員数:38名 ※2021年10月末時点