国公立高校で約110万台の端末が不足
段階的に整備が進む高校の1人1台環境

Data:MM総研

第2特集の中で、2022年度から新学習指導要領が全面実施となる高等学校 (以下、高校)のICT教育の必要性について触れてきた。 GIGAS chool 時代の文教ビジネスにおいては、MM総研の調査による 2021年10月時点の 高校の端末整備状況から、現在の高校のICT環境整備状況を展望していく。

約半数の高校で端末が未整備

 児童生徒1人につき1台の端末環境は、GIGAスクール構想によって全国の小中学校に整備された。一方で、高校の整備は、まだまだ未整備の学校が少なくないのが現状だ。文部科学省が発表した「公立高校における端末の整備状況(見込み)について(令和3年8月時点)」を見ると、2020年度中に整備が完了しているのが11自治体、2021年度中に整備が完了する見込みが8自治体、2022~2024年度までに整備を行うのが16自治体、検討中が8自治体。47自治体の内約半数の自治体で、現在の中学3年生が高校1年生となる2022年4月の段階で端末整備が完了していないとみられるのだ。

 そうした高校での端末整備状況と活用意向について、ICT市場調査コンサルティングのMM総研は、2021年3月末に調査を行っていた。その調査結果の内容についてはPC-Webzine2021年7月号にて詳報している。今回は、MM総研が同じく高校の端末整備状況を調査した「高校5,000校一斉調査」(2021年10月時点)から、現在の高校における端末整備のリアルを見ていく。

教員の認知の差が端末配備の差に

 今回の調査は、MM総研が国内の国公立および私立の高校、5,007校に対して、2021年10月末時点での1人1台端末環境やネットワークの整備状況を電話アンケートで調査している。

 本調査によると、私立を除いた国公立高校における端末の配備率は47%。2021年3月末の前回調査では44%であり、7カ月で3ポイント増にとどまっている。

「アンケートの回収数は、本調査結果を発表した時点で2,043校(国公立1,533校、私立510校)でした。最終的にはもう少し多くの学校から回答がありましたが、これらの数値から約3,600校ある国公立校全体に拡大推計すると、現状約97万台が配備されており、全ての国公立高校で1人1台化を実現するには、約110万台不足している状況だと分かります。文部科学省も高校の端末配備を進めるべく、地方財政措置や新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金などの国費活用を推奨していますが、小中学校のように全額国費負担でないことから、予算の確保が難しく整備の足並みがそろっていない状況です」と指摘するのは、MM総研 執行役員 研究部長の中村成希氏。

 そうした端末配備原資の課題を解決するため、自治体の中には自治体予算や国の補助金などの公費ではなく、保護者負担での整備を行う自治体もある。前述した文部科学省の調査によれば、18自治体が「公費」、21自治体が「保護者負担」、8自治体が「検討中」という結果になった。この調査をもとにMM総研が都道府県別の端末配備状況を分析したところ、公費を利用している自治体では配備率が高く、保護者負担を選択した自治体では配備率が全体平均の47%よりも低いことが分かったという。しかし、保護者負担で配備する方針の自治体の中でも、その方針を多くの自治体が認知・理解している場合は端未配備台数が少ない傾向にある。

「例えば東京都は保護者負担で整備を進めていく方針ですが、今回の調査ではその方針を認知している学校は3割ほどでした。実際、東京都は未配備端末が多い状況です。保護者負担の場合、学校側が保護者にその方針を説明する必要があるため、伝えられる状況になっている学校は、配備率が高くなるのでしょう。東京都も、2021年11月30日に小池百合子知事が全世帯を対象とした端末購入の補助制度創設を表明するなど、端末整備の周知を進めています」と中村氏。

国公立高校生はネット接続に不満

 端末整備の原資問題を解決するべく、文部科学省は中村氏が例に挙げた地方財政措置や新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金などの国費活用を推奨している。この新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金は公費で端末を調達するケースだけでなく、保護者への負担軽減策を講じる場合でも活用が可能だ。

 一方、端末配備が進んだ学校を中心に、インターネット接続環境に対する課題も顕在化している。MM総研の調査によると、普通教室で学習者用端末をインターネットにつなぐ際の接続品質について訪ねたところ、私立高校では「不満」が8%と少ないが、国公立高校では「不満」が23%と3倍近い割合になった。

 背景には、私立高校では85%が学校からインターネットに直接接続しているのに対し、国公立高校では教育委員会や自治体のネットワークを経由して接続していることがある。「国公立高校もインターネットブレイクアウトで直接接続することでこの不満は解消される可能性があると思いますが、それが国公立高校で理解されていないことが問題です。また、高校は小中学校と比べて1校単位の生徒数が多く、帯域が不足しているケースもあります」と中村氏は課題を指摘する。

 高校における端末整備の今後について中村氏は「2024年度ごろまでには端末配備率が高まるとみています。なぜなら、多くの自治体で、高校に進学する新入生から1人1台の端末配備を行っているためです。入学時に学生服を買うように、端末を準備するように保護者に呼び掛けることで、一定のコンセンサスが取れていくでしょう」と予測した。