POSレジ機能を備えたカートで行列を解消

Retail Tech– スーパーセンタートライアル長沼店

スーパーセンターを中心とした小売業をはじめ、ITや物流、商品開発・製造などを手掛けるトライアルグループ。同グループは「ITで流通を変える」という意志の元、最新のテクノロジーを導入した「スマートストア」を展開している。

先端技術による効率的な店舗運営

 トライアルグループの小売店舗「スーパーセンタートライアル長沼店」は、同社の最新テクノロジーを集約したスマートストアの一つだ。同店は関東最大級のスマートストアをうたっており、商品棚の監視や顧客の動線分析を行うリテールAIカメラや、購買行動を促すデジタルサイネージなど、トライアルグループが独自に開発したIoT技術やAI技術を導入して、データを活用した新しい購買体験の提供や、効率的な運営を実現している。

 その中でも多くの注目を集めているのが、スマートショッピングカートだ。同店では、トライアルグループのRetail AIが開発したスマートショッピングカートを90台導入し、通常のレジでの商品登録や会計の手間を省いてキャッシュレス決済ができる仕組みを採用している。

 スマートショッピングカートを導入した経緯について、スーパーセンタートライアル長沼店の店長を務める、トライアルオペレーションズ 販売本部 店舗運営部 長沼店 ストアマネージャーの須貝貴一氏は「もともとは当店の改装をきっかけに、スマートショッピングカートやリテールAIカメラ、デジタルサイネージなどを導入しました。その後スマートショッピングカートは、2022年7月にスキャン漏れ防止機能が搭載した次世代モデルにリプレースしました」と語る。トライアルグループでは全国にスーパーセンタートライアルのような小売店を出店しているが、このようなスマートストア化を実施する店舗は現在のところ長沼店のような大型店がメインだ。

専用設計で使いやすいカート

「実際にスマートショッピングカートを導入したことで、レジ待ちの行列が解消されたことは大きなメリットです。トライアルの店舗では半年に1回、ビッグセールを実施するのですが、このスマートショッピングカートを導入していない店舗などは、セルフレジ待ちの行列が入り口まで伸びていることがあります。当店にもセルフレジはありますが、そうした行列は発生していません。レジ待ちの時間が少ないということは、お店への滞在時間が長くなることにつながるため、購入店数が増えることも大きなメリットと言えます」と須貝氏は語る。

 実際、スマートショッピングカート導入前後を比較すると、来店頻度が増えたというデータもあるという。

 須貝氏は「スマートショッピングカートを利用しているお客さまからは『楽しくて使いやすい』という好意的な声が多く寄せられています。また、スキャンした商品の合計金額がその場で確認できる点も良いと好評です」と来店者からの声を明かす。専用設計で開発されているため、シンプルで使いやすい点が高く評価されているのだ。実際、主に使用しているユーザーの年齢層に偏りはなく、どんな人にも使いやすいことが分かる。

 スーパーセンタートライアル長沼店ではこのスマートショッピングカートをはじめとしたスマートストアの技術を武器に、競合のスーパーマーケットとの差別化を図り、さらなる売上拡大へとつなげていきたい考えだ。

1.千葉県千葉市稲毛区長沼町に位置するスーパーセンタートライアル長沼店。2.入り口から入ると、スマートショッピングカートがずらりと並ぶ。3.スマートショッピングカートは、POS機能を備えたタブレットと一体型になった専用のカート。タブレットの下部にはバーコードをスキャンするバーコードリーダーが備えられている。スキャンした後に商品を入れやすいようタブレットと収納部の間は大きく空いている。
4.店舗には、デジタルサイネージやネットワークカメラが至る所に並んでいる。デジタルサイネージではその時々にアピールしたい商品を動画で流し、訴求力を高めている。5.リテールAIカメラは商品棚の監視や来店者の店内での動線分析を行い、発注や補充オペレーションの最適化を図っている。6.防犯用のネットワークカメラのほか、レジまでの道順を示すライトも設置されている。

専用設計のショッピングカートが小売店の未来を変える

–Retail Tech– Retail AI「スマートショッピングカート」

トライアルグループのRetail AIが開発したスマートショッピングカート。POSレジ機能を備えた本製品の開発に至るまでにあった苦労と競合製品にはない強みを詳しく聞いた。

レジの課題を技術が解決

 消費者にとって身近な小売店舗。そのオペレーションについて「60年前から変わっていない」と指摘するのは、Retail AIグループ SSC事業責任者兼 Retail SHIFT 代表取締役社長を務める田中晃弘氏。

「多くの小売店舗は、大量消費型の社会からそのオペレーションが変わっていません。みんなが商品を取り、並んでレジ打ちをするというのが、典型的な小売店における購買の流れだと思います。このレジでの決済処理は、行列を生んだり、人手が必要になったりと潜在的なペインポイントとして存在していました。しかし、このフローが大きく変わる変革期が、今訪れています」(田中氏)

 読者の中にも、セルフレジを活用したことのあるユーザーは少なくないだろう。IT技術の発展に加え、人手不足の影響でレジ打ちを行うスタッフの確保が難しくなり、セルフレジのニーズが拡大している。実際、トライアルグループのスーパーセンタートライアル長沼店ではセルフレジも設置しており、利用者も多い。その一方で、まとめ買いなどで大量に商品を購入する来店者の場合、全てをセルフレジで対応することは現実的ではない。Retail AIが開発した「スマートショッピングカート」は、そうしたレジの決済処理にまつわる課題を解決してくれる製品だ。

 Retail AIのスマートショッピングカートは、タブレットとショッピングカートが一体化した製品だ。タブレットの下部にはバーコードリーダーが搭載されており、商品のバーコードや、プリペイドカードなどをスキャンして、そのまま決済できる。商品をカートに入れる収納部はまとめ買いにも対応できる大容量デザインを採用しているだけでなく、一体型バーコードスキャナーでスキャンした商品をそのまま収納部に入れられるよう設計が工夫されている。また、オプションとして着脱式バーコードスキャナーが用意されており、サイズが大きく重い商品などを持ち上げることなく、簡単にバーコードスキャンが行える工夫もなされている。

スキャン漏れもセンサーで検知

 スマートショッピングカートによる買い物のフローを見ていこう。まず来店者は、自身の情報が登録された専用のプリペイドカードをスマートショッピングカートでスキャンして買い物を始める。商品を手に取り、バーコードをスキャンすれば、画面上に価格などが表示されていく。スキャンした商品はそのまま収納部(買い物かご)に入れれば良い。購入したい商品をスキャンし終えたらレジカート専用のゲートに向かい、アテンダントスタッフのチェックを受ける。買い物かごの中身と登録された商品の内容が一致しているかなどを確認する必要があるためだ。とはいえ、このチェックは数秒で終わる。ゲートを通過すれば支払いは完了するため、通常のレジに並ぶ時間を考えると大きく時間短縮できる。

 さまざまな工夫が凝らされた本製品だが、開発の背景には幾度もの失敗もあった。現在提供されているのは「次世代モデル」に位置付けられた製品で、最初に開発されたモデルでは、決済機能などは搭載されていなかった。また、最大の強化ポイントと言えるのが、商品のスキャン漏れをセンサーで検知して、アラートを表示する機能だ。例えばうっかり手に取った商品をスキャンせずにそのまま収納部(買い物かご)に入れると、センサーがそれを検知して「商品のスキャン忘れはありませんか?」と表示してくれる。セルフレジをはじめ、顧客が決済を行うデバイスでは支払い忘れが生じるリスクがあったが、スマートショッピングカートであればそうしたリスクを極力低減しながら、顧客の利便性を向上できるのだ。

顧客に最適化された広告を

 独自開発されたAIレコメンド機能も搭載している。カートの中に入れた商品や、プリペイドカードにひも付けられた顧客情報をもとに最適化されたお薦めの商品をAIがリアルタイムで提案してくれる。またスマートショッピングカートの開発当初からあったクーポン配信の機能も搭載されており、クーポン一覧の画面から配信されているクーポンを確認できる。クーポン配信対象となっている商品は、バーコードをスキャンすればそのままクーポンが適用されるため便利だ。

 スマートショッピングカートの次世代モデルは、今年に入ってから量産を本格化させており、現在89店舗にて、合計で9,000台以上が導入されている。「トライアルグループ以外の店舗でも導入が進んでいます。量産体制も整いましたので、トライアルグループの店舗では来年全ての店舗でスマートショッピングカートを導入する予定です」と田中氏。

 小売店舗のペインポイントであるレジ待ちを解消するスマートショッピングカート。「スマートフォンにアプリをインストールして決済する、いわゆるスマホPOSのシェアも広がっていますが、画面が小さく使い勝手が良くなかったり、年配の人は使いにくかったりします。またスキャン忘れによるロスの発生などもボトルネックです。スマートショッピングカートはタブレットのため見やすく、また専用設計のため年配の方でも使いやすいのがメリットです。実際、利用者全体の年代構成をみると51%以上が50歳台と、その使いやすさが分かります。まずはトライアルグループの中で利用を広げながら、他の店舗にも導入を進め、小売店舗の在り方をテクノロジーで変えていきたいですね」と田中氏は語った。

買い物を始める前に、まずプリペイドカードをバーコードリーダーにかざして読み取らせる。顧客情報に合わせて最適化されたレコメンドにも活用されている。
バーコードリーダーにスキャンした商品は、そのまま買い物かごに入れるだけでよい。収納部にしまいやすい専用設計だ。
タブレットではクーポンも配信されている。クーポン対象商品は、バーコードをスキャンするとそのままクーポンが適用されて便利だ。
もしバーコードのスキャンを忘れた場合でも、センサーが検知してタブレット上にアラートを出してくれる。