2023年の重点戦略はシスコのDXプラットフォームが実現する
「やわらかいインフラストラクチャ」の提供

今年5月に創立30周年を迎えたシスコジャパンは次の30年、100年を見据えて新たな戦略へと大きく舵を切った。これまでのハードウェア中心のビジネスからソフトウェアおよびサービスへと軸足を移すとともに、サブスクリプションやリカーリングに注力し、構築型から利用型へとビジネスモデルを変革していく。昨年1月にシスコシステムズの代表執行役員社長に就任した中川いち朗氏に、シスコジャパンの事業戦略を伺った。

ソフトウェアサービスのビジネス比率が
グローバルで5割を超える

シスコシステムズ合同会社
代表執行役員社長
中川いち朗 氏

編集部■今年はシスコが日本に進出して30周年を迎えます。日本市場のビジネスの変化と現状をお聞かせください。

中川氏(以下、敬称略)■今年5月にシスコジャパンは創立30周年を迎えました。これまでの30年間、シスコを支えていただいたお客さま、そしてパートナー企業の皆さまに心から感謝を申しあげます。

 シスコジャパンが日本でビジネスを開始した1992年は日本初の商用インターネットサービスが開始され、インターネットがビジネスに活用されるようになった年です。シスコジャパンの歴史は日本のインターネットの発展の歴史そのものと言えます。

「Changing the way we Work, Live, Play and Learn」を会社のビジョンとして掲げ、人、モノ、情報を安全につなぐことで新たな価値を提供し、日本の働き方、生活の仕方、遊び方、学び方を変えてきた30年でした。

 新型コロナウイルスの感染拡大は私たちの価値観や社会の在り方に大きな変化をもたらしました。世界的にデジタルシフトが急速に進みましたが、日本では企業でのDXはもとより、行政、教育、医療など、グローバルと比べて社会全体のデジタル化に後れを取っていることが露呈してしまいました。

 そこでシスコジャパンがどのように日本のDXに貢献できるかを、組織を超えた現場の社員約100人のリーダーで議論を重ねた結果、DXには環境の変化に即応できる俊敏さ、強靭さを持つクラウド時代のDXレディなITプラットフォームが必要であることを改めて認識し、日本のDXの足かせとなっている既存のシステムをDXレディなプラットフォームの移行に必要なテクノロジー、すなわちネットワーク、セキュリティ、クラウド、データセンター、5Gをエンドツーエンドで提供できる数少ない企業の一つがシスコであると自負しています。

 またDXを素早く実行に移すには、お客さまは常に最新のテクノロジーをいち早く導入し、活用しなければなりません。それにはクラウドシフトはもとより構築型から利用型への移行、さらに導入後の定着、活用といった段階へのご支援も重要になってきています。

 シスコ自身もソフトウェア、サービスの提供を通じて、お客さまにとっての製品価値をライフサイクル全体で最大化するためにビジネスモデル変革に取り組んでいます。グローバルではソフトウェア、サービスのビジネス比率が5割を超え、リカーリングビジネスの売上比率は44%、ソフトウェア売上に占めるサブスクリプションの割合は8割を超えています。

シスコは信頼される製品ベンダーから
真のビジネスパートナーへ変貌する

編集部■昨年に発表された3カ年成長戦略「Project Moonshot」の内容と取り組み、進捗についてお聞かせください。

中川■「Project Moonshot」は私が社長就任以来、「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」というパーパスの実現に向けて推進しています。Project Moonshotにおいてシスコのテクノロジーが支えるDXプラットフォームを基盤として、「日本企業のデジタル変革支援」「日本社会デジタル変革支援」「クラウド時代のサービスモデル変革」「パートナー様との価値共創」という四つの戦略分野を定義しています。

 お客さまのDX支援という観点での注力分野の一つが働き方改革、ハイブリッドワークです。これからのポストコロナの時代にはハイブリッドワークが確実に定着します。一時的な対策として在宅勤務ができるということではなく、真のハイブリッドワークを実現するにはネットワークインフラを含めて包括的に環境を整える必要があります。

 シスコはネットワーク、クラウド、コラボレーション、セキュリティなど、ハイブリッドワークに必要なテクノロジーをエンドツーエンドで提供でき、また働きがいのある会社で自らナンバーワンになった経験も踏まえた企業カルチャーの醸成も含めて、総合的にお客さまの働き方改革をご支援できます。コラボレーションの領域でもミーティング、メッセージ、ウェビナー、コーリング、各種デバイスまで幅広く提供できる唯一の企業だと自負しています。

 日本社会のDX支援では「カントリー デジタル アクセラレーション」(CDA)というシスコがグローバルに展開する戦略的投資プログラムが核となる取り組みになります。各国が直面している課題をデジタル化によって解決し、新たな経済成長を促すことを目的とし、世界44カ国で1,000件以上のプロジェクトを支援しています。日本でも2020年より投資を開始しており、これまでスマートファクトリーやスマートシティのほか公共サービス、教育、テレワーク、5Gなどに投資しました。

 文部科学省が推進するGIGAスクールでは、47の全ての都道府県さまと全国400以上の自治体さまに無線LANやMerakiおよびセキュリティのソリューションを提供、導入いただきました。今年度からは「CDA 2.0」として、これまでの活動に加えてカーボンニュートラル、デジタルソサエティ、デジタルヘルスケアの分野に追加投資することを決定しています。

 お客さまのDXをご支援するために、シスコ自身もサービスモデルを変革しています。2018年よりカスタマーエクスペリエンス(CX)というサービス組織を立ち上げ、導入後の活用、最適化、ビジネスへの貢献に軸足を置き、お客さまのライフサイクル全般を通じて常に寄り添う伴走型のサービスモデルを提供します。お客さまの成功がシスコの成功だと考え、シスコは信頼される製品ベンダーから真のビジネスパートナーになることを目指します。

 ただしシスコ単独では日本のデジタル変革を推進することはできません。共にソリューションやビジネス、マーケットを作るイノベーションエコシステムの構築が不可欠です。そこで日本企業との戦略的アライアンスやクラウドサービスの拡大、パートナーさまとのネットワーク、セキュリティ、コラボレーションを中心としたマネージドサービスの開発、展開を強化しています。

 今年7月にはこの取り組みを一歩進化させた戦略的なパートナーシッププログラムとして「エコシステム パートナー プログラム」を立ち上げました。スタートアップ企業をはじめ特定領域でユニークなビジネスアプリケーションやノウハウを有するエコシステム パートナーさまとの協業を推進し、例えばGX(グリーントランスフォーメーション)やIoT、ハイブリッドワーク、医療、教育といった分野で、シスコのDXプラットフォーム上で提供されるビジネスソリューションを飛躍的に拡充し、シスコのテクノロジーがあらゆる場面で利用されている、そのようなマーケットを創造したいと考えています。

DXプラットフォームをパワーアップ
顧客視点で四つのテーマに再統合

編集部■新しい会計年度となるFY23が始まりました。今後の事業戦略をお聞かせください。

中川■Project Moonshotは変化に対応するために3年後を視野に毎年見直すことにしました。最新のProject Moonshotは2023年度から2025年度の取り組みとなります。ただし2023年度も先ほどお話ししました四つの戦略分野は変えません。

 バージョンアップした点としては四つの重点戦略を支えるDXプラットフォームがパワーアップしたことです。昨年まではDXプラットフォームにネットワーク、セキュリティ、クラウド、コラボレーション、5Gという五つのアイコンを使っていました。2023年度はこれらのアーキテクチャをクラウド型に変貌させるため、お客さま視点で四つのテーマにインテグレーション、再統合しました。具体的には「アプリケーションの再構築」「ハイブリッドワークの具現化」「企業全体のセキュリティの担保」「インフラストラクチャの変革」です。

 これらはシスコのアーキテクチャと1対1で対応するものではなく、クロスアーキテクチャで利用することで価値が増大するスイートソリューションです。まずアプリケーションの再構築について、クラウド時代はアプリケーションが複雑化し、ビジネスへの影響も大きいという課題があります。そこでシスコのMeraki、DNAセンター、SD-WAN、セキュリティ、AppDynamics、ThousandEyes、Intersightなどの全ての管理系ソフトウェアを統合して、アプリケーションからネットワーク、クラウドに至るまで全てを可視化します。

 ハイブリッドワークの具現化については、コラボレーションだけではなくネットワーク、セキュリティ、デバイスをスイートとしてサブスクリプション型で提供します。セキュリティについては「シスコセキュリティクラウド構想」を核にして、企業全体のセキュリティを担保します。インフラストラクチャの変革については、企業ネットワークにはCatalystとMerakiの統合連携ソリューションを、サービスプロバイダー向けには5Gの次のインターネットを切り拓く新しい取り組みを開始します。

 このように真のDXを推進するためにクロスアーキテクチャによるDXプラットフォームを提供し、コネクト(ネットワーク)、セキュア(セキュリティ)、オプティマイズ(最適化)、オートメイト(自動化)、オブザーブ(監視)を統合的に提供することがシスコのDXプラットフォームの価値となります。

 シスコのDXプラットフォームが目指すのはビジネスや環境の変化に応じて動的にインフラを拡張、運用できる「やわらかいインフラストラクチャ」です。このやわらかいインフラストラクチャをもって、お客さまのIT環境に俊敏性、強靱性、高い生産性を実現します。やわらかいインフラストラクチャの実現・提供こそが、シスコの2023年度の重点戦略です。

編集部■パートナーとの価値共創について、期待する役割や成果についてお聞かせください。

中川■ダイワボウ情報システム(DIS)さまはパートナーさま、エンドユーザーさまにMerakiやCisco Secure Endpoint、Cisco Umbrellaのマネージドサービスを提供されています。これらのDISさまオリジナルサービスは大手ユーザーだけでなく、これまでネットワークの導入実績がなかった販売店さまや技術者の数が足りなかったパートナーさまにも活用いただけ、規模を問わないユーザーのデジタル化に貢献できるサービスです。同サービスによりシスコ製品がより利活用されることでリカーリング型のサービスモデルへ転換していくことを期待しています。

 シスコではハードウェア中心のビジネスだけでなく、ソフトウェア、サブスクリプション、クラウドベースの販売を強化し、その比率を高めています。クラウドセキュリティ、Webex Meetings、クラウド電話といったサブスクリプションなどは小規模から導入しやすく、中小企業さまにも提案しやすい商材です。またパートナーさまにはアップセル、クロスセルにより持続的成長をお客さまと実現していただくための支援プログラムもご用意しています。

 2020年12月に発表した新たなパートナープログラムにおいて、Select(セレクト)以上のパートナー資格を取得していただき、ツールや情報の提供などの豊富な特典を活用してパートナーさまの価値と競争力の向上に役立てていただき、ビジネスを伸ばしていただきたいと考えています。これらを最大限ご利用いただくことでパートナーさまのビジネスに貢献できるものとなっております。“パートナ―さまの成功こそがシスコの成功”、これが私の今年のスローガンです。