OCRとRPAの一気通貫でペーパーレス化を実現する

~DIS Webinerレポート


RPA導入は中堅・中小企業ではまだ途上だ。前提となる帳票のペーパーレス化が進んでいない点が課題となっている。この問題を解決するツールとして注目を集めているのがAI-OCRだ。AI-OCRとRPAを連携させることで、事務作業の大幅な効率化が見えてくる。現在の状況解説と、ウェビナーで紹介された実現手法を紹介する。

文/狐塚 淳


ペーパーレス化の遅れがRPA浸透を阻んでいる

大企業ではすでにRPAの利用は当たり前になっているが、中堅・中小企業では導入に苦労しているケースが多い。MM総研のニュースリリース「RPA国内利用動向調査2020」によれば、大企業は51%、中堅・中小企業では38%という数字が挙げられているが、実際の差はもっと大きいのではないだろうか。

事務的な繰り返し作業をソフトウェアロボットを作り代行させることによって工数削減を実現させることがRPA導入に期待される成果だが、これは企業規模が大きい(つまり仕事量が多い)ほど効果的だ。たとえば、グループ企業全体の人事・経理・総務などの業務を請け負うアウトソーシング企業がRPAを取り入れれば、その効果は絶大となる。大企業がまずRPAに飛びついたのもうなずける。

しかしもちろん、中堅・中小企業でも事務的な繰り返し作業に疲弊している現場は多い。RPAの導入は福音となるはずなのだが、導入を阻害する要因がある。大企業に比べてペーパーレス化が進んでいないのだ。RPAが活躍するのはデジタル化されたデータの取り扱いだ。紙の帳票が残っているオフィスでは、紙に含まれる情報を迅速にデジタル化できないとそこから先の作業でRPAを利用などできない。

しかも紙の帳票は過去の膨大な蓄積があるうえに、日々新しいものが発生してくる。業務効率化が目的である以上、過去の帳票のデジタル化は従業員に片手間に担当させるべきではなくアウトソーシングするのが正しい方法だが、新規に発生してくるものをいちいち外注していては処理が遅くなる。内製でデジタル化する必要があるだろう。

紙帳票デジタル化の切り札AI-OCR

紙の情報を取り込みデジタル化するのがスキャナーだが、スキャナーというハードウェアで取り込めるのは画像データだ。その画像中に文字や数字が含まれるかどうかを判断し、個別にデジタル化するソフトウェアがOCRで、非常に歴史のあるソフトだ。当初、はがきの郵便番号を判別できる程度のパフォーマンスだったものが、現在では非常に進歩し、漢字や手書き文字の認識率も高い。OCRはスキャナーとセットで販売されるケースも多い。

OCRを利用すればオフィスの紙の帳票類をいちいち手打ちでデジタルデータ化する必要はなく、RPA導入のハードルを低減することが可能になる。

このため、この2年ほど、RPAの展示会やセミナーではOCRとの併用が推奨されてきた。なかでも、最近注目されているのがAI(人工知能)を使用するAI-OCRだ。AIの力を使い、従来のOCRでは難しかった非定型の帳票でも高い認識率を実現するAI-OCRなら、帳票中の項目名と数字の関係も正しく判断し、より効率的な帳票のデジタル化が可能になる。

これからRPA導入を考え、ペーパーレス化を推進するなら、ぜひAI-OCRの検討を勧めたい。

しかし、AI-OCRとRPAは別製品だ。2つが必要なのはわかっても、うまく連携させて運用していくことができるだろうか? 具体的な利用イメージはなかなか湧きづらい。

AIオプションで定型帳票のフリーピッチ手書き文字にも対応

しかし、そんな悩みを解消してくれるソリューションを紹介するウェビナーが先日開催された。

10月28日に開催されたDIS Webinerの「ハイブリッド勤務に向けたペーパーレス化への取り組みに必要なITツールとは~スキャナー+OCR+RPAによる業務効率化をご紹介します~」では、スキャナー+OCRとRPAのベンダーから講師が一人ずつ立ち、OCR(DynaEye)とRPA(Axelute)の連携使用の具体的なイメージを見せてくれた。

先にディスプレイに登場したのはPFUの真壁氏。同社は富士通グループのスキャナーメーカーであり、主に代理店経由で販売する同社のスキャナーは、世界シェアNo.1だ。

真壁氏は、同社の業務用スキャナーfi Seriesと組み合わせて使える業務用OCRソフトDynaEye10を紹介した。同ソフトは定型の活字・手書き帳票を認識するための「標準アプリケーション」と、準定型の活字のみに対応し設定が容易で高速な「エントリーアプリケーション」で構成されている。標準アプリケーションは幅広い文字種など、細かい設定が可能だ。

これまで難しかった定型帳票のフリーピッチ手書き文字には、標準アプリケーション+AI日本語手書きOCRオプションで対応している。通常AI-OCRではAIを利用するためにクラウドに接続して使用するものが多いのだが、同ソフトは事前に富士通のAI技術Zinraiで学習済のデータを利用しているため、オンプレミスでの使用が可能で、セキュリティ的にも安心できる。

高速・高精度認識の標準アプリケーション

さらに高度な認識が可能なAI日本語手書きOCRオプション

真壁氏はOCR導入の鍵として、「電子化作業・前処理の効率化、OCR認識精度の向上、業務システムへのエントリー、それぞれのフェーズの課題解決が必要です」と語った。特に真壁氏が強調したのが、スキャナー専用機と複合機の分離が望ましいということだ。「通常コピー機としての使用が多い複合機は、スキャンしたいタイミングで利用できないことがあります。スキャナーを使用すれば、複合機を占拠する恐れもなく、スキャニングからその後の確認まで自席で作業を行うことも可能です。それに加え、安定した読み取りが可能なため、紙づまりなどのリスクを軽減できますし、高品質なイメージデータを生成する画像処理技術も搭載しているため、OCRの認識を阻害する網掛けや白抜き文字などの文字を事前処理して、認識精度を上げることが可能です」

RPAを活用するためのドキュメントの前処理

OCRの認識精度を高めるためには、OCRの認識に適したレイアウトに帳票自体を変更するという方法もあると述べた。

DynaEye10は買い取り以外にサブスクリプションライセンスでも提供されているほか、ハンズオンセミナーもオンラインで受講可能など、導入・利用の障壁を下げるための各種施策も用意されている。

ロボットと一緒に手順書を作成するRPA

後半のスピーカーは富士通のパソコンなどを代理店経由で販売する富士通パーソナルズの松岡氏による、富士通のRPAツールAxelute(アクセリュート)の紹介とデモだった。

松岡氏は「コロナ禍で社会環境が変化し、ニューノーマル意識した企業活動が求められる中、作業の自動化を進めるRPAは重要なツールになります」と説明した。Axeluteは海外製品が多いRPAの中で富士通のオリジナル製品で、自治体・金融で前身製品が使用されていたものを2017年にパッケージ化したものだ。

国産の安心感がある富士通純正のRPA

Axeluteは他のRPA同様、作業を記録し、条件分岐やループ回数を編集することで、ロボットを作成するが、それと同時に手順書を自動作成できる点に特徴がある。すでにRPAを導入済みの企業でも管理運用がうまくいっていない野良ロボットが問題になっているが、そうした危険も手順書があれば避けられるし、異動転勤での引き継ぎや、手順書の作り直しにも使える機能だ。人依存の操作におけるマニュアル作成ツールとして利用することも可能だ。

「手順書」を自動生成できる

デモでは自動記録によりExcelで請求書の数量や金額などを記録し、操作シナリオの作成と再生、手順書を開くまでの一連の操作が紹介されたが、プログラミング不要の直感的な操作性だった。Excelファイルの取り扱いに強いのもAxeluteの特徴だ。

Axeluteはフルバージョン版が2か月間無償トライアルライセンスで利用できるほか、Eラーニングサイトも用意されている。

企業で導入する場合には、作業を自動記録できるEnterprise版と、作成したロボットを他のPCで動かすためのStandard版を導入するのが一般的だ。

松岡氏は多数の製品がしのぎを削る市場の中で「富士通グループ製品による一気通貫」は、「連携はすでにテスト済みで、サポートも安心できる」ことにアドバンテージがあると語った。

これからOCRとRPAの選定、連携テストなどを考えている企業には、より短期間で安定した稼働までこぎつけられる魅力的な選択肢だと思う。

富士通製品による一気通貫ソリューション

筆者プロフィール:狐塚淳

 スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。