Web3の技術が実現する「非中央集権型」の仕組み

Decentralizedは、一般的に「分散的/非集中的」などといった日本語に訳されます。しかし、人や組織など中央集権的な1つの実体がすべての処理を管理せずに事業やサービスを展開できるというWeb3の特徴を踏まえると、「非中央集権的」という表現が最もイメージに近いでしょう。なお、”Decentralized(非中央集権型)”は一つの実体がすべてのトランザクション処理を管理しないことで、”Distributed(分散型)”のトランザクション処理が1か所だけでなく複数か所で実行されるという考え方とは異なります。

こうしたWeb3のDecentralizedな世界は、ブロックチェーンやトークン、スマートコントラクトなどの技術によって実現することが可能となります。

中央集権型と非中央集権型

中央集権型と非中央集権型

DAO(自律分散型組織)はまだ発展途上の仕組み

DAOとは、組織を統率する中央管理者がいない組織形態のことで、現状では基本的にブロックチェーンを基盤としたものを指しています。同じ目的のもとに集まった参加者に対して独自のガバナンストークンやNFTが発行され、参加者はそれらを購入することで意思決定に関わる権利を得ます。参加者は平等の発言権を持ち、参加者による投票で決定したルールはスマートコントラクトによって実行されます。さらに、その履歴はブロックチェーン上に残ります。こうした仕組みによって、会社や人が介在せずプログラムだけで公平性や透明性のある組織運営を可能にする点が、DAOの特徴です。

ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産の仕組みもブロックチェーン技術を用いて一定のルールのもと運営されているため、DAOといえます。また、猿のモチーフで知られるNFTのBAYC(Bored Ape Yacht Club)では、保有者専用の会員制コミュニティに参加できる権利があり、このコミュニティもある種のDAOといえるでしょう。

ファントークンをテーマにした第4回でも触れたとおり、DAOは資金調達という側面から見るとクラウドファンディングと似た仕組みとも捉えられます。ただし、従来型のクラウドファンディングでは、資金提供した証明以外の権利が明確に保証されないため意思決定への関わりがないかあるいは希薄で、コミュニティが形成しづらいため永続的な仕組みにすることが難しいという課題があります。NFTやガバナンストークンなどで参加者に金銭的価値や発言権を持たせたDAO的なクラウドファンディングであれば、資金調達後も継続的に資金提供者へ収益分配をしたり、永続的な権利保証をしたりといった運用も可能となります。言い換えると、DAOには株式購入のような金銭的価値や株主総会での発言のような価値が付けられるということです。

ただし、現状ではDAOのみで会社組織やビジネスを立ち上げることは困難と考えられます。責任の所在が明確ではないこと、匿名かつ希薄な人的関わりのもとでは意見の集約や事業内容の理解が困難であること、投票においては多数決が基準となるため、実現性の乏しい見栄えのよい意見やトークンの大量保有者の意見が選択される可能性があることなどの理由で、運営に支障をきたす可能性が高いためです。したがって、今後しばらくは一部中央集権的な仕組みを併用する形がDAOの現実的な実現方法になると見られます。

普及が進むDeFi(分散型金融)のメリット・デメリット

まだ発展途上にあるDAOに比べ、DeFiに関する取り組みは進んでいます。DeFiとは、ブロックチェーンで構築される分散型金融システムです。第5回のテーマであったステーブルコインもDeFiの領域です。

当初は暗号資産が主流であったものの、イーサリアムではただトークンを送るだけでなくブロックチェーンにプログラムを書き込むこと、つまり一定のルールを定義したプログラムであるスマートコントラクトを利用し、分散型アプリケーション(dApps)を作成することで新たな金融取引を構築できるようになりました。

DeFiの実態はdAppsの一種であり、中央管理者や仲介者がいない状態で、暗号資産市場などにおいてさまざまな金融サービスをプログラムによって自律的に提供する仕組みであるといえます。このため、自身でそのdAppsが正しいか否かを判断する必要があり、現時点では、ブロックチェーンにある程度精通している方などにしか利用されていない状況です。

代表的なサービスとしては、ステーブルコインのほか、暗号資産を貸し出す際に利息や手数料、借り入れ限度額などが自動的に計算されるレンディング、暗号資産取引所をDeFiで実現した分散型取引所(DEX:Decentralized Exchange)などがあります。DEXの代表例であるUniswapでは、スマートコントラクトを通して中央管理者を介すことなくユーザー同士で通貨の自動取引を行えます。

前述のように、中央管理者や仲介者がいないのが本来のDeFiですが、管理者や仲介者が入っているサービスもあります。たとえば、前回の記事で紹介したステーブルコインは、コイン発行者が法的根拠のもと資産の管理を行っており、日本国内でも法整備が進んでいます。信用が重要視されるDeFiのレンディングもある程度の管理がなければ普及は難しいと考えています。

DeFiのサービスを利用するメリットとしては、国境を越えたオープンなネットワークであること、取引コストや事務負担の低さ、スマートコントラクトのプログラムが広く公開されるなど透明性の高さ、銀行など金融機関にお金を管理されないことなどが挙げられます。

一方で、国際決済銀行(BIS)などの国際機関からは、投資リスク、ハッキングによる損失・マネーロンダリングのリスクが大きいこと、テクノロジーに関する知識が必要なこと、一部の参加者が強い権限を持つなどガバナンス上の課題があることなどの問題点も指摘されています。

とはいえこれらは、DeFiならではのリスクというより、一般的な借り入れや株式・投資信託、保険などの金融商品であることによる難しさからくるものでもあり、現行の金融商品でも販売者には法律で説明責任が負わされています。このため、DeFiが普及していくためには、完全に自律分散型となる仕組みではなく、管理者や仲介者を交えてブロックチェーンのメリットを活用した金融サービスを構築することが重要となるでしょう。

Web3が今後普及していくうえで必要なこと

暗号資産とNFTの価格が低迷し、Web3が冬の時代を迎えたともいわれていますが、ブロックチェーン技術を活用して具体的な実利を得ていくという方針は今後も大きく変わらないと考えています。

イーサリアムブロックチェーン上における技術仕様を文書化したものとしてEthereum Request for Comments(ERC)が知られており、これをもとにERC規格が承認されます。たとえば暗号資産では、トークン発行の際にオープンソースで公開されている共通規格ERC-20が使われています。ERC規格の数字は文書が提案された順を示したもので、数が大きいほど新しい提案になります。このERCをもとにしたERC規格は現在数千番台のものもあり、日々増え続けています。つまり、新しいサービスに利用できるイーサリアムのプログラムは開発され続けており、今後もその実用化は進んでいくものと見られます。

Web3が普及していくためには、多くの関係者の理解が必要となります。そのためには、ブロックチェーン技術を使うことでどのような世界が実現できるか成功例を見せて、世の中からの賛同を得ていかなければなりません。私たちジャスミーでも、ブロックチェーンを活用した取り組みを地道に進めて事例をつくり、普及を加速していこうとしています。ブロックチェーンが現在のインターネットと同様、「使えるのであれば使っておこう」とあらゆる人に気軽に利用されるようなものになっていくことを目指しています。
(文・構成 周藤瞳美)

著者プロフィール

柿沼英彦(かきぬま ひでひこ)

ジャスミー株式会社執行役員(商品サービス企画、経営企画・マーケティング担当)
㈱住友銀行(現 ㈱三井住友銀行)入社後、ジーアールホームネット㈱(現 ㈱NTTドコモが運営するISP)へ出向し、ISP事業の立ち上げに従事。ソニー㈱に転職した後、ソニー銀行㈱の会社設立、事業立ち上げに携わり、ソニースタイルドットコム・ジャパン㈱およびソニーマーケティング㈱、ソニー生命保険㈱にてマーケティング・サービス開発を担当。その後㈱イオン銀行の商品開発部長、営業企画部長を経て、イオン・アリアンツ生命保険㈱の会社設立、事業立ち上げを行い取締役に就任。2022年2月よりジャスミーに参画。