ビジネスバズワード 第6回

テレワークこそ働き方改革への第一歩

この潮流に無関係でいられる社会人は存在しない!?

文/まつもとあつし


ノマドワークはテレワークの1つにすぎない

 Tele(遠隔)+Work(働く)=テレワーク、という言葉に今年後半から急激に注目が集まっています。これは、政府が進める「働き方改革」の重要な要素として改めて位置づけられたことが影響しています。

 スマートワーク総研の読者であれば「ノマドワーク」という言葉もご存じのはずです。もともとは遊牧民(ノマド)のように、場所に縛られない働き方のスタイルを指していた言葉ですが、日本ではカフェでノートパソコンを拡げて仕事をすることとほぼ同義に解釈されているのではないでしょうか?

 2009年に佐々木俊尚氏による「仕事するのにオフィスはいらない」という書籍のなかで、ノマドワークが大きく取り上げられ、そこでは「会社」に雇用されて働くことへの疑問も投げかけられたため、ノマド=フリーランスの働き方といったイメージも拡がった感もあります。

 しかし、テレワークを改めて考える際は、こういった狭義の定義からは、いったん頭をリセットして捉える必要があると言えるでしょう。一般社団法人テレワーク協会では、以下の図のように日本におけるテレワークを整理しています。

一般社団法人テレワーク協会「世界のテレワーク事情」より引用。

 この図を見ると分かるように、企業に雇用されて働く人々にもテレワーカーが存在し、外出先で仕事をするモバイルワーカーだけでなく、在宅勤務もテレワークに含まれることがわかります。また、その頻度も常時・随時のいずれもが含まれるわけです。自営業・副業も含めるとテレワークの概念は広い範囲をカバーしているのです。

 テレワークという考え方そのものは、1970〜80年代にかけて生まれ、国土の広い米国では1990年代には定着したとされます。しかし日本でテレワークが本格的に喫緊の課題として捉えられたのは2011年の東日本大震災がきっかけと言ってよいでしょう。当時オフィス設備に大きな被害が出た北関東・東北といった直接の被災地はもちろんのこと、原発事故による放射能汚染が心配された都心部でも出社を控える動きが見られました。地震大国日本においては、オフィスという「場所」を前提とした働き方だけでは、BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)が担保できないという事実を私たちは突きつけられました。

 現政権は「一億総活躍」の号令のもと、テレワークを推進する姿勢を明確にしています。東京一極集中ともされる日本の産業構造を、テレワークによって地方にも広げようという取り組みは「地方創生」ともリンクします。リスクへの対応のみならず、生産性ひいては国力の向上も目的として、いまテレワークはおよそ「働く」ことに関わる私たちの誰にとっても、無関係・無関心ではいられないキーワードなのです。

テレワークはスマートワーク導入の第一歩に

 このように重要なキーワードとなったテレワークを巡って、いま官民で様々な取り組みが始まっています。消費者庁が徳島県への移転に向けて、その課題を洗い出す試験業務を実施しているのは「官」の本気度合いを示すものと言えるでしょう。総務省ではその導入の実現を目指す企業・団体へのテレワークマネージャーの派遣申込を来年2月まで受け付けています。

 スマートワークを実現するには、場所や時間に縛られない働き方を目指すテレワークを導入することが、まず第一歩になるとも言えるでしょう。テレワーク導入にあたっては、アプリケーション等の情報インフラなどのハード面はもちろんのこと、人事制度の再整備といったソフト面でのフォローが欠かせません。時間で労働を管理するスタイルを、どのようにテレワークと整合させていくのか、というさらに大きな課題とも向き合っていく必要があります(関連記事)。

 解雇と再就職に関わる制度が弾力的で、ホワイトカラーエグゼンプションがより広い範囲に適用される欧米に対し、終身雇用を前提とした日本の雇用体系はテレワークとの相性が必ずしもよくありません。この部分は、国による抜本的な法整備が改めて求められますが、民間の企業・団体では、現状の枠組みのなかで、テレワークを育児・介護といった特定の時期・特定の社員へのサポートだけでなく、通常業務の生産性向上や、BCP対策として位置づけていく必要があります。

 このように国も後押しするなか、テレワークを導入、実践できるかどうかは、企業の情報感度の高さや、組織としての柔軟性・多様性をどの程度備えているかの指標ともなっていくはずです。スマートワーク総研では引き続き、テレワークについての最新動向、導入事例を重点的にカバーしていきます。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程でデジタルコンテンツビジネスに関する研究も行う。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレス)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。