アクセス解析ツールがなかった時代

Webサイトのアクセス解析ツールというのは、いつごろから出てきたのだろうか。私は1995年に、ある自動車メーカーのオフィシャルサイトの立ち上げに参画した。オープン時から1000ページを越える、日本最大のWebサイトだった。私が担当したのは乗用車から商用車、福祉車両、自衛隊向け特殊車両まで、200ページ近い全車種のカタログコーナーの作成。HTML編集ツールもないし、CSSも知られていない時代で、すべて手作業でタグを打ち込んだ。

その流れでアクセス解析も担当することになったのだが、当時はHTTP CookieやJavaScriptも誕生したばかりで、ほとんど知られておらず、アクセス解析ツールは皆無。Webサーバーのアクセスログを分析するしか手がなかった。アクセスログでは、ユーザー情報は[IPアドレス]]だけしか分からず、個別の機器やブラウザは区別できない。同じプロバイダを経由したアクセスなど同じIPアドレスを持つものについては、どれがユニークユーザーなのか、どれだけWebサイトに滞留したのかは不明だった。インターネットユーザーそのものがまだまだ少なかった時代だから、概算だけでレポートしていたのだ。

現在のWebアクセス解析ツールは、[Googleアナリティクス
に代表される、HTMLファイル内にJavaScriptなどを組み込み、ユーザーのWebブラウザとデータをやりとりするWebビーコン方式が主流になっている。ログ解析方式と違い、Webビーコン方式ではサーバー側がアクセスしてきたユーザーを1人ずつ特定し、どこからアクセスしてきたのか、サイト内でどのページを閲覧し、どれだけの時間滞在したのかが分かる。

ちなみに、Webビーコン方式でもユーザーの名前や住所、電話番号、メールアドレスといった個人情報を取得することは不可能だ。その点は安心して欲しい。こういった個人情報を取得するには、名前や住所を入力させるフォームを設けるとか、サーバー内の個人情報にアクセスするといった仕組みが必要になる。

GoogleアナリティクスはUAからGA4へ

本書のテーマであるGoogleアナリティクスは、2023年7月1日をもってこれまで使われてきたユニバーサルアナリティクス(UA)からGoogleアナリティクス4(GA4)への全面移行が行われた。7月1日以降、UAでは新しいアクセス状況データは取得できなくなっている(ただし、6か月間は今までのデータにアクセスすることはできる)。

これまでUAを使ってきたWeb管理者、ブログ利用者などは、早急にGA4に切り替えないと正しいアクセス解析ができなくなり、意味のあるSEO(検索エンジン最適化)対策もできず、リスティング広告も打てなくなる。

著者は、当スマートワーク総研で「成果に繋げるSNS活用術 志鎌塾」を連載されている志鎌真奈美氏。プロフィールを拝見すると1997年よりWeb制作を始め、Web制作部門に5年勤務した後、2002年に独立。現在はShikama.netを主催し、Web制作・企画、SNS活用支援、集客支援、Webマーケティングなどの活動をされ、ウェブ解析士の資格も持っているWeb関連全般にわたるエキスパートだ。2018年には『これならわかる! Googleアナリティクス 今日からはじめるアクセス解析超入門』を上梓し、本書はその改訂版となる。

これまでUAを使ってきてGA4に切り替えようという人はもちろん、はじめてWebアクセス解析を始めようという初心者にとっても分かりやすく書かれている。

初心者でも分かりやすく手順を解説

本書はまず、Googleアカウントの登録から解説している。ほとんどのGoogleの無料ツールを使うにはGoogleアカウントを持っていないと始められないからだ。初心者だとそこで躓くのだろうか。6500人以上を対象にネット集客などのセミナーを開催してきた著者の経験に基づく細やかな配慮を感じさせる。

Googleアカウントを登録し、Googleアナリティクスのアカウントを作成し、測定IDとGoogleタグを取得する。このタグをアクセス解析したいWebサイトのHTMLファイルに挿入することで、Googleアナリティクスが使えるようになる。

ここで「自力で行うのが難しい場合は、Web制作会社や代理店などに依頼して設置してもらうこともできます」と、転ばぬ先の杖を差し出している。HTMLファイル中にタグを挿入すればいいだけだが、既存のタグなどを消してしまったりすると表示が崩れたり、表示されなくなることもある。書き込み権限がなく、修正したはずなのに上書きされず、Googleアナリティクスが動かないということもある。

静的なHTMLファイルでWebサイトを構築するよりも、最近ではWordPressのようなCMS(Contents Management System)を使ったりSNSを使うことが多いだろう。本書ではWordPressに加え、ライブドアブログ、はてなブログという2つのSNS、STORES.jpというネットショップサービスへの設定方法についても詳しく解説している。ネットショップサービスの代表格である楽天市場とAmazonにはGoogleアナリティクスを設置できないことも明記されているが、よほど問い合わせが多かったのだろうか。

タグを設置して、それで終わりではない。というか、ここからアクセス解析が始まる。まずはタグが正しく設定されているかどうかを確認しなければならない。正しく設定されていても、設置後直ちにアクセスが反映されるわけではなく、24時間ほど経ってからデータが上がってくる。ここにも注意が必要だろう。

難解な用語の壁を乗り越えるために

Googleアナリティクスのレポート機能には、「スナップショット」「リアルタイム」「集客」「ユーザー」「ライフサイクル」といった項目がある。コラムでは『Googleアナリティクスを難しいと感じてしまう理由』として「セッション、ディメンション、オーディエンス、セグメント、データストリーム、プロパティなど、普段生活をする中で、ほとんど使われない用語がたくさん並んでいます」という。はじめての人にしてみれば言葉自体に馴染みがないし、何をどう見ればいいのかが分からない。

Googleアナリティクスは、ユーザーインターフェイスがこなれていないのは確かだ。残念ながら現時点ではGoogleアナリティクスを使いこなし、Webサイトへのアクセス、成果を向上させるためには、利用者が用語を理解するしかない。本書では記事中でできる限り分かりやすく用語を解説しているし、巻末には用語解説があるので、それを参考にすれば何とかなるのではないだろうか。

サーチコンソールも活用し、検索ワードを知る

Googleアナリティクスだけでは、「どのような検索キーワードでアクセスしてきたのか」が分からない。Webアクセス解析には重要な要素であるため、本書では検索ワードを調べる「Googleサーチコンソール」についても取り上げている。GoogleアナリティクスとGoogleサーチコンソールは車の両輪。二つを組み合わせて初めてSEO対策の入り口に立つことができる。

ただし、本書ではSEO対策についてはほとんど触れていない。これは解説書が山のように出版されているし、解説しているWebサイトやYouTubeも豊富にある。とにかくGoogleアナリティクスをインストールして基本データを取得することが始まりだ。

本書は個人でブログを開設している人から、オンラインショップを運営している個人や小企業、会社のWebサイト管理を担当している人まで、専門のコンサルタントに頼らずにアクセス解析を行いたいWebマスターにとってお勧め一冊だ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『できる逆引き Googleアナリティクス4 成果を生み出す分析・改善ワザ 192』(木田和廣 著/インプレス)

やりたいことから探せるから、初心者から上級者まで幅広く使える。最強の定番書がGA4に対応してリニューアル! 本書は、Googleアナリティクス4(GA4)を解説した書籍です。ユニバーサルアナリティクス(UA)からGA4へ移行する方はもちろん、GA4からWebサイトの計測を始める方でも役に立つワザを紹介しています。UAとGA4の違いや、用語・各機能の解説、導入・設定方法などの基礎的なワザだけでなく、レポートのカスタマイズ方法、効果的なデータの見せ方、コンバージョンやLTVを向上させるヒントなど、Webサイトを中心としたビジネスの成長につながる実践的なワザまで解説しています。(Amazon内容紹介より)

『即戦力の実務がしっかり学べる Google Analytics 4の教科書』(Studio Nomade 著/秀和システム)

GA4でアクセス解析してみませんか? GA4は使い込むほどに、データをさまざまな角度から分析することができ、ユーザーの傾向や特徴を適切に洗い出すことができます。本書は、Google Analytics 4の実務がしっかり学べるように概要から画面の構成、分析手法まで丁寧に順序立てて解説した教科書です。まったく新しくなった導入・抽出・解析・運用がわかります。また、わかりづらい概念もイラストにして、わかりやすく説明します。Webマーケティングやデジタルマーケティングの世界で、即戦力の実務がしっかり学べる新!GA4の教科書となる図解書です。(Amazon内容紹介より)

『Googleアナリティクス4やるべきことがわかる本 フルファネル戦略時代の新常識~これからの解析・改善のすべて』(株式会社プリンシプル 著/翔泳社)

本書は、Googleアナリティクス4(GA4)の解説書です。大きく「GA4の導入方法からレポートの基本まで最低限押さえておくべきこと」「GA4の操作スキルやより深い分析をしたいときに知っておくべきこと」の2つのカテゴリに分けて、GA4の基礎知識とマーケティングのパフォーマンス改善に役立つ実践的な知識を解説します。なんとなくわかっているつもりの方から現場で活用したい方まで、デジタルマーケティングに関わる方すべてに重宝する一冊です。(Amazon内容紹介より)

『「やりたいこと」からパッと引ける Googleアナリティクス4 設定・分析のすべてがわかる本 』(小川卓 著/ソーテック社)

「Googleアナリティクス4」による目標設定・レポート分析・改善&施策のすべてをウェブ解析の第一人者が徹底解説します。初心者から状況者まですべてのサイト運営者、必読の一冊です! Chapter 1 GA4の概要と思想/Chapter 2 実装と初期設定/Chapter 3 レポート機能/Chapter 4 探索機能/Chapter 5 計測の実装と設定/Chapter 6 管理画面の利用方法 /Chapter 7 GA4を活用した分析手法/Chapter 8 他ツールとの連携/Appendix 付録(Amazon内容紹介より)

『現場のプロがやさしく書いたWebサイトの分析・改善の教科書【改訂3版 GA4対応】』(小川卓 著/マイナビ出版)

本書は、Webサイトの運営や改善で悩みを持つ方の助けとなるように、「Webサイトを成長させるための主な施策とその分析方法」「改善の考え方そのもの」を包括的にまとめた書籍です。「Webサイトを運営しているけれど、いまいち伸ばせてない」「そもそもどの方向にサイトを伸ばしていいかわからない」「色々な施策を行っているけれど、それぞれの施策がつながっていない」そんな悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。本書を読むことで、どのように自分のサイトのゴールを決めて、施策を打ち、分析し、改善をしていくかという一連の流れが分かるようになるでしょう。(Amazon内容紹介より)

著者プロフィール

土屋 勝(つちや まさる)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。