Facebook、MSも研究中! オフィスでの働き方を変えるAR/VR

仕事場利用を想定した各社の技術動向を解説

文/亀山悦治


 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)は、ゲーム市場を中心にエンターテインメント分野で急激に広がりを見せている。しかし最近ではエンターテインメント分野にとどまらず、さまざまな分野への応用が始まった。デザイン、製造、建築、教育、医療・福祉、販売、広告などの業界に対しても大きなインパクトを及ぼす可能性を秘めている。

 そして、どの分野においても共通する利用方法として、オフィスやテレワークでの活用に注目が集まりつつあるようだ。AR/VRを仕事場で利用することを想定した各社の技術動向、どのように実現するのか、得られる効果、利用シーン等について2回にわたり解説する。

AR/VRに参入する大企業の取り組み

 業務の種類や特性により仕事場ではさまざまな利用方法が考えられるが、最初に頭に浮かぶのは、コミュニケーション(双方向の対話)、情報の収集、情報の記録、課題に対する適切な回答・判断であろう。ここでは、各社が特に力を入れているコミュニケーションでの活用提案を紹介する。

Facebook――仮想空間でアバターとしてコミュニケーションを行う「ソーシャルVR」

 Facebookは、2016年4月に開催した開発者会議(同社が毎年行っている会議)で、ソーシャルメディアとVRを融合させた技術を披露した。そして2016年10月5~7日に開催されたオキュラス(Oculus)史上最大の開発者カンファレンス「Oculus Connect 3」では、仮想空間内で離れた場所にいる人たちがアバターの姿で会社のオフィスや友人の家など同じ空間を共有するというデモストレーションを「Oculus Rift(オキュラス・リフト)」を使用して行った。

 このアバター機能とはどのようなものなのだろう。技術面では、顔の表情、腕を含む上半身のジェスチャーを表現するところまでを実現しているようだ。自分の3DCGのアバターと、参加しているアバターが仮想空間上に表示され、リアルタイムにその状態を共有し、カードゲームで遊んだり仮想世界の火星や海底を他のアバターと一緒に体験したりすることができる。CEOのマーク・ザッカーバーグは、自らこれらを含む幾つかのデモストレーションを披露した。

仮想空間上で、3人でカードゲームやチェスを楽しむ(YouTubeから)。

仮想空間上に絵を描くと“仮想オブジェクト(このデモでは、ソード)”として使用できる(YouTubeから)。

海底を散策(?)するデモも(YouTubeから)。

 自分を映すカメラが無いにも関わらず、どのように自分自身の状態を仮想空間の世界に表示させるのであろう? 実は上半身の動き全体をリアルタイムに反映させるのではなく、頭と両手に持ったコントローラー「Oculus Touch」を持つ両手の位置を解析し、それをジェスチャーとして表現し、そして口はユーザーの声と連動させ、さらに表情も表現した。今後は、よりリアルな表現を実現するという(参考:Oculus Connect 3 オフィシャルサイト

Microsoft――参加者が集まってコミュニケーションを行うHoloportation

 ようやく日本でも製品版が入手できるようになったMicrosoftの「HoloLens(ホロレンズ)」。ARとVRの技術を兼ね備えたようなMR(混合現実)タイプのヘッドセットとなっている。筆者も何度かHoloLensを試したことが有るが、PCに接続しないで単体で動作すること、明るい場所でも見やすいこと、指のジャスチャーで操作することも直ぐに慣れてしまうことから、未来を感じさせる製品だと感じた。改善されることとして、本体の大きさ・重さ、視野角の狭さなどが有るが、技術の進歩を考えるとそれは時間の問題であろう。

 このHoloLensだが、現実世界に仮想の情報を3Dホログラムで映し出し、さらにネットワークに接続することで、双方向コミュニケーションツールとして活用することも可能となる。HoloLensを使った双方向3Dモデリング技術「Holoportation(ホロポーテーション)」が2016年3月に公開された。そして、2016年11月には、外出先でもHoloportationが使えるようになる「Mobile Holoportation(モバイル・ホロポーテーション)」が発表された。3月発表時から進化し、3Dモデルを作り出すためのカメラ台数が削減され、わずか2台で実現できるようになった。ここまでの進化を鑑みると、近い将来コミュニケーションの障壁となる「距離」の問題が解消されることは間違いないだろう。

 HoloportationはヘッドセットHoloLensを使い、3D映像をリアルタイムで双方向にやりとりできる技術である。室内版では周囲に配置された複数台のカメラで人体や物を周囲からリアルタイムで撮影しながら、その造形を3Dモデルとして生成することが可能となっている。他の複数名と対話するだけでなく、自分自身を出現させたり(まるでドッペルゲンガー状態)、記録したセッションを再生したり、巻き戻して見直すこと、それを拡大・縮小することもできる。まるでSF映画のワンシーンのようだ(参考:Holoportation - Microsoft Research公式サイト)。

自分自身を3Dデータ化するため複数台のカメラを設置、Hololensを装着後に決められたエリアに立つ(出典:https://www.microsoft.com/en-us/research/project/holoportation-v1-images/

遠隔にいる知人も3Dデータ化され、Hololensに表示される。木の椅子も相手側に存在しているため座った状態でも問題なく表示される。後ろのモニターには自分自身と知人が同時に表示されている。

遠方にいる子供も自分の目の前に出現させることができる。前述の通り、複数台のカメラで3Dデータ化され、目の前にいるかのようにホログラムで表示される。椅子からジャンプしても大きく遅延することなく表示される。

holoportation: virtual 3D teleportation in real-time(Microsoft Research/YouTube)。

Mobile Holoportation(YouTube)。

各社がAR/VRに注力する理由と目指しているもの

 パソコンやスマートフォンで使用するソーシャルネットワークサービスを開発・運営するFacebookがOculusを2014年に買収した際、ピンとこなかったことを覚えている。サービスを開発している企業がハードウェアを開発している新興企業を必要とする理由がわからず、不思議に感じたものだ。しかし、今ではそのような違和感はない。CEOのマーク・ザッカーバーグはVRを単なるゲーム環境ではなく、次世代のコミュニケーションプラットフォームになると最初から位置付けていたのだ。

 筆者がARの技術に最初に触れたのは2009年である。その時はまだ特別で高額なシミュレーションシステムでの利用が中心であったため、ふつうに手にすることができる技術ではなかった。しかしこの2年で大きく変わった。

 今回紹介した2社のみならず、Google、Qualcomm、Canon、Sony、Intelなども、AR/VRのシェアを掴むことが将来のビジネスを左右すると考えたのだろう、2015~2016年には急激なハードウェア戦争となっている。

 まだ鳴りを潜めているが、ARとVRについての多くの特許を所持していたと言われているドイツのMetaioを2015年に突然買収したAppleの動向がとても気になるところだ。iPhone 7の次の機種でARとVRについて何らかの技術が組み込まれていることは想像に難くない。

 ハードウェア性能は現状でもかなり向上したが、軽量化・起動速度の改善・低電力長時間の動作等、さらなる向上に期待したい。そしてハードウェアが優れていても、それでは単なる箱に過ぎないため、有用性が高いソフトウェア(コンテンツ含む)がとても重要であることも認識してほしいところだ。アプリケーション開発が容易に行える汎用的な開発キットもぜひ提供してもらいたい。

 次回はこのようなAR/VR技術が実際のオフィスやテレワークでどのように活用できるのか、現実的なこと、そして未来について説明しよう。

筆者プロフィール:亀山悦治

ナレッジワークス株式会社 取締役。1987年〜オフコン、クライアント&サーバ系のシステム開発に従事。主に検査センター・病院・自治体向け検査・健診・福祉関連システムの開発を上流工程から担当。1999年〜 Web系システム開発会社に移籍後、主にECサイトの開発マネージャを担当。以降もWEB系のシステム開発を多数担当。2004年〜ナレッジワークス(株)にて、システム開発、新規サービスの企画等を担当。2009年より、同社にてAR・VR・MRなどの技術を使用したソリューションの開発、実用化のための企画・提案・アプリケーション開発を行っている。また、AR・VR・MRについては、一般向け、企業向けセミナー講師を年に数回以上実施、AR関連書籍の執筆等、精力的に活動を行っている。

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