企業のデータ活用とIoT導入ハードル

DX推進を急務としている企業は少なくないが、まだそこまで踏み出していないケースでも自社のデータを有効活用した、コスト削減やビジネススピードの向上を考えない企業はないだろう。しかし、データ活用のためには何段階もハードルが存在し、そのいずれかが原因で足踏みしているケースも少なからず見受けられる。

最初の段階で、どこから手をつけていいかわからないというケースもある。同業他社がデータ活用しているのを見て、自社でもできるはずだと思いながら、どんなデータをどうやって取得すればいいかで止まっているケースだ。

この段階をクリアするために必要なのがIoTデバイスによるデータの取得だ。通信機能を持ったIoTデバイスは世界中で急激に増加を続けていて、2021年には100億個を超え、2025年には250億個を超えると予測されている。IoTデバイスの中には、様々な機能(温度、湿度、振動などの計測)を備えた低価格化が進むセンサーを搭載しているものも多く、こうしたデバイスを自社で使用している機器や、ビジネス環境の中に導入することで、データの取得とインターネット経由でのデータ蓄積が可能になる。

しかし、この段階で蓄積されたデータは単なる数字の列であり、それをどうビジネスに活かしていくかを考えるには、分析や判断に使えるように「見える化」する必要がある。さらに、「見える化」したデータを元に迅速なビジネス改善につなげるためには、複数のデータを判断のために同時に利用したり、その判断結果をビジネスに反映するためのアプリケーションも必要になってくる。ここに至るまでのシステム開発、改良を順番にクリアしていこうとすると、コストも期間もかかってしまう。

ゼネックコミュニケーションが提供するIoTプラットフォームサービスエンジンIoT Station V2を使用すれば、こうした問題を一気に解決できる。

マルチセンサー・マルチキャリア対応とダッシュボードテンプレート

IoT Station V2の特徴としてまず挙げなくてはならないのが、マルチセンサー・マルチキャリア対応だ。センサーデバイスは多数のベンダーが手掛けていてデータ形式も多く、機器も多様だ。また、企業が使用している通信回線やゲートウェイも様々で、IoTソリューションの多くは、利用できるセンサーや通信回線が限定的なため、自社の環境にそのまま取り込めないことも多い。

しかし、IoT Station V2では「基本的にインターネットとやりとりできるセンサーデータなら扱いが可能です」と、同社IoT DATA SOLUTION事業本部取締役兼統括責任者の牧野弘之氏は語る。IoT Stationは開発当初からマルチセンサーデータの取り扱いと、マルチ通信キャリア対応を志向していたからだ。

IoT DATA SOLUTION事業本部取締役兼統括責任者牧野弘之氏

IoT DATA SOLUTION事業本部取締役兼統括責任者牧野弘之氏

20年以上に渡り受託開発業務を中心にビジネスを展開してきたゼネックコミュニケーションは、自動化の進展を睨んでビジネススタイルの転換を図る必要を感じていた。今後データ量が膨大に増加するという予想から、大量のデータを生み出すセンサーをビジネス対象にすることを考えた。調査したところ、センサーのデータをストレージやクラウドにアップするだけの製品はいくつも存在したが、それらは対象のデバイスやメーカーが限定された製品であったため、様々なメーカーのセンサーデータを取り扱えるマルチセンサーで、途中の通信規格や通信キャリアも自由に選択できる製品の開発に取り組んだことでIoT Stationが誕生したのだ。

次の特徴は、ユーザーの使い勝手を向上させるカスタマイズ可能なダッシュボードと、豊富な開発用テンプレートの存在だ。2018年に展示会に出品した初期バージョンでは、ユーザーがダッシュボードを自由にカスタマイズできなかったため、BIツールのようにウィジェットの大きさ変更をしたいなどの要望が強かった。これに対応するとともに、センサーデータ利用の社会的に課題が大きいダッシュボードを共通利用できるようにテンプレート化を施したのがV2だ。

ダッシュボードをテンプレート化したIoT Station V2

ダッシュボードをテンプレート化したIoT Station V2

ダッシュボードのテンプレートで短期開発が可能に

ダッシュボードのテンプレートで短期開発が可能に

ダッシュボードは施設管理や熱中症管理など10種類以上

ダッシュボードは施設管理や熱中症管理など10種類以上

「たとえば、温度・湿度のセンサーデータから、熱中症テンプレートを作成し、そこからユーザーの望む形のIoTシステムを組み立てていきます。開発が差分で済むため、開発コストと期間の大幅な短縮が可能になります」と、IoT DATA SOLUTION事業本部マーケティング事業部執行役員兼第2マーケティング部部長の森川達矢氏は説明する。ゼネックコミュニケーションではテンプレートから先の開発工程を受託しているが、大型の案件でも平均2ヶ月以内の納品を実現している。

IoT DATA SOLUTION事業本部マーケティング事業部執行役員兼第2マーケティング部部長森川達矢氏

IoT DATA SOLUTION事業本部マーケティング事業部執行役員兼第2マーケティング部部長森川達矢氏

テンプレート化によって、PoC(プルーフオブコンセプト)の実証実験が前提で競合がいる案件でも、非常に勝率は高いという。競合する大手SIerなどはセンサーデータが上がってきたものを並べてそこから開発スタートなのに対し、ゼネックコミュニケーションはテンプレート化によって、開発工程の前半をすでに終えた形からスタートできる。テンプレートは温度・湿度や地図ロケーション、漏水管理など、すでに10種以上開発している。

なお、IoT Station V2は、ユーザーがOEMで自社ブランドで提供することも可能で、その際にもコストとスピードが強い競争力を持っている。また、管理機能やセキュリティ対策も充実しており、運用時の安心につながっている。

設備関係など幅広い顧客

IoT Station V2の顧客は様々な業種業態に渡っているが、設備管理系のニーズが高い。彼らは自社の設備に振動や流量などのセンサーをつけて故障の予兆などを測定するニーズを持っているが、現行の設備の変更は難しいため、IoT化でも外付けのセンサーを選択することが多い。こうしたケースで競合が一から設計を行わなくてはならないのに対し、IoT Station V2はマルチセンサーとテンプレートによって、低コスト・短期間での開発が可能だ。

「競合との見積りの比較でも、SIerが2〜3千万円のざっくりしたものだったのに対して、我々が150万円を提示して驚かれたこともあります」と、IoT DATA SOLUTION事業本部マーケティング事業部第1マーケティング部部長の奥谷泰氏は振り返る。

IoT DATA SOLUTION事業本部マーケティング事業部第1マーケティング部部長奥谷泰氏

IoT DATA SOLUTION事業本部マーケティング事業部第1マーケティング部部長奥谷泰氏

顧客はIoTについて全くこれから開始する新規の場合と、すでに工場などで一部センサー情報を取得しているケースが半々だという。IoT Station V2はインターネットにさえつながれば異なるベンダーのセンサーアプリケーションの統合管理が可能なため、こうした顧客の現行センサーデータとこれから導入するセンサーのデータをダッシュボード上で統合管理できる。

特に最近は大手企業からの問い合わせが多いという。従来は部門でIoTのテスト導入をしていたのが、2年ほど前からトップダウンで新規ビジネスへのIoT組み込みを指示されるようになってきたために、導入期間などの制約が増えており、それに応えられるIoT Station V2が注目を集めている。

「問い合わせ、顧客とも増加しているのですが、半導体不足でセンサーメーカーが必要な数のセンサーを作れず、納品が遅れているケースも増えています。IoT Station V2はライセンス体系がセンサー数での契約になっていて、元々は顧客にセンサーを購入してもらってから開発をスタートしていたのですが、現在はセンサーの入手が難しくなり、エンドユーザーにハードベンダーを紹介するビジネスマッチングが増加しています」(牧野氏)

商圏としては、半分が東京、3割が名古屋、2割が関西だ。

APIでSIerなどの開発も可能になる上位モデル

ゼネックコミュニケーションでは、2023年6月にIoT Station V2の上位のプロトモデルを東京ビッグサイトの展示会に出品予定だ。V2ではテンプレートから先のカスタマイズはゼネックで行っていたが、顧客が増え対応が難しくなってきたため、上位モデルではAPIでSIerなどにも開発が可能になる。ユニクロやニトリなどのDX内製に取り組む企業であれば、自社での開発も可能だという。

また、AI機能も盛り込み、たとえば物流業ならトラッキングしたデータが蓄積されることで、最適化ルートを割り出せるようになるといった利用も可能になる。ゼネックはAWSと関係が深く、AI関連の機能活用もできる。AIに関しては業界ごとの開発になるため、今後ニーズの多いところから開発し、オプションとしての提供を考えているという。

著者プロフィール

狐塚 淳(こづか じゅん)

スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、生成系AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。