ステーブルコインの特徴と利用用途

ステーブルコインは、暗号資産の一種です。世界初で市場最大のステーブルコインとして知られているのが、米ドルを担保にしたTether(USDT)です。ビットコインをはじめとする一般的な暗号資産は価格変動が激しく、投資や投機の対象としての色が濃くなっているため、決済や送金の手段として利用しづらい面があります。暗号資産の普及に向け、価値の裏付けを持たせることで価格を安定させようという流れのなかから生まれたのが、ステーブルコインです。
米ドルなどの法定通貨を担保としたステーブルコインは、他国の通貨への資産移転目的で利用されることが考えられます。特に自国の通貨が弱い国の人々にとっては、外貨預金同様、資産の避難先として有効です。ステーブルコインは他の暗号資産同様ブロックチェーン技術を基盤としているため、低コストかつスピーディに海外送金できる手段としても注目されています。もちろん、商品購入などの決済用としての使い道も想定されます。ブロックチェーン上で契約などを自動実行するプログラムのスマートコントラクトを活用することで、今後はステーブルコインを利用した新たな貸付けや金融商品などが生まれてくる可能性もあります。

ステーブルコイン4つの分類

ステーブルコインには大きく分けて以下の4つの種類があります。

1. 法定通貨担保型
Tether(USDT)やTrueUSD(TUSD)、USD Coin(USDC)に代表される法定通貨担保型は、米ドルや日本円、ユーロなどの法定通貨を裏付け資産としているステーブルコインです。現在発行されているステーブルコインの多くは法定通貨担保型を採用しています。法定通貨担保型では、発行しているステーブルコインと同等の価値の法定通貨を裏付け資産として保有していなければなりません。
なお、Tether(USDT)を発行しているテザー社は、裏付け資産である米ドルを保有していないのではないかという疑惑により、2018年1月に米商品先物取引委員会から召喚状を送られる事態に発展しています。もしこの疑惑が事実であれば、Tether(USDT)の信用が失われ価値がなくなるだけでなく、暗号資産全体の暴落につながる可能性がありました。ただし、その後の公聴会ではテザー社に関する発言はほとんどなかったため疑惑が追及されることはなく、2021年3月には、テザー社によって裏付け資産が存在することを保証する報告書が公開されています。

2. 暗号資産担保型
暗号資産担保型は、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を担保にするステーブルコインです。自律分散型組織であるMakerDAOが発行するDAIがその代表例です。一般的に暗号資産はボラティリティ(価格変動の度合い)が高い傾向にあるため、担保資産として価格を安定させることは容易ではありませんが、ビットコインやイーサリアムのような流通量・取引量が多い資産は価格が比較的安定しているため担保として利用されています。ただし、暗号資産を担保にしているステーブルコインは多くありません。

3. 商品担保型
商品担保型は、金や原油などの物理的資産を担保にするステーブルコインです。Tether Gold(XAUT)やDigix Gold(DGX)をはじめ、価格が安定している金を担保にしているものが多くあります。日本では、三井物産デジタルコモディティーズが、金の価格に連動したジパングコイン(ZPG)を発行しています。

4. アルゴリズム型
法定通貨などの特定の資産を担保とせずに供給量を調整することで価格を維持するものが、アルゴリズム型です。無担保型とも呼ばれています。TerraUSD(UST)とBasis Cash(BAC)がその代表例です。価格が高騰した際には発行数を増やし、価格が低下した際にはトークンをバーン(自社保有の暗号資産を処分)することにより発行数を抑えるといった形でトークンの供給量をアルゴリズムで自動的に調整することによって、一定の価格を維持する仕組みとなっています。
TerraUSD(UST)はテラフォームラボ(Terraform Labs)が発行するステーブルコインですが、同社が発行する別の暗号資産のTerra(LUNA)との売り買いによって供給量を調整することで1米ドル=1USTの価格を維持する仕組み。ただし、2022年5月に大口投資家がLUNAを大量売却したことがきっかけとなりLUNAが暴落し、価格の調整が困難になり、結果的にTerraUSD(UST)が1米ドル=1USTを維持できず暴落してしまうという事態に至りました。このため、現在はアルゴリズム型のステーブルコインに対する不信感・不安感が高まっている状態にあるといえます。

その他:プリペイド型
日本円と連動するJPY Coin(JPYC)は、資金決済法上では暗号資産ではなく、電子マネーやプリペイドカードと同じ前払式電子マネーに分類されます。日本円からJPY Coinに交換した場合、現時点では日本円に戻すことはできません。ただ、イーサリアムブロックチェーンのトークン規格であるERC-20を利用しており、実質的には日本独自のステーブルコインといえます。

ステーブルコインの分類

ステーブルコインの分類

日本におけるステーブルコインの規制動向

日本では、ステーブルコインへの規制が進んでいます。2023年6月1日に改正資金決済法が施行されたことにより、世界に先駆けて日本円を担保としたステーブルコインが法的に定義されました。ステーブルコインを発行できる企業は、銀行、信託会社、資金移動業者に限定されます。これにより、前払式支払手段であるプリペイド型のステーブルコインは、法律上のステーブルコインからは外れることになります。前払式支払手段は原則として払い戻しが認められていませんが、ステーブルコインであれば日本円に戻すことも可能となります。

日本円のステーブルコイン

日本円のステーブルコイン

ステーブルコインと中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)との違い

ステーブルコインの今後を考えていくうえでは、中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)の動きも見ておいたほうがよいでしょう。
2023年5月のG7財務大臣・中央銀行総裁会議における共同声明のなかで、国際通貨基金(IMF)が日本の支援を受けて作成を進める「CBDCハンドブック」が2023年中に公表されるとの発表がありました。同ハンドブックは、各国がCBDCを検討する際の知見となるものです。
CBDCは中国人民銀行が発行・流通を管轄するデジタル人民元が先行しています。これは、現在世界経済においてドルが中心的な役割を果たすなかで、デジタル人民元によって人民元が覇権を取りたいという中国側の狙いがあります。すでに個人の決済だけでなく納税業務、補助金交付等にも試験的に導入され、今後その経済圏を広げる可能性があります。2022年の北京冬季五輪会場では外国人に対しても公開されています。
ただ、G7加盟国は現状でCBDC発行の正式な判断を保留しています。米ドルやユーロのCBDCが発行・流通するようになると、通貨や経済が弱い国は、CDBCを自国の法定通貨とする可能性もあります。その場合、CBDCの発行量が増え、発行元の国の通貨政策、ひいては経済にも影響が及ぶ可能性があるため、慎重にならざるをえないのです。

地域デジタル通貨としてのステーブルコインの可能性

法改正によってステーブルコインが法的に定義されたことで、東京きらぼしフィナンシャルグループ、みんなの銀行、四国銀行が共同で2023年内にステーブルコインを発行することを検討しているとの報道もあります。その他多くの地銀においてもステーブルコインの発行を検討する動きがあり、今後は特定の地域での流通を目指したデジタル地域通貨としてステーブルコインを利用する流れが出てくるものと見ています。
ただし、仮にこの先日本銀行がCBDCを発行し、普及するとなると、民間の銀行が発行するステーブルコインはCBDCとの差別化が難しくなります。独自のステーブルコインの利用を促進するためには、何らかの特色を持たせる必要があります。ステーブルコインを単なる通貨としてみなすのではなく、スマートコントラクトを利用してその通貨独自の仕組みをつくる戦略が、今後のステーブルコインにおける競争のポイントになっていくと考えています。

著者プロフィール

柿沼英彦(かきぬま ひでひこ)

ジャスミー株式会社執行役員(商品サービス企画、経営企画・マーケティング担当)
㈱住友銀行(現 ㈱三井住友銀行)入社後、ジーアールホームネット㈱(現 ㈱NTTドコモが運営するISP)へ出向し、ISP事業の立ち上げに従事。ソニー㈱に転職した後、ソニー銀行㈱の会社設立、事業立ち上げに携わり、ソニースタイルドットコム・ジャパン㈱およびソニーマーケティング㈱、ソニー生命保険㈱にてマーケティング・サービス開発を担当。その後㈱イオン銀行の商品開発部長、営業企画部長を経て、イオン・アリアンツ生命保険㈱の会社設立、事業立ち上げを行い取締役に就任。2022年2月よりジャスミーに参画。