堤香苗さん

株式会社キャリア・マム 代表取締役。1964年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。在学中よりフリーアナウンサーとして活躍。1995年、育児サークル「PAO」(キャリア・マムの前身)設立。2000年、株式会社キャリア・マム設立。仕事と家庭を大切に自分らしく働きたい女性たちのためのネットワークとしてスタート。2023年現在、会員数約11万人、社員約50人(パート含む)。日本テレワーク協会理事、ソーシャルビジネス・ネットワーク理事、中小企業政策審議会委員などを多数務めている。2006年「テレワーク推進賞 支援・活用の部」優秀賞受賞、2014年「女性のチャレンジ支援賞(内閣府)」受賞、2018年「女性活躍推進大賞(東京都)」受賞など受賞歴多数。
https://www.c-mam.co.jp/

さまざまな能力を持った11万人の会員で業務を遂行

──最初に、キャリア・マムがどのような企業なのか、概要をご紹介ください。

 もともとは子育て中のママさんを集めたサークルですが、1997年に有限会社の事業部、2000年に株式会社化、現在は主に3つの事業を中心に活動しています。1つ目は、キャリア・マムの中心となっている在宅ワーカーへのアウトソーシング(BPO)事業。会員の能力を活かして、企業や官公庁から受けた大量の業務も一括で代行します。2つ目は、育児・介護を機に離職した女性を対象に官公庁や自治体とともに在宅ワーカーの育成を行っています。そして、3つ目は、女性のキャリア支援に関連する施設の運営です。2014年に「おしごとカフェ」を、2018年には保育室のある「コワーキングCoCoプレイス」を開業しました。CoCoプレイスでは、地域のフリーランスや起業を目指す女性を支援するための施設として創業相談なども受けています。

[キャリア・マム](https://www.c-mam.co.jp/)のホームページ。ここから入会できる。

キャリア・マムのホームページ。ここから入会できる。

キャリア・マムが運営するおしごとカフェ。カフェとしてだけではなく、レンタルギャラリー、コワーキング、プチ起業、起業支援など各種相談業務を行っている。

キャリア・マムが運営するおしごとカフェ。カフェとしてだけではなく、レンタルギャラリー、コワーキング、プチ起業、起業支援など各種相談業務を行っている。

 キャリア・マムの大きな柱となっている在宅ワーカーへのアウトソーシング事業は、フルタイムの外勤が難しい方でも、いつでもどこでも誰でも、そして自分の望む量の仕事を自分の好きなだけ、自分の得意な部分を活用して働けるというものです。例えば、1人分の仕事を1人でこなすのが難しくても、それを10人で10分の一ずつ、得意なところをやれば1人分できますよね。

子育て中の人はもちろんですが、介護をしている人も病気の治療中の方、あるいは年配の方、こういう人たちが自分の体調に合わせて自分のベストな環境で仕事できるようにしようというネットワークです。会員は現在約11万人おり、そのうちパソコンを使ったテレワークで働いている方は約3000人。クライアント企業が約100社、キャリア・マムの社員と定期的な業務委託メンバー100名でそれを回しているような状況です。

業務は多種多様、最新のAI用教師データの作成も

──アウトソーシング事業では、具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか。

 店舗を巡回したり、覆面調査をするようなことから、家庭用の商品についてのグループインタビューに協力したりすることもありますし、イベントの企画運営、メールマガジンの作成や編集、データ入力や画像収集、コール業務などの簡単なタスク業務を一括納品するなど、さまざまなお仕事があります。

会員の中には秘書技能検定資格保有者が約750名、簿記資格を持っている人が約1600名、教員資格を持っている人は700名以上、保育関連の資格を持っている人が400名以上、翻訳や通訳ができる人も3000人近くいます。

こうした方たちの力を活かして、記事の執筆や校正、翻訳、入力代行、市場調査、電話取材など、さまざまな業務に対応しています。

その中でこの数年、コアになっているのが「アノテーション(タグ付け)」という業務です。これはAI(人工知能)に知識を教えるための「教師データ」を作成するための作業です。例えば、目をAIに認識させるには、人間や動物の目の写真に、これは人間の目、これは猫の目、これは犬の目というように一つひとつタグ付けを行います。また、文字を読み上げるAIでも、前後の文字との関係でイントネーションが変わって来ますので、それを一つひとつAIに教えるためのデータを作る作業ですね。弊社は、さまざまな企業や研究所などの依頼を受けて、文字や音声認識、図形認識などのアノテーション業務を行う日本有数の企業の一つです。

また、最近の仕事で好評だったのが、ある自治体の依頼で作った小学校5・6年生向けの税金について理解を深めるための教材です。このような学習向けコンテンツで珍しく数千人のユーザー数を記録しました。

企業や官公庁などから具体的な作業を指定して依頼があることもあれば、こちらから提案して仕事をいただくこともあります。

全国の飲食店が掲載された情報サイトのデータ作成やアノテーション(AIの教師データを作る)などが最近の業務の柱になっていると語る堤さん。

全国の飲食店が掲載された情報サイトのデータ作成やアノテーション(AIの教師データを作る)などが最近の業務の柱になっていると語る堤さん。

起業を目指す女性たちを支援する「創業女子会」や在宅ワークセミナーなども開催している。

起業を目指す女性たちを支援する「創業女子会」や在宅ワークセミナーなども開催している。

――11万人の会員の方に仕事を提供するには、仕事をいただく、いわゆる営業活動も大変ではないですか。

 確かに楽ではないですね。依頼するお客様も自分のところの従業員にできないものを外に出されるわけですから、簡単な仕事は条件が悪くなります。例えば、深夜に即応してほしいとか、そういう通常の従業員では難しいものが出てくるので、会員の方たちの条件に合う仕事を提供するのは難しい場合もあります。依頼する企業側もペルソナというか、我々の会員の特性を見るようになってきています。

キャリア・マムの会員は、これまでは主婦の方が圧倒的に多かったのですが、今は兼業・副業がOKな会社も増えてきたので、平日は本業をして週末だけキャリア・マムで働くという方もいます。また、定年後に年金だけでは足りないということで会員になるという方も出てきていて、主婦だけではないさまざまな方が参加されているので、会員の特性が従来とは変化してきています。

女性の多様な働き方にはテレワークは重要な選択肢

――日本では今、ジェンダーギャップ(男女格差)が大きな問題になっていますが、その原因や日本での改善が遅い理由について、どうお考えですか。

 私は、働くことは人生で一番楽しいコンテンツだと思っています。「働くことは一挙両得」で、働いていると人に感謝されるし、それによって収入も得られるし、チームで働くことで成長もできる。だから、みんな何故もっと仕事を楽しまないんだろうと思っています。多くの人が働いていても楽しくないのは「働かされている」からだと思うんです。働かされていると自由度がない。なので、働いた人よりも働かない人のほうが得をするみたいな仕組みはなくしたほうがいいと思っています。

今、賃金を上げよう、時給を上げようという時に、女性たちの配偶者控除が問題になっていますが、そうさせているのは実は女性ではなく、男性なんです。決定権者は圧倒的に男性。女性たちは、自分で働くことが楽しいと思っているなら、どんどん働いて、もっと収入を増やしたらいいと思います。

ただ、仕事と家庭の両立は本当に難しいんですよね。そのためには男性の協力も大切で、男性が働く時間を柔軟に対応させられるようにしなければ、女性だけで解決できることではないと思います。


――女性の働き方は、男性以上に多様性が求められると思います。そのために必要なことはどんなことでしょうか。


 やはり、テレワークですよね。会社に行かなくてもいいし、働く場所や決められた時間に張り付かなくてもいいという働き方であれば、それぞれの事情に対応できると思います。5時とか6時まで必ず会社にいなければならないとすると、保育園や幼稚園、小学校などに通う子どもを持った人はなかなか大変です。短時間勤務ができるという企業も増えてきましたが、転勤はできるのか、出張はできるのかという問題もありますよね。

例えば、子どもが生まれたとか、母の体調が悪いから付き添いたいとか、子どもが受験なので子供のそばにいたいとか、夫が単身赴任になったので子供だけでは留守番できないとか、そういう個々のプライベートな問題があるわけですが、会社はそういう多様性を認めてくれるのかということですよね。

こういう声は女性だけじゃなくて、男性にもあるわけですが、プライベートなことを仕事に持ち込むことは恥ずかしいという考え方は直してもいいんじゃないかなと思います。その人が一番その人らしく、頑張れる働き方を用意してあげたほうがいいと思いますね。

私は、日本テレワーク協会の理事もやっていて、昔からテレワークに取り組んできたので、テレワークについてセミナーで講演することもあります。セミナーに来られる男性管理職の人たちは、みなさん口を揃えて「在宅にしたら、仕事をサボるに違いない」というのですが、「みなさん、若い時にサボっていたでしょう」と言うと全員が笑ってうなずきます。男性はサボる。でも、女性はあまりサボらないんじゃないかと思います。キャリア・マムは会員の9割が女性ですが、在宅でもほとんどサボらない。むしろ、やり過ぎてしまうのが会社にとってはリスクで、バランスを取らないといけません。

テレワークで一番難しいのは、見えないところで働いている人をどう評価するかです。テレワークでは仕事に対する姿勢ではなくて、売上や来店顧客数や、新規開拓顧客数などの結果で評価するしかありません。どんなに一生懸命がんばりましたと言っても、結果が出ていなければ、テレワークでの評価はゼロにするしかありません。

保育室が併設された「コワーキングCoCoプレイス」の入り口。男女どなたでも利用可能。

保育室が併設された「コワーキングCoCoプレイス」の入り口。男女どなたでも利用可能。

左奥が保育室、手前がテレワークのできるコワーキングスペースになっている。堤さんはこの施設をオープンさせるために保育士の免許を取得した。

左奥が保育室、手前がテレワークのできるコワーキングスペースになっている。堤さんはこの施設をオープンさせるために保育士の免許を取得した。

視野を広くし、新しい分野にも挑戦していきたい

──最後にこれからこんなことに挑戦してみたいということがあれば。

 キャリア・マムは今年、創業25周年なんですけれども、視点をもう少し広くしていきたいなって思います。地域創生の部分で新しい取り組みをやってみたりとか。本社を置いている東京・多摩エリアだけではなく、働き方の多様化やチャンスづくりみたいなことというのは、私たちが今までやってきた25年間の結果として何かお役に立てることはあるのではないかと思っています。

例えば、2018年にこの建物の7階で「コワーキングCoCoプレイス」という保育室を併設したコワーキングプレイスをオープンしましたが、その後、那須塩原にフランチャイズ1号店を開設したほか、五反田に3店舗、中国の浙江省・義烏市でも運営しています。これは働くママやパパのために、保育室にお子さんを預けて、そこでパソコンでテレワークしていただこうという場所です。

そこでは、起業の相談を受けるといったことも行っています。こうした場所を日本の各地に開設して、女性のテレワークを支援しながら、日本各地で女性のビジネスの立ち上げをさまざまな形で支援していきます。さらに、これからはアジアの人たちとの連携も模索していきたいと思っています。

そして、何度も言っていますが、これからも「働くことは楽しい」ってことを伝えていきたいと思っています。

これからも「働くことは楽しい」ということを伝えていきたいと語る堤さん。

これからも「働くことは楽しい」ということを伝えていきたいと語る堤さん。

著者プロフィール

豊岡 昭彦(とよおかあきひこ)

フリーランスのエディター&ライター。大学卒業後、文具メーカーで商品開発を担当。その後、出版社勤務を経て、フリーランスに。ITやデジタル関係の記事のほか、ビジネス系の雑誌などで企業取材、インタビュー取材などを行っている。