第2回
4番目の産業革命に乗り遅れるな――インダストリー4.0

欧州の工場・ドイツが興す新たな「ものづくり」

文/まつもとあつし


ネットや雑誌ではよく見かけるが、巷では語られていない!?

 ビジネスバズワードを紹介・解説するこの連載。今回は「インダストリー4.0」を取り上げます。

 さてこの言葉、皆さんは普段使っていますでしょうか? 筆者はIT業界の方とお話しする機会も多いわけですが、この言葉が出てくる場面にこれまで出くわしたことがありませんでした。経済誌や書籍のテーマとしてはよく取り上げられるにもかかわらず、です。

経済産業省の広報誌「METI Journal」にもインダストリー4.0特集が載る時代だが……。

 実はこの事、つまりITの世界においてもインダストリー4.0という言葉が会話に出てこないことが、日本の産業界が抱える課題もよく表しているのです。

 まずは、言葉の意味を確認していきましょう。インダストリー=産業、これはすぐにわかります。では4.0とはどういうことか? 世界史の教科書で学んだように、イギリスで18世紀半ばから19世紀に起こった「産業革命」、それを産業史の1番目の節目とすると、私たちは今そこから数えて4番目の変革期を迎えている――それをインダストリー4.0と呼んでいるのです。

 1番目の産業革命は、機械が導入されたことによる産業の工業化と、それに伴う社会の変化でした。これは学校の試験にも出てきますので、よく知られています。では2番目の産業革命をもたらした主役は何でしょうか? 答えは電気です。それまで水力や蒸気を使った機械が工業の主役だったわけですが、20世紀初頭のアメリカで電気を使った工場が現れ、産業と社会を一変させました。

 3番目の産業革命は1970年代から日本でも盛んになった工場生産の自動化、ファクトリーオートメーションがそれとされています。ここでの主役はコンピューターやロボットです。自動車や家電など「ものづくり」大国として日本が存在感を示したのも、この3番目の波にその勤勉さと細やかさを活かしてうまく乗った、という面が大きかったのではないでしょうか?

ヨーロッパの工場・ドイツ発祥の言葉

 そして、現代。2013年のドイツで独SAP社元代表らが中心となり「インダストリー4.0」が国家的プロジェクトとして立ち上がりました。これが4番目の産業革命を強く印象づけるきっかけとなったと言えるでしょう。

 機械化・自動化された工場、そこにある設備が備えるセンサー群が、今度はインターネットに接続され(=IoT)、人工知能も活用しながら生産の最適化を図る――そのための共通規格、プラットフォーム(CPS=サイバー・フィジカル・システム)を国レベルで整備していくことによって、経済成長をもたらそう、という取り組みです。

 2014年、これに呼応する形で米国でもコンソーシアムが立ち上がり、ドイツ企業もこぞって参加しています。インターネットで先行する米国と、工業力でヨーロッパをリードするドイツが連携を始めている、と捉えることができるでしょう。

 よく事例として挙げられるのが、米GE社が生産した航空機エンジンにあらかじめセンサーを搭載し、ネットを通じて情報を取得、故障やメンテナンスの予測だけでなく、燃費改善のための提案を行うといったものです。作って・納入して終わりではなく、その製品が顧客のもとで稼働している間にも、さまざまな価値を提供し続けることができるというわけです。生産そのものも、顧客のニーズを予測して最適化が図れるため、より少人数・少部材での生産が可能となり、結果としてエコにもつながります。

日独共同声明の詳細(可能性のある協力分野)

求められる「ものづくり」の再定義

 つまりインダストリー4.0とは、「第4の産業革命」と言い換えた方が分かりやすいと言えるでしょう。これまでの産業革命が、工業生産の現場だけでなく、私たちのライフスタイルや、国家間の競争・協力関係に影響を与えたように、いま進行している変革は間違いなく日本にいる私たちにも変化をもたらすものなのです。

 しかし、工業界からは「日本の工場はすでに自動化が進み、生産性も高いのに、さらに何かしないといけないのか」という疑問の声も聞こえるといいます。冒頭で述べたように、IT業界ではインダストリー4.0という概念も、まだ拡がりを見せてないというのが現状です。

 いま日本では、経産省がインダストリー4.0への対応に向けた政策の検討を始めています。つい先日4月28日には、ドイツ経済エネルギー省との間で「IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明」への署名も行っています。

 メディアではこれを受けて、「人工知能によって、人間の仕事が奪われるのでは」といった取り上げ方も一部ではありました。たしかに、IoTと人工知能によって、生産計画を立てるといった部分も自動化が進めば、それらの工程を直接手掛ける人手は少なくても済むことが予想されます。しかし、労働人口の減少が進む現在、いかに少ない人数で、生産効率の向上を図り国際競争を勝ち抜いていくかが喫緊の課題である、と言えるでしょう。そのことが引いては、「ものづくり」大国としての日本の未来を決める大きな要因になるはずなのです。

 日本は、プラットフォーム・共通規格といった、直接目に見えない部分での「ものづくり」があまり得意ではないという指摘もあります。国のサポートも得ながら、インダストリー4.0という言葉が、私たちにとって身近なものになることに、まずは期待したいと思います。わたしたちスマートワーク総研でも可能な限り取り上げて行きたいテーマの1つです。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程でデジタルコンテンツビジネスに関する研究も行う。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレス)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。