匿名でもアウト!業務で知り得た情報を漏らして一発解雇!?

従業員アカウントを特定・ウォッチしている企業も

文/高橋暁子


 多くの人がついやってしまいがちなのが、SNSに仕事の愚痴などを書くこと。中には、仕事で知り得た情報を書き込む人もいる。

 親しい人とつながるFacebookではその気安さから、匿名で利用するTwitterでは心が緩んでしまい、つい余計に書き込んでしまうようだ。同僚や上司の陰口、クライアントの悪口を書き込んでいる例も多く見られる。問題は起きないのだろうか。

 米国の人気ドラマ「glee/グリー」にエキストラで出ていた女優ニコール・クラウザーは、Twitterでシーズン2のラストに関するネタバレを投稿してしまった。

 番組プロデューサーは激怒し、「あなたはエンターテイメント以外の仕事に就いたほうが良さそうだ。有能なスタッフが数ヵ月かけて作り上げたものを簡単に台無しにしてしまうとは」とニコールにツイート。ニコールはその後も数話出演する予定だったにもかかわらず、契約は解除され降板となってしまった。事実上、ツイート一つでクビになってしまったというわけだ。

 このようなことは日本でも起きている。一番有名なのは、2013年6月に起きた復興庁参事官によるTwitter暴言事件だろう。参事官が、Twitterで「左翼のクソども」などと市民団体への中傷を繰り返していたことが判明。29件のツイートについて国家公務員法に抵触するとして、停職30日間の懲戒処分の後、降格異動処分となった。参事官は匿名でツイートしていたものの、結局は懲戒処分につながっている。

 Facebookでは実名で勤務先を明らかにしているという人も多いだろう。そのような場合、投稿する内容には特に注意が必要だ。SNSは「公の場」であり、一度書き込んだことは証拠として残り、拡散する可能性がある。勤務先の評判や信用を落とす発言、守秘義務違反や社内規定違反などがあれば、懲戒処分の対象となったり、クビになることもありえる。会社に損害を与えれば、賠償請求される可能性まであるわけだ。

罠を張り「新人社員のアカウントをチェックする」例も

 「Twitterは匿名だから大丈夫」と油断している人を見かけるが、見る人が見れば簡単に個人が特定できてしまうことはご存知だろうか。

 ある採用担当者が、匿名のTwitterアカウントで面接を受けた人に対するセクハラ投稿を繰り返していた。あるとき上司に呼び出されると、上司の手には自分のアカウントでツイートしたセクハラ発言が印刷されていた。本人のアカウントであることを確認された後、クビを言い渡されたとのこと。

 このように、「偶然にも同僚のTwitterアカウントを見つけてしまった」という話はよく聞く。匿名で使っていても、ツイート内容やツイート時間、最寄り駅、ランチの場所などから、個人は簡単に特定できてしまうのだ。

 最近は、社名を出した状態で問題ある投稿をして炎上する例が目立つこともあり、社員のSNSアカウントをウォッチする企業も増えているという。

 これは一時期Twitter界隈で話題になったエピソードだが、ある人から、「新人のアカウントを特定したいので、大量の駄菓子を用意して配る」という事例を耳にした。若者は何かといえばSNSに投稿する。ひとしきり配った後にその駄菓子名で検索すれば、同社の新人のアカウントがヒットする可能性は高く、また若者は仲間同士でTwitterで交流しているので、一人見つかればそのフォロワーを辿ることで新人をほぼ網羅できるというわけだ。

 Twitterは鍵をかけない限り、誰でも投稿を見ることができ、検索の対象にもなりえる。Facebookでも、全体公開で投稿していれば同じこと。SNSは、「上司や同僚、クライアントが見ているかもしれない」と思って使うべきだ。

SNSの利用は仕事に影響する

 モバイルマーケティングジャパンとネットマイルの「スマートフォンでのSNS利用に関する調査」(2012年2月)によると、SNS利用者にSNS利用に関する社内規定の有無を聞いたところ、全体の10.9%が「ある」と回答。一方、「ない」は66.5%に上った。

 規定が「ある」と回答したユーザーに具体的な規定について聞いたところ、「公開情報の制限」が53.35%でトップ。次いで、「利用そのものの制限」(32.0%)、「利用方法の制限」(32.0%)などとなった。

 また、SNSに関する規定の有無にかかわらず、ユーザーがSNSを利用する際に仕事への影響を意識しているかどうか聞いたところ、「大変意識している」(15.1%)、「ある程度意識している」(22.1%)と全体の37.2%が「意識している」と回答。一方、「あまり意識していない」(11.5%)、「まったく意識していない」(29.3%)と意識していないユーザーは40.8%となり、「意識している」ユーザーを上回った。しかし、これが甘い考えであることは、ここまで読み進めた皆さんにはお分かりのはず。

 SNSを匿名で利用していても、解雇されてしまったり、炎上事件につながることは必ずしもレアケースとは言えない。SNSの利用は、たとえプライベートでも仕事に大いに影響する。社会人はそのことを忘れず、常に念頭に置いて利用すべきだろう。

筆者プロフィール:高橋暁子

 ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、監修、講演などを手がける。SNSや情報リテラシー教育に詳しい。主な著作として『Twitter広告運用ガイド』(翔泳社)、『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎エデュケーション新書)、『ソーシャルメディアを武器にするための10カ条』(マイナビ新書)など多数。

公式サイト「高橋暁子のソーシャルメディア教室