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「お助けプログラム」から「経営革新ツール」へ――
MSが提言するスマートワークとは? ― 前編


「DISわぁるど in 四国 たかまつ」では、スマートワークの実現を考える様々な講演やパネルディスカッションも開催された。「全国vs四国のイノベーション対談!「ICT」で「地方創生」を活性化」もその1つだが、それに先立ち、登壇前の小柳津篤氏に、マイクロソフトが推進するスマートワークについてじっくりと語っていただいた。前編・後編の2回でお届けする。

「お助けプログラム」から「経営革新ツール」へ――
MSが提言するスマートワークとは?

日本マイクロソフト 小柳津篤氏インタビュー ― 前編

文/まつもとあつし


小柳津篤(おやいづあつし)。日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター エグゼクティブアドバイザー。1995年マイクロソフトに入社し営業/マーケティング部門などを経て現在に至る。ワークスタイルの改善/変革に関する100社超のユーザープロジェクトに参加し、講演を多数こなしている。

一億総活躍とスマートワークとの関係

―― マイクロソフトにおける「スマートワーク」の取り組みについて、まずは全体的な考え方を教えてください。

小柳津 スマートワークというと、いわゆる「一億総活躍」政策における「テレワーク」をイメージされる方が多いと思うのですが、マイクロソフト社内では「フレキシブルワーク」という言葉を使っています。まさに「働き方の多様性」を社内で進めるための1つのブランディングです。

 私たちが働き方の多様性について取り組み始めたのはかなり昔のことになります。私が社内事例を公開し始めたのが2002年ごろ、本社のガバナンスのもとに取り組みが始まったのが翌2003年ごろのことです。

―― 10年以上にわたる取り組みなのですね。

小柳津 ひとことで言えば私たちがいうスマートワーク・フレキシブルワークとは「企業競争力を高めるための経営革新ツール」なんです。

 ところが日本の企業の方は、一般的に「働き方の多様性」を「経営革新ツール」としてはあまり位置づけておられないケースが多く、福利厚生とか労務管理……もっとストレートに言えば、産前産後・育児・介護の方たちの「お助けプログラム」的な位置づけで働き方の多様性を議論したり、検討したりすることがほとんどなんです。

 私も日本企業で働いていましたからよく分かるのですが、日本が戦後さまざまな文脈のなかで、労使交渉・協定・組合・シュプレヒコールなどいろんな係争を抱えていくなかで、事実上、安倍政権ができる以前は、「働き方の多様性」なんて言ったとたんに、「労働強化の温床になる」という批判に晒されるような状況がありました。実際、そう言われても仕方がないようなケースがあったのも事実ではあるのですが。

 経営者も、組合も、労働基準監督署(労基署)も一部の限定的な、困っている人たちの救済という意味ではフレキシブルワークに取り組むけれども、広く検討するのは良くない、という社会的コンセンサスが出来上がっていたと思うんです。

 当然、日本人がもともと好きだった、「ワイガヤ」「大部屋」「徹夜で頑張る」「同じ釜の飯を食う」みたいな、皆が同じ場所にギュッと集まって、ワッショイワッショイやると(笑) こういう世界観から見ても、「いつでもどこでも」というのはちょっと後ろめたさがあるわけです。

―― たしかに、現在でもノマドワークは、コミュニケーションを補完しているに過ぎないといった論調の記事が経済紙に寄せられたりもしますね。

小柳津 ところがいわゆる外資系の我々とすれば、そんな文化があるわけでもないですし、そもそも世界百数十カ国で仕事しています。アメリカの会社ですが、アメリカ人の社員は半分以下しかいないのです。地域・タイムゾーン・言語・習慣という意味でも多様な中で仕事を「しなければ」ならないのです。従って働き方の多様性もはじめから、組織戦略論的に考えられてきました。それが先ほど申し上げた組織競争力を高める、ということなんです。

 もっとストレートに言えば、私たちのフレキシブルワークとは「儲かるための手段」なんです。救済プログラムではありません。そうやって長らくやってきました。

―― なるほど、よく分かりました。その様な中、小柳津さんはどのような活動をされているのでしょうか?

小柳津 私は日本マイクロソフトのなかでのフレキシブルワーク推進者という立場です。ただ、外資系ということもあり、専任で推進だけをやれば良いかというと、そんなに優しい会社ではないんです(笑) この推進を行っている人間は日本マイクロソフト社内に複数おり、いわゆるバーチャルチームを作って、元々の自分の仕事は皆さんこなしながら、この件に関してはその都度集まって、いろいろと検討したり、活動したりということを行っています。

 私の本業もたまたま「ワークスタイルの変革」です。これは1998年くらいから取り組んでおり、企業のお客様の働き方の多様性や生産性の向上、情報共有などのお手伝いをするというのが私の元々の仕事だったんです。

 そして、安倍政権で「一億総活躍」という政策ができました。一億総活躍というのは、「活躍」という言葉を1枚めくると、「国民の皆さん、働いてください」という総理からのメッセージなんですよね。そうなりますと、先ほど私が申し上げたような、画一的な価値観しか認めてこなかった日本の仕組みを、もっと拡張していかねばならない。そうしないと、全員が働けるような社会は作れないんです。一億総活躍を実現していくためには、働き方の多様性という考え方が世の中に拡がっていないといけない。

 これを今、霞が関で進めているのが、4省庁あります。総務省・経済産業省・厚生労働省・国土交通省がそれです。この方々に、私たち日本マイクロソフトの働き方を視察いただいています。与党自民党の「テレワーク特命委員会」の方々も同じくですね。なぜかといえば、一部の方の救済プログラムではなく、全員が毎日国力を上げるために……私たちの言葉でいえば企業力を上げるために……働き方の多様性を実装するというのはどういうことなのか? というのを学びに来ていただいているのだと思います。

 その流れで私は、この3年間行政と一緒にお仕事をさせていただくことが多くなりました。つまり、わたしは自分が所属する会社のため、お客様のため、大きな観点からはお国のために働き方の多様性を推進しているという立場です。

ICTの力でワイガヤ・大部屋を実現するために

―― 小柳津さんも推進しているマイクロソフトでの多様な働き方とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

小柳津 まず目指していることは、「早く、沢山の人と関わる」ということなんです。私はマイクロソフトに入社する前は、日本の某製造業に居たのですが、そこで30年前にたたき込まれたのが、まさにこれなんです。組織活動を支えるのは濃密な人間関係、豊富なコミュニケーション。これはある意味日本人にとってはすごく腹落ちする考え方です。私たちは外資系ではありますが、同じ考えを持っているのです。

 ところが、今と昔で何が違うか? 人間関係を豊かにしようというときに、30年前であればまさに同じ場所に居続けないとそれは叶わなかった。だから私たちが若いころや、私たちの親世代はワイガヤ・大部屋的に、ホントに長い時間会社に居て、夜中も皆で飲みに行ったりして……私の場合はそこから帰るのが寮や社宅でしたからね。ホントにそのコミュニティのなかで一生を終えるのかな、というくらい(笑)

―― 同じ場所で作業を行うコロケーションが、オフィスの外にも拡がっていたわけですね。

小柳津 実はマイクロソフトがやりたい日常もまさにそういうことなんです。競争と変化の激しい業界で生き残ってきた会社ですから、一般的な日本企業よりも更に効率というものを考えなければなりません。それを表わす一つの例として、仕事はたくさんあるのですが、人は無尽蔵にいるわけではありません。社員数は非常に制限されています。当然のことですが、少ない人数で難しいことをたくさんこなして来たので、我々は競合他社よりも長く、創業41年経っても、この業界で生き残っています。

 少ない人数でたくさんのことをやろうと思うと1人ではできません。これはマイクロソフトに入社していただければ、3日で気が付きます。早い人は3時間で気が付くでしょう(笑) 自分がどれほどスーパーマンのつもりでも自分の持っている経験、能力、情報だけでは自分が責任を負わねばならない仕事の量や質に合致する結果を残せません。

 ですから、我々は人との交流、情報の交流に社員を促してきたのです。ということは、日本企業が昔からやっているワイガヤ・大部屋的なことを、私たちはむしろ尊重しているのです。例えば日本マイクロソフトは品川にオフィスがありますが、私たちはいつでもどこでも働いているにも関わらず、このビルを借り続けていて返すつもりは全くないんですね。それは「いつでもどこでも働くこと」が目的なのではなく、人間関係を豊かにしたり、コミュニケーションを豊かにしたりすることが目的であって、そのためにビルの中で人と膝を突き合わせて会うというのは、「絶対に」必要な瞬間なんです。

―― いま「瞬間」と仰ったように、それがかつてのように全てのライフタイムではない、ということですね。

小柳津 その通りです。30年前と今と「膝を突き合わせる」ことの大切さは同じですが、違うのはやり方が多様になってきているということです。私も今日このDISわぁるど in 四国 たかまつに来るまでも、いろんな場所で働いてきています。家、電車のなか、スタバ、空港のロビー、ここへ向うタクシーの中でもずっと働いています。

 早く、たくさんやりたいことはある。それと向き合う手段としてビルの中でワイガヤ・大部屋的に人と関わってきた。ここまでは同じです。いまの私たちは選択肢がもう少し広くて、スマホ、タブレット、クラウドサービスを使いながら、いつでもどこでも人と交流しますから、そこでも仕事が進んでいきます。結果として効率が高まりますし、働きやすさも実感できる。

―― ワイガヤ・大部屋「的」という状態を、バーチャルな空間でも実現できる環境がマイクロソフトでは整備されているわけですね。

小柳津 このことを具体的に実装するまでに会社として整えなければならなかった「組織能力」が4つあります。

 まず方向性として、「利便性」を追求するものと、「安全・安心」を追求するものの2つに要素は分類されます。

 利便性という意味では、私たちがどこで人と関わりたいかというと、大きく2つに分れます。それは部屋の中か、部屋の外かということです。我々の場合、前者は品川オフィスです。私たちはいつでもどこでも働けますが、いまの社員のワークタイムを調査すると、おおよそ労働時間の半分くらいをこの品川で過ごしています。その間、我々はどういう組織能力に投資をしてきたかというと、空間デザインです。

 つまりマイクロソフト社内の環境作りというのは、人と人が関わりあうことを促しています。人を見つけやすかったり、人に近づきやすかったり、話しかけやすかったり、対話しやすかったり、ということを空間上で優先して作られているんですね。人と関わることが楽だし、早い。

 ただ、残念ながら、そうやって関わりたい人も、その半分以外の時間は品川ではない場所にいるわけですから、そこはICTの力を使ってそれでも人が関われるように環境を整備しています。

 つまり、利便性の2つとは「空間デザイン」と「コンピュータテクノロジー」で、結果として部屋の中でも外でも人と関わることができるようになっているということです。人と関わるというのは、先ほど申し上げたように、経験・能力・情報を交流させる、ということです。

 この2つさえあれば、世界中でワイガヤ・大部屋が実現できると思った時期があったのですが……。

―― それだけでは足らなかった?

小柳津 それだけでは不十分だったのです。それが残りの「安心・安全」です。つまりリスクコントロールです。いつでもどこでも人が働くということに対して、主に「労務管理」と「情報管理」の上で、さまざまな懸念事項やリスクが出てきたのです。

 例えばいつでもどこでも働くということで、普通皆さんが想像するのは、「あいつ今頃サボっているんじゃないか」とか「あの人几帳面なので、結果として働き過ぎで、労働強化になってしまっているんじゃないか」とかですね。もしくはスタバや空港のような公衆の場で仕事をするわけですが、「情報が漏れたら誰が責任をとるのか」ということです。頻繁に情報漏洩については新聞等でも取り上げられているわけです。そういった心配が持ち上がってきた。

 そうすると、いくら便利な方に投資がされたとしても、「これを使ったらあとで怒られるかもしれない」と思われているうちは、さほど使われないのです。いまのマイクロソフトは長年のいろんな失敗や紆余曲折を経て、この4つの要素が全て一定の水準を超えています。ですから、私たちは全員が毎日、とても守られた中で、便利に過ごしているわけです。

 つまり、安心・安全というのは、社員一人一人が意識を高くして、コンプライアンスの襟を正すとか、そんなレベルではダメなんです。そんなの社会人として当たり前ですから(笑) むしろ一人一人がちょっとボーっとしていたり、寝不足だったり、二日酔いでも結果として情報漏洩や労働強化にならないように、この2つのリスクから「守られている」と実感されない限り、積極的に道具は使われないのです。逆にいえば、一定の水準を満たしているわけですから、私たち社員からすれば使わない手はない、ということなんですね。

後編は――利便性と安全性のバランスとスマートワークの最適解

 日本マイクロソフトでは、スマートワーク・フレキシブルワーク=企業競争力を高めるための経営革新ツールと位置づけてきた。後編では、経営革新ツールによる利便性と安全性のバランスをどのように取れば良いのか、スマートワークを実現するのに最適な環境はWindows 10であることについてお届けする。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。

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