働き方改革のキーワード - 第11回

高齢者雇用+ITで会社を元気に



縦と横の多様性を組み合わせて生産性向上を

「人生100年時代」とも呼ばれる今日、60歳での引退はナンセンス。特に、労働力人口の減少に直面しつつある日本においては貴重な働き手です。働き方の多様性は、性別やライフイベントだけでなく、年齢にも適用させるべき時期が来ているのです。

文/まつもとあつし


高齢者雇用を巡る状況

 人口減少が続く日本では、働き手の確保が課題となっています。そんななか、国も定年の引き上げなど様々な施策を打っています。

 具体的には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」が高年齢者の「雇用確保処置義務」を定めています。1971年に定年を原則60歳とした法律ですが、2013年には希望者全員の65歳までの継続雇用制度導入を一部の例外を除き企業に義務づける改正法が成立しています。現在ほとんどの企業がこの制度を導入しており、現在では65歳以上の雇用のあり方に注目が集まっているのです。

 これまでも、高齢者雇用に対しては様々な助成が用意されていましたが、定年の引き上げや、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度を導入した企業に広く助成する取り組みも行われています。

厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」より。

「人生100年時代」とも言われる中、このような制度によって数の上での働き手の確保を図ることは確かに重要です。しかし体力や健康面では若者にかなわない高齢者を雇用し続けることにどんなメリットがあるのか? また高齢者を雇用することによって、現役世代の雇用の機会が失われてしまうのではないか、といった懸念はどうしても持ち上がってきます。

メリットも多い高齢者雇用

 平成28年の人口推計によると、65歳以上の人口は3459万2000人となっており、その人口全体における割合は27.3%と過去最高の比率を占めるようになりました。この傾向は、この先も続いていきます。この世代を、減少が続く生産年齢人口で支えていくのは、現役世代の負担が大きくなってしまうのは明らかです。そのため、高齢者にも働いてもらえる環境作りを推進するというのがマクロで見たときの高齢者雇用のポイントとなっているのは事実でしょう。

国立社会保障・人口問題研究所「2020年の人口ピラミッド」より。

 一方で、見方を変えると、それだけ人口に占める比率が大きくなった高齢者は、経済的にも比較的余裕がある魅力的なマーケットであるとも言えます。そういった顧客ニーズを最も把握できるのは、同じ世代の人々でしょう。こうしたニーズに対するマーケティングなど、若者よりも高齢者の方が向いている仕事も今後どんどん増加してくるはずです。

 また、一般的なイメージと異なり、高齢者のITリテラシーは高まっています。MMD総研の調査によると、スマートフォンを利用する60~79歳の男女884人のうち、Facebookを利用していると答えた人が86.6%にものぼりました。閲覧だけでなく近況の投稿も積極的であり、かつての高齢者向け商品・サービスに特化したマーケットとは異なる様子もそこからは伺えます。IT活用が進むことで、体力面での不利をカバーすることも可能になっていくはずです。

 もう1つの懸念である、現役世代の雇用機会を奪うのではないか、という点については、「多様な働き方」で解決を図ろうという取り組みが続いています。つまり、正規雇用の継続だけでなく、パートタイムでのワークシェアリングによって、そのバランスを取ろうという方向です。こちらについては、現在進んでいる労働関連法案の見直しが1つの焦点となっていきます。

「多様な働き方」は、人種や性別あるいは出産・介護といったライフイベントなど、「横」の多様性にスポットが当たりがちですが、年齢という「縦」の多様性も国全体としての生産性向上には欠かせないと言えます。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。