「ドローン」が生み出す「地方創生」と「安心・安全・快適」な街づくりの事例と課題

パネルディスカッション〜DISわぁるど in 四国 たかまつ

文/二瓶朗


 DISわぁるど in 四国 たかまつでは、さまざまなテーマによるパネルディスカッションが開催された。その中の1つ『ドローンが生み出す「地方創生」と「安心・安全・快適」な街づくり』では、まず登壇者各人によるプレゼンテーションが展開されたのち、ディスカッションが行われた。今回はその模様をダイジェストで解説していこう。なお、登壇者は下記の通り。

モデレーター

 

春原 久徳氏/ドローン・ジャパン株式会社 取締役会長、セキュアドローン協議会 会長

パネリスト

尾形 優子氏/メロディ・インターナショナル株式会社 代表取締役社長
三輪 昌史氏/国立大学法人徳島大学大学院 理工学研究部 准教授・工学博士、
      一般社団法人徳島県ドローン安全協議会 会長
合田 豊氏/株式会社空撮技研 代表取締役、香川県ドローン安全協議会 会長
作野 裕司氏/国立大学法人広島大学大学院工学研究院 エネルギー・環境部門 耐空耐航性能研究室 准教授・工学博士
小原 優氏/株式会社五星 サーベイグループ 調査・計測チーム チームリーダー

空の産業革命・ドローンとは?

 モデレーターである春原氏は『「空の産業革命」?』と題したプレゼンで口火を切った。「空撮」「物流」「IoTとの連携」といった、ドローンが今後進出していくジャンルについて触れたほか、根本的に「ドローン」というものを熟知していない来場者に対し、ドローンとラジコンとの違いを丁寧に説明し、ドローンの技術フレームワークなども解説した。

 プレゼンのタイトルに「?」こそ付けられているものの、ここ数年の実績から導かれた日本におけるドローンの市場は、2020年度には約1130億円と、2015年度の11倍に達すると予測されることから、実際に空を制する「産業革命」デバイスとなる可能性を示唆した。その一方で、人材育成や安全対策、セキュリティ、法制やインフラなどといった、ドローンが抱える「課題」も提示された。

ドローン・ジャパン株式会社 取締役会長 春原久徳氏。

日本におけるドローンの市場予測。2016年度は199億円、2020年度には1138億円と予測。

「そもそもドローンとは何か?」を来場者に教示。

離島における遠隔診療のサポートとしてのドローン

 パネリストの尾形氏は、遠隔医療とドローンの関わりについてプレゼンを展開。そのなかでは、遠隔医療の一環としてドローンよる医薬品輸送実験が行われている実例を挙げた。

 香川県や愛媛県が瀬戸内海に擁する数多くの離島は、従来から医療における課題を抱えた地域だった。そこで、タブレットによる遠隔診察を実施すると同時に、ドローンを使った処方薬の配達をサポートしていきたいという。

 地方や離島でのドローン活用事例が示されるとともに、この遠隔医療サポートにおいてはさまざまな種類のドローンが試されており、用途にマッチしたドローンの選択が求められるとのこと。一口にドローンといってもその種類や用途は多岐にわたることが説明された。

メロディ・インターナショナル株式会社 代表取締役社長 尾形優子氏

ドローンによる遠隔診療サポートモデル。

用途に合わせてドローンのタイプを選択。

徳島県のドローンに関する取り組み

 続いて三輪氏のプレゼンでは、四国・徳島県のドローンの取り組みについて語られた。全国的に珍しく、徳島県はドローンを含む「UAV(無人航空機)」の活用に非常に積極的な自治体なのだという。

 徳島県は「近未来技術実証特区」を提案し、2015年(平成27年)には、同県那賀町を「徳島ドローン特区」に指定。「ドローンを最も活用する町」を目指したドローン運用が行われているという。

 鳥獣害対策、害虫駆除、林業における作業サポートといったドローン活用実例が示されたほか、現在は物資運搬・輸送手段としてのドローン活用実験も進められている。日本におけるドローンの活用手段の実例として、会場の注目を集めていた。

 さらに三輪氏の所属する徳島大学では、ドローンに関わるさまざまなことを研究しており、人が乗れる「有人ドローン」までもが検討されているとのこと。ドローン最先端地域としての徳島県を大きくアピールするプレゼンとなっていた。

国立大学法人徳島大学大学院 理工学研究部 准教授・工学博士 三輪昌史氏

徳島県のUAV(無人航空機)への取り組み。

有人ドローンの研究も進められている。

運用に欠かせない! ドローン暴走防止装置

 合田氏がプレゼンしたのは「ドローンスパイダー」という機器だ。耳慣れないこの機器は、ドローンに搭載する「暴走防止装置」なのだという。

 ドローンは航空機の一種であるため、墜落が気になるもの。しかし実際ドローンは自立飛行を行うため、単純に墜落することは多くない。その反面、操縦者がドローンを見失うことで操縦を誤り「暴走」してしまうことがある。そんなドローンの暴走を防止するのが、合田氏の経営する空撮技研社で開発された機器である「ドローンスパイダー」だ。

 ドローンをドローンスパイダーのライン(糸)につないで飛行させ、糸を一定のテンションを保って操作することで、安定した操作が可能となり、ドローンの暴走を防ぐという。ドローン運用における現実的なソリューションの1つを垣間見ることができた。

株式会社空撮技研 代表取締役 合田豊氏

ドローンスパイダーについての解説。

ドローンスパイダーは機能に応じて3機種展開。

ドローンによる三次元測量

 小原氏がプレゼンしたのはドローンを活用した三次元測量技術について。小原氏の所属する総合建設会社・株式会社五星 調査・計測チームでは、ドローンで撮影した写真から地形の3Dモデルや平面図、縦横断面図などを作成する技術を確立しているのだという。

 また、ドローンから動画を撮影することで、被災地の状況確認や危険な急傾斜地の現況確認といった災害対策に利用することもできるとのこと。建造物の点検や、人間が立ち入りづらく全体像を把握しにくい橋梁や港湾施設、ダム、河川、ため池といった施設の維持管理にもドローンを活用した三次元測量が役立つ。

 設計から施工、維持管理まで、建設業におけるドローンの活用はすでに実用レベルにあるようだ。

株式会社五星 サーベイグループ 調査・計測チーム チームリーダー 小原優氏

ドローンで多数撮影した写真を合成して測量に活用する。

写真測量から断面図なども作成できる。

ドローンを活用したリモートセンシング

 作野氏は、鳥取県におけるドローンの実証実験事例として、ドローンによる海水域への「リモートセンシング」(遠隔画像解析)について紹介した。ドローンを使ったリモートセンシングの一例として、撮影した海面の可視光エネルギーを解析、海中のクロロフィル濃度を推測して「赤潮」の発生を調査するという実証実験で、一定の成果があることが紹介された。

 今後は、赤潮調査以外の水質パラメータの推定手法も発見できる可能性があるほか、ノリやカキといった養殖場の管理にドローンが応用できる可能性も期待される。

 その反面、ドローンに搭載する軽量・安価なカメラの選定が難しいことや、そもそも海上でのドローン操縦は難しいといった根本的な問題点が挙げられ、期待と同時にその難しさを伝えるプレゼンとなった。

国立大学法人広島大学大学院工学研究院 エネルギー・環境部門 耐空耐航性能研究室 准教授・工学博士 作野裕司氏

ドローンによるリモートセンシングの解説。

赤潮の測定法について。

地方創生の可能性と課題

 最後に、短時間ではあるが登壇者によるディスカッションが展開された。ドローンによる「地方創生」の可能性は大いにあるというのが登壇者の共通認識である。

 たとえば国土交通省は2015年末に、建設現場の生産性向上に向けて情報化を前提にした新基準を2016年度以降に導入すると宣言した。「i-Construction」というこの取り組みには、ドローンを活用した三次元測量も含まれている。

 その一方で、農農薬散布を行う産業⽤ドローンを「安⼼・安全・快適」に扱うには、農水省が規定する操縦資格を取得したオペレーターであることが必須。いずれそのほかの産業においても免許制度は確実になると言われている。空撮技研社が四国初の産業用マルチローター教習施設として農水省に指定されたというが、地方におけるドローンの普及には、今後はこういった教習施設こそが全国各地に設置されていくことが必須と言えるだろう。

 なお、このパネルディスカッションの最後には、屋外にてドローンの飛行デモが展開された。飛行デモでは、空撮技研社「ドローンスパイダー」、そして会場内でもブースを設けていたブラザー販売の「AiRScouter WD-200A」が使用され、来場者が実際に操作を体験することもできた。

 やがて香川の夏空高くドローンが飛行し、今後の可能性の大きさを来場者が体感することで、このパネルディスカッションは終了となった。

パネルディスカッションの最後には屋外でドローン操縦のデモや体験会が開催された。