新社会人に贈るSNSマナー講座 - 第4回

SNS法人アカウントの「中の人」が注意すべきことは?

専用端末と“べからず集”は必須!

文/高橋暁子


 企業におけるSNSアカウントのビジネス活用が当たり前となりつつある。2016年4月に経済産業省が発表した、企業のソーシャルメディア活用に関する調査報告書によると、回答企業全体の63%がソーシャルメディアを「活用している」と回答、35%が「今後取り組みたい」と答えている。最近は大企業だけではなく、中小企業や個人などでのソーシャルメディアのビジネス活用も目立つ。販売促進、認知拡大、サイト流入増加、製品開発、ユーザーサポートなど、様々な目的で利用されている。

 会社での活用が進むに連れて、FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSのアカウント運用担当者、いわゆる“中の人”となる機会が訪れるかもしれない。“中の人”となったときに気をつけるべきことは? いざ担当者となった際に慌てることがないよう、注意すべき点を整理しておこう。

ソーシャルメディアの活用状況(ソーシャルメディア情報の利活用を通じたBtoC市場における消費者志向経営の推進に関する調査 報告書より)

公式アカウントが炎上する2つの理由

 どのソーシャルメディアにおいても、企業にとって炎上は怖いもの。企業アカウントの炎上は、アルバイトを含む従業員、社長や役員などの不適切発言や行動が原因となる他、一般ユーザーが原因になることも。また、企業の不適切なキャンペーンや隠蔽工作などがきっかけで、公式アカウントに飛び火する場合もある。

 しかし、“中の人”が最も恐れるべきは、自分自身が原因となってしまうこと。公式アカウントが原因で炎上する理由は、大きく2つに分けられる。

 ひとつめは、プライベートアカウントと間違えて投稿してしまった、いわゆる“誤爆”。Twitterでは複数のアカウントを所有することができるため、アカウントを使い分けているという人は多いだろう。しかし、注意を怠ると思わぬ大問題につながることがある。

 2016年6月、西宮市役所公式アカウントが、「【緊急速報】我がサークルの姫、心なしか可愛くなった件」と、スマホアプリ『オタサーの姫~僕らの姫はデリケート~』に関するツイートを投稿した。当初乗っ取りによるものと報道されたが、後に西宮市が“防災危機管理局の職員の家族が、端末でゲームをしたことが理由”と発表。災害などの緊急時に外からもツイートできるよう、防災危機管理局職員の私用スマートフォンからもつぶやけるようにしていたことが原因だった。

 また、2016年8月には朝日新聞高松総局の公式アカウントが、全国高校野球選手権大会における明徳義塾(高知)と境(鳥取)の試合中の判定をめぐり、試合に勝った明徳義塾の馬淵史郎監督に対して「馬淵、今度は審判買収か」と投稿。その後、同社記者が私物のスマートフォンから投稿したものと発表されている。他にも、2016年4月にマクドナルド公式アカウントが「不毛な打ち合わせに4.5時間参加している」と愚痴と思わしきツイートをするなど、誤爆とみられる炎上は跡を絶たない。

 ふたつめは、不適切な投稿をした結果の炎上。公式アカウントでの投稿は、ユーザーからは“企業の公式見解”ととられる。そこで批判的・差別的な投稿、政治・宗教・戦争などの意見が分かれる投稿、誰かが不愉快に思うような投稿をすると、炎上につながる。

 北海道長万部町のゆるキャラ「まんべくん」は、10万人近いフォロワーを抱える人気キャラクターだった。そんな中、終戦記念日を翌日に控えた2011年8月14日、「どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまりです」「日本の犠牲者三百十万人。日本がアジア諸国民に与えた被害者数二千万人」などとツイート。これを見た人から長万部町役場に電話やメールで抗議が殺到し、町は「長万部町の公式な発言ではありません」としてお詫びするなど対処に追われた。結果、まんべくんTwitterの運用を任せていたWeb制作会社にキャラクター使用許諾の中止を通告、Twitter投稿を停止させた。

 2015年8月9日には、ディズニー・ジャパン公式アカウントが「なんでもない日おめでとう」とツイート。元々は、アニメ映画『ふしぎの国のアリス』の「お誕生日ではない日おめでとう」という意味の歌を歌うシーンを紹介するためのツイートだったが、“長崎原爆投下の日に不謹慎”と炎上してしまった。元のツイートには問題なくても、不快に思う人がいる限り炎上のリスクは残るので注意が必要だ。

運用ルールを制定し、ミスには素早く誠実な対応を

 では、法人アカウントはどのような点に注意して運用すべきか。

 まず、私物の端末を使った公式アカウント運用はアカウントの取り違えを発生させやすくする。可能な限り、公式アカウント専用端末を所持するなど、完全に使い分けることがミス防止に役立つ。

 そして、アカウントの管理と一緒に、ミスを防ぐための手立ても考えておきたい。運用ルール、つまり「ソーシャルメディアガイドライン」の制定も大切だ。投稿すべきでないテーマ・内容をあらかじめ決めておくとよい。基本的には“お客様に直接言えないような内容は投稿しない”と考えれば、ほぼ問題ないだろう。

 注意していても、思わぬミスで炎上が起きることもある。そのようなときこそミスを受け止め、顧客に対しての素早い説明、そして(場合によっては)誠実な謝罪が重要になる。トラブルへの対応が良ければ、むしろイメージアップにつながることさえある。

 今回いくつかのトラブル事例を紹介したが、通常、よほどのことがない限り炎上はまず起きない。本来、企業の公式アカウントは、気になる企業と直接コミュニケーションがとれる貴重な接点だ。企業が身近に感じられる点、“中の人”の人柄に触れられる点がユーザーに喜ばれている。企業のマイナスイメージにつながる言動がないよう配慮しつつ、怖がり過ぎずに利用したいものだ。

筆者プロフィール:高橋暁子

 ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、監修、講演などを手がける。SNSや情報リテラシー教育に詳しい。主な著作として『Twitter広告運用ガイド』(翔泳社)、『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎エデュケーション新書)、『ソーシャルメディアを武器にするための10カ条』(マイナビ新書)など多数。

公式サイト「高橋暁子のソーシャルメディア教室