同一労働同一賃金の原則

同一労働同一賃金とは、「職務内容が同じであれば、雇用形態の違いで、賃金に差を付けてはいけない」という考え方です。2016年に日本政府がまとめた「ニッポン一億総活躍プラン」に基づき、18年に成立した「働き方改革関連法」に盛り込まれました。

それ以前にも、短時間労働者(パートタイムなど)に対する不合理な格差は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」で禁止されていました。これが、2021年4月の改正によって、「パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」に統合され、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」がまとめられました。同一労働同一賃金は、雇用形態による不合理な待遇差を解消することで、様々な働き方を選択できる社会を目指すものです。

しかし、「同じ仕事には同じ賃金」と単純に割り切ることはできません。企業によって職務内容が異なり、「同じ仕事」かどうかの判断基準も違ってくるからです。まず、企業それぞれが正社員と非正規雇用者の職務内容を明確にする必要があります。そのうえで、職務内容が同じであれば同じ賃金を、違いがある場合にはその違いに応じた賃金の支給をしなければなりません。職務内容が同一かどうかの判断は、政府が公表したガイドラインに沿った慎重な検討が求められます。

均等待遇と均衡待遇の違いと、説明義務の強化

厚生労働省は同一労働同一賃金の導入に取り組む企業のため、「同一労働同一賃金ガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html)を作成しています。ガイドラインには、「均等待遇と均衡待遇をともに目指すこと」「正規と非正規間の処遇格差については合理的な理由が必要である」という記載があります。

職務内容や責任の程度が正社員と同じで、転勤や配置転換も同様に実施されるのであれば、「均等待遇」の対象となり、非正規雇用者の賃金や各種手当などを少なくする格差は禁止されます。一方、職務内容や転勤、配置転換に相違があれば、待遇に差があっても構わないとされています。その場合は「均衡待遇」の対象となり、企業側は、待遇の差について説明しなければなりません。

正社員と非正規雇用者の待遇について何が異なるのか、その理由は何か。待遇の違いが不合理ではないことを、従業員が納得できるような説明が必要です。そのためには、職務内容や人材活用の仕組みなどの要点を整理しておくことが重要です。説明に窮するようであれば、それは「不合理な待遇差」となり、改善が求められます。

改善されない場合でも、とくに罰則規定などは設けられていません。しかし、都道府県労働局長による助言・指導・勧告の対象となり、企業名が公表されることもあります。対応によっては企業イメージが大きく損なわれるおそれがあります。

ガイドラインに沿って企業が対応すべき取り組み

待遇差とは、賃金に関する格差だけではありません。同一労働同一賃金を実現するために、企業が対応すべき取り組みは、主に下記の4点です。

<基本給・昇給は労働者の能力または経験に応じて支給する>
ガイドラインには、いずれの雇用形態でも、「実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」とあり、昇給についても同様とされる。

<賞与は労働者の貢献に応じて支給する>
賞与(ボーナス)も基本給・昇給と同様に、雇用形態にかかわらず、貢献に応じた支給をする必要がある。

<各種手当は同一の労働に対し同一の支給を行う>
各種手当は、役職の内容に対して支給する役職手当については、「同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」。特殊作業手当、特殊勤務手当などについても同様。

<福利厚生や教育訓練の機会を均等化する>
雇用形態にかかわらず、福利厚生や教育訓練の機会を均等化する。例えば、食堂や休憩室などの福利厚生施設の利用、慶弔休暇の取得、病気休職の付与など。また、教育訓練の機会については、「同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施」が求められる。

同一労働同一賃金のメリット・デメリット

同一労働同一賃金の実現によって、企業側、従業員側それぞれにどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

<企業側のメリット・デメリット>
非正規雇用者の待遇改善を実施すると、従業員の士気や労働意欲が高まるだけでなく、社会的な信頼度も向上します。信頼性の高さをアピールすることで、新たな人材確保も進めやすくなります。非正規雇用者の教育の機会が増えることで、従業員全体のスキルの底上げにつながり、業績アップも期待できます。

一方で、不合理な待遇差を解消するためには人事制度の見直しが必要となり、多大な労力と人件費がかかります。また、非正規雇用者の賃金アップや福利厚生や教育訓練など、従来よりも費用負担が増加します。現在、非正規雇用者は全雇用者の約4割。コストの増加が重しとなって、企業の経営を圧迫しかねません。

<従業員側のメリット・デメリット>
非正規雇用者にとって、待遇改善は大歓迎でしょう。賃金アップが期待できますし、正社員との教育制度の格差が縮まれば、スキルアップも望めます。キャリアアップや活躍の場の拡大につながり、モチベーションも維持しやすくなります。しかし、いいことばかりではありません。どのような職務につくかによって、非正規雇用者の間でも賃金格差が生じることが考えられます。また、コスト高騰を危惧した企業が、非正規の雇用を積極的に行わなくなる可能性もあります。

また、正社員にとってもデメリットがあります。人件費を抑えるため、全体の待遇を下げることで同一労働同一賃金に対応する企業が出てくる可能性があるからです。これでは、本末転倒になりかねません。

ガイドラインには、「正社員の待遇を下げることは好ましい対応ではない」とありますが、すべての従業員にとって公平な制度を構築することは簡単なことではありません。賃金や福利厚生制度、教育制度などについて、一つひとつチェックして、必要に応じて従業員の意見を聴取し、現場目線で改善計画を進めることが大切です。

著者プロフィール

青木逸美(あおき・いづみ)

大学卒業後、新聞社に入社。パソコン雑誌、ネットコンテンツの企画、編集、執筆を手がける。他に小説の解説や評論を執筆。