ショート動画が注目される理由

ショート動画サービスの比較

ショート動画サービスの比較

 ショート動画の人気が高まっています。TikTokが世界的に利用者が増えている中、追いかけるようにInstagramではリール、YouTubeではYouTubeショートという形でショート動画サービスを始めています。

 おおむね1分程度の動画が中心ですが、TikTokでは10分の動画にも対応するなど長くなる傾向にあります。もう一つの特徴はBGMが用意されていること。TikTokやInstagramリールでは、著作権をクリアした音源が用意されており、そのため若者が踊る動画がたくさん投稿されてブームの要因ともなりました。

 今までの動画サービスといえばYouTube一強が続いていましたが、気軽に視聴できるショート動画の利用者が増えてきました。その理由は2つあります。

 1つは「スマホに特化した動画サービス」であること。ショート動画アプリのほとんどは縦スクロールで素早く操作でき、動画を連続的に指で飛ばしながら(スクロールしながら)見ていくことができます。待ち時間もなく、スマートに動画を楽しめるのです。

 それに対してYouTubeはパソコン向けでWebページ向けのサービスとして始まっており、操作UIがスマホ向けには特化されていません。サムネイルをクリックしないと動画はスタートしませんし、いちいち動画を選ぶ必要があるためスマホ向きとは言えません。

 理由の2つめは「暇つぶし」に向いていること。何も考えずに短い動画が流れてくるアプリは、ベッドの中や通勤電車の中でボーッと見るのに向いています。ショート動画アプリはスクロールするか止めるかという動作だけで、自分に適した(と運営側がアルゴリズムで判断した動画)が再生されるので、暇つぶしに最適だと言えます。

テレビ各局がニュース配信で注目

 それでも多くの人は「TikTokは高校生が踊る動画アプリなんでしょ?」と敬遠しています。確かにかわいい高校生が踊りまくる動画はたくさん投稿されているのですが、ここ1〜2年で様変わりしつつあります。

 その1つがテレビ各局のニュース配信です。TikTokでは「#tiktokでニュース」というタグで、2年ほど前からテレビ各局の報道部門がニュース動画を流し始めました。

 具体的にはテレビ朝日・日本テレビ・TBS・フジテレビなどのキー局から、関西テレビ・中京テレビ・北海道テレビを始めとして地方局、さらに毎日新聞などの新聞の動画部門もTikTokでニュース動画を流し始めました。

 動画は1つのネタ(ニュース)が1つの投稿になっており、おおむね3分以内に収まっています。これがとても便利なのです。短い動画でニュースの概要がわかりますし、興味のないものは飛ばせばOK。そして動画の上下にタイトルや内容が書いてあるため、ひと目でニュースの内容がわかるのも便利です。

 とても便利なので、筆者は最新ニュースチェックにTikTokを使うようになりました。YouTubeにあるテレビ局報道ニュースよりもずっと使いやすくスマートです。筆者にとってTikTokは、今や「ニュース動画メディア」になっているのです。

「#tiktokでニュース」というハッシュタグで大手メディアが動画ニュースを流し始めている(1)

「#tiktokでニュース」というハッシュタグで大手メディアが動画ニュースを流し始めている(1)

「#tiktokでニュース」というハッシュタグで大手メディアが動画ニュースを流し始めている(2)

「#tiktokでニュース」というハッシュタグで大手メディアが動画ニュースを流し始めている(2)

戦争や災害の現場からの投稿も多い

 もう一つの注目点として「戦争や災害の現場からの投稿が多いこと」があります。筆者の場合、最近になってTikTok利用が増えたのは、ロシアによるウクライナ侵略がきっかけでした。

 2022年3月に始まったロシアによるウクライナ侵略では、多くの動画がSNSに投稿されました。Twitter、YouTube、Telegram(ロシアなどでよく使われているSNS・メッセンジャー)に多くの動画が流れましたが、元となる動画はTikTokが多かったのです。

 ウクライナの国民や兵士が、手元のスマートフォンから投稿した先はTikTokが多かったようです。実際に侵攻の数日前から緊張するウクライナの情景が流れていたほか、数日後には民衆と兵士のやり取り、侵攻してくる戦車、飛び交う戦闘機、こういった動画がTikTokに流れていたのです。

 また災害の現場からの投稿もあります。2020年8月に起きたレバノン・ベイルートでの穀物の倉庫爆発の動画、海外での津波の動画、巨大客船が嵐で浸水する模様などの動画が投稿されています。

 こういった現場からの動画は、今まではYouTubeなどに投稿されていましたが、筆者の肌感覚ではTikTokなどのショート動画が増えてきています。気軽に投稿できるショート動画サービスが広まっている証拠と言えるかもしれません。

 このようにTikTokなどのショート動画は、単なる遊びの動画SNSからスマホ向けの動画メディアへと変身する可能性を秘めています。TikTokを運営するバイトダンス社では、そのためにテレビ局への報道ニュース提供を促しているほか、著名人などによるハウツー動画・啓蒙動画に力を入れています。いわばTikTokのイメージチェンジをはかっているのです。

企業でも採用や企業PRに利用スタート

 そんな中、企業でもTikTokの活用が始まっています。2021年には「TikTok売れ」というキーワードが注目されるほど、TikTokがきっかけで本・CDなどの音楽、生活用品や飲料などが爆発的に売れるという現象が起きました。たとえば お弁当でおなじみのほっともっとは、TikTok内で流行の音源を使ったおもしろ動画や盛り付け動画などを投稿。新製品を作る工程を動画化したものがよく再生されて売上にも繋がっています。

ほっともっとのTikTok公式アカウント

ほっともっとのTikTok公式アカウント

 企業イメージをあげるBtoC向けでは、ANAがスタッフやCAさんが登場する動画で人気になりました。スタッフが踊ったり、業務の内容を見せたりとショート動画をうまく活用して人気となっています。

ANAの公式アカウント

ANAの公式アカウント

 また社員採用にも有効で、たとえば社員80人強の小さな警備会社・大京警備保障の成功例が有名です。大京警備保障のTikTokは、社長や本部長などのオジサン達が登場し踊ったり日常を投稿するショート動画で、これが若者に大ヒット。TikTokのフォロワーは270万人を超える超人気アカウントになりました。そのおかげもあって、今まで求人をしてもゼロだったものが数十人まで増える効果があったそうです。

 このように10代・20代が楽しむショート動画の利点をうまく活用すれば、企業にも大きなメリットがありそうです。

企業の公式アカウントは持っておくべきだ

 注目度と人気がアップがしつつあるショート動画ですが、企業が取り組むにはネックもあります。

 1つは投稿内容のハードルが意外に高いこと。堅苦しい企業PRではまったく受けないので、ショート動画にあった内容にする必要があります。


 具体的には「商品やサービスよりも人を中心にする」「見て楽しいエンターテイメント性を重視する」といった点です。企業の広報部や宣伝担当部署が、代理店に依頼して作るようなスタンスとは異なります。ショート動画が好きな人、ネット展開を面白がる担当者がいることが前提となるでしょう。この人材がいるかどうかがポイントになります。

 もう一つはショート動画自体にあるネガティブなイメージを、企業がどう捉えるかという点です。たとえばTikTokは若年層が多いこともあって、コメントが荒れやすく誹謗中傷に近いコメントが目立つことがあります。

 加えてTikTokでは「若年層でのTikTok中毒問題(長時間利用してしまう)」「中国・国家情報法の問題(有事の場合に情報が中国政府に収集される可能性)」「内蔵ブラウザでの入力内容を見られる恐れがある」といった社会的問題がメディアで何度も取り上げられています。

 企業はそれらの批判を受けた場合にどう対処するか考えておく必要があるでしょう。対処としてはコメントをオフにして投稿する、Tiktokの内蔵ブラウザを使わない、TikTokではなくYouTubeショートやInstagramリールを使うなどの方法があります。

 このような問題を含みながらも、ショート動画は今後さらに利用者が増えると筆者は予想しています。企業はショート動画をバカにせずにまずはアカウントは持っておくべきでしょう。少なくとも求人募集の助けにはなるはずですし、今後の宣伝や企業イメージPRのためにアカウントを確保しておくことを勧めます。

著者プロフィール

三上 洋(みかみ よう)

東京都世田谷区出身、1965年生まれ。東洋大学社会学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、1995年からフリーライター・ITジャーナリストとして活動。専門ジャンルは、セキュリティ、ネット事件、スマートフォン、Ustreamなどのネット動画、携帯料金・クレジットカードポイント。毎週月曜よる9時に、ライブメディア情報番組「UstToday」制作・配信。Ustream配信請負、ネット動画での企業活用のコンサルタントも行う。