生活様式におけるニューノーマル

ニューノーマルとは「New(新しい)」と「Normal(常態)」を組み合わせた造語です。コロナ禍で生まれた新しい言葉ではなく、2000年代初頭、米国のITバブル崩壊後に登場し、2008年リーマン・ショック後にも使われました。社会を揺るがす大きな変革にともない、新しい常識にシフトチェンジする状況を表します。

新型コロナウイルス感染症が発端となったニューノーマルで最も大きな変化は、対面でのコミュニケーションが制限されたことです。感染症対策の一環として、人との距離を保ち、濃厚接触を防止する「ソーシャルディスタンス」が日常化し、マスクの常時着用が望ましいとされました。不要不急の外出は自粛が求められ、旅行や里帰りができなくなり、三密(密集、密接、密閉)回避のため、外食やエンターテインメントも制限されました。これらの生活様式の新ルールは、新型コロナウイルス感染症が収束に向かえば、コロナ禍以前に戻る可能性がある「可逆的なニューノーマル」と言えます。しかし、ワークスタイルのようにコロナ禍を機にアップデートされ、元の生活には戻らない「不可逆的なニューノーマル」もあります。

ニューノーマル時代の働き方

ワークスタイルはコロナ禍によって激変しました。感染リスクを減らすため、通勤ラッシュや人混みを回避することが求められる中、多くの企業が在宅勤務によるテレワークを導入しました。コロナ禍前(2019年)のテレワーク導入率は約20%でしたが、コロナ後(2021年)は約50%に上昇、大企業では7割近くが実施しています(総務省・令和3年通信利用動向調査より)。居住地制限の撤廃や、サテライトオフィス、飛行機通勤などを認める企業も出はじめ、多様性のある働き方が受け入れられるようになりました。

オフィス以外での勤務をスムーズに行うためにリモート環境が整備され、ウェブ会議などによるオンラインミーティングも常態化しました。顧客との商談や打ち合わせのオンライン化も急速に進み、ZoomやMicrosoft TeamsといったWeb会議ツールが普及。窓口や店舗での接客もオンライン相談窓口、チャットボットなどの対応が増えてきました。

これまで働き方改革の一環として進めていた業務全般のデジタル化が、ニューノーマルによって一気に加速しました。慣習・文化の変化を嫌っていた企業が、事業環境の変化に対応するため、重い腰を上げたことも要因の一つでしょう。こうしたニューノーマルの中で企業が生き残るには、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が不可欠。いまこそ、業務フローのデジタル化やクラウドサービス、コミュニケーションツールの活用を推進する取り組みが必要となってきているのです。

直面する課題と対策

働き方が多様化したことで生じる課題もあります。テレワークや在宅勤務の実現には環境整備が不可欠です。Wi-Fi内蔵のノートパソコンの配布、システムやデータ共有のためのクラウド導入などによるコストアップは否めません。情報漏えいやコンピュータウイルス感染対策の徹底も必須。ITリテラシーの向上を目指した従業員の情報セキュリティ教育を行うことも必要になります。

また、テレワークが常態化すると、オフィスに全員が集まることがなくなるため、勤務態度や業務のプロセスなどが把握しづらく、人事評価や労務管理が煩雑化するリスクも生じます。過度な成果主義に流れないよう、企業は適正な評価制度を新たに構築する必要があります。一方、従業員には、自己管理やセルフマネジメントのスキルが重要となります。テレワークはプライベートとの境界線が曖昧になり、仕事に集中できない、だらだら残業するなどの弊害が生じるからです。ニューノーマルを生き抜くために、社会の変化を前向きにとらえ、自分自身もアップデートしなければなりません。

対面に比べて非対面のコミュニケーションは意思疎通が図りにくいというデメリットがあります。自宅などで各自が一人で仕事をしていると、上司や同僚、部下との気軽な会話がなくなり、コミュニケーション不足になることも考えられます。また、会社へのロイヤリティが低下するという報告もあります。こうしたことを防ぐためには、定期的にオンラインミーティングを開いたり、雑談専用のチャットルームを用意したり、社員が交流する機会を増やすことで、コミュニケーションを活発化することが有効です。コミュニケーションの活発化は、テレワークでの生産性向上にもつながります。今後は、非対面でもいかに質の高いコミュニケーションを図るかが、ビジネスにおいて重要になります。

新型コロナ感染拡大と共に、半ば強制的に始まったテレワークには、生産性の低下をはじめ解決しなければならない課題が山積みです。そのためか、緊急事態宣言が解除されると、多くの企業で出社日を増やし、オフィスでの業務に戻る「オフィス回帰」の流れが見られたのです。一方で、ニューノーマルを、自社を成長させるチャンスととらえ、積極的に働き方を変えている企業も多数あります。テレワーク継続のニーズも高く、今後は、オフィスの機能・規模を見直すと同時に、テレワークとオフィスワークの最適なバランスを検討していくことになるでしょう。

新型コロナが落ち着いても、ニューノーマルによる不可逆的な変化が止まることはないでしょう。また、ニューノーマルはこれで最後というわけではありません。戦争や天災など世の中が大転換する出来事は、歴史の中で何度も繰り返されてきました。そのたびに新たな時代に合わせたニューノーマルが生まれてきました。今後、いつでも変革は起こりうるのです。ニューノーマル時代において、状況に素早く適応して、挑戦し続けなければ、次代に生き残ることはできないでしょう。

著者プロフィール

青木 逸美(あおき・いづみ)

大学卒業後、新聞社に入社。パソコン雑誌、ネットコンテンツの企画、編集、執筆を手がける。他に小説の解説や評論を執筆。