中川史明さん

株式会社FARMER’S代表取締役。山形県東根市のサクランボ農家の三男に生まれる。高校卒業後、アメリカ合衆国イリノイ州North Central Collegeに留学。Entrepreneurship(起業家精神)を専攻。2020年春、新型コロナウイルスの影響で日本に帰国後、父が経営する果樹園を手伝い、大量のサクランボが廃棄されていることを知り、FARMER’Sを起業した。
https://farmers-japan.com/

サクランボの約3割が捨てられている

――最初に中川さんのプロフィールから教えていただきたいのですか。

中川 2021年3月に「FARMER’S」という会社を興し、その代表取締役を務めています。その前は、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴの郊外にあるノースセントラル・カレッジでビジネスアントレプレナーシップ(企業家精神)の学部に在籍していました。コロナ禍ですべての授業がオンラインになった2020年3月に帰国しましたが、6月に大学が夏休みになったので、父が経営するサクランボ農園を手伝ったところ、約3割のサクランボが捨てられていることを知ってショックを受けました。この「フードロス」問題をなんとか解決できないかと考えて、FARMER’Sを起業しました。

株式会社FARMER’S代表取締役の中川史明さん。

株式会社FARMER’S代表取締役の中川史明さん。

――FARMER’Sを起業した経緯を詳しく教えていただけますか。

中川 私の父はサクランボの生産で日本国内シェア約20%以上を占める山形県東根市でサクランボの果樹園を経営しています。農協に出荷するだけではなく、自分で育てたサクランボを販売する直営店や観光客へのもぎ取り体験なども提供しています。私はコロナ禍の影響で、2020年3月に留学先のアメリカから日本に帰ってきましたが、その年はコロナ禍でお客さんが少なく、収穫のお手伝いさんを雇うのも大変だという話だったので、生まれて初めてサクランボの収穫や梱包などの作業を手伝いました。それが思いのほか楽しくて、自然の中で収穫したりすることに充実感がありました。その一方で梱包などの作業は大変だということもわかりました。

その作業の中で気づいたのが、収穫高の3割、約1トンのサクランボが色や形が悪いという理由で規格外とされ、廃棄されていることでした。食べてみると同じようにおいしいのにもったいないと思いましたし、正規品と同様に父が時間をかけて育てたのに、3割も廃棄するのは割に合わない、生産者のためになっていないと感じました。

アメリカのファーマーズマーケットでは正規品も規格外品も選別せずに一緒に売られています。それと比べて日本では、規格が厳しく、フルーツが贈答品として使われることからもわかるようにフルーツには高級品のようなイメージがあります。一方、アメリカではフルーツは野菜と同等の扱いで、毎日食べる食品という位置づけです。

父の果樹園を手伝ったことがきっかけで、このフードロス問題をなんとかできないかと思いました。最初にやったことは、サクランボをネットのフリマサイトで「訳あり商品」として販売することでした。商品を1つ出品すると1分くらいで売れて、あっという間にすべて売り切れになり、こんなに需要があるのかとびっくりしました。それで父の農園だけでなく、地元の他の生産者にも声をかけて販売してみようと思いました。そして、山形県産のスイカや桃、ブドウなども出品して、6月から11月までの5カ月で約3,000件の取引が成立し、約450万円の売上げがありました。

規格外のフルーツを提供してくださった農家の方たちもとても喜んでくださって、生産者にも消費者にもメリットがあり、これは予想以上に需要があるのではないかと思いました。そこで、2020年の12月に、生産者と消費者をつなぐアプリを作りたいという思いからクラウドファンディングをしたところ、250万円くらい寄付をいただくことができました。さらに、こうした活動を通じて、取引をしたいという企業からお問い合わせをいただいたので、個人事業主よりは法人化したほうがいいだろうと、2021年3月にFARMER’Sを起業しました。法人化したことによって、販売先として百貨店や大手企業などとも口座を持つことができましたし、海外への輸出など販路が広がり、また生産者からの信頼感という意味でも法人化したことは大きな意味があったと思います。

サクランボの約3割は規格外品として廃棄されている。

サクランボの約3割は規格外品として廃棄されている。

「訳あり」ではなく、高付加価値を目指す

――法人化してから1年半くらい立ちましたが、変化はありましたか。

中川 訳あり商品としてフリマで販売しているときに生産者とのつながりができたのですが、法人化したことで、品目も取引できる生産者の数も増えてきました。ですが、やっているうちに「価格を安く販売すること」に疑問が湧いてきました。訳あり商品は、正規品より3割ぐらい安く販売していたのであまり利益が出ませんでしたし、私が目標としている生産者の収入向上にはつながらないと感じました。そうした時期に、懇意にさせていただいている千葉県の大根農家の方から、「規格外品を流通させると正規品が売れなくなってしまい、結果的に生産者の収益が減ってしまう」というアドバイスをもらいました。

そこで、規格外品を安く販売するのではなく、逆に付加価値を付けて、正規品より高い価格で売る方法を模索するようになりました。そこで考えたのが、農産物を加工品にすることと、海外への輸出です。

最初に開発したのが「Reica-零果-」という−35度でフルーツを冷凍した加工品です。原料として、主に山形県産のフルーツを規格外品も含めて仕入れ、それを果汁でコーティングして、−35度で瞬間冷凍にかけます。こうすることで、フルーツの鮮度と風味を長期にわたって保つことができます。規格外品も一緒に冷凍していますが、冷凍なので消費期限が1年間、生のフルーツの約100倍に延びるという特徴があり、フードロス問題の解決にも貢献できます。


「Reica-零果-」真空パッケージ(左から時計回りに桃、イチゴ、サクランボ)。規格外品も一緒に瞬間冷凍したもの。瞬間冷凍加工の受託も行っている。

「Reica-零果-」真空パッケージ(左から時計回りに桃、イチゴ、サクランボ)。規格外品も一緒に瞬間冷凍したもの。瞬間冷凍加工の受託も行っている。

中川 さらにおもしろいのが、半解凍で食べるとジェラートやシャーベットのような食感が楽しめ、こうした付加価値があるため、高価格で売ることが可能です。品目は、サクランボのほかに、桃やブドウが開発済みで、新しい食材を随時開発中です。フルーツを瓶詰めした「フルーツボール瓶」とそのまま瞬間冷凍した「真空パッケージ」の2つのパッケージを販売しています。

輸出については、今年の7月に日本国内で「ドン・キホーテ」を展開する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが東南アジアなどで展開する「DON DON DONKI」20店舗向けにサクランボを約700kg輸出しました。これは日本でもトップクラスのサクランボ輸出量だと思います。また、シャインマスカットや桃を瓶詰めした「フルーツボール瓶」も、DON DON DONKI向けに輸出しました。

そのほか、会社の売上げに貢献しているのがふるさと納税の返礼品と、ECサイトの売上げということになります。

「Reica-零果-」フルーツボール瓶。写真は、「巨峰とふじりんご」、「シャインマスカットと西洋梨」、「桃とプラム」を瞬間冷凍し、瓶詰めした商品(ふじりんごと西洋梨、プラムはボール状に成形されている)。伊勢丹新宿店でも販売された。

「Reica-零果-」フルーツボール瓶。写真は、「巨峰とふじりんご」、「シャインマスカットと西洋梨」、「桃とプラム」を瞬間冷凍し、瓶詰めした商品(ふじりんごと西洋梨、プラムはボール状に成形されている)。伊勢丹新宿店でも販売された。

――順調なように見えますが、課題もありますか。

中川 生のフルーツの輸出はけっこう失敗のリスクがあって、特にサクランボは賞味期限が短いのと、振動によるダメージを受けやすいので、たとえば到着時にダメージがあったりすると、その分を当社で負担しなければなりません。そのリスクを原価に乗せておかなければいけないということを学びました。

そこで生産者さんと連携して、リードタイムを短くすることを目指しています。今回は収穫の翌日に発送し、その翌日に飛行機に載せたので、海外到着は2日目だったのですが、翌日の海外到着を目指します。今年の出荷で、海外、特に香港とシンガポールの需要は強いという実感が得られたので、問題はダメージをいかに減らせるかというところです。

「Reica-零果-」開発時の写真。シャインマスカットとピオーネを枝付きのままで瞬間冷凍してみた。

「Reica-零果-」開発時の写真。シャインマスカットとピオーネを枝付きのままで瞬間冷凍してみた。

山形のフルーツの魅力を世界へ発信していきたい

――山形県ではさまざまなフルーツが生産されていますが、山形の農業にはどんな特徴がありますか。

中川 山形のフルーツの品質は国内トップクラスで、ブランド力もあります。日本一の生産量を誇るサクランボやラ・フランスは有名ですが、それ以外にも桃やブドウ、スイカなどが国内上位の生産量を誇りますし、その品質も高い評価を得ています。

山形は、昼と夜の寒暖差が激しいという環境のため、糖度が高いフルーツができると言われています。日本各地のフルーツと食べ比べても、山形のものはおいしいと思います。また稲作も非常にさかんで、「つや姫」や「雪若丸」という銘柄米が全国的にも有名です。そのほか、山形牛や米沢牛、庄内豚などの畜産業も盛んで、こうした農畜産物のブランド化に県を挙げて取り組んでいると感じます。カロリーベースの食料自給率は143%、金額ベースでも約189%もあることからわかるように、日本の食を支える一大産地だと思います。

自分で生産者を回ってみて感じる問題点は、やはり高齢化が顕著になってきていることです。たとえば、サクランボは梯子に登って収穫するので落下の危険が伴います。サクランボはなっているのに、今年は収穫できないという人も何人かいらっしゃいました。後継ぎがいないから引退するという人もいます。

それから、生産者の収入が安定していないということも感じています。なので、やはり農作物を加工して6次産業化するとか、輸出による販路の拡大を通じて、高価格化を図り、生産者が主役となるような仕組みづくりが大事だと思っています。次世代の若者が農業を継ぎたいと思うためには、儲かる農業を模索していくことが大切です。

――山形県はおいしいものも多いし、観光客を呼べる場所でもあると思います。

中川 そうですね。山形にはおいしい農産物だけでなく、温厚な人柄でおもてなしする文化があるので、国内外の観光客を呼ぶポテンシャルがあると思います。そのためには、山形を知ってもらうきっかけ作りが大切だと思います。 例えば、ふるさと納税で山形のフルーツを食べたことがきっかけとなって山形を訪れ、フルーツ狩り体験をしていただく等です。生産者と実際に関わり、リアルな農業を見ていただくことで、地域への愛着が湧くかもしれません。

また、輸出を通じて、山形のことを世界に発信することもできると思います。東南アジアでは「DON DON DONKI」は、富裕層向けの高級スーパーなのですが、そこで山形のフルーツを買ったことをきっかけに山形のことを知ってもらい、実際に足を運んで、観光してみようかとか、そういう機会づくりをしていきたい。実際、香港やシンガポールの方からは、山形のサクランボは肉厚で、食感がおいしかったという評価をいただいて、そういう高評価が山形でのインバウンド消費増加のきっかけになればいいなと思っています。

こうした取り組みは、自治体や農協なども考えてはいますが、大きな組織なので意思決定まで時間がかかるようです。そういう意味で、私のようなスタートアップは、フットワーク軽くできますし、失敗しても、改善してまた挑戦するという、トライアル・アンド・エラーがスムーズにやれるというメリットはあると思います。

持続可能な農業を実現するために挑戦し続ける

――最後に、これからの抱負を教えてください。

中川 FARMER’Sの目標は、「持続可能な農業」です。そのために、私が一番大事だと思うのが、生産者が儲かること。これが基本になると思います。生産者に安定した収入があって初めて真剣に農業を目指す若者や新規就農者が増え、次世代も農業を続けていけるようになります。

そのためにFARMER’Sでは、食品加工を通じて付加価値を高めることと、海外への輸出の2つにこだわっていきたいと思います。「Reica-零果-」は品目をさらに充実させ瞬間冷凍もアップデートしながら、よりおいしく長持ちする技術を追求していきます。

また、食品輸出には国を挙げて力を入れており、今年上半期の輸出額は過去最高を更新しています。特にメロンや桃などは輸出量が増加したことで国内価格も上がってきており、生産者のメリットが大きくなってきています。FARMER’Sでは、さくらんぼを始め日本産フルーツの輸出に率先して取り組み、生産者の安定収入や新規就農の促進を目指していきます。

そして、生まれ育った山形にもこだわっていきたいですね。生産者一人一人の想いが強く、良いものを育む土壌があるので、それをより広く発信して山形の産地を盛り上げていきたいです。2年前に初めて農業を体験して得た気づきや、「変えたい」と思った気持ちを忘れずに、今後もさまざま挑戦していきたいと思います。

写真提供:株式会社FARMER’S

著者プロフィール

豊岡昭彦(とよおかあきひこ)

フリーランスのエディター&ライター。大学卒業後、文具メーカーで商品開発を担当。その後、出版社勤務を経て、フリーランスに。ITやデジタル関係の記事のほか、ビジネス系の雑誌などで企業取材、インタビュー取材などを行っている。