バイヨンヌ(バヨンヌ)ってどこ?

私が住んでいたのは、ボルドー南、スペイン国境近くの「バスク地方」というエリアにある、「バイヨンヌ」という小さな町です。「バイヨンヌ祭」という、みんなが赤と白の衣装で騒ぎまくるお祭りが有名で、最近人気のスペインの町「サンセバスチャン」からも車で40分くらいです。

バイヨンヌ祭

バイヨンヌ祭

サーファーに人気の「ビアリッツ」という町が近く、海からも車で15分程度なので、リフレッシュのアクティビティは基本、海!ビーチ!という感じです。

ピレネー山脈もかなり近いので、海も山も近い、バケーション向けの都市として有名。7月や8月の長期休みには、フランス全土や近隣の国からも、観光客が押し寄せる、とってもステキなエリアなのです。

リモートワークを運よくゲットできればパラダイス

バスク地方は結構リッチなイメージなのですが、パリなどのお金持ちがセカンドハウスを持っていたり、リタイアしたお年寄りが多かったりと、実はあまり、オフィス的なお仕事はありません。

そのため実際は、商業施設やレストランなどで働く方が結構多く、夏には海関連の季節労働者もたくさん来ます。業界的に最低賃金で働く方も多く、期間が決まっている場合は契約が終わると切られてしまうので、決してみんなにとって楽園とは言えません。

でも、サーフィン他マリンスポーツをするリモートワーカーのエンジニアなどにとっては、パラダイスだと思います。

海が近く、サーフィンを楽しむ人も多い

海が近く、サーフィンを楽しむ人も多い

いわゆるオフィス的な会社はあまりありませんが、運よく地元のそのような会社で仕事が見つかったり、技術系やマーケティング系などのリモートワークをゲットした方にとっては、楽園かもしれません。海が好きな方が、沖縄のビーチ沿いで東京の会社の仕事をするような感じでしょうか?

コロナ中~コロナ後は、リモートのお仕事が一気に増えて、パリなどの大都市からだいぶ人が入ってきたみたいです。パリの小さなアパートに引きこもってお仕事をするくらいなら、同じお給料をもらいながら、それより安い金額のアパートで海を見ながら仕事した方がいいですよね。

コロナ禍でリモートワークも増大した

コロナ禍でリモートワークも増大した

「大都会を脱出して田舎に行こう」的な本がヒットしたこともあり、都会から海辺へ、という動きは、フランス全土で結構大きいようです。海や山を始めとした自然はたくさんあるけど、都会的な遊ぶところはあまりないので、多くの方は一定期間を超えたら飽きてしまうんじゃないかな、と思ったりしますけどね。
お子さんが小さいファミリーなら最高かもしれません。

フランスならではの人生を楽しむために仕事をするスタイル

ワークスタイルは、フランス全土に言えることですが、一部のワーカホリックを除いて、「プライベート命」な感じです。仕事が生きがいという方ももちろん一部いますが、基本は休みは取れるだけ取り、会社のためにプライベートを犠牲にすることは稀です。

プライベートを一番大切にするスタイル

プライベートを一番大切にするスタイル

ランチはワイングラス片手にゆったり取ることもあります。有給は法律の後押しもあり、基本100%消化。週35時間労働のフルタイム勤務の場合、最低5週間(25営業日)の有給があるのですが、これでも少ないと文句を言うフランス人を何人も見ました。

私は日本の中小企業勤めの時に、時代もあり、残業三昧の上、有給が年間1日しか取れなかったので、心から羨ましいと思いました。

雇用形態の違いとラーメン屋でのバイト。だけど「バイト」というコンセプトはあまりない

バイヨンヌでは、2種類のお仕事をしました。一つは近くのラーメン屋さんでのアルバイトです。「アルバイト」と言っても、日本人がイメージする、いわゆる「バイト」とはちょっと違います。

本当は、日本の高校生のバイトのように週単位のシフト制で、毎週空いている時にユルく入りたかったのですが、そのようなシステムは無いらしく……(田舎だから?)。
結局、曜日固定の週10時間の「CDI」になりました。

「CDI」というのは、”contrat de travail à durée indéterminée” の略で、「期間が決まっていない労働契約」、つまり、日本でいう「正社員」です。私の場合時間が短いので、日本でいう「短時間正社員」というものかと思います。ちなみにフランスでは、従業員を解雇するのがとても難しく、その後の手当もとても手厚いので、従業員の方々は基本CDIを狙います。

バイヨンヌの街並

バイヨンヌの街並

日本よりもだいぶ被雇用者に優しい法律みたいです。一方企業側は、その分雇用リスクがとても高いので、CDI採用を避ける傾向にあり、「CDD」、フランス語で、”contrat de travail à durée déterminée”つまり「期間が決まっている雇用」を好みます。日本で言う「契約社員」ですね。日本でも、正社員になるのがなかなか難しかったりするケースがあると思いますが、フランスでは保護が手厚い分、もっと厳しいのです。

そんなこんなで働き始めたラーメン屋ですが……1日目の感想はずばり、「ユルい」でした。

現場は基本やる気がなく、ついでにマネージャーもあまりやる気がないので、改善案を色々提案しても変わらず……。私も途中で諦めてしまいました。

日本人の奥さんがいるオーナーがやっているので、基本レシピは良いと思ったのですが、なにせ品質管理が甘いので、出すもののクオリティがバラバラ……。作る人によって量も味も違うし、ラーメン屋なのに10分くらい注文前に待たせるのもザラで、日本人としては気になって仕方なかったです。

一番びっくりしたのは、餃子の機械を早く洗ってとっとと帰りたいから、遅い時間のデリバリー用餃子を、現場判断で勝手に揚げ餃子にしたことです。それはそれでおいしいけど、バレないのかと心配しました。

ちなみに、ラーメン屋は、日本に比べたら高いけど、マクドナルドやケバブのような「安いジャンクなお店」に近い扱いです。日本はどんなに安いお店でも対応が良いことが多いですが、フランスは安いなら安いなりの対応をされるのが普通。なので、そんな状態でも、お客さんに怒られたりということはほとんどなかったです。フランスでも、高級なレストランに入れば全然お客の待遇は変わりますけどね(それでも日本のマックのお姉さんはバイヨンヌの高級レストランに引けを取らず親切だと思います)。

ワーカホリックだらけのフランスのIT企業に拾ってもらう

そのラーメン屋で働いていたところ、奥さんが日本人のご家族がたまたまお客様でいらしていて知り合いになったのですが、なんと、そのご家族の旦那さんの会社で、私を採用してくださいました。

オーナーと勘違いされるくらいの働きっぷりが買われたみたいです。普通の日本のバイトと同じ感じで働いていただけですけどね(笑)。英語ができる人材を探していたようで(特に田舎では英語を話せる人材は今でも限られている様子)、私はIT関連のマーケティング業務を任されて、基本リモート、コロナまでは週1だけオフィスに行っていました。

ここで働いた感想は……「世界でもびっくりするレベルのワーカホリックの集まりだ、フランスなのに!」でした。

今まで、日本やアメリカのスタートアップ企業で仕事をしてきたので、ゴリゴリのお仕事中毒たちを見てきたのですが、ほんとうに、引けを取らないどころか、その上をいくくらい!

奥さんが、旦那さん(社長)の日常を「マンガに出てくる忙しいビジネスマンみたい」と表現していましたが、上の方のみなさんはみんなそんな感じで、いつ寝ているのだろう、どうやって仕事をこなしているんだろうと、不思議で仕方ないです。

「フランスは働きなくない人がほとんどだけど、一部のワーカホリックたちが国をまわしている」と知人のフランス人が言っていたのですが、本当にそんな感じなんだなあと、業界を変えてみて思いました。

会社の雰囲気は、ITなのでフラットでフレンドリーではありますが、男性エンジニアがほとんどなので、ドライでペチャペチャおしゃべりする感じではなかったです。日本の開発会社みたいな感じかもしれないです。

男性エンジニアが多かった

男性エンジニアが多かった

小さなスタートアップ企業なので、必要なものが無い、ゴタゴタ・バタバタ目まぐるしい、なんてことは日常茶飯事。足りないものは直訴して用意してもらう。良さそうなものはどんどん提案していくなど、自分からバシバシ動いていかないと、仕事になりません。今までずっと小さな似たような環境の会社で働いてきた経験がとても役に立ちました。フランス語だったので、その分難しさ1.5倍でしたけどね。臨機応変さとフランス語能力が爆上がりして、とても良い経験になりました。

「地獄に住んでいると思っている天国の住人」

私の2社目のIT企業のように例外はありますが、一般的には、「従業員パラダイス」の国だと思います。
フランス人が、「フランス人は、地獄に住んでいると思っている天国の住人」と言っていたのですが、確かに、雇用の守られ方だけでなく、設備や社会保険、無料教育など、どこを取っても、フランスより良い国は、世界にそんなに多くありません。それでも、休みが欲しい、給料安い、税金高いなどと、いつも文句を言っている人がたくさんいて、労働組合や一般市民によるストライキも後をたたないです。確かに、広い視野で見れば天国なのに、本当に、本気で地獄だと思っている人がたくさんいるかもなぁ、という印象でした。

地獄に住んでいると思っているかも知れない天国の住人たち

地獄に住んでいると思っているかも知れない天国の住人たち

「解雇されづらくて、解雇後もサポートが手厚くて、休みが取りやすくて、プライベートとのバランスを非常に取りやすい」業界や職種によってもちろんバラツキはありますが、全体的な平均としては、日本と比べると、フランスでの正社員としての働き方は、私はこんな印象です。

ここだけ切り取ると、「フランス人、こんなに恵まれているのに、なんてネガティブ!」と思うかもしれませんが、もしかしたら別の国から見たら、日本にも同じことが言えるかもしれないですね。

メディアでも、安月給、高い税金、最近ではインフレもあって、日本でも、不平不満を抱える方が増えている印象がありませんか? 発展途上国の国からすると、もしかしたら、フランス人も日本人も、天国でブツブツ言う同じ人種なのかもしれないなと、少し俯瞰的な視点から思いました。

著者プロフィール

ナーシャ(なーしゃ)

東京生まれ。アメリカに学部留学後、帰国してIT関連の外資系企業を中心にセールス&マーケティング、通訳、翻訳などの分野で活躍。その後フランス人と結婚(実際はPACS:連帯市民協約)し、フランスに移住。長い不妊治療を経て、不妊治療中止&離婚。現在はフリーランスのライターやセールス&マーケティングコンサルタントとして活躍中。著書:「41歳で不妊治療中止&離婚した、私の経験をお話します」