野口五丈(のぐち・いつたけ)リライル会計事務所所長

公認会計士・税理士。監査法人トーマツなどを経て、2012年野口五丈会計事務所を設立、2018年リライル会計事務所に名称変更。同事務所はクラウド会計ソフトを使用した業務を中心に、渋谷に本社を置きIT関連など500社以上のクライアントを抱えている。趣味はテニス。

企業のインボイス制度への対応

── インボイス制度が、2023年10月に開始されました。インボイス制度についてのクライアントからの問い合わせやご相談はいつごろからありましたか?

野口 相談は2年前くらいからです。すでに多くのクライアントには1年かけて説明を終えて、昨年の2〜3月には事業者登録申請を済ませるというスケジュールで動いていました。しかし、去年契約したクライアントの中には、これから登録を判断してという一年遅れのクライアントもいます。

── 企業がインボイス制度に対応するために大変なのはどんなポイントですか?

野口 日々の事務作業の増加です。例えば、年間売り上げが1億円規模の会社では毎月1千万円弱の売り上げで、支出だけでも200件を超えるような規模感のところが少なくありません。この200件がインボイスに対応しているかの確認が大変です。支払い先には事業者登録していない免税事業者も含まれます。多くの免税事業者は取引先に言われて渋々登録している状況です。発注者側からも、登録をお願いしづらいケースもあります。これらは減っていくでしょうが、経過措置の期間をかけて段階的に登録事業者になっていく形です。

── 現在は多くの場合は、登録番号のある取引先と、ない取引先があるわけですね?

野口 はい。そこで会計処理が違ってくるので、この区別が大変です。取引先が1社とかであれば問題ないのでしょうが、登録状況によって金額が変わってくることもあって、その確認作業が大きな負担になります。正確に確認しておかないと、仕入れ額の控除が受けられなくなるため、税負担が増加し、移行期間の経過措置を使用しても、消費税の2割が損になることもあります。

クラウド会計ソフトによる事業者判定

── 企業はインボイス制度のどんなポイントに悩み、苦労しているのですか?

野口 まず、制度の複雑さです。少額取引は除外するとか経過措置があるなど特例がいろいろあるため、判断を迷います。また、登録事業者とそれ以外を分けるために、記帳が従来の3倍くらいになります。

── 経理の負荷が増大するわけですね。その場合IT、クラウド会計ソフトの利用で負荷を軽減することはできますか?

野口 クラウド会計ソフトを利用すれば、ある程度相手先のインボイス登録判定ができます。紙の請求書でも、領収書をAI-OCRで読み取って、インボイス番号を照会して、インボイスの要件を満たしているか判定するなど、事務作業を軽減することが可能になります。AI-OCRの信頼性は完全ではないので、金額が大きい請求書の場合などは後から確認が必要ですが、それでも大幅に手間が省けます。

登録番号の照会は可能だが、数が多いと負担が大きい 国税庁 [適確請求書発行事業者公表サイト](https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)

登録番号の照会は可能だが、数が多いと負担が大きい 国税庁 適確請求書発行事業者公表サイト

── 取引先が多いと大変そうですね?

野口 請求書など1枚ごとにインボイス登録されているかの番号照会が必要になりますので、かなりの手間がかかります。インボイス請求の要件を満たしているかの判定をして、誤っていたりすると消費税を追加しなくてはならなくなることもあります。企業の経理の悩みとしては、どこまでやればいいかと言うことです。人力で月に何百件も処理するのは無理です。金額がいくら以上ではきちんとやるといった判断も必要になってくるでしょう。例外処理も必要になってきて、請求書が見当たらないと言ったケースも稀には出てきます。

── 例外処理はどのくらいの頻度で出てくるのでしょうか?

野口 100件の請求があって、80件はデータとしてインボイス登録の紐付けができますが、残りの20件については、請求書が電子であるのか紙としてあるのか、また、請求書は要件を満たしているのか、などの確認が必要になるという比率でしょうか。経理のご担当者は、条件を満たさない場合、後から消費税を追加納入したりが自分の責任になるのではと、ナーバスになっています。

── インボイス制度の運用が開始されて半年になろうとしていますが、こうした問題はいつごろ解決していくのでしょうか?

野口 経理部門が本気になるのは年度決算です。決算月が10月の企業は1カ月分だったので、多少の誤りはあってもたいしたことはないと考えるでしょう。しかし、1年分となると大きな金額になってきます。決算月が一巡するあたりで、多くの企業はきちんと対応できる体制に落ち着くと思います。

── インボイス制度への対策として、クラウド会計ソフトはどのように有効なのですか?

野口 クラウド会計ソフトはインターネットバンキングなどに対応していますので、インボイス判定もある程度自動化しています。たとえば、東京電力の請求があれば、データベースにインボイス登録情報があって、それを元に自動判定してくれます。紙ベースの請求書でも、後からチェックは必要ですが、AI-OCRを使用して判定を自動化できます。電子明細についての紐付けもソフトが判定しているため、重複請求の排除なども自動です。

── 人手で行う場合と比べると、かなり負荷が軽減できますね。

野口 人力ではある程度ミスが発生する可能性があります。それを避けるためにチェック体制を二重にしたりするわけですが、ソフトで代替できる部分、ミスを減らせる割合は大きいので、人力でやっている企業は移行した方がいいでしょう。

── クラウド会計ソフトの投資対効果という面ではいかがですか?

野口 クライアントからクラウド会計ソフトの料金について不満を聞いたことはありません。低額なサブスク利用が可能ですから、担当者がこのために20時間も残業するようであれば、人件費の差額で十分元は取れるでしょう。

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著者プロフィール

狐塚 淳(こづか じゅん)

スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、生成系AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。