観光が支えるハワイ経済

アメリカ合衆国の中でも観光産業が占める割合が高いハワイ州。コロナ前は、およそ州の4分の1が観光産業を収入源としていました。観光産業に従事する方も多く、観光客および観光産業からの税収もとてもインパクトが大きいです。

筆者も典型的な観光業従事者で、昼は航空会社の正社員として働き、たまに夜はワイキキの寿司屋でパートをしています。寿司屋では、コロナ前は日本からの観光のお客様が大半でしたが、コロナ以降は海外旅行に行かれなくなったアメリカ本土からのお客様やハワイのローカルが激増し、現在においても依然日本人以外のお客様の割合が7〜8割を占めています。

国民性は、島国らしく「ゆったり、のんびり」な印象で、合理的でタイムイズマネーなアメリカ人の印象とは少し異なります。「仕事に人生を捧げる!」みたいな人よりも、仕事後の友人や家族との時間や、サーフィンやヨガなど趣味が何よりも大切!という人がとても多いです。

大変なことや嫌なことがあっても、この穏やかな陽気と美しい海や自然に囲まれて暮らせて私たちラッキーだよね!という心理が働いている気がします。実際、Instagramでは「#luckywelivehi」、つまりHI(ハワイ州の略)に住んでいる私たちは幸せ、というハッシュタグが90万件以上投稿されています。

ハワイの人がのんびりである例として、オアフ島ではSKYLINEという高架鉄道が2014年に着工されました。このハワイ唯一となる鉄道はオアフ島南西部カポレイから、ワイキキのお隣アラモアナ(地図の右下部分)までを繋ぐ予定となっていますが、2023年6月にようやくカポレイからアロハスタジアム間が開通しました。現在、利用できるのは完成予定区間のおよそ半分だけ。10年経っても工事が完成しないなんて日本では考えられませんよね。今後2025年にホノルル空港、2031年にダウンタウンまで延伸されると発表されていますが、ローカルの間では「完成するころには着工地点の西部のほうは老朽化していたりして」なんて笑い話になっています。

ホノルル市のサイトに掲載された高架鉄道の進捗状況 https://www.honolulu.gov/transportation/divisions/mobility/rail-operations.html

ホノルル市のサイトに掲載された高架鉄道の進捗状況 https://www.honolulu.gov/transportation/divisions/mobility/rail-operations.html

この自然の中で子育てができるのは、まさしく#luckywelivehi なのだと思います

この自然の中で子育てができるのは、まさしく#luckywelivehi なのだと思います

IT化は日本と同程度

このような国民性の影響もあってか、IT化とか効率アップという意識はアメリカ本土と比べて遅れている印象です。生活や職場におけるITの浸透率は東京と同等くらいかな、というところ。
筆者がシアトルへ訪れた際、Amazonのコンビニでは、レジを通る必要すらなく、自分が選んだ商品が自動で自分のアカウントへチャージされているのを経験して驚きました。ハワイでは、ようやくスーパーマーケットにセルフレジが導入されたくらいです。

そんなハワイでも生活に根付いている必携アプリとして紹介したいのは、以下の3つ。

1.個人間送金アプリの「Venmo」
そもそも現金をあまり持ち歩かず、どこでもカード払いのアメリカ。例えばレストランに友人と行った際には、クレジットカードを何枚も出して「〇等分で」などと言うことはなく、代表者が一括でレストランに支払い、あとは「Venmo me!」です。クラフトマーケットや個人で営んでいるようなショップなどでも使用できて非常に便利です。

2.「Uber」「Lyft」などの自動車配車プラットフォーム
日本では「Uber eats」のほうが有名なようですが、こちらでは自分で運転せず車で移動することを「Uberする」と表現するほど移動手段として生活に根付いています。島国や田舎でありがちな「どこでも車で運転して行く」が基本であることから飲酒運転も問題となっており、グリーン州知事はつい先日、飲酒運転への厳罰化を検討することを発表しました。今後さらにスタンダード化が加速しそうです。

3.「My Chart」Hawaii Pacific Healthというハワイ州の病院・クリニック・医者を統括するNPOが提供する総合ヘルスケアアプリ
自分のかかっているお医者さんや病院がHPHに加盟していることが前提ではありますが、このアプリさえあれば、アポイントの設定、処方箋の発行依頼、健康についての相談、支払い、ワクチン期限のリマインドまでノンストップで実行可能です。また、子供も自分のアカウントに紐づけておけば家族の健康管理がこれひとつで事足りてしまいます。

アメリカ人にとってハワイはもはやアジア

ハワイ州の人口構成は、19世紀のサトウキビプランテーションで増えた日系移民をはじめ、フィリピン系、中国系、韓国系、ベトナム系など多様な人種がいて、2021年の国勢調査によればアジア系民族が3分の1以上を構成しています。英語を母国語としない、または親が英語を母国語としなかった人も多いため、ハワイの人はアメリカ本土と比較して拙い英語に寛容さがあります。とは言え、約20年前に比べると“日本語を話す現地人”は減った印象で(その代わり“現地で働くサービス業の日本人“は増えた印象)、レストランのメニューに日本語版があったり、ショッピングの際にも日本語表示を見かけたりするものの、「ハワイは日本語が通じる=英語は不要」と思い込むのは危険、と感じます。現地で働く際も、日本語100%で済む仕事はほとんどないので、憧れが先行してハワイにやってきて苦労している方も見かけます。日系人の移民が多かったせいか、日系のスーパーマーケットや日本食レストランが多いのもハワイの特徴。この点においては、アメリカ本土在住の日本人の友人からはとても羨ましがられます。

このような面もあって、アメリカ本土の人からは「ハワイはアジアの入り口」という捉え方をされることも非常に多いです。

ホノルル市にある居酒屋のメニュー。英語のほうがサブ的な扱いになっています

ホノルル市にある居酒屋のメニュー。英語のほうがサブ的な扱いになっています

ハワイではこのくらいのおせち料理を用意することも可能です。これはアメリカ本土じゃちょっと難しいかも?

ハワイではこのくらいのおせち料理を用意することも可能です。これはアメリカ本土じゃちょっと難しいかも?

コロナがハワイにもたらした後遺症

ハワイ州は2020年に2回のシャットダウンを決行し、海外観光客はもちろん、アメリカ本土からも観光客は一切入れず、観光客に向けて営業していたホテルやレストランなどの従業員ではレイオフ(一時解雇)された方々も多くいらっしゃいました。幸いなことに私はレイオフを経験しませんでしたが、ホテル勤務の夫がレイオフされたものの失業保険や各種手当の迅速さ・手厚さに驚きました。仕事を続ける私よりもレイオフされた夫のほうが手厚く対応され、スーパーのクーポンなどももらえて得しているのでは?と思ったほど。


コロナが明けて観光客が戻ってきつつある昨今ですが、コロナの影響は今でも根強くあります。
一つめはホテル料金の値上がり。2021年12月よりTAT(ホテル宿泊税)は13.25%に上がりました。これに消費税 4.712%、ホテル独自のリゾートフィーなどが更にかかるわけですが、そもそものRoom Charge(部屋代)が、コロナ前より値上がりしています。というのも、主に観光客が多く宿泊するワイキキを中心に、コロナ禍中にリノベーションを行ったホテルが多くあったため。リノベーションの先行投資を部屋代で回収するのは当たり前ではありますが、そこに税も上がったため(さらに円安も相まって)、久しぶりのハワイ旅行を検討されてホテルを探して「高っ!」と驚愕された方もいらっしゃるのではないでしょうか。

二つめは深刻な人手不足。ハワイ州の住居費はアメリカ本土の一般的な相場と比べ、ほぼ2倍と言われています。ニューヨークやカリフォルニアなどの超高騰住宅費エリアとも肩を並べる価格帯なので、コロナ前、若者はルームシェアやダブルワークなどをして家賃を払っていました。ところが、コロナ禍でレイオフされ実家に戻って過ごすうちに、「これはこれでまぁいいか」と思うようになり、ダブルワークまでしなくても……という、違った働きかたに向かう意識改革がなされてしまったと聞きます。また、コロナ禍で州外へ転出した世帯も多く、約2万人がハワイの外へ引っ越してしまった、というデータもあります。一方コロナ禍でハワイ州に転入してきた人も約5000人いるそうですが、そのほとんどは「テレワークで住む場所が自由になったから」。つまり観光業の現場で働く労働者層とはあまりマッチしない層のようです。その結果、コロナが明け、再度人が必要になってきた観光業の現場では募集を出しても人が集まらない、という深刻な人手不足に陥っています。

2024年1月1日にハワイ州の最低賃金は$14.00になりました。2026年に$16、2028年に$18と段階的に上がっていく予定です。しかしながら、最低賃金が上がったからと言って、人手不足が解消されるのかは、私個人の意見では疑問に思います。

2020年コロナ真っただ中のワイキキビーチにて。こんなに人の少ないワイキキビーチは後にも先にもこの時だけ

2020年コロナ真っただ中のワイキキビーチにて。こんなに人の少ないワイキキビーチは後にも先にもこの時だけ

外から見れば楽園に見えるハワイも色々と課題は抱えていますが、結局「ハワイに住んでいる。それだけで幸せ」なメンタリティで、急速度の効率化は追い求めず、今後も穏やかに緩やかにやっていくのかな、とそう感じます。

著者プロフィール

小家山 麗花(こいえやまれいか)

東京生まれHipHop育ち。大学在学中からDJとして20年活動を続けながら大学卒業後は広告代理店などで勤務、仕事に没頭して生きてきたが2018年に渡米しハワイ在住に。典型的な江戸っ子的せっかち性格だったのが、ハワイの穏やかな気候にもまれて丸くなる。航空会社、寿司屋、パーソナルショッパーに加えて妻そして母と、気付けば5足のわらじを履く。ワーカホリックぶりは健在。