いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第4回

アナタの会社も「働き盛りの離職の嵐」に襲われる――対策はテレワークのみ



『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う 社員が元気に働く企業の新戦略』(田澤由利)

日本航空、三井住友海上火災保険、富士通……。名だたる企業が次々と導入し始めたテレワーク。この潮流を「大企業だからこそ許される流行りの福利厚生策」くらいに思っていると、近い将来痛い目に遭う可能性大。実は、一人の離職が痛手になる中小企業こそ率先して導入すべき企業戦略なのだ。

文/成田全


 2016年から2017年にかけ、日本航空、三井住友海上火災保険、レノボ・ジャパン、富士通、豊田通商、日本取引所グループ、東京都庁などが「テレワーク」の本格的な導入を開始した。しかし「出社してこそ仕事」「在宅勤務は重要な情報が漏れるのが心配」「サボるんじゃないか?」などと考える人もまだまだ多い。そうしたテレワークに関する疑問をひとつひとつ潰し、具体的な導入方法を解説しているのが『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う 社員が元気に働く企業の新戦略』だ(著者は前回の「あの人のスマートワークが知りたい!」にご登場いただいた田澤由利氏)。2014年に出版された本だが、古びるどころか、テレワーク導入が本格化している今だからこそ参考になる一冊だ。

有能な社員が会社を辞めることなく、外部の優秀な人材も採用できる

 本書はまずテレワークという働き方について、多く休みを取ることや時短勤務という「福利厚生」として捉えてはいけない、と多くの人がかけているであろう“色眼鏡”を外すことから始まる。テレワークとは「優秀な人材がその能力を発揮し、働き続けられるようにすることで実現」するものであり、「コスト削減、生産性向上、危機管理といった、企業のさまざまな課題を解決できる企業戦略」と説明している。

 働き方ブックレビュー第3回で取り上げた『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる』にもあったように、今後は団塊世代が70代となり、団塊ジュニア世代の介護離職が増えることが懸念されている。大きな仕事やマネジメントを担当していた40代、50代の社員が、ある日突然会社を辞めてしまう……そんな「働き手不足」という恐ろしい事態が、将来確実に待ち受けているのだ。また結婚や出産、病気、配偶者の転勤などが原因で社員が辞めてしまうことも、経営者には頭が痛い話だろう。

 しかしテレワークを導入することで、多くの応募者から採用・育成してきた有能な社員が会社を辞めることなく、お互いにメリットのある働き方が可能となり、さらに他社をやむを得ない事情で辞めてしまった優秀な人材も採用できる――これが「会社を救う」というタイトルの理由なのだ。

『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う 社員が元気に働く企業の新戦略』(田澤由利/東洋経済新報社)

テレワークとは「場所や時間にとらわれない働き方」

 テレワークとは、ICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)を使い、場所や時間にとらわれない働き方のことを指す。その場所が自宅であれば在宅勤務と呼ばれ、他にはサテライトオフィスやコワーキングスペースなどで働くこともテレワークに含まれる。

 テレワークが注目されている理由として、本書では「国が普及に本腰を入れ始めたこと」「少子化による生産年齢人口が減少する中、女性の能力の活用を推進すること」「ICTの環境が整い、安全面、コスト面でも在宅勤務が可能になったこと」という3つを挙げている。働きたいけれど、子育てや介護、地方在住といった事情があって毎日フルタイムで働けない、会社へ通勤することが難しい人がテレワークによって働けるようになることで生産性が向上するのだ。2016年9月には政府が働き方改革の柱のひとつとして「テレワークの推進」を掲げたことから、この本が書かれた2014年に比べると加速度的に普及が進んでいるのは冒頭で紹介した企業を見てもわかるだろう。「出社してこそ仕事」は、カビの生えた古い考え方であることを自覚してもらいたい。

 そして「在宅勤務は重要な情報が漏れるのが心配」については、USBメモリなどでデータを物理的に持ち出した際に、置き忘れたり盗まれたりするというヒューマンエラーがほとんどであると指摘、その問題は資料やスケジュール、業務リスト、タイムカードなどのデジタル化、クラウド化を進めることで解決すると説明している。在宅勤務者はクラウドに保存されたデータにアクセスして作業を行い、それをクラウド上に再度保存する。作業したパソコンやタブレットにはデータが残らず、万が一紛失しても中には何もデータがないので情報漏洩の心配はない。さらにはクラウド上でデータを共有することで、仕事の属人化も防げるのだ。

 また書類をデジタル化することで会社に紙の書籍を保管するキャビネット等を置く必要がなくなり、職場のスリム化も可能となる。また仕事を始める、離席する、終了することはデジタル化したタイムカードをその都度押すことで「サボるんじゃないか?」という疑念も解消できるという(ちなみにランダムにパソコン画面を保存するなどの監視システムがあることで一定の緊張感が保てる、と著者は記している)。またビデオカメラでいつでも話しかけたり会議ができるシステムを構築するなど、在宅勤務をしていても会社で働いている状態と同じ環境にすることが必要となってくる。

先日、政府が発表した「働き方改革実行計画」においてもテレワークは大きく取り上げられている。

意識を改革し、早急な導入を!

 テレワークはトップが決断し、社内の意識改革をして、社員ひとりひとりの考え方を変えていくことが成功の鍵となる、と語る田澤氏。そして「在宅でできる仕事」として切り分けるのではなく、何をすればどのくらいの業務ができるかを考えて、試験的な導入から徐々にレベルを上げ、最終的には全社員が使えるシステムとして構築しなくてはならない。「私は毎日会社へ出勤できるから、在宅勤務なんて関係ない」と言うなかれ。災害や事故、悪天候、パンデミックなどで出社できない場合にも機能する――これもテレワークの強みなのだ。

 導入にあたっての詳細な手順や問題解決方法については本書を参考にしてほしいが、テレワークを取り入れないと、この先会社が存続できなくなる可能性が非常に高いことがおわかりいただけることと思う。導入を迷ったり、様子見している暇は一切ない。良い人材を確保し、無駄を省いて生産性を上げるため、今すぐ導入へ踏み切ってほしい。

 本書を参考にした上で、中小企業の担当者には『テレワークで生き残る!中小企業のためのテレワーク導入・活用術』(田澤由利/商工中金経済研究所)もお勧めしたい。本書と同じ著者による、中小企業がテレワークを導入する際の内容に特化した小冊子だ。店頭販売はないので、問い合わせは商工中金経済研究所まで。また全国官報販売協同組合楽天ブックスでも取り扱いがある。

『テレワークで生き残る!中小企業のためのテレワーク導入・活用術』(田澤由利/商工中金経済研究所)

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。