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2017/05/09

特集 働き方改革の基礎知識 2017 - 第3回

タイムリミットはあと2年! 「今」働き方改革が必要な理由



労働生産性向上、長時間労働の是正……すべては出生率向上のために

民間議員など複数の公務を続ける中で、早くから出生率の向上を政府に訴え続けた“働き方改革の立役者”ワーク・ライフバランス社の小室淑恵氏、そして同社で働き方改革コンサルティングを担当する村上健太氏に、あえて「今」働き方改革をやらねばならない理由、企業への影響について詳しく語っていただいた。

文/まつもとあつし


 「働き方改革」を語る際、欠かせないキーワード「ワークライフバランス」。そのものずばりの名を冠した会社が今回の舞台です。代表の小室淑恵氏はTV番組のコメンテーターとしてもお馴染みで、TEDの動画を見た読者も多いはず。特集3回目の今回は、ワーク・ライフバランス社の小室氏からスマートワーク総研に寄せられたメッセージと、同社で働き方改革コンサルティングの豊富な経験を持つ村上健太氏に「なぜ今ワークライフバランスが重要なのか」そのビジネス上のメリットを踏まえた詳しいインタビューをお届けします。

小室淑恵
株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長
900社以上に働き方改革コンサルティングを提供し、残業を削減しながら業績を向上させ、従業員の出生率も向上するなどの成果が出ている。2014年9月より安倍内閣「産業競争力会議」民間議員、2015年2月より文部科学省「中央教育審議会」委員、内閣府「子ども・子育て会議委員」、経済産業省「産業構造審議会委員」、厚生労働省「社会保障審議会年金部会委員」など複数の公務を兼任。

ボーナス期の成功体験からいち早く抜け出し人口オーナス期にあわせた働き方を

 労働基準法が改正される見込みが立ち、年間360時間、繁忙期720時間という上限数字が連日のように報道されています。一部では労働時間への一律な上限規制は経済の発展を妨げるのではないかという反対の声も高まっています。経済成長には長時間労働は必要なのでしょうか。

 日本が「人口ボーナス期」にあった60年代~90年代半ばごろ、確かに長時間労働は経済発展に必須でした。人口ボーナス期とは、生産年齢比率が高く高齢者比率の低い時期。安い労働力を武器に「早く・安く・大量に」で世界の市場を凌駕し、高齢者が少ないことから社会保障費がかさまず、利益をインフラ投資に注ぎ込むことで爆発的に経済が発展。労働力が余り、人件費が安いため、残業してでも早く納品して勝ち、時間に比例して成果が出ます。

 しかし高度経済成長した国では次第に少子高齢化が進み、少ない労働力で多くの高齢者を支える「人口オーナス期」に入ります。労働力人口が不足するため育児や介護をしながらでも男女双方が社会参画できる労働環境に変革する必要性が生じます。人件費が高騰するため、短い時間で高い付加価値を出すことが生き残りの条件となり、お客様の多様なニーズに応えるために、社内にも多様性に富んだ人材の視点が不可欠になります。

 日本が人口オーナス期に入って既に20年。ボーナス期の成功体験からいち早く抜け出し人口オーナス期にあわせた働き方をすることが求められています。

労働者に当てはまらない年代を指す「従属人口指数」は上昇し続けているにもかかわらず、その中に含まれている年少人口指数は増えていない。つまり、未来の働き手が減り続けている状態といえる(『労働時間革命』小室淑恵/毎日新聞出版より抜粋)。

村上健太
株式会社ワーク・ライフバランス ワーク・ライフバランスコンサルタント
2008年、SBI損害保険株式会社入社。管理本部配属。2012年、株式会社ワーク・ライフバランスに参画。仕事を抱え込む傾向にある長時間労働のクライアントに対し、効果的なアドバイスを行うことで定評がある。企業・商工会議所・市役所・大学などでワークライフバランスの必要性・タイムマネジメント等についての講演多数。著書に『若手コンサルタント成長物語』(非売品)がある。

ワークライフバランスの達人に聞く「働き方改革はなぜ“今”なのか?」

 ここからはワーク・ライフバランス社のワーク・ライフバランスコンサルタントで、行政から企業まで幅広く働き方改革を支援する村上健太氏にお話を伺う。

―― 今なぜ「働き方改革」なのでしょうか?

村上 それを考える際、対象が何なのか? ということを確認しておくことがとても大切です。対象は大きく社会・企業・個人の3つに分類されます。

 社会に関していえば、既に色々なところで指摘されていますが、人口減少によって年金財源が枯渇することが予想されています。そのため政府は出産率の向上など色々な取り組みをしている中で、「働き方改革」が重要な位置を占めている、ということです。

 次に、企業についていえば、やはり「人手不足」対策です。人手不足は大きく2つの問題に分類されます。1つは採用が難しくなっている、ということ。もう1つは人が辞めてしまうという問題です。これらの問題への打ち手として「働き方改革」が有効であるということです。

 では個人についてはどうか? 「企業の寿命が短くなっている一方、個人の寿命が延びている」という視点を持つことが重要です。これは『ライフ・シフト』という本で紹介されているデータですが、今、平均寿命は10年で2歳延びていると言われています。2007年に産まれた子どもの半数は107歳まで生きるのです。学んで仕事してリタイアする、というライフサイクルが、一生のうちに何度も訪れ変則的になる、ということを踏まえて人生設計をする必要があります。それを可能にするためにも「働き方改革」が欠かせません。


ワーク・ライフバランス社資料より抜粋。

―― 少子高齢化・人口減少が進んでいる・このままでは大変なことになる、というイメージは読者も漠然とは持っていると思います。一方で「働き方改革」という対策を、小室社長も指摘するように今ここから数年以内に実現させなければならない、というのは何故なのでしょうか?

村上 女性が出産できる年齢には限界があります。今この時点で出産可能なボリュームゾーンがあと2年で、産むことが難しくなる年齢に達してしまうのです。従って、「今」働きながらでも子どもを産むことができ、育てやすい環境を国としても作っていけるかどうかが、国の未来を左右するといっても過言ではありません。数パーセントの改善が、将来の人口変化に大きなインパクトを与えるのです。


出生率を改善するためには、人口が多い団塊ジュニア世代の出生率がゼロに近づく前に、働き方改革を達成する必要がある(『労働時間革命』小室淑恵/毎日新聞出版より抜粋)。

―― 「働き方改革」というと、残業の抑制やテレワークなど様々なキーワードが登場します。何が一番重要だと捉えていますか?

村上 私たちは「社会問題解決のボーリングのセンターピン」を「長時間労働の是正」だと考えています。これさえ解決できれば、様々な問題はドミノ倒しのように解決していくはず、ということです。例えば、女性は育児と仕事の両立がしやすくなる。今後は介護の問題がさらに大きくなりますが、男性・女性にかかわらず、働き続けるためにも、やはり長時間労働の是正は鍵になります。

 実際、私たちが関わり長時間労働の是正が進んだ会社では、出生率が2~3倍まで上がった例もあります。

―― 長時間労働の是正が一時的には企業の生産力を落としてしまう、という懸念も最近聞かれます。生まれてくる子どもたちが築く未来のためには、それもやむなしということなのでしょうか?

村上 いえ、生産力を落としてはいけないと私たちは考えています。長時間労働の是正と生産力はトレードオフの関係ではないのです。むしろ働き方改革に取り組めば、労働時間が減るのはもちろんなのですが、売上が向上するという例も多く生まれているのです。

 例えば、三重県で調剤薬局の店舗を経営する従業員67人の株式会社エムワンでは、有給取得が100%になっても医薬品売上高が230%アップしています。働き方改革の取り組みを通じて、「待ち」の姿勢だった調剤薬局のビジネスのスタイルを、こちらから販売を仕掛けていく「攻め」のスタイルに転換することができたのです。

―― 長時間労働の是正を進めつつも、企業としては当然売上・利益といったパフォーマンスの維持・向上は図りたい。何とか限られた時間のなかで、それをどう実現するかという創意工夫が生まれた、というわけですか?

村上 そうですね、そういった動きが自発的に生まれる場合もあります。しかし、例えば残業時間が減って、残業代=手取りが減ってしまう、といった構造ですと、個人にとっては喜ばしくありません。そこで、残業が減った分をその実績に応じたボーナスとして支給する、自己研鑽のための費用を助成するといった工夫を行っている企業もあります。

 残業が生むコストは直接的な残業代だけではありません。光熱費はもちろんですが、長時間労働によって、健康を崩してしまう社員が出てくるなどの間接的なコストを含めると非常に重たいコストが掛かってきます。残業の是正で3億円の経費削減に成功し、そのうちの数千万円を社員の自己研鑽の助成に充てた企業もあり、会社・個人の双方にメリットがある事例も生まれているのです。

 また、国や自治体も実は様々な「働き方改革」推進のための助成制度を整備しつつあります。認定されると入札の際の評価にプラスとなるといった効果も期待出来ますし、ネット上でも「助成金+省庁・自治体名+テーマ」といったキーワードの組み合わせで公開・検索可能なものが多いですので、ぜひそういった制度もまめにチェックして頂ければと思います。

働き方改革コンサルティングのキモは「カエル会議」と「朝メール・夜メール」

―― ワーク・ライフバランス社としては、そういった取り組みにどのように関わっているのでしょうか?

村上 直接的には企業の求めに応じてコンサルティングを行っていますが、最終的には私たちのサポートがなくても、企業が「自走」できるようになることが目標です。実際、私たちが関わる企業も2~3年で、ワークライフバランスを重視した会社に生まれ変わっています。私たちはあくまで「きっかけ」と「課題発見から解決までのプロセスの導き方」を提供しているという立場です。私たちの会社の究極のミッションは「私たちが必要ではなくなること」なのです(笑)

 私たちは、企業自らが問題を発見し、解決するまでのプロセスに対して、気づきを与えることを行っています。私たち自身が「答え」を提供するのではなく、約8カ月間を使って、そのプロセスを支えることで、その後もそこで働く人が自らアイデアを出して、実行できるようになるのです。

―― 具体的な取り組みにはどのようなものがありますか?

村上 取り組みとしては、次の4つの流れで行っていきます。

現在の働き方の確認→課題の抽出→カエル会議→アクションの実施。

 この中にある「カエル会議」には3つの意味が込められています。「働き方を変える」「定時で帰る」その結果として「人生を変える」という3つです。これを基本的には2週間に1回、同じ仕事をしている6名~10名くらいで実施してもらいます。会社全体でいきなり取り組むと、どうしても「やらされている感」が出てきてしまいますし、何よりも人事の負担が大きくなりすぎます。まずチーム単位で「カエル」成功事例が生まれれば、それを他のチームに展開していくことができるというわけです。

 私たちが関わる際には、5つめのステップに「コンサルティング・研修」といったステップが加わるわけですが、基本的には自ら回していき、行き詰まったところを私たちがサポートし、自主性を育てることだけに努めています。

 上から残業○○時間削減という目標を押しつけてもハレーションが起こるだけです。大事なことは、現場から自発的な動きがボトムアップで出続けるようになることなのです。

カエル会議の風景。

 もう1つ重要なツールが、「朝メール・夜メール」です。

 朝一番に、「今日はどう仕事を進めていくか」という計画をチーム内で共有します。夜それを振り返るというシンプルなものですが、これも効果がてきめんに現れます。たとえパソコンが一人一台なくても、ホワイトボードに書き出すことで同様の効果が得られます。朝の計画と、夜の実績の差分を比べると、先ほどのSTEP2の「課題」が見えてくるのです。「共有すること」と「タスクごとに時間を見積もること」が、従来一般的だった「日報」や「TODOリスト」との大きな違いです。

朝メール・夜メールの例。

―― 例えばどのような効果が得られますか?

村上 時間=コストであるという意識は高まります。また、弊社でも朝メール・夜メールを毎日実践していますが、代表の小室から「村上さん、それはもう止めていいよ」といった判断が出てきたりします。ムダの多い仕事を止めるという判断は、上司からでないとなかなか難しいので、これは有り難いですね。営業のスタッフが資料作りに追われて、客先への訪問に数パーセントの時間しか割けていなかったということがわかった例もあります。見栄えの良い資料作りに3時間掛けるのではなく、手書きのメモを30分書けば良いといった軌道修正を図ることもできるわけです。

 そういった改善を図る際の建設的なコミュニケーションのきっかけにもなる、というのも大きなメリットですね。上司が「あの仕事どうなってる」とわざわざ聞かなくてもいいですし、結果だけみて「後の祭り」で叱責されるといった苦痛も少なくなるはずです(笑)

朝メール・夜メール作業を支援する法人向けサイト「朝メール.com」を使えば、予定と実績を図表で確認可能。

 これらの取り組みの目的も、労働時間の削減が最終的なゴールではなくて、あくまでも生産性の向上を図る、ということなのです。生産性を上げるには、成果(売上など)を高めること、そして時間コストを削減する必要があります。いずれに関心があるかは企業によって異なりますので、どちらを目指すのかも、私たちは最初に確認するようにしています。

 国の取り組みも、現在は「残業時間の削減」に大きく偏っているようにも感じられます。OECDの調査でも主要先進国のなかで日本はここ10数年連続最下位に甘んじていますから、この生産性向上という観点をもっと前面に押し出して欲しいなと思います。

主要先進7カ国の時間あたり労働生産性の順位の変遷(日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2016年版」より抜粋)。

―― 冒頭で挙げていただいたように「働き方改革」は、大きくは国や社会、そして私たち一人一人の人生を左右するテーマである、というのはとても印象的です。

村上 長時間労働が是正されると、最初はそれこそプレミアムフライデーでよく見られたように、「皆で飲みに行く」といった時間の使い方になるのですが、段々と自己研鑽に時間を投資しようという動きに変化していきます。提携している教育機関やジムの利用者数が2倍になったという例も珍しくありません。企業から人が辞めてしまう、定着しない主な原因はワークライフバランスが取れていないことです。長時間労働でメンタルヘルスを崩してしまう、というのがその典型例ですね。自己研鑽に時間を使うようになることで、個人の健康や成長にも働き方改革は効果を生むのです。

 今、国は残業時間の上限規制を盛り込む労働基準法の改正を控えています。ただ、ここで強調したいのは「企業はそれを待ってはいけない」ということです。政府の動きに先んじて取り組みを進めなければ、競争に負けてしまう恐れが高くなるのです。

―― それは何故なのでしょうか?

村上 ワークライフバランスが企業にとっての大きな武器になるということですね。人が定着する、そして採用もしやすくなる、というのは企業の力に直結します。例えば、前述の株式会社エムワンでは、ワークライフバランス実現に向けて働き方改革に取り組んでいることを就職活動生にPRしました。すると、今まで1年間かけて約30名のエントリーを集め4名の内定者の確保がやっとだったところが、今年は1カ月で168名のエントリーが集まり11名に内定を出し、1カ月で採用活動を終了できたのです。さらには、その中の2名は大阪の企業の内定を辞退してまで来ています。働き方改革を採用の際のブランドにすることに成功したわけです。

 残業時間の上限も100時間未満となる方向です。今後メディアも大手企業が「この例外を労使で何時間に設定したか?(労使協定)」に注目していくはずです。従って、この数字をうまく発信していけば、「魅力的な企業」としての姿勢をアピールすることもできるはずです。

 企業はいずれにしても、対応を迫られています。であれば、先んじて魅力的な協定を結ぶ取り組みそのものを外部に向けて発信した方が良いということなんです。

2017年以降の国の動き

    2017年
  • 3月:働き方改革実現会議にて実行計画決定
  • 4月:労働政策審議会にて審議し、提言→9月までに閣議決定
  • 9月頃:臨時国会に関連法案を提出→遅くとも年内には成立
  • 2018年
  • 法案成立後:各企業にて労使協定の結び直し(2019年3月まで)
  • 2019年
  • 4月:運用開始

  • ※2018年以降の動きは想定。

―― 企業として「コスト」と受止められることもある働き方改革ですが、前向きに取り組むことで経済的な「ベネフィット」が生まれることがよくわかりました。本日はありがとうございました。

公開中! 〈第4回〉
テレワークは大企業でなくても効果大――実践企業2社に聞くその実際

他社に先駆けてICTを用いた働き方改革を試みている中小企業の事例を紹介。一朝一夕では変えられない社内風土醸成、業務見直し、社内説得などをいかにこなしたのか、そして改革に必要不可欠なICTソリューションは?

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筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。

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