MINDSレポート【第2回】

MINDSと参加企業の相互連携が始まっている

異業種連携によるミレニアル世代の働き方改革推進コミュニティー、MINDS(Millennial Innovation for the Next Diverse Society)の活動が本格化してきた。連載第2回ではMINDSが参加企業と連携して開催したイベントを紹介する。また、今回からMINDS参加企業の働き方改革への取り組みを順に取り上げていく。

文/狐塚淳


MINDS アップデート ~最近の活動から~

・Microsoft Millennial Workstyle Innovation 2019イベント参加

・社外インターン実施に向けて調整中

・テレワーク・デイズへの参加取り組みを検討

MINDSの活動と結びついたイベントプログラム

MINDSはミレニアル世代がけん引する「働き方改革」のためのコミュニティーだが、その活動対象はミレニアル世代のみに限られたものではない。参加企業の従業員でもあるMINDSリーダーたちは、グループワークや総会などで話し合われたアイデアを各企業に持ち帰り、それぞれの企業の「働き方改革」へのアクションと連携していく。

6月7日に六本木アカデミーヒルズオーディトリアムで行われたイベント「Microsoft Millennial Workstyle Innovation 2019 これからを生きる君たちへ ~ミレニアル世代が求めるIT環境とは~」は、主催は日本マイクロソフトだが、そのプログラムはMINDSの活動と連携して構成されていた。これまで、MINDSの活動についてはプレス発表とfacebookページが中心だったが、より広く一般に向けリアルイベントで活動を紹介する初めての機会となった。

ミレニアル世代と日本企業の再躍進

味の素執行役員人事部長 松澤巧氏による基調講演

基調講演「ミレニアル世代と日本企業の再躍進に向けて」に登場したのは、味の素の執行役員人事部長の松澤巧氏。同社は働き方改革の先進企業として知られていると同時に、MINDSの参加企業の1つでもある。松澤氏は、生産人口の減少と高齢化が進む日本企業が再躍進するためには今後企業の中心になっていくミレニアル世代の活用が必須だと述べた。同社の営業職の55%、研究職の54%がすでにミレニアル世代に占められていることを挙げ、彼らの活躍なしに企業の価値創出は困難だと説明した。

また、松澤氏はこれまでの同社の働き方改革への取り組みを解説し、今後はDXやイノベーションに結びつける部分を強化していく方向だとした。そのためには、エンゲージメントを高めるとともに、まだ社内では十分に力を獲得できていないミレニアル世代を、マイノリティーの一形態としてとらえ、ダイバーシティーの取り組みとしても考えていきたいと述べた。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 手島主税氏による「働き方改革NEXT」の紹介

続いて登壇した日本マイクロソフト執行役員常務 クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏は同社が提唱する「働き方改革NEXT」を紹介。長年自社の取り組みとして実践してきた働き方改革への取り組みを社会の成長に役立てるための重点分野として、最前線で働く人々、ミレニアル世代、教育改革の3つの取り組みにより、働き方の新しい文化を醸成していきたいとした。

社内で今後に向けて、イノベーションを創出するためのディスカッションを行った結果、新しい世代が新しい働き方を作り出し社会貢献していくことが重要だとの結論を得たと説明した。今後、働き手の75%を占めるようになるミレニアル世代に向けた取り組みが大切だとし、参加企業各社と共同で進めているMINDSの名前を挙げた。

日本マイクロソフトではさまざまな取り組みとテクノロジーの活用によって、この10年間で社員数が7%減少したにも関わらず、企業規模は3倍になり、60万時間の労働を削減した数字を挙げ、こうした経験をもとに新しい働き方を世間に広げていこうとしていると述べた。

世代の価値観とコミュニケーションを考えるパネルディスカッション

ミレニアル世代とその上司世代によるパネルディスカッション
(左から司会の浜田氏、日本航空神谷氏、味の素隈部氏、味の素古賀氏、日本航空東原氏、日本マイクロソフト山本氏)

プログラム中最長の1時間半にわたるパネルディスカッションは3部構成の形をとった。第1部は「ミレニアル世代の働き方とは?」をテーマにミレニアル世代によるディスカッション。第2部は「上司世代の働き方の価値観とは?」をテーマに、1部で登場した若手社員たちの上司が登場。第3部は「ミレニアル世代VS上司世代 コミュニケーションをどう円滑にしていくのか」では1部2部の演者全員による討論で、企業内に存在する世代間の価値観の相違とそれを越えてコミュニケーションしていくためにはどうすればいいかが話し合われた。

司会を務めたのはBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子氏。第1部に登場したのは、日本航空人財本部人財戦略部ワークスタイル変革推進グループアシスタントマネジャーの東原祥匡氏と味の素人事部労政グループの古賀吉晃氏。彼らはMINDSでワークグループリーダーを務める。これに、サポート役で同じくMINDSコミュニティーリーダーである日本マイクロソフトMicrosoft 365ビジネス本部プロダクトマネジャーの山本築氏も加わり、ミレニアル世代の仕事選びの基準と収入についての価値観、彼らが上司世代の価値観について感じる差異についてディスカッションした。

仕事選びには社会貢献や公共的使命感などが重要という意見が出たほか、親が病気の時は駆け付けたい、夫婦共働きで子育てを分担していきたいなど、働き手の幸福感を上げていくために働き方改革が必要だという話もあった。一方、上の世代にはテレワークでも対面重視の姿勢が残っていて自由に働くのが難しい、キャリアの成長についての時間感覚が世代によって異なるなどの意見も出た。

第2部では、東氏と古賀氏のそれぞれの上司であり、ともに1991年入社という、味の素人事部労政グループ長の隈部淳二氏と日本航空人財本部人財戦略部ワークスタイル変革推進グループグループ長の神谷昌克氏が登場。ミレニアル世代についての印象と、両社の働き方改革の現状について語った。

まだ学生の売り手市場だったため、あまり苦労せず大手に入社したという二人は、部下世代の考え方がしっかりしており、特に現在は、女性は長く働ける会社を探していると述べた。コミュニケーションでは、世代間で「普通」と感じるレベルが異なっているというのは感じるが、じっくり意見交換をして若い世代の考えていることを聞き出すのが大切だと語った。

世代間ギャップを解消するために

第3部では、壇上に上司と部下フルメンバーが揃い、社内コミュニケーションの世代間ギャップ解消の方法をディスカッションした。テレワークが進むと出社が減るが、上司サイドでは部下と話す機会を意識的に増やすようにしている一方、ミレニアル世代も難しい話をする場合は、会社に行きフェイストゥーフェイスで話をしようとするなどの意見が出た。世代間のコミュニケーションで問題になるのは、仕事の目標を説明しないでとにかくやってみようなど、共感するのが難しい発言の場合だとの声もあった。

ITツールでのコミュニケーションについて、チャットは便利だが、若者は会社以外につながっているコミュニティーがたくさんあるため、仕事とプライベートを切り分けて、土日はオフラインにして、緊急時は電話くらいの結びつきが望ましいなどの意見も出てきた。

 以上、MINDS関連のセッションを中心に紹介したが、他にも日本マイクロソフトMicrosoft 365 ビジネス本部製品マーケティング部プロダクトマネジャー 東郷晴美氏による「ビジネスをドライブするコラボレーション&コミュニケーション」と題するTeamsの使いこなしのセッション、バドミントン元日本代表小椋 久美子氏と日本マイクロソフトMicrosoft 365 ビジネス本部の三上 智子氏による「勝負で勝ち続けるために必要なこと」など大変密度の濃いイベントだった。

「勝負で勝ち続けるために必要なこと」バドミントン元日本代表小椋 久美子氏(右) 日本マイクロソフト Microsoft 365 ビジネス本部 三上 智子氏(左)

イベント全体を通して繰り返し語られたのは、働き方改革を進めるにあたってのコミュニケーションの重要性だ。世代間の価値観の相違も、コミュニケーションを強化することで解決が可能になる。自由な働き方のなかで、コミュニケーションを強化していくためには、必要なIT環境、ITツールの整備が必要だが、コミュニケーションをスムーズにするにはそうしたツールを利用しながら、世代間の相互理解への努力が欠かせない。

MINDS参加企業は意識が柔軟で、MINDSの活動は参加企業の働き方改革への取り組みにミレニアル世代からの重要な提案として受け取られている。MINDSと企業、ミレニアル世代と先輩世代の連携がはじまっていることが理解できるイベントだった。

MINDS参加企業の働き方改革への取り組み ①日本マイクロソフト編

10年を越える取り組みとワークライフチョイス

日本マイクロソフトが「働き方改革」に取り組み始めてから10年以上になる。2007年に在宅勤務制度を採り入れ、東日本大震災以降はテレワークの活用を順次進めていった。生産効率化を追いかけるだけではなく、2016年5月にはフレキシブルワークを実現する就業規則の変更を実施し、2017年9月にはファミリーフレンドリー休業制度を設け育児・介護休業を取れるようにするなど、従業員の幸福な働き方を実現するための施策を数多く打ち出している。

2018年11月には「働き方改革NEXT」で3つの注力分野、未来の働き手である子供の教育、ミレニアル世代の働き方改革、インダストリーなど現場の最前線の働き方改革に重点を置くことを発表した。

多くのIT企業では、働き方改革への取り組みは自社の生産性を向上させる実践であると同時に、そこで蓄積した経験やノウハウをソリューションとして提供するビジネスの一環でもある。「働き方改革NEXT」は、日本マイクロソフトが自社で実証実験してきたノウハウを社会に向けて役立てる重要分野の表明だった。

そして2019年4月、日本マイクロソフトは自社の働き方改革をさらに推進させるために「ワークライフチョイス チャレンジ2019 夏」を発表した。ワークライフチョイスとは「社員一人一人が、仕事(ワーク)や生活(ライフ)の事情や状況に応じた多様で柔軟な働き方を、自らがチョイス(選択)できる環境を指す」としている。

ワークライフチョイスを推進するための取り組みとして、日本マイクロソフトでは2019年8月のすべての金曜日を休業日として正社員は特別有給休暇を取得、全オフィスをクローズするとともに、社員の新しい活動に対する費用サポートなどの支援策を打ち出した。

週休3日は手段にしか過ぎない

多くのメディアの報道は、「マイクロソフトが8月の金曜日を全社休業しての週休3日トライアル」に注目していたが、ワークライフチョイス チャレンジの本質はそこではない。

ワークライフバランスが働き手の人生のある時期における、仕事と生活の2者間のバランス選択を指すのに対し、ワークライフチョイスは、より多様性のある人生設計を提案する。

たとえば「仕事」と一言で言っても、その内容は多様だ。上司から与えられた仕事に取り組んでいるのか、その効率向上を考えているのか、新たなスキルの獲得のために学習しているのか、さらには副業や転職に向けた活動も「仕事」に含まれるだろう。

選択肢を増やすことで、選択の多様性を実現する(図は編集部作成)

同社は活動支援分野として「生活」「仕事」に加えて「社会参加」という3つ目の軸を追加した。バランスを考える選択肢を増やしたことで、さまざまな可能性が考えられるようになる。さらに、人生のある時点での選択にとどまらず、時間軸を加えた人生設計のための考え方も可能になる。仕事の上のキャリア設計、生活でのライフステージ設計、そして社会や地域との関わりなどを考えることで、トータルで多様な人生に近づいていく。そのためには、新しい学習の機会も必要だし、それまで関わりの少なかった地域やNPOなどの組織に参加する機会も必要になるだろう。

そして、「ワークライフチョイス チャレンジ2019 夏」では、仕事や生活の向上、社会活動への参加という概念的な提案に終わらず、それぞれにチャレンジしていくための道筋のヒントの例示と、費用面などでの支援を約束している。

週休3日は、そうしたチャレンジのための時間を確保するためだ。複数のOBによれば、8月は同社の期初から間もなく、年間であまり忙しくない時期だというが、その時期を選んで、新しい働き方や生活改善、社会参加の機会を作り出し、支援する試みは画期的だ。日本マイクロソフトは従業員の人生をより幸福なものにするための、チャレンジを実行しようとしており、また、その効果測定を実施し、自社実践の経験をユーザーに提供していくという。

ワークライフチョイスチャレンジ2019夏の概要(図は編集部作成)

筆者プロフィール:狐塚淳

 スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。