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第1回 男女雇用機会均等法


ハラスメント対策が盛り込まれるまでの歴史と、将来への課題

「男女雇用機会均等法(均等法)」とは、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の通称で、1985年(昭和60年)に制定され、1986年(昭和61年)に施行されました。今回は、法律施行と改正の歴史を振り返りながら、働く女性や企業への影響について考えるとともに、評価できるポイントや今後改善が期待される事柄について解説します。

文/島谷美奈子


法律改正と女性が働く環境の変化

はじめに、第2次世界大戦後に制定された、女性の労働に関する法律の歴史についてふり返ってみましょう。

①女性保護の時代

日本では、戦後の高度経済成長に伴い、昭和30年代後半以降、女性の職場進出が進みました。終戦後の連合国軍占領下の1947年(昭和22年)に制定された「労働基準法」では、女性労働者に関して時間外労働の制限や深夜業への就業の禁止等が定められています。また、1972年(昭和 47 年)に施行された「勤労婦人福祉法」においては、育児休業や母性健康管理の努力義務が定められるなど、1970年代までの日本の法律は、「女性保護」の色合いが強いものでした。同時に、「女性には責任が重い仕事は任せられない」という認識が進んだ面もありました。

②均等法が整備された時代

1979年(昭和54年)、国際連合において採択された「女子差別撤廃条約」(正式名称は「女子差別撤廃条約(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)」)に影響されて法の整備が進み、「男女雇用機会均等法(均等法)」が制定され、1986年(昭和61年)から施行されました。しかし、「雇用機会均等」とは名ばかりで、経済界からの反発を受けて、募集・採用、配置、昇進については、男性と均等に取り扱うことが「努力義務」とされるにとどまりました。この結果、性別による差別は残ったままで、責任ある仕事に就く前に退職する女性も少なくありませんでした。

③機会拡大と育休整備の時代

1997年(平成9年)の均等法改正では、募集・採用、配置、昇進についても女性に対する差別が明確に禁止されるとともに、女性を優遇する措置等も、原則禁止とされました。また、1990年(平成2年)に、出生率が過去最低となった「1.57ショック」の解決策として、経済界の合意を得て、育児休業法等の整備が進みました。これにより、女性の就業継続が進んだ一方で、「育児は女性」という性別役割が増長され、「女性には責任ある仕事を任せられない」という認識がさらに強まってしまいました。

④女性活躍推進の時代

2007年(平成19年)の均等法改正では、男女双方に対する差別の禁止など性差別禁止の範囲の拡大や妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクシュアルハラスメント対策の強化などが盛り込まれ、法制定当時に指摘された法制上の課題はほぼ解決されました。

さらに、2016年(平成28年)の改正では、妊娠・出産等に関する上司・同僚による就業環境を害する行為に対する防止措置を義務づける規定が設けられました。同年は女性活躍推進法も施行され、企業は、女性労働者に対する採用や教育等の機会の提供や家庭との両立環境の整備を進め、女性管理職の割合などを公表することが義務づけられています(現状、女性活躍推進法は、常時雇用する労働者数301人以上の事業主が対象)。働く女性にとっては、管理職に挑戦することへの期待と、家庭との両立の両面が期待されることとなりました。一方、働き方改革や2020年(令和2年)に発生したコロナ禍の中で、働き方を見直す傾向も見られます。

女性の転職・再就職事情の変化

均等法が整備された1980〜90年代前半は、男性中心の職場で奮闘してキャリアを継続し、管理職経験を積んでいる女性もいました。一方で、結婚や出産などで退職した方が、離職期間を経て再就職を目指すケースも見られました。2020年代となり、40代以上となった女性たちはキャリアを継続して、会社顧問や社外取締役の仕事を探す女性、あるいは中小企業やベンチャー企業へ再就職を目指して活動する女性と、それぞれ多様な道を進んでいます。

1990年代後半以降の機会創出拡大と育休整備の時代には、育児休業や時短勤務等の制度にて就業継続が可能になった一方で、責任ある仕事から外れてしまうマミートラック(職場において育児と仕事の両立はできるが、昇格や昇進の機会があるコースから外れてしまうこと)の状況に悩み、「時間や場所にこだわらず評価される環境」へと移るケースが見られました。これにより、女性が柔軟な働き方を取り入れるベンチャー企業などに転職したり、フリーランスへ転向したりする事例も見られ、女性が活躍する姿が見られるようになりました。

2010年以降の、女性活躍推進の時代には、女性たちが企業からの期待を理解しつつ、シナジー効果を出しながらも、主体的にキャリアをコントロールしようとする傾向が見られます。女性が複数の専門性を持つことや、複業を行う、キャリアアップしながら次の職場に移る転職を目指すというケースが見られます。

働く人や企業に求められること

以上のように、均等法の成立とその後の歴史をふり返ると、日本では均等法の施行により、女性の社会進出が進み、法律改正によって就業継続のための環境整備が進んできたと言えるでしょう。ただし、海外と比較すると経済の分野での男女差はまだ大きく2019年のジェンダーギャップ指数(男女共同参画に関する国際的な指数)は、153か国中121位、先進国で最低という結果でした。男性に比べての賃金格差が残っており、管理職比率は伸び悩んでいます。また、厚生労働省の2019年の調査によると、労働者の非正規社員比率は、男性22.3%、女性56.4%と、女性の割合が高いことが特徴です。コロナ禍における雇い止めなどで生活に困窮する女性たちの存在は、社会問題となっています(日本政府は、2020年7月、「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」との目標を先送りし、「20年代の可能な限り早期」とする方針を示しました)。

また、均等法が性別にかかわらず、意欲、能力を十分に発揮できる社会を目指して作られたものであったことを考えると、女性保護の色合いや育児休業法等との関係で、女性の性別役割を増長した傾向が見られた点は課題と言えるでしょう。

企業においては、女性が働きやすい環境整備だけでなく、個人の意欲や能力、家庭との両立に関する要望を把握する必要があるでしょう。女性が退職検討理由は両立の困難より、仕事への不満という調査結果も出ています。

個人としては、従来の性別による役割期待にこだわらず、自分自身の在りたい姿に沿って、自律的に次のキャリアを選択していくことが求められるでしょう。

筆者プロフィール:島谷美奈子

Warisキャリアカウンセラー、Warisワークアゲイン エデュケーションプランナー。15年以上にわたり人材ビジネス業界にて人材活用支援に従事。キャリア支援では若手からシニア層まで延べ6000名以上のカウンセリング実績を持つ。現在は、女性のキャリア支援を行う株式会社Warisにてカウンセラーとしても活躍。また、再就職セミナー・キャリア開発セミナー講師、職場環境改善推進などに従事。NPO法人GEWEL理事。法政大学公共政策研究科サステイナビリティ学専攻修士課程在籍。国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、フリーランス&パラレルキャリア支援アドバイザー。

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