あの人のスマートワークが知りたい! - 第32回

梶原しげる氏に聞く~スマホは、デジタルの王様。これさえ使いこなせば何でもいけるんじゃないですか。


アナウンサーとしてテレビやラジオ、イベントの司会や講演で活躍し、雑誌やインターネット、書籍の執筆活動でも精力的な梶原しげるさん。最近は70歳を迎え、新たなビジネスを始めた。アナウンサーたちがオンラインツールを使い、話し方を教える内容だ。病気になった妻との生活や人生を見つめ直した著書「妻がますます好きになる」(光文社)も好評だ。梶原さんにITデジタルや家族との生活、今後のビジネスについて伺った。

文/吉田典史


梶原しげる (アナウンサー)
1950年生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身。早稲田大学法学部卒。元文化放送アナウンサー。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学し、心理学修士号を取得。認定カウンセラー、健康心理士、シニア産業カウンセラーの資格を持つ。日本語検定審議委員、日本語大賞審査委員を務める。著書「口のきき方」が、中学教科書採用される。「すべらない敬語」「即答するバカ」「英語、はじめました。」など50冊以上ある作品は他教科書、中高入試問題、学力調査などに取り上げられている。

ITデジタルを使いこなすならば生活に完全に取り込むことでしょうね

― Twitterを拝見すると、ITデジタルに熱心ですね。

梶原 iPhoneは、はじめて国内で発売された時に買ったんです。知人から勧められて。当初はわからないことだらけだったけど、おもしろかった。使いこなしたいな、と思いました。これが、ITデジタルとの出会い。それ以前はパソコンで原稿を書いたり、インターネットで検索したりするレベルでした。

Twitterも早い時期に始めましたよ。もう、10年程前になります。当時、例えば渋谷にいる時に「渋谷なう」なんて書きましたよね。私もよくつぶやきました。「新橋なう」「品川なう」……。デジカメで街の風景を撮ってアップする。だけど、反応が全然ない。フォロワーからも友人、知人からも。妻や子どもからも(苦笑)。期待していたんですけど。

Twitterを使ってビジネスをするなんて考えたことがない。あの時代に、ITデジタルを使いこなす人とそうでない人に分かれましたね。私は、後者に仕分けされてしまったんです。それでも、時代の変化にはついていきたかった。それでスタートしたのが、Ustream配信の「梶原放送局」。私と構成作家が司会で、ゲストである政治家やタレント、作家、ジャーナリストを私設スタジオに招いてテレビでは放送できないことを伺う。毎月1~2回のペースで5年程、放送していました。

― ITデジタルを使いこなす人とそうでない人の差がつく理由は、どのようなものがあると思われますか?

梶原 強い好奇心があるか否か、でしょう。私もITデジタルは好きですが、執着心がないんですよ。ITデジタルを使い、成功する人を観察しているとTwitterなどに執着できる人が多いように思います。

使いこなすならば、まずは生活に完全に取り込むことでしょうね。私は、スマホを愛用しています。重宝しているのが、カメラの機能。愛犬は頻繁に撮りますが、こっちを見てくれない。妻は「後ろ姿ばっかりで、つまんないじゃない」と言っています……(苦笑)。妻?私はあまり撮りませんね。「撮らないでよ」と嫌がるから。

夫妻の愛犬

次に多いのは、自転車。自転車を最寄り駅付近の駐車場に駐輪するのですが、帰ってくるとその場所がわからない時がある。同じような景色のところに何千台も似た自転車が同じ方向を向いているから見分けがつかない。見つけ出すのに相当に難航する。1時間くらい探すことも。見つからないで、歩いて帰ったこともあるんです。だから、駐輪したらスマホでその位置や番号を必ず撮ります。今は、迷わなくなりました。

駐輪場の自転車の位置を写真で確認

それから、打ち合わせの記録。ホワイトボードにいろいろと書くでしょう。その時はわかっているんですよ。しばらく経つと、忘れてしまう。だから、ホワイトボードを撮っておく。写真にはその時点でのことを喚起する力がありますよね。この時にはこんな議論したよなって、ちょっと結びつけてイメージができるじゃないですか。しかも拡大機能で大きくできる。老眼の私にはすごく役に立つ機能です。

近所の商店街で日用品店を営む友人が、スマホを入れる小さなバックを作ってくれたんですよ。気にいっていて、肩からいつもぶら下げています。いつ撮影するかわからないから、そばにあったほうがいいでしょう。スマホは、デジタルの王様。これさえ使いこなせば何でもいけるんじゃないですか、デジタルは…。パソコンよりも優秀ですよ。現代人にとって必須の心得だと思います。

妻がどんどん好きになる。すごくリスペクトしているんです

― 結婚生活が40年を超え、新たなステージを迎えているようですね。

梶原 10年程前から加速度的に特に昨年(2021年)夏頃から、妻のことがどんどん好きになるんです。切ないように響くんですよ。妻は、現在73歳。41年間連れ添ってきました。身体の歪みのせいで首から肩背骨の周辺、脚、足首の痛みに相当苦しんでいるはずですが、そういうそぶりを見せないようにしてペインクリニックやマッサージに加え、シニア向けジムで動かない体を一生懸命動かしています。しんぼう強く励むところは、妻ながら偉いなあと尊敬するほどです。

そんなところも含め、好きになってきたんです。妻がどんどん好きになる。すごくリスペクトしているんです。私よりも人間としてはるかに上ですよ。40年以上も連れ添っていると、相手への興味はなくなっていくものだと思うんです。私は、その逆。興味の対象。どんな時にも…。本当に惚れているんでしょうね。もしかすると、見たいところだけ見ているのかもしれませんがね。

私がテレビやラジオの番組に出演していても、彼女はほとんど見ていないようです。不思議な人なんですね。アナウンサーの私には関心がさほどないのかもしれません。私も仕事について、例えばあのタレントがこうだってことは話したことがない。妻はおそらく、あえて聞かないようにしていたのでしょう。実は、ミーハー(笑)。少年隊の東山さんのファンだったみたい。だけど、聞かないですね。芸能評論家のようになりかねないから、きっと避けていたのだろうと思います。

梶原夫妻

長女が中学生、長男が小学生の頃に妻が数か月間の入院をしました。子どもたちは健気に家庭を守ろうとするのです。2人で交代し、夕食などをつくってくれました。妻の見舞いの帰りにファミリーレストランに時々、連れて行ったんですよ。喜ぶかな、と思いまして。初めの3~4回は喜んでいるようでしたが、「こんなものが食べたいわけじゃない」と匂わせる。「パパなんかじゃ、おもしろくない。ママに戻って来て欲しい」ってあけすけに言われた。我が家では、妻の存在が大きかったんですね。

最近、妻が病気になり、あらためてその存在を認識したんです。ものすごく重要な人なんです。その思いを「妻がどんどん好きになる」(光文社)にまとめました。老いることが心配だ、不安だと思う方にはぜひ読んでいただきたい。妻? いえ、読んでいないようです。関心がないんでしょうかね(苦笑)。

― 最近、起業をされたようですね。

梶原 ええ、前々からアナウンサーの経験を生かし、話し言葉を何らかの形で教える機会は探していたのです。2020年からコロナウィルス感染拡大の影響もあり、オンラインツールを使う機会が増えてきました。それ以前にオンライン英会話レッスンの「ビズメイツ」を使い、学んでいたこともあり、関心がありました。70歳を迎えた頃にこんなツールを使い、起業をできないかなと思い、知り合いのアナウンサーを誘い、オンライン話し方教室【ツタバナ】を立ち上げました。

具体的には私が代表をする「株式会社シーゲルコミュニケイションズ」が主体となり、Zoomなどのオンラインツールを使い、20人ほどのベテランアナウンサーが話し方のレッスンをします。2つのコースがあるんです。1つは7回のベーシックコース、ご希望に応じて1人1人に合わせたカリキュラムを組み立てるオーダーメイドコース。すでに10代から70代の方までが学います。会社員の方が多いですね。

オンラインツールで話し方のレッスンをする

例えば、ビジネスのシーンで使う言葉遣いや表現の仕方などです。話し方を学ぶ場合、多くの話し方教室では「誤解なく、正しく伝える」ことに重きを置いているように思います。それも もちろん大切ですが、温かみや感じのよさを届けることも大事です。そのようなことも皆さんと学び合っていこうと思っています。ぜひ、お待ちしております。

筆者プロフィール:吉田 典史

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。