企業の競争力の基礎となる能力

コアコンピタンス」とは、「市場において企業を他社と差別化する、さまざまなリソースとスキルの集合」から生まれる「他社にはまねできない、企業の核となる力」を指し、企業の競争力の基礎となるものです。ひと言で言えば「企業の強み」とも言い換えられます。

コンピタンス(Competence)には「実力」「能力」「技量」といった意味があります。この単語は「一緒に(com-)進む(peto)」という言葉を含んでおり、「一致している」「能力に合っている」ことを表します。また「compete(競争する)」と同じ語源を持つ言葉です。企業が持つさまざまなコンピタンスの中でも、コア=中核(Core)となる能力が「コアコンピタンス=核となる能力、競争力」です。

コアコンピタンスは1990年、C・K・プラハラード(ミシガン大学教授)とゲイリー・ハメル(ロンドンビジネススクール教授)が「ハーバード・ビジネス・レビュー」(Vol.68)に共同で寄稿した論文『The Core Competence of the Corporation』で、経営理論の概念として紹介され、世の中に広まりました。当時は、欧米企業が進出する日本企業に押され、グローバルでの地位を失う大企業も少なくありませんでした。これら日本企業をはじめとする新興企業がいかに競争力を獲得したか、その戦略を説いた理論が「コアコンピタンス」だったのです。

プラハラードとハメルは、コアコンピタンスとは以下の3つの条件を満たすものと説明しています。

1. 多様な市場に参入可能であること
2. 最終製品の顧客メリットに大きく貢献すること
3. 競合他社がまねしにくいこと

コアコンピタンスにより世界市場を席巻した企業の実例

プラハラードとハメル両氏の論文には、いくつかのコアコンピタンスの実例が挙げられています。

冒頭でまず取り上げられているのは、NECが1980年代、半導体を重要なコアプロダクトと位置付けて成功した事例です。NECは1970年代、コンピュータと通信の融合である「C&C」と呼ばれる分野を開拓する戦略的推進の方針を定め、それに基づいてコアコンピタンスを特定し、育成していきました。その結果、1980年代後半には、電気通信や半導体、メインフレーム分野で世界のトップ5に入る企業として成長しました。

同じように1980年代にコアコンピタンスの構築・醸成によって成長を遂げた企業の例として、両氏はホンダのエンジン技術やソニーの小型化技術、シャープの液晶技術などを挙げています。また製造業に限らず、コアコンピタンスの力がサービス業にも影響を与えた例として、当時のシティコープが24時間体制で世界の市場に参加できるオペレーティングシステムに投資し、他の金融サービス機関との差別化を果たしたと指摘しています。

コアコンピタンスは一度きりの大きな変化ではなく、長期にわたる継続的な改善のプロセスを通じて開発されます。企業は自社のコアコンピタンスを理解し、活用することで、コアプロダクトの開発で他社に抜きん出ることができます。また、コアコンピタンスを利用して、顧客やステークホルダーの価値を向上させることも可能です。

プラハラードとハメルの両氏は、コアコンピタンスはコアプロダクトの開発につながり、それが、さらに多くのほかのプロダクトを世に送り出すために使えると説明します。

企業の競争力は短期的には個々の製品コストと品質によって評価されます。しかし長期的に見れば、競合他社よりも低コストでスピーディーにコアコンピタンスを構築し、そこから未知の製品を生み出すことが、競争力の源泉となるのです。

また、個々の事業の技術力や生産力が高くても、それ自体がコアコンピタンスとして機能するわけではありません。たとえば「ポスト・イット」で知られる3Mは、磁気テープや研磨剤など、さまざまな事業を立ち上げる中で基材、コーティング材、接着剤といったいくつかのコアコンピタンスに一貫して投資し、全社で共有し、活用していきました。真の競争力の源泉は、企業が持つ技術や生産能力を事業が変化する機会に素早く適応できるよう、全社的に結びつけて統合する、経営者の能力にあるのです。

コアコンピタンスは、企業における集合的な学習であり、特に、多様な生産技術を調整し、技術の流れを統合する能力です。また、組織の境界を越えて働くことへのコミットメントでもあります。コアコンピタンスを軸に組織化するには、事業部単位での最適化を単に合体させるのではない、企業組織の抜本的な変革が必要です。

コアコンピタンスとケイパビリティとの違い

コアコンピタンスと同じく「企業の強み」を指す言葉に、「ケイパビリティ」があります。ケイパビリティ(Capability)にも「才能」「能力」といった意味があります。

ケイパビリティを定義した論文『Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy』(1992年、ジョージ・ストーク・ジュニアほか)によれば、コアコンピタンスとケイパビリティの違いは以下のように説明されています。

・コアコンピタンス:バリューチェーン上において他社との差別化ができる特定の能力
・ケイパビリティ:バリューチェーン全体にまたがる組織的な能力

プラハラードとハメルが、ホンダのコアコンピタンスを「エンジン技術」と説明したのに対し、ストークらは、ホンダのケイパビリティとして「優れたディーラー管理力」「スピーディーな製品開発力」などを挙げています。

コアコンピタンスとケイパビリティは、どちらかを重視しなければならないということではなく、企業が持つ強みを核となる競争力と組織力のそれぞれの観点で捉えたものです。たとえば、コアコンピタンスを育むためには組織的な協力や変化に対応するスピードといったケイパビリティが不可欠といえます。逆にコアコンピタンスの理解と共有によって、組織的能力を向上させることも考えられるのです。

コアコンピタンスの見極めと競争優位を維持する方法

事業の集中や拡大を図る際、企業は自社の持つさまざまなコンピタンス(強み)の中から、コアコンピタンスを見極め、意識して、それを生かせる展開を進めなければなりません。プラハラードとハメルの両氏は、著書『コア・コンピタンス経営』(1995年、日本経済新聞出版刊)の中で、コアコンピタンスの評価にあたっては、以下の5つの要素を検討する必要があると述べています。

  1. 模倣可能性(Imitability):他社がまねできないか
  2. 移動可能性(Transferability):他分野に応用できるか
  3. 代替可能性(Substitutability):他の製品に置き換えにくいか
  4. 希少性(Scarcity):技術や特性に希少価値があるか
  5. 耐久性(Durability):長期的に競争優位を保てるか

企業がこれらの要素を見極めた上でコアコンピタンスを一度構築したとしても、市場環境や競争環境によって陳腐化する可能性は常にあります。他業界やスタートアップによるディスラプティブ(破壊的)な進出により、有効なテクノロジーや業界のルールが再定義され、代替可能性、希少性、耐久性などで優位が損なわれることも、ビジネスの世界ではよく見られる光景です。

プラハラードとハメルの論文で例に挙がった日本企業も、80年代のコアコンピタンスを強みとしたままでは、現在まで生き延びることはできず、生き残りをかけて新しい競争力の源泉を探し、再構築する必要に迫られました。企業は時代の要請に合わせて、継続的な投資や新しいコアコンピタンスの獲得、育成などを続ける必要があるのです。

著者プロフィール

ムコハタワカコ(むこはた わかこ)

書店員からIT系出版社営業、Webディレクターを経て、編集・ライティング業へ。ITスタートアップのプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。派手さはなくても鈍く光る、画期的なBtoBクラウドサービスが大好き。うつ病サバイバーとして、同じような経験を持つ起業家の話に注目している。