IT活用により業務プロセス全体を継続的に改善

BPM(ビジネスプロセス・マネジメント)」は、「Business Process Management」の略。企業や組織の業務プロセスを効率的に管理し、改善していくための方法論や技術の総称です。業務プロセスを一連の繰り返し可能な活動として捉え、それらを最適化することで、組織の全体的なパフォーマンスを向上させることを目指すマネジメント手法を指します。

BPM取り組みのポイントは次の3つです。

1. プロセス視点:個々の業務ではなく、全体的な業務の流れに焦点を当てる
2. 継続的改善:一度改善したら終わりではなく、定期的に見直しを行い、常に最適な状態を維持する
3. ITの活用:ITを活用することで、業務プロセスの分析、改善、最適化を効率的に行う

よく似た言葉に「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」があります。BPRが一度きりの劇的な業務プロセス改善を目指す手法であるのに対し、BPMは継続的な改善を目的としており、より長期的な視点で改善を目指す点が異なります。

PDCAサイクルの4ステップでプロセスを管理

BPMは大きく、プロセスの「設計・モデリング」「実行」「監視」「最適化」のステップに分けられます。BPMは業務プロセスのPDCAサイクル、すなわち計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを継続して回す取り組みであり、それぞれのステップがちょうどサイクルのP・D・C・Aに当たります。

プロセス設計では、既存の業務プロセスの分析・把握によって改善対象となるプロセスを明確にし、新しいプロセスを作成。モデリングで業務の流れ、タスクと役割分担、顧客とのやり取りなどを文書化・可視化します。国際標準(ISO 19510)である「BPMN(Business Prosess Model & Notation:ビジネスプロセスモデリング表記法)」と呼ぶプロセスの記述手法を用いることで、関係者間でのモデルの共有がスムーズになります。

プロセス実行においては設計されたプロセスに従い、実際の業務を遂行します。その業務のパフォーマンスを監視し、進捗状況を評価するのが次のステップです。最後に、監視を通じて得られたデータを分析し、プロセスを改善する最適化のステップがあります。このステップで無駄の排除、コストの削減、サービス品質の向上などを図ります。

BPMのモデリング・実行・管理を支援するツールや、業務プロセスを自動化するワークフローエンジン、プロセス分析のためのデータ分析ツールといったITツールの活用は、プロセスの効率的な改善に欠かせないものとなっています。

一方でBPMは、技術さえ導入すれば終わるものではなく、組織の文化や従業員の行動にも影響を及ぼす包括的なアプローチです。BPMの導入と実践には、組織全体のコミットメントと、プロセスの継続的な改善への意識が求められます。

BPM導入のメリット

BPMを導入することで、企業や組織には主に次のようなメリットがあります。

・効率性の向上
無駄な作業や非効率なプロセスを洗い出し、排除することで、コスト削減や時間短縮を実現。業務プロセスの標準化・自動化により、作業の精度と一貫性を向上させることができます。また、ボトルネックを特定し、改善することで、全体的な業務効率をアップすることが可能です。

・柔軟性の向上
新しい業務プロセスを迅速に導入、展開することが可能になり、変化する市場環境や顧客ニーズに迅速に対応できる体制を構築することができます。また組織全体の連携を強化し、柔軟な意思決定を可能にします。

・透明性の向上
業務プロセスの可視化により、全体像を把握しやすくなります。経営層が業務状況を把握しやすくなり、適切な意思決定が可能になるでしょう。また、関係者間のコミュニケーションが円滑になるというメリットもあります。

・品質の向上
業務プロセスの標準化・自動化による作業の精度・一貫性の向上は、製品・サービスの品質向上ももたらします。このことは顧客満足度の向上にもつながります。

BPM導入の課題を克服する方法

BPMは組織全体の競争力を向上させるのに有効です。導入には企業文化や技術的な側面でいくつかの課題もありますが、それを克服することで、さまざまなメリットを得ることができます。

課題の1つは経営層の理解やコミットメントが得られるかどうか。経営層がBPM導入のメリットや効果を理解した上で、導入プロジェクト推進体制を構築する必要があります。従業員全体の理解と協力も欠かせないため、現場社員に対しても導入の目的やメリットを丁寧に説明することも重要です。導入過程に現場社員を巻き込み、意見を取り入れることも大切です。

また、組織のニーズに合わないBPMツールを選んでしまうと、導入効果がうまく上がらないことがあります。自社の業務プロセスや予算などを考慮した上で、適切なツールを選ぶ必要があります。後述しますが、複数ツールの無料トライアルなどを活用して、比較検討することもお勧めです。

システム選定では、既存システムとの連携を考慮することも重要です。データの二重管理などが発生すると、プロセス改善がうまく進まなくなるケースもあります。必要に応じて、システム連携のための開発を行うことも検討すべきでしょう。

BPMを取り入れても運用がうまくいかず、効果が持続しないこともあります。それでは業務プロセスの改善を継続的に実施できません。継続的な改善活動のための体制を構築するとともに、現場社員に対して改善活動の重要性を理解してもらう必要があるでしょう。

BPMをうまく進めるためには、プロジェクトの推進体制を明確にし、導入計画を詳細に策定することが大切です。また関係者へのコミュニケーションを徹底することも必要です。BPMは中長期的な視点で実施すべき取り組みです。定期的にレビューを行い、改善を図るようにしましょう。

BPMツール選定のポイント

BPMツールを選ぶ際は、自社や組織の業務要件を明確にしておきましょう。どの業務プロセスを改善したいのか、どのような機能が必要なのか、予算はどのくらいなのかといった点を事前に把握しておきます。

ツールの機能には、業務プロセスを可視化するモデリング機能、プロセスの自動化や他システムとの連携などを行うワークフロー機能、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の設定やレポート作成、シミュレーションなどの分析機能、セキュリティ機能やユーザー管理機能といったものがあります。最近では、自動化などでAIを活用しているものも増えています。自社のBPMに必要な機能がそろっているかどうか、ツール選定の際に確認しておきましょう。

インターフェイスの分かりやすさや操作の容易さなど、現場のユーザーが使いやすいUI/UXかどうかも大切です。また、ベンダーが導入時や運用後にどのようなサポートに対応できるかも、選定を判断するにあたって重要な情報です。

BPMは、一度やれば終わりというものではなく、業務プロセスとともにある改善の取り組みです。したがって、将来的に業務プロセスが拡張した場合に、どの程度まで対応できるのかも考慮する必要があります。

多くのBPMツールは、期限や人数などに制限の付いた無料のトライアルプログラムを提供しています。自社に合いそうなツールを実際に試してみて、使い勝手や機能を確認し、導入を検討するとよいでしょう。

BPMはさまざまな業種で導入されていますが、同業種や同じような使い方が想定される企業での導入事例があれば、活用方法や導入効果を参考にするのもよいでしょう。例えば、製造業では生産工程の効率化によるコスト削減、金融業では業務プロセスの標準化や自動化による処理時間の短縮、サービス業では顧客対応の改善による顧客満足度の向上、自治体などの公共機関では手続きの簡素化による市民の利便性向上などが、成果としてウェブ上に紹介されています。

生成AI技術との組み合わせによるシナジーにも期待

BPMは、組織や企業の業務効率化と競争力強化を実現する手法として、今後ますます重要性を増していくと考えられます。

インドにあるグローバル市場調査企業・Fortune Business Insightsの調査によれば、2020年の世界のBPM市場規模は106.4億ドル(約1兆6000億円)で、2028年には261.8億ドル(約4兆円)に成長すると予測されています。従来のオンプレミス型から、導入・運用がしやすいクラウド型BPMツールへの移行が進んでいることも、活用が加速する要因となっています。

また、RPA(Robotic Process Automation:ソフトウェアロボットによる業務自動化)やAIなどのテクノロジーとの融合により、BPMツールの機能はさらに高度化するものと考えられます。

特にBPMと生成AIテクノロジーとの組み合わせで、大きなシナジーが生まれることが期待されます。例えばBPMで分析・設計された業務プロセスを、生成AIにより自動化することでさらに効率化することや、個々の顧客に合わせてパーソナライズしたサービスを、生成AIで生成したデータやコンテンツによって提供することで、顧客満足度の向上を図るといった展開が予測できます。

クラウド型BPMツールと、ソーシャルメディアや「Slack」「Teams」などのコラボレーションツールとを連携させることで、従来のBPMをより柔軟でオープンなものにする「ソーシャルBPM」というアプローチも、今後進化するものと思われます。セキュリティや情報管理において注意すべき点もありますが、ソーシャルBPMの利用は関係者間の情報共有やコミュニケーションの活性化、業務プロセスの透明性向上にもつながります。関係者が積極的に参加することで、プロジェクトに参加する全体のエンゲージメント向上も期待できるでしょう。

著者プロフィール

ムコハタワカコ(むこはた わかこ)

書店員からIT系出版社営業、Webディレクターを経て、編集・ライティング業へ。ITスタートアップのプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。派手さはなくても鈍く光る、画期的なBtoBクラウドサービスが大好き。うつ病サバイバーとして、同じような経験を持つ起業家の話に注目している。