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羽生善治三冠が描く将棋とビジネスのスマートワーク、次の一手とは?



あの人のスマートワークが知りたい! - 第6回

時代に即してすぐに変えていくという柔軟性が大事

稀代の天才棋士、とも評される羽生善治三冠。将棋盤の上で展開される勝負の世界は、ビジネスにも通じるものがあります。いま変化を迎えている私たちの働き方を、やはりインターネットや人工知能によって大きな転換点を迎える将棋界のトップランナーから、鋭く分析するお話しを伺いました。

文/まつもとあつし


将棋棋士
羽生善治三冠

1970年9月27日生まれ、埼玉県出身。1985年中学生でプロに昇格後、1996年には七冠独占を達成。十九世名人、永世王位、名誉王座、永世棋王、永世王将、永世棋聖の資格保持者。2016年12月31日現在、タイトル獲得数計97期は歴代1位。王位・王座・棋聖の三冠を保持する。

将棋とビジネスの世界は似ている

―― 将棋の世界だけでなく、幅広い分野に見識をお持ちの羽生さんに、今回はスマートワーク=新しい働き方について伺いたいと思います。

羽生 働き方という意味では、わたしの場合「通勤」とはずっと縁がない生活を送ってきました。将棋界の時間管理は基本的には個人の裁量に委ねられてはいますね。ただ重大な対局となれば話は別で、勝てばその先2ヵ月間ビッシリ予定で埋まり、負ければ丸々空いてしまうという。

―― そんな生活を送られる中、羽生さんはスマホやクラウドサービスはどのように活用されているのでしょうか?

羽生 普通にスマホを活用しています(笑)。対局の中継は空いた時間があったときに見ていますね。私はパソコン世代なので、ほとんどのことはパソコンで行っています。もう少し若い人たちはスマホのアプリで色々とやっているようですね。また、スケジュール管理も手帳ですし、クラウドサービスは使っていません。ちなみに対局通知の発送は、基本的には郵送ですが、希望すればメールでも可能で、だいたい半々です。とはいえ将棋界は、下は10代から上は70代以上まであらゆる年代で構成されているので、ITの活用方法は本当にさまざまですね。

―― なるほど、スポーツ選手と違って現役の時間も長いわけですね。会社もさまざまな世代で構成されていますので、そこは似ているかもしれません。

羽生 そうですね。例外はありますがだいたい20代でプロになり、60代で引退される方が多いので、似ていると思います。

―― 対局結果次第というお話しもありましたが、ビジネスの世界でも、例えば何か案件を獲得できれば、そこから数ヵ月?数年忙しくなるけれど、もし獲得できなければまた別の案件を求めて新たな取り組みを続けなければならない、といったことは起ります。広い意味で「勝負」や「挑戦」と同じ部分もありそうです。

羽生 そうでしょうね。仕事でも時間だけ費やしていれば良い、というものは減ってきていて、質をいかに高めるか、というものが増えて来ているのだと思います。

人工知能は仕事を奪うのか?

―― 羽生さんは以前から人工知能(AI)にも強い関心をお持ちです。

羽生 将棋界ではデータベースができたのが大きなインパクトがありました。データベースによって棋譜の参照がしやすくなり、ネットによって練習がしやすくなり、AIによって分析が飛躍的に進化したのです。したがって、これからはAIを用いた将棋ソフトを分析ツールとしていかにうまく使うかということが、棋士には問われるようになると思います。

―― 対局に臨む前に、指し手を分析してより効率的に、検討できるようになったということですね。ビジネスパーソンがAIをそのように使うことも可能になってくると思われますか?

羽生 もちろん分析ツールとして使うということもあるでしょう。あとは、仕事をしていく上で、何か新しいものを生み出さないといけない、という場面はたくさんあると思います。そういった際の、ヒントやきっかけみたいなものをAIが提供してくれるはずです。人間と全く視点・感覚・発想が異なるので、AIをそういった「気づき」を提供してくれる存在として活用するということになっていくでしょう。そこから抽出された何かをどう解釈し、新たなものを創造していくのは人間の役割であり続けると思いますが。

―― 代理店のクリエイティブ業務にAIを取り入れようという動きもありますね。

羽生 お医者さんに対してセカンドオピニオン的に、アドバイスを加えるといった取り組みも成果を挙げつつあるようです。

―― 仕事の時間や質という観点からは、AIはどんな影響を及ぼすとお考えですか?

羽生 将棋界ではここ2、3年AIが急速に発展して実用的になり、強くなってきているというのは確かです。ただ、これから大事になるのは、いかにそれを使って人間の能力を高めるかが問われています。

コンピューター将棋ソフトとプロ棋士が対局する電王戦は、今年で6年目。4月に佐藤天彦名人とPonanzaとの対局が行われる。写真は昨年の第1期電王戦。

―― 電王戦を主催するドワンゴの川上量生会長との対談でも、羽生さんはAIによって、これまで人間が思いつかなかった新しい指し手を生み出すという期待もあるとお話しされていました。

羽生 具体的には人間の美意識にとても影響を及ぼすと思っています。日常のなかでもAIによるなんらかの「判断」を目にする機会が増えるはずですので。そうなった時、私たちがどう向き合うべきなのか? というのはそうなってみないとわからない部分もあるのですが、例えば「接待ゴルフ」みたいなものは絶対なくなりません。最適化などはAIが得意なのでそういった仕事は置き換えられます。でも人間同士の関係性みたいなところは当たり前ですけど人間がやらないと。また、AIは自然言語処理はまだまだ苦手です。むしろ人間の役割としてそういったところをより充実させようという動きが出てくるはずです。

―― 言語をベースとしたコミュニケーションのような分野は置き換えられないけれども、定型的な仕事はAIによって置き換えられていく、ということ見方もできそうです。

羽生 置き換えられるというと、なんだか怖そうなイメージがあるかもしれませんが、棲み分けを模索することが起こるのでしょう。例えば先ほどの分析の話でも、将棋の世界であればそのほとんどがサイバー空間で完結してしまうのですが、実際の仕事では、現実空間の法律や常識、これまでの経緯も考慮していくことになり、そこは人間による「調整」が必要不可欠です。人間が思いつかない、突拍子もない案を採用する可否判断はやはり人間ですから。

こういう話って何もAIに始まったことではなく、産業革命などさまざまな変化に伴ってずっと繰り返されてきたことです。今回はちょっと規模感が異なるかもしれませんが。

―― AIによって将棋もビジネスも変化を迫られることは間違いないわけですが、そこでいまお話しにもあった常識やこれまでの経緯、すなわち伝統といったようなものをどう扱うべきかについてもお考えを聞かせてください。

羽生 ITやAIのような新しいものは絶対取り入れて行かねばなりません。伝統や風習によって、どうしても先入観が生じて新たな発想が生み出せなくなることはありますので、チェスに挑戦するなどほかの世界を知り、新しい「ものさし」を自分の中で持つことを心がけていますね。将棋界だと、昔なら怖い先輩から「こんなふざけた指し方があるか!」と怒られたりすることもあったのです。しかし、ネットは匿名ですから、自由に新たなアイデアが試せます。そこですごく技術は発展したという部分はありますね。

一方で、例えば江戸時代の将棋は家元制度となっており、華道や茶道と同じように世襲でした。わたしはそういった伝統も残しておいた方が良いと思っています。だから着物を着て正座で対局するとか、並べ方の流儀があるといった風習・習慣は良き伝統として、たとえテクノロジーが進んだとしても残した方が良いと考えます。むしろ、そういった部分にこそ、これから価値が出てくると思っているのです。新進・保守いずれも自律的に発展してくものですが、その両方を備えることがその分野の断続的な強さになるはずだからです。

インターネットで対局できる「将棋倶楽部24」。匿名なのでプロ棋士も対局しているという噂は絶えない。

―― ビジネスの分野でもグローバル化が議論されます。伝統とグローバル化とのせめぎ合いについてはいかがですか?

羽生 グローバル化も、ある条件を満たせば布教をしなくても勝手に広まっていきます。将棋もなぜこんな場所で? というところで指している人たちがいますからね。それを止めることはできない。ましてや、これからAIを搭載したソフトが進化すると、思いもよらないところから強い棋士が生まれてくるかもしれません。

一流棋士の「時間」と「決断」

―― 将棋と時間は切り離せないものですが、国が進めていく働き方改革でも時間は大きなテーマになっています。夏野剛さんはインタビューで「時間で働き方を測る」ことの限界も指摘されました。羽生さんは時間をどのように捉えていますか?

羽生 冒頭でお話ししたように、棋士としては時間に囚われた生活を送っていないので、ビジネスパーソンの実感というのは正直わかりません。ただ、時間と場所を決めて一緒に働くことのメリットというのは、おそらく心理的な部分であるのだろうなと思います。一方で、出社や退社の時間が同じような設定で、みんなが満員電車で移動しなければならないというのは不自然ですよね。ですから、テレワークのように分散して離れた場所で働くという方向性へスライドしていかないといけないのだろうな、と思います。

―― 普段は個々で活動される棋士の方々も、集まって棋譜の検討をされたりするそうですね。

羽生 それがとても重要な練習です。ひとりで分析をしていても限界があるので、何人かでやったほうがいいです。とはいえ、多ければ多いほど良いというものではなくて、10人以下、4人?8人くらいが適正と思います。その位の方がアイデアも出やすいし、分析も進みやすい体感があります。

―― テレワークの検討の際には、「会社から離れた場所で、ひとりで働くのは不安だ」という声も聞かれます。羽生さんはそういった不安とは無縁だと思いますが、不安を感じられることなどはあるのでしょうか?

羽生 ひとりで仕事する上での不安はありません。ただ、将棋の世界はどんどんアップデートされて新しい手が出てきます。そのあたりは、自分ひとりで考えているとおいて行かれることが多いので、共有することがすごく大事です。日々刻々と新しい手が生まれ、分析が加わり、それに対抗する手が編み出され……ということが繰り返されて、1ヵ月でガラリと変わりますので、そこにおいていかれる不安はあります。

柿木氏が開発した棋譜データベース管理ソフト。対局者、対局日、棋戦、戦型などのほか、局面での検索が可能。「Kifu for Windows」と組み合わせて使用する。公式の対局棋譜データは日本将棋連盟が管理しているが、データベースとしては公開されていない。

そしてこれはビジネスでも同じだと思うのですが、その変化を時系列できちんと押さえておくのが重要です。そこでちょっとでも隙間ができてしまうと、どうして今この状況が起っているのか、ということが理解できなくなってしまいますから。

―― 伝統的な印象のある将棋の世界も、ドッグイヤーとも言われるITと進化の速度は変わらないのですね。

羽生 同じですね。ネット上でみんな対局していますから。しかも将棋の手にはパテントがなく「みんなが真似してくれたら良い手」、逆に「見向きもされなければ悪い手」なんです。そこにはわかりやすい市場原理が働いていて、それはデータや分析を見ていけばすぐにわかります。公式戦で初めて使われた手には、指した棋士の名前がつけられることが多いですが、本当はネット対戦などの水面下で生まれ、事前に研究された手がほとんどです。そういう環境が、進化を加速させているとも言えるでしょうね。

将棋はビジネスや社会の先行指標だ

―― なるほど、それこそ莫大なデータをAIで分析するといった話と通じますね。ところで将棋は持ち時間に制限があり、序盤では長考できても終盤は時間が足りず十分な検討なく指すことを迫られることもあります。それはビジネスにも共通する時間との関係でもあるかなと。

羽生 ターニングポイント、勝負どころ、大事な局面をまずは見極めるということが大事だと思いますね。そして時間は有限なので、どの程度の大事な場面にどの程度の時間というリソースをつぎ込むかというところの判断がすごく難しいのです。それは対局のときでもそうですし、分析のときでもそうです。対面のときは「ここが勝負どころだから1時間考えよう、そうすれば考えはかなり深まるだろう。だけど、この先の長い道のりの中で1時間をここで使うことは難しい」という場面も結構あります。そこは少々読みの精度、あるいは確信が持てなくても、とりあえず手を進める時もあります。ここが大きな分岐なので、大部分の時間を使ってでも完全に正しい判断を見極めるまでやろう、というふうに決断することもあります。

そこは違う選択をしたときにどうなるかは結局のところわかりませんから、勘でやるしかありません。やってみて、良かったかは最後までわかりませんが、終わってから自分で総括していくしかないのかなと思いますね。

―― 最後は勘ですか?

羽生 勝負どころでは答えがでない、わからないから勝負どころなのですよ。わかるところは誰でもわかるので大事ではない。答えがない、わからない、物理的な時間がないという時にどうするか、ということなので、そのときは比較してみてどうしても決心がつかないときには感覚的な判断になるのかなとは思いますね。つまり、意外とそこで好き嫌いや、自分のスタイルにあっているか、ということで主観的・独断的に選んでいることが多いはずです(笑)。

―― AIと人間の異なる点で、そこも今後AIによって影響を受けるけれども、最後に判断するのは人間という話と通じますね。そして、羽生さんのその決断は、対局相手からすると、予想をしないものであったりすると。

羽生 そのあたりは難しいものがあって、間違ったけど上手く行くこともあります。悪手だけど、ダメな手だけど、結果的には上手く行くこともある。正しい、ベストな判断だったはずだけど、結果が伴わないということもあるので。そこに物事の機微があるのではないかと思いますね。将棋の場合、互いがミスをしたときは、あとからミスをした方が致命的になるので、そうすると前のミスは帳消しになるのです。逆にミスをしたことによって、相手のミスを誘発するということもありますし。

―― そうなると、先ほどの分析=事前の準備が鍵を握るということになりますか?

羽生 ベクトルを間違えない、ということは大事だと思います。例えばマイナス1点の手を選ぶのとマイナス100点の手を選ぶのでは同じミスでも全然意味が違いますので。その方向性を間違えないというのはあるかなと。

―― その手がマイナス1なのかマイナス100なのか、という判断がつくように事前に検討を重ねておくと。

羽生 やり方としては2つあると思います。なんとなく10手から20手先という未来のことを、なんとなくこうなるのではないかという青写真とか方向性とか、漠然としたものがあって、それに向かって行くにはどうしたら良いのか? という考え方と、逆に今までやってきたことと、いちばん辻褄があう、一貫性・整合性があり、自然なものはなにか、という具合に照らし合わせて考えるというものです。

―― 過去ベースか、未来ベースか、ということですね。

羽生 将棋の場合だと、基本的に序盤は「過去ベース」なのです。ゴールはまだ見えませんから。でも、終盤になってくると「未来ベース」で「この形で終わるだろう」と。この思考って将棋以外でもみなさんやっているはずです。ただ、一般の場合は将棋と異なり、公開されている情報がとても少ないと思います。将棋の場合は、相手の陣形も持ち駒も見えますから(笑)必ずしも当事者が2者とは限りませんし、全然知らないところから手が出てきて、パチッと指されたりするでしょ。

―― 確かに(笑)。僕たちは将棋よりもずっと難しいことをやっているのかもしれない。

羽生 当然そうです。ただ判断するときに、どれくらい情報が公開されているか、どれぐらい偶然性が入っているか、ということによって、考え方・やり方のアプローチは変わってくるということはあると思います。ボードゲームでいえば、バックギャモンはサイコロを振るので、その先の局面なんか考えません。膨大な数になってしまいますので。とりあえず目の前の正しい一手は何かというだけを考えて行くことになるわけです。

将棋の場合は、全部の情報が開示されている。だから10手先、15手先を見通せて、こういうふうになるのじゃないかと、それが見えていれば間違えることは少ない。対象となる物事にどれくらい偶然性が入っているか、というのは考え方の割り振りをするときのわかりやすいやり方にはなるかなと思いますね。

将棋は偶然性を排し、極限まで情報公開が行われている、究極的な市場原理で動いています。従って、直接的には現実世界のビジネスと大きく異なりますが、例えばAIがそこでどんな役割を果たすのか、どんな変化を私たちにもたらすのか、人間はそれをどう用いるのか、といった1つの先行指標にはなるのかなと思っています。

―― 我々が社会でこれから経験するであろう変化を、将棋は先取りし試してくれているとも言えそうですね。

羽生三冠にとっての「スマートワーク」

―― 先ほど1ヵ月で状況がガラリと変わると言った将棋の世界と、テレワークに象徴されるような働き方の変化にいま向き合う私たちは通じるものがありそうです。

羽生 それは変化するのが当たり前だという前提ではいます。そしてその変化のすべてはフォローできなくても、ざっくりとした「こういうやり方で行こう」という方向性だけは誤らないようにしようと思っています。

具体的には対局前、データベースに色々な条件で検索をかけていきます。あるスペシャリストに着目して「この人のデータはどうなっているだろう」と調べていったり、あるいはある局面に注目して「この局面に似たデータは」と調べていったりします。その作業を通じて自分なりの総括できそうなデータ・形に落とし込んで、そこから考えはじめますね。何千局、何万局を見ていっても仕方ないので、「検討には最低限これだけ必要」というデータまで落とし込んで、そこからですね。

人に注目する場合でも、別にそれは「段位」とは関係がないのです。「この形だったらこの人が詳しい」、「この人は新しい手を生みだしていく」というブランド的なものが棋譜の履歴を通じて将棋の世界ではありますので、それに基づいて追いかけていく感じですね。そして「こう変わって来た」という時系列を押さえていく。

―― ITの世界でいう検索キーをどう設定するか、というお話しで、そこは個人の経験に基づくセンスが問われる場面ですね。検索しながら事象を時系列で追い、自分なりのコンパクトなデータベースができあがっていく。それはすなわち、次の対局に臨む上での方向性=ベクトルを体現したものであると。

羽生 人を起点に時系列で棋譜を追っていくと、その人がどんな手を生みだしてきたか、ということと同時に、何をやらなくなったか、ということもわかります。やらなくなった、ということはそこには何らかの理由がある。その理由を探していく、といった感じですね。とはいえデータそのものの量が少ないといったケースもありますので、そこで完璧に方向性が見いだせるわけではないのですが。その場合、あとは自分で考えるしかありませんが、そこでまた先ほどの何人かで集まって、いろんな人と話をする、というのもデータベースと向き合うのと同じか、それ以上に大事なことです。そこにどれくらいの「鉱脈」があるか、たいしてなさそうな時は分析をそこで止めてしまうこともあります。これは誰かが対策を考えて解決するのが目に見えてしまうので。

―― 私たちが提唱する「スマートワーク」、あるいは国が推進する「働き方改革」も、様々な要素が絡み合って構成されています。テレワークは重要な一里塚だけれども、それさえ実現できればすべて完了というわけでもない、という点で、将棋の指し手と似ていると感じました。

羽生 学ぶ、とか進歩していく、という概念と同じグループに入ることだと思うのですが、例えば「働き方」、どういうふうに働くか、ということについて、分析したり考えたりすることが大事になってくる。つまり、学習や進歩をどういう方法で実現するか、という方法論のところは、意外といままでおざなりにされてきたところがあると思います。そこを突き詰めていくことが大事でしょうね。

あとは、いまは変化が早いので、フィックス(確定)しないということは基本的に大事だとも思います。つまり「こういう働き方でいきます」と言ったところで、5年、10年経てば実はそのやり方はもう現状に即さなくなっているということは普通にあり得ます。そこは試行錯誤しながら、変えられるときにはすぐに変えていくという柔軟性が大事なのかなと思いますね。

「スマートワーク」が将棋と異なるのは、自分ひとりだけが変わってもダメで、周りがそれに適応してくれないとどうにもならない、という点です。やっぱりお盆でまとまって休みを取る、ということになったりするじゃないですか(笑)。だから、大きな方向性、ベクトルを国などの公的な取り組み、あるいは大手がまず率先していく、といったことも重要になると思いますね。

―― 欧米ではテレワークはもはや当たり前の存在になりつつあり、局面がまさにどんどん変わっていくことを示しています。学び続け、変化し続けることの大切さを今回のお話しで改めて痛感しました。本日はお忙しい中ありがとうございました。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。

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