特集 働き方改革の基礎知識 2017 - 第2回

働き方改革は待ったなし! やらない企業は「滅びの道」です



夏野剛氏に聞く、「この先の日本で起こりうる事態」とは?

2017年、なぜ今このタイミングで働き方改革をしないといけないのか? 企業は、そして日本はこの先どうなってしまうのか? 国内有数の企業で取締役を務め、働き方改革に造詣の深い慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛さんにお話を伺うと、のっぴきならない理由が明確に返ってきた。このインタビューを読めば、働き方改革はすべての人、そしてすべてのことに関係する待ったなしの大問題であり、今すぐ行動に移さないといけないことがお分かりいただけるはずだ。

取材・文/成田全 撮影/篠原孝志


夏野剛
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授。
iモード、おサイフケータイの生みの親として知られる。カドカワ、ドワンゴ、ぴあなど多くの企業の取締役を兼務する。スマートワーク総研 好評連載「あの人のスマートワークが知りたい!」にもご登場いただいた。

「働き方改革」をやらないと「戦後すぐの不便な時代」へ逆戻り

―― なぜ2017年は「働き方改革」の推進が叫ばれているのでしょう。

夏野 これはもう明確で、日本の人口、特に労働人口が加速度的に減少する時期に入ったからです。2010年から人口カーブがマイナスに転じて、最初の5年間は緩やかだったのですが、今年は団塊の世代が70歳に達して仕事をリタイアすることが始まるので、労働人口がいきなり減り出すんです。今の日本の1歳あたりの人口はだいたい110万人くらいですが、団塊の世代は200万人以上いて、これから5年間くらい毎年それだけの労働人口が減っていきます。単純計算で1000万人、これは日本の労働人口の15%くらいに当たります。ただ、まだ働き続ける人もいるでしょうし、下の世代からは労働人口が補充されますから、この先の5年で実際に減るのは400万人くらいでしょう。

 労働力が少なくなると、もう時間ではカバーし切れなくなります。年間の労働時間の平均が2000時間とすると、月100時間の残業を毎月やっても3200時間、1.6倍にしかならない。時間で穴埋めしようとしても、追いつかないんですね。そういう時代に入るので、時間で働くという概念を根本から改めないといけない時期に来てしまったんです。本当ならIT革命が起こった2000年前後から時間で働くのはやめた方がいいとみんな思っていたんですが、目先にとらわれて、改革に手をつけずに2017年まで来てしまった。だから本当のところタイミング的には遅いくらいで、もう後がない状況なんです。

―― 働き方改革をしないと、この先日本はどうなっていくとお考えですか?

夏野 今まで受けていたサービスや仕事が提供できない国になってしまいます。先日、ヤマト運輸が今までやっていた時間帯指定の配達を見直すことになった件が一番明白ですね。そういった、今まで出来ていた便利なことがどんどんなくなっていきます。

4月13日にヤマトホールディングスが「働き方改革」の基本骨子を決定したと発表。その中にはサービスレベルの変更も盛り込まれている。

―― 多少の不便を我慢する社会になってしまう、と。

夏野 多少どころじゃないですよ! もしそうなると企業の収入は減ります。当然ですよね。今までやっていたサービスをやめるから売上は減る。利益も当然減ります。そうやって企業がマイナスの方向へ行くと、国全体のGDPもますます下がって税収が不足し、公共サービスのレベルが維持できなくなります。道路のメンテナンスとか、区役所が開いている時間とか、そういうことがどんどん劣化していくわけです。これは負のスパイラルで、もしここで働き方改革をしなければ、労働力が不足して満足なサービスが提供できなかった「戦後すぐの不便な時代」へ逆戻りしていきますよ。

働き方改革は「トップダウン」しかありえない!

―― 働き方改革を行えた企業と、行わなかった企業、将来的にどんな違いが出てくるでしょう。

夏野 やる企業だけが生き残り、やらない企業は売上も利益も減って、いずれは倒産します。業種は問いません。「生産性」という差が一気に出るので、やらない企業は太刀打ちできないと思いますね。そして、やらない企業は人が辞めるし、募集しても人が集まらなくなる。まだ出ていませんが、これから「人手不足倒産」がどんどん増えていきますよ。

―― 働き方改革を行う企業と行わない企業、決定的な違いはどこにあるのですか?

夏野 簡単です。経営者の「経営力」が違います。経営者が問題だと思っていないから変わらないんです。そんなの経営者失格ですよ。

―― では改革を行わない経営者に、社員から改革を促すことはできないのでしょうか?

夏野 できません。トップダウンしかありえません。ボトムアップはありえない。だって最大勢力は「中間管理職という一番仕事をしていない人たち」で、とにかく企業にしがみついていればなんとかなると思っている「時間で仕事をしている人たち」なんですから。だからトップダウンしかありえないんです。本当は時間でしか管理できないような管理職を全員クビにすると、効率が良くなるんですけどね(笑) まあ、改革をしない企業は滅んでいってもらえばいいんです。しかしこれは労働者側にも責任があるんですよ。

 ブラック企業というのは、基本的に日本以外では存在しないんです。そんなに働く条件が悪い企業なんて、ほかの国では誰も働かないですから。でも日本はなんとなく会社を辞めるのはよくないんじゃないか、辞めると怖い、生活に不安がある、寄らば大樹の陰、と考えがちです。でもそれって昭和の考え方なんですよ。昭和が終わってから、すでに29年も経ってるんですよ? にもかかわらず、いまだに昭和の考え方をしている労働者の方にも責任があると思うんです。

 特に労働組合は大いに考え方を変えるべきだと思いますね。労組は「会社が必ず生き残っていく」ということを前提に成り立っているんですが、会社が生き残れるかわからないのに、相変わらず時間単位の時短と全員ひと揃えのベースアップを要求している。終身雇用とか正規雇用っていうのを前提に物事を考えていると、効率は全然良くならないんですよ。労働者側も考え直さないと、社会改革としての働き方改革はできないと思います。

―― では働き方改革を行わない会社にいる人は、どうしたらいいのでしょう。転職ですか?

夏野 もう是非是非! どんどん転職活動したらいい。会社を辞めることはものすごく発展的だということを、社会として認識していくことが必要だと思いますね。ひとつの会社に何十年も勤める人がいても、もちろんいいのですが、全員が終身雇用で勤めているという方がおかしいんです。それは戦後の高度成長期という、人手が足りなくて、なおかつ誰が何をやっても成績が伸びていく、売上が伸びていく世界で作られた仕組みなんですから。それがもう機能しなくなって、それこそ30年経っているわけです。でも、いまだにその仕組みを頑なに守っているということが問題なんです。

 新入社員の3人に1人が3年以内に辞めるという数字がありますけど、僕は極めて正しい行為だと思いますよ。20歳前後でたまたま入った会社が、自分の一生に合っている確率は極めて低い。昔の人は「石の上にも三年」と言いましたが、今は3年も我慢しながら働き続けたら腐ってしまう。これを「辛抱がない」とか言っている大人の考え方が、もうすでに古い。20世紀の考え方ですよ。

新規大学卒者の就職率と3年以内の離職率(出典:2016年10月25日発表の厚生労働省「新規学卒者の離職状況(平成25年3月卒業者の状況)」より)

 転職のほかに、自分で起業するのも選択肢として考えたほうがいい。ブラック企業で働いて、新橋の居酒屋で「ウチの会社、ブラックでさ」なんて文句を言ってるのは時間の無駄。だったら起業して、元いた会社でやっていた仕事を自分で請け負えばいいんですよ。

 それから僕は、昔から兼業禁止規定の廃止を謳っていて、最近ようやく届け出をすれば兼業を認める会社が増えてきました。今は失業率が3.2%で、完全失業率に近い。経済学上でいう「完全雇用」の状態で、失業者がほとんどいないんです。有効求人倍率も高いですし。そうなると、もはや一人一役では社会が回らないんです。ですから一人二役にすればいい。ただひとつの企業での総労働時間は政府が規制しているので、もっと働きたい人は違う職を持てるようにするべきなんです。それが兼業です。兼業がダメという会社でも、とりあえず申請を出してみたらいいんですよ。他社もやっているし、会社には迷惑をかけないと言ったら、OKが出る場合もあると思いますよ。

いかに現場にテクノロジーを導入するかが鍵

―― 夏野さんが関わっている会社で、働き方改革によって変化した具体例を教えてください。

夏野 上場企業の場合、今は非常にコンプライアンス的に残業時間について厳しいので、ある会社ではモニタリングをして、残業が月間100時間を超えていた従業員が何十人もいた状態から、ゼロにしました。しかも売上は減らず、利益も減らなかった。なぜか? それは管理職も含め、マネジメント側が仕事を選ぶようにして、効率の悪い仕事は早めに諦める決断をしたからなんです。これまでやってきた、利益がほとんど出ない仕事をなくしたら、総労働時間は減ったのに売上も利益も変わらなかった、むしろ伸びたっていう会社があるくらいですよ。

 そこですごく鍵になるのが、いかに現場にテクノロジーを入れて効率を上げるかということ。率先してテクノロジーを導入していく企業が生き残る可能性が高くなるんです。様子見しながら導入する企業や、食わず嫌いな企業は、どんどん淘汰されていくことになります。ただ、導入するものは会社や業態によって変わってくるので、とにかくあらゆるテクノロジーを検討してください。

―― それは在宅勤務のような働き方のことでしょうか?

夏野 在宅勤務といったような勤務形態にこだわる必要はありません。4時間働いたら、昔の8時間分の仕事ができればそれでいいわけです。

 例えば先進的な電子決裁システムを入れても、中間決裁者がたくさんいたら意味がない。時間がかかりますからね。そこでAIを導入して記載漏れなどを自動判定できるようになれば、中間決裁者がいらなくなる。何か説明すると難癖つけてくる相手が減ります(笑) となると、最終決裁者一人で済むことになるんです。そして中間にいた人たちを全員現場へ回す。すると、これまでしわ寄せが行っていた若い世代の負担が減る。それによって今までの5倍、いや10倍スピードアップしますよ。極端な話、やり方を変えるだけで、パフォーマンスは変わらないけど労働時間が減るってことになるんです。

 導入したテクノロジーに合わせて、仕組みや役職の数などを調整していくことで実現が可能です。まずは組織と制度の改革をやるべきです。社長、副社長、専務、常務、取締役、執行役員、部長、担当部長……って何十段階もあるのは、完全に昭和の仕組み。そういうのを3、4段階、大きな会社でもせいぜい7段階くらいにしていかないとダメです。そして給料はパフォーマンスによって変える。もうポストなんかいらないですよ!

―― そして効率化によって空いた時間は、もっと働きたい人は兼業してさらに働けばいいし、家族と過ごしたいという人たちは余暇に充てればいいということですね。

夏野 そうです。自分の自由になる時間ですから。

ブラック企業が反社会的勢力と同じ存在になる可能性も

―― 大企業などは働き方改革が進んでいるようですが、中小企業は取り組みが遅れているように見受けられます。

夏野 この先、中小企業も間違いなく変わりますね。変わらないと、人が逃げていきます。しかもブラックのままやっていこうとする企業に、誰も人が来なくなります。そのため倒産してしまいます。いや、した方がいいでしょ。ブラック企業なんですから。実は、倒産がない世界は理想じゃないんです。ある一定の淘汰が起こらないと、社会は進化しないんですよ。

 東芝が今回こんなことになって、傘下にあった半導体の会社が単独の会社になりますよね。でもこれは悲しいことじゃなくて、むしろ素晴らしいことなんです。だって、時価総額2兆円もあって、ひとつの会社として成り立つくらいの規模があるんですから。

 今後、ブラック企業は反社会的勢力と同じようにとらえられる可能性は極めて高いと思いますよ。今回の働き方改革は、行政が並々ならぬ姿勢で臨んでいますから。でも効率ということを考えると、経済界が先に動くべきなんですよ。それをやってこなかった民側に、官主導で「あまり働くな」と言っているのが現状なんです。本当、珍しい国ですよね。

―― 反社会的勢力と同じようにとらえられる、ということは取引停止なども起こりうるわけですね。

夏野 これから先、取引先がブラック企業であったときのリスクがどんどん問題になっていきますよ。下請けに仕事を投げることで、自社の残業時間の短縮を達成しているのではないか、と疑われることになりかねませんからね。法的に問題はなくても、コンプライアンスで引っかかってきます。早晩、取引先が「ブラック企業か否か?」ということを気にしなければならない社会になっていくでしょう。そうなってくると、中小企業も他人事とは思っていられなくなりますからね。

 そこで中小企業の場合は「長時間労働」と「賃金の未払い」が問題になります。まず中小企業としての課題は、未払いをなくしていくことが一番でしょう。その後に長時間労働そのものを解決していくことになる。未払いに関しては完全に違法行為ですから、まずはこっちから手を付けたほうがいいと思います。

―― そのためには働き方改革を断行して仕事の効率を上げ、売上と利益を上げないといけない。それができない企業は淘汰されてしまうんですね。

夏野 本当にね、日本では本格的な新陳代謝が起こりますよ。これだけの環境変化があるのにもかかわらず、これまでなんとか騙し騙し昔の仕組みでやってきた。でもここへきて、昔の仕組みが到底持たなくなって、政府が主導して変えようとしているわけです。それでも変えないという企業は倒産してもらって、新陳代謝が起こらないと世の中が良くならないし、社会も良くならない。この先、どこかの時点で救済策を取らなくなる瞬間が来るでしょうけど、そのギリギリまで行かないと働き方改革をやらないんですか、ということが問われているんです。これは、極めて真っ当ですよ。僕は全然過激には言ってないですから。

 泥舟に乗っている方は、泥舟と一緒に沈んじゃいけない。働き方改革は経営者側だけの問題じゃなくて、労働者側も厳しい目で、どの会社がどうやっているのかを見た上で、どこで働くかを決める時代が来たんです。働き方改革はもう待ったなし! やらない企業は「滅びの道」ですよ。

公開中! 〈第3回〉
タイムリミットはあと2年! 「今」働き方改革が必要な理由

なぜ今働き方改革が叫ばれるようになったのか。2014年9月より安倍内閣「産業競争力会議」民間議員を務めるなど“働き方改革の立役者”であるワーク・ライフバランス社の小室淑恵氏と、同社で働き方改革コンサルティングを担当する村上健太氏に、その理由と企業への影響について詳しく語っていただいた。

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筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。