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2018/09/05

あの人のスマートワークが知りたい! - 第17回

働き方改革の遙か先を行く「WAA」とは――ユニリーバ・ジャパン島田由香さんに聞く(前編)



「2つの質問」をできる人たちが改革を推し進めていく

生活に欠かせない日用品・食品のブランドを展開するユニリーバ・ジャパン。現在この会社は「働き方改革」の観点からも注目が集まっています。今回は、働く場所や時間を社員が自由に選べるという、思い切った人事制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を推進する同社取締役 人事総務本部長の島田由香さんにお話を伺いました。

文/まつもとあつし


島田 由香(しまだ・ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長。1996年慶應義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。中学一年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPトレーナー。

「何のために生きているのか?」を突き詰めた

―― フレックス勤務・裁量労働制や、テレワークの導入は進んでいますが、ユニリーバ・ジャパンさんが推進する「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」はさらにその先を行く自由度がありますね。導入から2年が経つWAAですが、取材や問い合わせが絶えないとか。

島田 2016年7月にスタートしたWAAは、働く場所・時間を社員が自由に選べる新しい働き方です。上司に申請すれば、理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)でも勤務ができる、というものです。工場や営業の一部を除き、全社員がこの制度を利用でき、期間や日数の制限もありません。

「なぜWAAが生まれたのか?」と聞かれれば、まず私自身が自由な働き方を望んでいたというのが理由の第一になります。そして、ユニリーバ・ジャパンのリーダーがそれに賛同してくれたというのが大きかったのです。時期的にも「働き方改革」の必要性が叫ばれていたというのも追い風になりました。同じタイミングで残業時間を月45時間以下にするという目標も定めています。導入から2年になりますが、話を聞きたいという声を未だに多くいただいているのはうれしいですね。

―― 逆に言えば、何らかの柔軟な勤務制度を導入したけれどあまり成果が上がってない、あるいは2年が経ってもまだ制度を変えることができない会社が多いことの裏返しかもしれません。

島田 WAAも制度を導入すれば終わり、というものではありませんでした。私は変革を起こすには5つの要素〈1. ビジョン/2. トップのコミットメント/3. Growth Mindset+Risk Taking(成長に向かうマインドセット+そのために必要なリスクを取ること)/4. テクノロジー/5. 役割や責任範囲の明確化〉が不可欠だと考えています。

 そのなかでまず何よりも欠かせないのが「ビジョン」です。ビジョンが共有されないままWAAのような制度を導入しても上手くいきません。『ビジョンは我が社にもあるけれど?』と思われる方がいるかもしれませんが、残念ながら日本の会社が掲げているのはビジョンではなく、単なる「手段」であることが、往々にしてあるのです。

 ビジョンとはVisionですからVisible(視覚化可能)なものでなければなりません。それこそ、実現したい世界の姿を皆がイメージできるように描く必要があります。ビジョンを読んだときに、皆がワクワクできるような、そんなものでなければならないのです。

WAAの活用例。ライフスタイルに合わせてさまざまな働き方が可能(ユニリーバ・ジャパン公式サイトより)。

「これは何のため?」「それってホント?」
この2つを質問できる人が改革には欠かせない

 ユニリーバのビジョンは「環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させる」こと。このビジョンからユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)という戦略が生まれ、ブランド戦略や製品開発はもちろん、人材育成や働き方のなかにも組み込まれています。

 さらにユニリーバ・ジャパンでは、「新しい働き方のビジョン」として、「よりいきいきと働き、健康で、それぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る」ことを掲げました。そして、そのビジョンに近づくための「1つの手段」として、WAAを導入しました。WAAが活用され、定着した大きな要因は、目指す姿=ビジョンを明確にし、社員と共有し、共感を得られたことにあると感じています。

 働き方改革実現に向けての取り組みでよく目にするのが、大きな目的を実現するためのなんらかの手段があったときに、それを実現すること自体が目的にすり替わってしまうことです。そうなってしまうと、どんどん本来の大きな目的(=ビジョンの達成)から遠ざかってしまいます。例えば、働き方改革の目的は「長時間労働を減らすこと」ではないはずです。長時間労働の削減とは「働き方改革」によって目指したい世界に近づくための手段の1つに過ぎません。でも、いまそれが目的化してしまっていて、ちょっとおかしな議論になっているように感じます。

 ビジョンが「手段」にすり替わっていると袋小路に陥ります。国は「働き方改革」という言葉や意識を定着させた点は私は評価されるべきだと思いますが、それが目指すビジョンを提示するという点ではまだまだと感じています。でも仮に、国がそれを示せないのであれば、企業が自分たちで創り出せばよいと思います。

 私は「働き方改革は生き方を決めること」だと考えています。よく「Work-Life-Balance」というコンセプトが語られますが、WorkとLifeをあたかも対立的なもののように捉えて、そのバランスをとろうというのはちょっとヘンだと思うんです。どんな人生を選ぶのか、その人生の大切の一部である仕事として何を選び、どう働くのかを考えていくこと、つまり「Work in Life」が大切だと思います。そして、「2つの質問をできる人が増えること」が改革を進めるためには欠かせないと考えています。

 1つは、「これは何のためにやっているんだっけ?」という質問です。手段ばかりを議論しているところに、この質問ができる人が加わると、議論のステージが1つレベルアップします。「そもそも何のために長時間労働を減らそうとしているのか?」というところに立ち返る、ということですね。私自身は長時間労働は絶対にいけないことだ、とは考えていないんです。フロー状態に入って、もの凄く集中して仕事が進んでいるときに、「はい、今日はノー残業デーなので帰りましょう!」と言われちゃうほうが辛いですよね。『せっかくいますごく良いアイデアが浮かんでいたのに……』という具合に(笑) 「一人一人が健康でいきいきと働いている」「全ての人がどんなライフステージでも楽しく仕事をして、豊かな人生を生きている」というビジョンに立ち返れば、長時間労働の削減以外にもWAAのように色んな手段が見えてくるはずなのです。

 もう1つは、「それってホント?」という質問です。常識を疑えるかどうか、ですね。これもかけ声としては異論のある人は少ないはずです。でも、いざ会議の場で「稟議を通さないと」という発言が出てきたときに、「え? ホントに必要なの? 稟議って絶対に通さないといけないものなんですか?」と質問できるかどうか。「ルールだから」と反論されても「そのルールは何のためにあるんですか?」と質問していくと、実はそのルール自体がすでに必要ではないことに気付かされたりするものです。

 この常識を疑うところからもWAAは生まれています。私自身が通勤の際、満員電車に乗るのがイヤでイヤで仕方がなかったんです。それで、「本当にこれって必要なの? こんな意味のない苦労をするのって馬鹿じゃないの!?」って(笑) 朝から膨大なエネルギーを使って、心も身体も疲れてオフィスにたどり着いたところで、「さあ、生産性を上げて仕事しよう!」って……できるわけありませんよね? 皆さん『仕方がない』と思っているかもしれません。でも世の中に「仕方がない」ことなんて1つもないんです。

新しい働き方のビジョン(ユニリーバ・ジャパンより)。

弱みを隠さず強みを出していく
オーセンティック・リーダーシップのすすめ

―― たしかに通勤ラッシュは「当たり前を疑う」よい契機となりますね。先ほど挙げていただいた5つの要素のなかでは、「役割や責任の明確化」も重要だと思いました。日本では曖昧なまま「皆で頑張ろう」となりがちですから。

島田 マネジメントの観点から言えば、スタッフが近くに居ないと管理できないというのも思い込みですよね。満員電車に乗って9時に会社に来なければならない、という「当たり前」も実は思い込みにすぎないように。

 さらに言えば、マネジメントとは管理すること「ではない」と、私は考えているんです。いずれマネジメントという言葉すらなくなると思っているくらいです。マネージャーではなく「ファシリテーター」になっていくのだと。

 つまり、一人一人の強み・可能性――つまり「その人の良いところ」を引き出すことが、いわゆる「マネージャー」の本来の役割なんです。「仕事が進まないかもしれない」「ルールが守られないかもしれない」と心配して、チームをがんじがらめにして管理していては、パフォーマンスが上がりません。

 私はいつも「心配じゃなくて信頼しよう」と呼びかけています。まず信頼をする。「この人はこの仕事に強みを持っているのだから、信頼して任せよう」と。チームを信頼して任せる、チームが最大のパフォーマンスを発揮出来るよう環境を整える、これがマネージャーに課せられた仕事だと思うんです。逆に言えばユニリーバ・ジャパンでWAAを導入した際にも、マネージャーたちのその力量の差がハッキリと現れました。信頼して任せたチームのほうが、明らかに生産性・エンゲージメントが高かったのです。

 WAAの導入をためらう人のなかには「会社にぜんぜん人が来なくなってしまったらどうしよう」とか「見えないところでサボるんじゃないか」という人もいます。でも、やってみないとわからないことに対して、まさに心配が先に立っているわけです。それって時間とエネルギーのムダです。信頼が先にあり、結果で評価することを徹底すれば杞憂に終わるはずなんですよ。

―― 最近では「サーバント・リーダーシップ」という言葉も聞かれるようになりましたね。あたかも部下に「仕える」かのようなスタイルですが。

島田 そうですね。ただ、リーダーシップのスタイルって「これが正解」という1つの答えはないと思うんです。ただあえて、何か名前を付けるとすれば「オーセンティック・リーダーシップ」という言葉になるでしょう。「オーセンティック」とは「ありのまま」という意味ですが、自分らしいということですね。

 つまり、自分らしいリーダーシップを発揮すればよい、ということです。役職に就くと、『リーダーになったからには○○でなければならない』と思い込んでしまう人が多いのです。「間違ってはいけない」「わからないことがあってはいけない」「恐れたりひるんだりしてはいけない」とかですね。でもリーダーがそんな緊張状態にあると、チームも緊張して萎縮してしまい、本来のパフォーマンスが発揮できなくなります。

 オーセンティック・リーダーシップは、リーダーが自分の弱さ、脆さをオープンにしながら自分の強みを出していくという考え方です。自分の強みは存分に発揮しながら、自分の弱いところ、苦手なところは「私はこれはできない!」と宣言してしまう。でも、それって、チームにそれを得意とする人がいるはずなんです。頼られたらうれしいですよね。そうやってチームは強くなっていく。

『ティール組織』がベストセラーになっていますが、これからのチーム・組織はリーダーが頂点で君臨するようなピラミッド構造ではなくなっていくはずです。役職がついたから「偉い」のではなく、その分「責任」を負うというだけの話なんです。でも「偉い」というまやかしにハマると、モノが言えなくなったり、何が何でも従わなくてはならない、という思い込みに支配されてしまいます。

 このように、私たちの周りには陥りやすい「思考の罠」がたくさん存在しているのです。WAA自体はとてもシンプルでわかりやすい制度です。私はどんな会社でも導入できると考えていますし、実際、地方にもその輪を拡げようという活動を続けています。

 ただ、まだまだ普及の拡がりは十分ではありません。いまお話したような「思い込み」が邪魔をしているのではないかと思います。

役割や責任の明確化は
互いを理解することから始めよう

―― コアタイムの設定があるフレックス制や、実際には裁量権がないのに導入されてしまっている現場も多い裁量労働制などに比べても、WAAは導入や管理・運用、考え方の面でむしろ非常にシンプルです。マインドセットの問題ということですね。

島田 そうです。しかしマインドセットも「どこから整えるのか?」について正解はありません。人と違うことをするのは誰でも怖い。特に日本では除け者にされてしまうのではないかという心配がつきまといます。これが一番のブレーキになっているのではと思います。

 その観点からも、「役割や責任の明確化」が重要になってきます。「なぜ他人と違うことをしてるんだ?」という問いに、「役割と責任を果たすためだ」と答えることができるようになるからです。逆にこの部分が曖昧だと、他人と違うことをする際、常に恐怖がつきまとってしまいます。

 この役割・責任の明確化も、単に紙に書かれたジョブ・ディスクリプションを渡せばよい、というものではありません。私は、そんな紙を作ることさえムダだと思っています。それよりも、ひざをつきあわせてじっくりと互いが納得するまで話をすることが重要です。「あなたにはこういうことを期待している」「今期売上をこれくらい上げるために、こういう部分に注力しなければならない」「自分はこういうことを実現したいと思っている」こんな対話を通じて、互いにやりたいことを確認し、それらをどのように達成するかを確認していくわけです。この作業を通じて、役割や責任の範囲が、「互いの理解と共感の上で」明確になるのです。

 この対話は、いわゆる「マネージャー」から働きかけなければなりません。しかし、そのマネージャーも、組織のさらに上位から働きかけがなければ動けないですよね。まず全社的なビジョンが、各チームの達成すべき目標に分解されて、それぞれのリーダーに適切に伝えられなければならないのです。つまるところは、組織の上位、トップのコミットメントがなければ組織は変わりません。したがって、WAAの導入も結局はトップがその価値や意味を理解し、本気で組織に対してマインドセットの変化を求め続けることができるかにかかっています。

本当の自分を押し殺して
昼間の大半を過ごすのは人生のムダ

―― 先ほどの5つの要件の最初に「トップのコミットメント」があり、その次にマインドセットが挙げられているのは、そういうことですね。

島田 先ほどリーダーシップの話のなかで、「オーセンティック・リーダーシップ=ありのままのリーダーシップ」を紹介しましたが、社員一人一人のあり方についても同じ事がいえます。ユニリーバ・ジャパンでは、ダイバーシティを促進させる要素の1つとしてbeing(自分らしさ)を掲げています。社長だとしても不安を表面に出して構わない。大事な事は自分らしくある、つまり自分に嘘をつかないということです。

 そして、そんなトップが組織のリーダーとして「コミットメント」する。それは、組織の一メンバーが決めるよりも、浸透の速度や影響度はやはり大きなものがあります。それは逆に言えば、たとえ一社員であっても組織を変えることは絶対にできるということでもあります。ただ、かかる時間や労力・エネルギーは非常に大きなものになるはずです。周囲のサポートがしっかりとしていなければ、「変わろう・変えよう」という心の火が消えてしまうこともあるかもしれません。でもトップがコミットすれば、あっという間に組織全体に拡がります。

 その浸透の速度については日本の強みと言えるかもしれません。他の国ではなかなか見られません。ユニリーバ・ジャパンで様々な国や地域の社員を集めてグループワークを行っても、日本人がチームにいるととても綺麗に意見がまとまります。時間配分や役割やゴールを決めて、「和」を持ってファシリテーションをするのがとても上手い。私は日本人であることは素晴らしいことだと思っていますが、それがいまはネガティブな側面、つまり「言われたことだけをやる」「意見を言うのははばかられる」といった面ばかりが目につくのが残念ではあります。日本の教育のマイナス面とも言えるかもしれません。

 そうやって会社では自分のやりたいことや本音を言わず、仮面を被っているのが日常になってしまっているだとすれば、それはとてももったいないことです。人生をムダにしてしまっていると言い切って良いと思います。なぜなら、本当の自分を押し殺しつつ、1日の多くを占める仕事の時間をやり過ごしていることになるからです。

 だから、「仕事は自己表現をする上での大事な要素だ」という視点で仕事のあり方や進め方を見ていくことが大切なんです。

筆者プロフィール:まつもとあつし

スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。

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