スマ研・ニュース解説 Vol.4


スマートワーク関連の気になるニュースをピックアップし深掘りする「スマ研・ニュース解説」の第4回。今回は「さくらインターネットのデータセンターBCP」を中心に、「中小企業庁の生産性向上などの支援教育『ビジログ』」「グローバル5か国休暇意識調査」をピックアップしました。

文/狐塚淳


【NewsPickUp-1】

さくらインターネット石狩データセンター、地震による電源喪失も停電復旧まで事業を継続

さくらインターネットの石狩データセンターは、2018年9月6日3時7分に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震による全道停電で電源を喪失したが、非常用発電機の使用で、60時間に渡り事業を継続。収納しているサーバーやネットワーク関連機器を停止させることなく、停電復旧までの危機を乗り越えた(復旧までの様子は同社サポートページで時系列で詳しく紹介されていたが、現在は新しいサポート情報にリプレースされ、削除されている ※2018年11月15日 編集部 注記追加)。

【解説】

 BCP(事業継続計画)は、多くのデータセンターが企業利用を勧めるためのキーワードのひとつだ。企業の社屋が大規模災害で被災しても、サーバーをデータセンターに預けていれば、事業の継続も可能だし、万が一システムが停止しても早期の復旧が可能だ。しかし、そのデータセンター自体が被災した場合どうなるのだろう? 

 2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震による全道停電によって、さくらインターネットの石狩データセンターは電源を喪失したが、停電からの復旧までほとんどのサービスを停止させることなく運用を継続した。ASCII.jpでは「約60時間を非常用電源設備で乗り切った石狩データセンターの奇跡」(http://ascii.jp/elem/000/001/738/1738515/)と題し、この連続稼働を称賛している。

 データセンターの電力消失に対する対策は、UPS(無停電電源装置)と非常用発電機の組み合わせが一般的だ。通常の給電が途切れた瞬間、短時間の電力供給が可能なUPSが給電を肩代わりし、その間に非常用発電機を起動して継続的な電力供給が可能になる。この非常用発電機を使用している間に、通常の電力供給が復旧してくれれば、データセンターは元の運用に戻ることができる。

 さくらインターネットも加入する日本データセンター協会(http://www.jdcc.or.jp/)では、以前から災害時用の対策ガイドライン(データセンターファシリティスタンダード)を策定していたが、東日本大震災後にその基準を見直しており、非常用発電機の燃料備蓄は48時間を推奨している。丸2日は補給がなくても発電が続けられるだけの燃料が備蓄されているわけだ。また、燃料補給についても複数の燃料供給会社と災害時優先供給契約を結ぶことを推奨している。

 しかし、話はそれほど簡単ではない。通常、非常用発電機は年に二回程度、数時間の試験運転が行われる。メーカーでは当然長時間の運転テストは行われているが現場では長時間運転は未経験で、不安もあったろう。また、燃料補給についても災害時優先供給契約の中での優先順位も発生するだろう。たとえば病院の発電機はプライオリティーが高いはずだ。給油が決定するまで、各方面にデータセンターの社会インフラとしての重要性を訴えて優先順位の改善を図ったはずだ。

 この間の緊迫した様子はさくらインターネットサイトの当時のサポートページの記述から読み取れる(現在は新しいメンテナンス情報に置き換わり削除されている)。時系列で見ると、まず6日の地震による特別高圧送電の停止後、一部のUPSがうまく働かず(後に非常用発電設備がうまく起動できなかったと修正を報告し謝罪している)専用サーバーの一部がサービス停止したが、4時間半程度で自家発電設備への切り替えが終了し復旧している。その後7日0時過ぎに北海道電力から必要な電力量の50%程度の電力供給が再開されたことで、備蓄による運転が48時間を超えて可能になった。

 それに続く記述では「また、非常用発電設備の燃料につきましても国および経済産業省のご支援をいただきながら確保を進めております」とあり、電力供給の完全復旧が長引く場合でも、サービスを停止させないための交渉を行っていたことがうかがえる。以降の情報更新は変化がない場合にも3時間ごとに行うことを宣言し(その後、変化が少ないことから6時間ごとに変更になる)、給油ができない場合にも月曜(10日)夕方まで稼働可能との見込みを告知している。

 停電後3日目の8日11時15分にはある程度の燃料が確保でき、給油により13日(木)午前中までの稼働が可能になったことを報告している。そして、北海道電力からの給電が回復し復電作業後の14時05分に非常用発電装置を停止したことを報告している。

 ここからわかるのは、BCP対策にとって重要なのは、災害時を想定した準備とともに、被災時の現場での柔軟な対応、そして情報の円滑な公開だということだ。サポートページでの一定時間ごとの情報公開で、さくらインターネットのユーザーは安心もできただろうし、最悪の状況に対する事前の準備や心構えも可能だった。

 企業にとって、物理的なBCP対策以上に、繰り返される「商用電源の供給状況に変化はありません、状況が変わり次第掲載いたします。また、状況に変化がない場合は6時間に1度更新を行います」という定期的なメッセージが生む信頼感は重要だ。これにより、BCPのための作業を継続してアウトソーシングできていることになるからだ。今回の地震で、さくらインターネットは自社の信頼を高めただけでなく、データセンター事業者全体の物理的な、そして人的な信頼性を証明したと言えるだろう。

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