今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー 第29回

SDGs経営で、中小企業でも危機は乗り越えられる


『儲かるSDGs 危機を乗り越えるための経営戦略』
三科公孝 著/クロスメディア・パブリッシング

儲けと貢献は両立できるのか。SDGsに取り組むことで中小零細企業でも集客・売上アップを実現できる。多くの企業や自治体・公的組織にコンサルティングを行い、収益改善や組織改善を実現してきた著者が、その豊富な実績を元にSDGsを生かす方法を解説する。

文/土屋勝


中小企業こそがSDGsを意識すべし

このところ「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉をしばしば目にする。書店にはSDGsコーナーが設けられ、多くのSDGs本が並んでいる。新聞を開けば見開きでSDGs特集を組んでいるのも珍しくないし、筆者が勤務している大学でも、大型ディスプレイに「本学におけるSDGsの取り組み」といったスライドが上映される。

だが、中小企業のサイトでSDGsがアピールされていたり、経営者仲間の集まりでSDGsが話題になることはまずない。SDGsというのは、自治体や儲かっている大企業がやることで、中小零細企業には関係ないこと、という意識は筆者も持っていた。

本書は「儲けと社会貢献は対立しない」「中小企業こそがSDGsを意識すべき」「儲けながら同時に社会貢献もしちゃう、気軽に社会貢献に参加する感覚が大切」という。さらに「SDGsで儲けるチャンスはまだまだ広がる」と、SDGsを儲けのために使うことがあってもいいと述べる。企業にとっては利益を出すことがもっとも大切であり、利益を削って社会貢献だSDGsだと唱えても続かない。だが、SDGsや社会貢献が利益と共存する、あるいは利益をもたらすのであれば、経営者も関心を持つだろう。

ブランディングの時代のSDGs経営

SDGsは、2015年9月の第70回国連総会において『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』として全193加盟国の賛同によって採択された。その中身は「1 貧困をなくそう」「2 飢餓をゼロに」から「17 パートナーシップで目標を達成しよう」まで17の目標と、その下にある「1.1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。」「2.1 2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。」といった169のターゲットで構成されている。

本書では「どんな小さな貢献であっても、民間の企業や組織がSDGsに参加するだけで大きな前進」であり、169のターゲットから1つに的を絞り、ニッチトップを目指せという。よくあるのが小さな自治体がすべての目標に取り組むことを掲げ、結局確実な成果が出せずに終わってしまうパターン。自治体はもちろん、中小企業も確実に達成できるターゲットを目標に一点突破を目指すべきだという。総花的取り組みはトップの掛け声だけに終わってしまいがちで、感動も成果も生まない。

そして商品・サービスを売り込むマーケティングの時代は終わり、これからは商品・サービス、そして企業を好きになってもらうブランディングの時代だという。モノ売りからコト売りへの転換。SDGsに取り組んでいる企業であることを発信し、口コミの連鎖を実現することが大事だ。自分たちの武器を「これ」と定め、磨き、アピールすることが必要不可欠。自分たちの“武器”をもっとも楽しんでくれるのは誰だろうかを考え、アピールするターゲットを明確にしてブランディングを行えば、道は開けてくる。

お客様の持つ不安・不満・不足・不快といった「不」はどの時代、どの地域、どんな業種にも存在しており、それを解消することが大事で、また視線が外に向かうきっかけになる。お金のための仕事や仕事のための仕事ではなく、不安・不満・不足・不快を感じているお客様が最初に目に入るようになり、お客様からのフィードバックを受け入れるようになる。改善を重ねて「不」を解消すれば、お客様から「ありがとう」の言葉が返ってくる。「ありがとう」は経営者にとっても従業員にとっても最高の「やる気」スイッチとなり、モチベーションを高める。企業や組織全体のモチベーションを高め、持続可能性を高めるために「儲け」と「貢献」を両立させ、日々お客様から「ありがとう」をもらえるサイクルを作るSDGs経営が非常に重要になる。

経営努力がSDGsに合致するかを考えよう

まず近くから、小さなところから始めること。SDGs17の目標から深掘りし、細かく刻んで考え、自分たちにもできる、自分たちがすべき「不」の解消法が課題として可視化され、成功につながる。

本書では、スーパーマーケット、印刷会社、農業、林業、障がい者就労支援事業所、駅ビル、自治体の観光協会や美術館などの事例が取り上げられている。どうしても農業・林業といった一次産業や自治体・公的組織が中心になってしまうのだろうか。一次産業にとっては気候変動は自らのよって立つ基盤をひっくり返し、存続の危機に直結するだけに他人事ではない。筆者の本業であるIT関連、システム開発の例があればもっと良かったのだが。IT企業はどういった分野でSDGsに取り組めばいいのだろうか。どうやら「5 ジェンダー平等を実現しよう」「8 働きがいも経済成長も」「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「11 住み続けられるまちづくりを」あたりにヒントがあるようだ。

例えば、女性に限らず従業員の産休・育休に積極的に取り組み、キャリアパスや報酬に影響が出ない制度を作ることは「ジェンダー平等を実現しよう」の一つだし、在宅勤務・テレワーク環境を整えることは「住み続けられるまちづくりを」の一つでもある。何気ない経営努力であってもSDGsに合致しているかどうかを考え、それを実現し、アピールすることで儲けが出て、従業員もラッキーになれるのであれば、素晴らしいことだろう。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『幸せな会社の作り方 SDGs時代のウェルビーイング経営の教科書』(本田幸大 著/扶桑社)

従業員の幸せを考えて経営すれば、業績は上がり、離職率は下がる。気候変動や災害、コロナ禍により、物質的な豊かさが「幸せ」だという価値観は崩壊しつつある。プラットフォームを活用して中小ベンチャー企業などの成長支援サービスを行う株式会社Enjinを経営する著者は、幸せとは、個人が経済面、健康面、人間関係面のすべてにおいて満たされた“ウェルビーイング"(幸福)の状態であること。そして社会性を持ち、他者と共存していることだと定義する。経済成長は行き詰まりを見せ、今までのセオリーが通用しない時代を迎えた今、「幸せ」とは何かをもう一度考え直し、「幸せ」を軸にした生活、経営こそが必要になる。(Amazon内容紹介より)

『60分でわかる! SDGs超入門』(バウンド 著/技術評論社)

ビジネスにおけるSDGs入門の決定版! 今年いちばんのビジネスキーワード・SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。国連が策定した17の目標(ゴール)と169のターゲットで構成されています。本書は「いまさら聞けないSDGsの基本」から始まり、SDGsに取り組む企業のインセンティブと意義についてサプライチェーン&バリューチェーンの視点からわかりやすく解説。「投資を呼び込む」「ビジネスチャンスを拡大する」「企業の知名度を向上させる」「採用に強くなる」など、ビジネスとSDGsを両立させている事例も合わせて紹介します。企業が取り組むべき課題と目標がひと目でわかる<バリューチェーン・マップ>付き。(Amazon内容紹介より)

『SDGsが生み出す未来のビジネス』(水野雅弘、原裕 著/インプレス)

SDGsに取り組みたい、でも何からやればいいの? そう感じている人のために、本書では身近なところにあるSDGs×ビジネスの事例を多く集め、事例をもとに専門用語を使わずにやさしく解説。ビジネスパーソンが取り組みやすいように、マーケティングの4PとSDGsの5P(People、Planet、Peace、Prosperity、Partnership)を掛け合わせた独自フレームワークを用いているのも特徴の1つ。SDGsをどう事業に取り入れればよいか、具体的なアイデアが湧きやすい構成になっています。(Amazon内容紹介より)

『SDGs思考 2030年のその先へ 17の目標を超えて目指す世界』(田瀬和夫 著、SDGパートナーズ/インプレス)

本書は、経営にSDGsを組み込もうと考えている、すべてのビジネスパーソンに役立つ考え方やヒントを盛り込んだ戦略書です。気候変動やパンデミックなど、地球の課題に対する認識が改めて問われている今、本書では「SDGsに通底する世界観の理解」「ビジネス実装に役立つ思考法」「主要テーマの潮流をつかむ」の3つの側面から、ビジネスにSDGsを実装するためのヒントを提示します。SDGsが目指す世界がどのようなものか、またその世界へ向かってどのような企業活動を起こしていくべきなのか、「2030年のその先」へ向かうための、たくさんの気づきやヒントを得られるはずです。(Amazon内容紹介より)

『ESGはやわかり』(小平龍四郎 著/日本経済新聞出版)

メディアには日々、「ESG(環境・社会・企業統治)」があふれています。この言葉を抜きには企業経営や財務戦略、株式投資は語れなくなっていますが、成り立ちや意味するところがきちんと理解されているとは言えません。ESGによって企業の情報開示や経営戦略、投資家の顔ぶれなど、資本市場のエコシステム(生態系)ががらりと変わることになるのです。この数年でESGをめぐる環境は激変していますが、本書は投資家、ビジネスパーソン目線で、最新事情を踏まえて、バランス良くそのインパクトを解説します。

筆者プロフィール:土屋勝(ツチヤマサル)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。