あの人のスマートワークが知りたい! - 第4回

“シンプルで自由なツール”がスマートワークへの第一歩

エバーノート株式会社 井上健氏/吉田一貫氏

文/まつもとあつし


生産性を向上したいなら、臆せず“いかに楽をするか”を考えよう

Evernote日本・アジア太平洋地域 ジェネラル・マネジャーの井上健氏。

―― まず、井上さんのお仕事環境について教えてください。

井上 Evernoteで全ての仕事を完結――しているわけではもちろんありません(笑) 色々なクラウドサービスをDropboxや人事管理のWorkday、サポートのZendeskなど、おそらく30〜40種類以上は使っていると思います。クラウド化、そしてAPI公開のトレンドの中で、ベストオブリード(良いものを組み合わせる)が容易になりましたね。

 Evernoteも、これまでの“サードパーティにAPIを利用してもらう”という取り組みに加え、“GoogleAppsやOutlook、salesforce、LinkedInなどとの連携”が可能になりました。

―― Evernoteは最近、組織での利用を想定した「Evernote Business」の展開にも力を入れていますね。

井上 スタート当初は個人向け、プライベートな情報管理という側面が強かったEvernoteですが、仕事・チームで利用されることが増えていきました。そこで、会社でのより高度なコラボレーションやアクセス管理ができる仮想的なワークスペースを設けたのがEvernote Businessです。もちろん私たちも毎日活用していて、今ではなくてはならない存在ですね。

 Evernote Businessの大きな特徴として、社内に共有されたノートブックには誰でも参加することができます。他のメンバーが情報を更新すれば通知されますし、そのノートブック単体でも、社内に共有されたノートブックすべてに対しても検索が行えるので素早く情報にアクセスできます。

―― 井上さんは現在、Evernoteの日本での事業展開を統括されていますが、その立場からスマートワークをどのように捉えていますか?

井上 最近、日本でもフレキシブルな働き方を取り入れる企業が増えていますが、このエバーノート社でもひと言連絡すれば“Work From Home(在宅勤務)”が可能になっています。このところ台風が多いので『明日の出勤どうしよう……?』といったストレスからも解放されますね。社外の方とのミーティングはともかく、社内との連絡はSkypeやGoogleハングアウト、Slackなどでいかようにも対応できるわけですから。そもそも本社がアメリカにありますので、時差を考えるとそちらに合わせた方法をとった方がよいという面もあります。スマートワークはむしろ私たちにとって必然なんです。

 こういったスマートワークが可能になったのも、スマホやタブレットの普及がここまで進んだからこそで、この10年ほどを振り返るとその変化のスピードには驚かされますね。いまでは通勤はもちろんのこと、短期の出張でもPCを持ち歩くことがなくなりました。ちょっとしたミーティングであれば、PowerPointを使わなくてもEvernoteのノートでプレゼンができてしまいますから。

―― Evernoteは“ノートを取る”というシンプルな機能が入り口になっていて、それが物事をシンプル・合理的に進めていこうというところと相性が良いのかもしれませんね。

井上 そうですね。あと他のクラウドサービスと異なり、Evernoteはフォーマットに縛られず自由に記入できるのも利点の1つです。私たちはちょっとした稟議などもこれで済ませてしまいます。多くの書類は印刷してハンコを押すためにフォーマットがあるわけですが、デジタルで完結する前提に立てば、そういった形式は必要ないことがほとんどなんです。フォーマットは創意工夫とは相反するものですからね(笑)

―― なるほど。Evernoteで情報共有を図り、プレゼンまでこなす。そういったところからスマートワークの第一歩を踏み出す、ということもできそうです。

井上 先ほどお話ししたEvernote Businessのノートブックを活用すれば、わざわざ『皆さんはどんな工夫をしていますか?』と聞いて回る必要もありません。他の人のノートを見て、そこから学び、真似ればいい。

 よく日本のホワイトカラーは生産性が低いという指摘がされますよね。わたしもセミナーなどではそういったデータを示してお話することもあるのですが、実際、現場ではいくら「生産性を上げよう」とかけ声を上げても響かないことが多いんです。『だって、いまでも目一杯やっているし……』というのが本音ではないでしょうか?

 アメリカ人と仕事していて感じるのは、彼らが合理的に物事を進めようとする背景には、“いかに楽をするか”という思いがあるということです。生産性向上といった“カッコ良いが重たいスローガン”ではなくて、いかに楽をしてなおかつ求められる成果を生み、早く家に帰るか? そこにフォーカスしているということですね。

 わたしは元銀行員なので、かつては生産性を上げるために貢献していたかもしれない“フォーマット”が、いま逆に作用してしまっているケースをイヤというほど見てきました。ですからアメリカ人の合理性、ベストプラクティスを重視する姿勢には非常に共感しています。わたしにとってのスマートワークとは“楽をしてそれでいてキチンと成果を出す働き方”なんです。

Evernoteで削減できる“3つのコスト”

Evernote Businessのマーケティング統括を務める吉田一貫氏。

―― なるほど、“楽して”というと日本人的感覚からすれば『それで良いのかな?』と感じてしまいますが、きちんと成果を上げるというのはまさにスマートワークですね。……では続いて、マーケティングを統括されている吉田さんにも伺います。井上さんのお話にも登場した、“Evernoteを使って社内で情報共有する”といった具体的な仕事の進め方の例を教えて下さい。

吉田 タスクごとにノートブックを作り、その中のノートを更新していくというスタイルを取っています。そうすると、例えば“最近更新されたノート一覧”を見れば、直近の仕事の動き、最新情報がわかる、というわけです。

 もちろんEvernoteはタスク管理や営業支援ツールに特化されたサービスではありませんが、先ほど井上が話した自由度の高さを活かして、かなりのことまでがこなせるようになっています。

 私のチームも全国でセミナーを行っていますが、Evernote上でタスク管理をしていますし、メンバーとの簡単な意見交換も済ませていますね。

Evernoteの強みは自由な使い勝手。吉田氏はタスク管理など様々な作業をEvernote上でこなしている。

 また、他のアプリやサービスで作ったクラウド上のデータはどうしても散在しがちなのですが、Evernoteにそれらのデータへのリンクを記しておくようにしています。そうすることで、たとえデータが大きなものであってもEvernoteのノートブックにアクセスすれば、メンバーの誰もが確実に参照ができるのです。

 生産性という観点からは3つのコストをEvernoteは削減できると考えています。1つめはいまお話したような情報を探し回るコスト。2つめは教育コストです。世界2億人以上が使うEvernoteは誰でも使えるツールなのです。3つめは情報共有コスト。報告会となりがちな会議も、Evernoteでリアルタイムに情報共有することで、課題の解決にフォーカスできます。

他サービスとの連携も大きな特徴だ。この画像では、取引先に関する雑多な情報を集約する場として機能している。やはりここでもフォーマットに気を使わず自由に扱えるEvernoteの強みが活きている。

―― Evernoteは最近、クライアントアプリの仕様変更やGoogleクラウドへのサーバー移行など大きな動きが続いています。スマートワークのためのツールとしてのEvernoteはこれからどこに向かうのでしょうか?

吉田 Evernoteが生まれてから約8年が経ち、お客様のワークスタイルも大きく変化しました。その変化に対応し、ユーザーの利便性を追求しつつ、私たちのビジネスの収益性も確保していくために、精査・整理を進めている、という段階です。引き続き、ローカルにデータがあることで高度な検索、編集が可能となるPC向けクライアントアプリがあることがEvernoteの強みである一方、モバイル、ブラウザでも同様の作業がストレスなくできるということ、また開発効率を高め、機能を素早く実装していくことを追求していきます。

 これまでEvernoteは、“Remember everything(全てのものを記録する)”というスローガンを掲げてきましたが、これからはアイデアを実現したり、より良いアウトプットを生み出していくためのプラットフォームとして進化していきます。私自身Evernoteで子どもの成長記録をつけるなど“人生をより豊かにするツール”として使っています。Evernoteのこれからの展開にご期待いただければと思います。