Web3とは何か

Web3は2014年、暗号資産「イーサリアム」の共同設立者であるギャビン・ウッドによって提唱された。

著者の岡嶋氏はプロローグでいきなり「あらかじめ書いておくと、本書の目的はWeb3を礼賛することではない。いまのWeb3の取り上げられ方を見て、『えっ、大丈夫かな』という動機で書いている」と宣言している。

まずWeb3を「『巨大IT企業(ビッグテック)の支配から個人が解放されたインフラ』で、『要素技術としてブロックチェーン、なかでもNFTあたりを重視する』くらいが最大公約数的な説明だろう。2021年後半あたりからのメタバースのハイプ(誇大広告)がすごいので、要素技術のところにメタバースを加える人もいる」と定義している。

メタバースハイプは、2021年にマーク・ザッカーバーグが、Facebook社の社名をMetaと改名し、メタバース開発を事業の中核に据え、年間100億ドル(約1.4兆円)を投資すると宣言して始まった。それから1年余りが過ぎ、Metaは深刻な業績低迷に見舞われ、従業員1万1,000人を解雇する事態に見舞われている。他のビッグテック、Alphabet(Google)、Amazon、Microsoftなども軒並み業績低迷・株価下落でリストラを余儀なくされている。

こうなると「Web2.0を牽引してきたGAFAMなどビッグテックの力は確実に衰えつつあり、NFT、ブロックチェーン、メタバースで武装した個人が力を持つWeb3の時代が到来する」という見方も現実味を帯びるように思えるが、それも楽観的過ぎるという。

ブロックチェーンは使いにくい技術

NFT、暗号資産の基本技術として使われている「ブロックチェーン」は、すべての取引履歴をチェーンとして持ち、参加するノード(個々の機器)が分散所有することで改ざんをほぼ不可能としている。

だが、地球上のすべての商取引が暗号資産で賄える訳はない。どこかでドルや円などのリアルな通貨とやりとりしないと実用にはならない。一般ユーザーは自分で暗号資産と法定通貨との交換はできないので、取引所に依頼することになる。ブロックチェーンが安全であっても、実社会との接点である取引所は安全の環の外にあり、事故は起こる。実際、取引所から暗号資産が流出した事件は相次いでいるし、昨年末には世界第2位の大手取引所「FTX」が経営破綻し、創業者が逮捕された。

もう一つ、ブロックチェーンのメリットとして「永続性」が言われるが、これも疑わしいという。ブロックチェーンはセンターがなく、参加しているノードが最終的に1台でも残れば動き続けることは確かだ。

しかし、参加ノードが数十、数百となってしまえば容易に取引履歴を改ざんできる。そんなブロックチェーンを誰が信用し、使うだろうか。ノードを維持し、拡大するためには参加者にメリットがなければならない。ビットコインはブロックチェーンの検証を最初に達成したノードに新たなビットコインを与えることで、膨大な消費電力を上回るインセンティブを与えている。2番手のイーサリアムはスマートコントラクト(自動契約)とそれに基づくNFTへの参加、手数料収入などがインセンティブとなる。

小さなブロックチェーンは信頼性がないし、インセンティブが与えられないので利用者は増えず、消滅していく。

著者は「私はブロックチェーンを使いにくいシステムだと考えている。先に述べたような理由から、みんながみんなを疑わなければならないような環境(紛争地帯で政府や金融機関がまったく信用できなかったり、人権侵害でIDを発行してもらえる見込みがないなど)では絶大な威力を発揮するポテンシャルがある。いっぽうで、紛争地帯での行政手続きやID発行をすべてブロックチェーンにすればいいかと言えば、安定的なチェーンの運営には魅力的なインセンティブが欠かせないが、インセンティブ設計がしにくい業務がほとんどだ。それを国連などが下支えするアイデアがあるが、であればブロックチェーン以外の技術で構築したシステムを国連が動かすのと大差ない」という。

NFTは作品のコピーを防げない

Web3のキラーコンテンツとしてNFT(非代替性トークン)が唱えられている。NFTについては先月の当コーナー(https://swri.jp/article/1187)で『これからのNFT』を紹介したので、詳しくはそちらを参照して欲しいが、簡単に言うと写真や画像、音楽、動画、テキストなどデジタルデータにブロックチェーンで唯一性証明を付与する仕組みだ。

そもそも情報というのは実体である「モノ」と違って複製が容易に行えるという特性を持っている。特にデジタルデータだとオリジナルとコピーに差がなく、いくらコピーを繰り返しても品質が劣化しない。

芸術作品や投機対象となるものは唯一性が求められる。同じ複製がたくさんあったら価値が下がってしまうからだ。これまでデジタルデータは唯一性が実現できなかった。コピー制限をするコピーガード技術もあるが、割と簡単に突破されてしまう。DVDやBlu-rayのコピーガードもとっくに解析されている。

ところがNFTを使えば「デジタルデータなのに一品もの」、そのデジタルデータがオリジナルであることを証明できる。2021年3月にはデジタルアーティストBeepleのNFTアート「Everydays - TheFirst5000Days」はオークションで約75億円で落札され話題になった。

NFTはデジタル作品そのものをブロックチェーンで保護するわけではない。画像や映像などデジタル作品をブロックチェーンに組み込むのはデータが大きすぎて不可能だ。NFTはそのデジタル作品の名前やパラメータなどNFTの特徴や性質を示したメタデータと、所有者と識別IDを示したインデックスデータを保証するだけであり、コンテンツデータはコピー可能である。

著者はNFTについて「クリエイターは唯一性の確保ではなく(NFTでも確保できていない。同じデータを他の人も手元に置ける。あるチェーンの中で『この人が本物を持っていることにする』と約束しただけである)、共有からマネタイズすることも考えた方がいいし、唯一性に活路を見いだすのでも、その裏書きを『NFTでしかできない』と考えることから離れたほうがいい。デジタルデータは唯一の存在になるのが苦手だ。構造的にできない」、とばっさり斬っている。

メタバースはWeb3とは遠い存在

もう一つ、Web3のキーワードとしてメタバースが出てくる。メタバース内で使われるアバターなどオリジナル作品がNFTで保護され、暗号資産で売り買いされるというお話のようだ。だが、それと非中央集権型ネットワークを目指すWeb3とは関係がない。

メタにしてもマイクロソフトにしても、億人単位でメタバースのユーザーを囲い込もうとし、そのために数兆円をつぎ込んでいる。著者は「メタバースに必要な計算資源、ネットワーク資源、プラットフォーム、コンテンツ、どれをとっても大資本が有利にできている。そして、大資本の力を侮るべきでもない。草の根運動で作ったメタバースが、快適なユーザー体験において大資本のそれを上回ることはないだろう。メタバースの主要プレイヤーはごく一握りのビッグテックである」という。完全にWeb3とは逆の方向性だ。メタバースでも、私たちはビッグテックの手のひらの上で踊るだけになってしまう。

権力はGAFAMから、他の何かに移動するだけ

Web3の提唱者であるギャビン・ウッドは「信頼に代わる真実を」と主張している。だが、それは理想論であってすべての人が信頼よりも真実を求めることは不可能だという。人は基本的に怠惰であり、他人を信頼し、誰かに頼ろうとする。インターネットの大海で途方にくれてしまったからGoogleに頼った。誰かと繋がろうとするからFacebookに頼った。

著者は最後に「Web3と名のつくシステムは広がるかもしれない。しかし、権限と資源は結局利用者の手を離れることになるだろう。それが利用者の選択だからだ。だから本質的な状況は変わらず、権力が集中する主体が移動するだけだと考える。それが、巻頭のギャビン・ウッドのエピグラムに対する、私の回答である」と締めくくっている。権力はビッグテックGAFAMから、他の何かに移動するだけだというのだ。

本書はインターネットやHTML、ブロックチェーンなどについて用語もざっと解説してから本題に入っていくので、あまり技術的な知識がない人でもすんなり読むことができるだろう。さらに、まだ確定的ではないものに対して、浮かれるような肯定感ばかりではなく、ある程度否定的な意見も知っておくことは、これからWeb3に向き合っていく上でも有益だろう。Web3に疑問を持っている人にとっても、逆にWeb3で新しいビジネスに挑戦しようと期待を持っている人にもお勧めだ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『Web3とメタバースは人間を自由にするか』(佐々木俊尚 著/KADOKAWA)

GAFAMによる支配は終わらせるべきなのか? ビッグテックへの隷従から、新しい経済へ抜け出せ! Web3で「貨幣経済」と「贈与経済」が重なり合うときがきた――。Web3、メタバース、NFTを礼賛する社会に刺激的な問いを投げかける、全ビジネスパーソン必読の「AI社会論」誕生! IT進化による未来社会の像を予測し続けてきたジャーナリスト、待望の書き下ろし。(Amazon内容紹介より)

『Web3.0の教科書』(のぶめい 著/インプレス)

本書は、ブロックチェーン技術から始まり、Web3.0、NFT、DeFiといった最近話題になっているバズワード群について、新たに勉強を始めようとするすべての方に向けた総合的な教材です。ブロックチェーン=暗号資産=怪しいもの、自分に関係ないもの、と一蹴することは簡単ですが、これらの技術が我々の生活をどのように変革しようとしているのかを大まかにでも把握しておくことは重要です。本書では、Web3.0の基盤技術となっているブロックチェーン技術から発生したさまざまな領域の大枠を捉え、それぞれの領域ごとの最新トレンドについて、ざっくりと解説することを目指しました。(Amazon内容紹介より)

『シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか』(中島聡 著/SBクリエイティブ)

Web3については、参加のハードルが高いものもあり、ビジネスの実態が今一つつかみにくいところも多い。そこで本書では、①Web3の基本から、②実際にどんな企業がどんな事業をしているのか、③現在Web3はどんな地点にいて、今後どうなっていくと考えられるのか、図解や事例を踏まえながら解説していきます。Voicy等でも活躍中の著者は、PC黎明期からコンピュータ業界に携わり、マイクロソフトでも先見的なエンジニアとして活躍。現在もWeb3の核は何かとプロジェクトをスタートさせています。そうした著者ならではの視点や、技術の変化を踏まえていかに動いていくかという仕事の仕方は、すべてのビジネスパーソンに必見の内容です。(Amazon内容紹介より)

『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」 』(亀井聡彦、鈴木雄大、赤澤 直樹 著/かんき出版)

本書は、単なる経済書でも、技術書でもない。自己啓発書やSFのような未来予知本でもない。今後世界を覆い、社会的な大変化を引き起こす「Web3」というインターネットの転換点と、その背景にある「DAO」というブロックチェーンによって可能になった新しいコミュニティについての概要と本質を、インターネットの歴史を紐解きながら1冊にまとめたものである。なぜこれほどまでに世界が、起業家が、アーティストが、今に生きる人たちが、Web3に熱狂しているのだろうか。その背後にあるDAOになぜ注目が集まっているのか。本書を読めば、その理由がわかるはずだ。(Amazon内容紹介より)

『Web3コンテンツ革命 個人と企業の経済ルールが変わる』 (髙橋卓巳 著/日経BP)

インターネットが、いよいよ"第3形態"へと進化する。これから私たちが直面する「Web3」では、全てのデータに対して一人ひとりがオーナーシップ(所有権)を持ち、その権利を自在に行使できる世界がやってくる。本著は、ビットコインなどの暗号資産に使われているブロックチェーン技術が、金融だけでなくコンテンツ流通のありようを根底から揺るがす可能性をいち早く見抜いた著者による初の書き下ろし単著だ。独自開発のNFTゲームを国内最大級に育て上げ、著名クリエイターらから高い支持を集めるNFT開発プラットフォームを開発する過程で、精力的に世界中のWeb3関係者との交流する中で目撃した事実を踏まえ、本著ではWeb3の本質をえぐり出す。ビジネスパーソンがWeb3時代をサバイバルするためのヒントや、10年後のコンテンツ作業の未来予想図もひもとく、Web3本の決定版だ。(Amazon内容紹介より)

著者プロフィール

土屋 勝(つちや まさる)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。