大学日本一の関学アメフト部で学んだこと

「関学アメフト部でMVPに輝いた著者が、熱く燃えるチームづくりについて語る!」「三井物産で新規4社立ち上げ」「ボストン コンサルティング グループで年間MVP」「チームみんなで“熱狂の航海”に出ましょう」……。本書の宣伝文句を読むと、体育会系商社社員のイケイケリーダー術かと思ってしまう。だが、読んでみると合理的な組織論を述べていることがわかる。

たとえば、アメリカンフットボールの日本一を選ぶライスボウル(現在は社会人チームだけで闘う)で優勝した名門関西学院大学アメフト部。その特徴は「チームで明確なビジョンを持ち、みんなが共有できていたこと。ビジョン実現のために、それぞれが自分の役割に没頭していたこと。メンバーの関係性が良く、お互いに助け合い、悪いところは指摘できていたこと」だと著者は語る。

関学アメフト部ともなると部員数は200人近く、ライスボウルでは数万人の観客を集める。ちょっとした中堅企業並の規模だ。もちろん200人の部員全員がグランドに立てるわけではない。というか、ほとんどは補欠だろう。しかし試合に出られない部員はライバル校の戦術を分析し、仮想敵となってレギュラーメンバーを全力でバックアップする。レギュラー選手は彼らの夢を実現するために全力を尽くす。

「コーチや上級生が、『優勝しろ』という目標を押しつけることはありませんでした。代わりに投げ掛けられていたのは、『お前はどんな人間になりたいのか?』という問いです」

体育会というと、ただがむしゃらに練習する、監督やコーチの指図に従って駒として動かされる……そんな先入観を抱くがそれとは異なる、合理的なチームづくりが関西学院大学アメフト部ではなされていたというのだ。

熱狂するチームが日本を救う

著者は「弱さから生まれる熱狂」が存在するという。ある時、世界的なデザイナーから「日本のデザインとは“弱さ”と“今”をデザインするものである」と教わった。この“弱さ”とは強さの対局としての弱さではなく、儚(はかな)さ、脆(もろ)さ、「わび・さび」に通じる概念のことだ。そこから人間の生き方として自分の弱さを認め、それを補うために仲間と助け合う能力の大切さを説く。

世の中にはスポーツ万能、成績優秀、仕事をすれば何でもかんでもバリバリこなすスーパーパーソンがいたりする。だが、そういった人がチームワーク、特にリーダーとして優れているかどうかは別だ。スーパーパーソンでもすべての業務を一人でこなせるわけではない。むしろ自分が弱いこと、欠けているものがあることを理解し、しかも強烈な意思=熱狂を持ち、周りの人を巻き込んでチームとして動くことで、成果を上げられるだろう。

著者は「熱狂とは強さから生まれるものではありません。熱狂は弱さから生まれるものです」という。

本人が輝き、楽しい時に成果を生む

世界的に見て日本では子供たち、特に中学生や高校生が将来に夢を持っていないうえ、親を尊敬できない傾向が強い。家族のために一生懸命働いているのに、子供に夢を与えることができていない。それどころか残業や休日出勤ばかりで、配偶者に子育てを押しつけたり、たまの休みの日には抜け殻のようにぼんやりしている。「イクメン」とか「働き方改革」が叫ばれていても、まだまだ過重労働に消耗していて、子育てや家事に参加できていない人は多いだろう。

いくら仕事で成果を上げても本人が輝いていなければむなしい。子供に、家族に、そしてチームの仲間たちに自分が輝く姿を見せることが、会社にも、社会にも最大の貢献になる。

日本社会にはまだ「ひたすら汗を流せ、努力せよ」といった根性主義が根強く残っている。だが、それで成果があがるのだろうか。長時間労働に起因する日本の生産性の低さもずっと言われている。著者は「成功する人の中心には、努力ではなく楽しさや幸せがあり、成功はその周囲を回っている」というポジティブ心理学の成果を対置させている。幸福を感じているときにこそ頭が働き、物事がうまく行くのだ。

リーダーの熱狂を持続させるにはビーイング・ビジョン・バリューズ

著者は「リーダー自身が熱狂して描くビジョンが必要」だと言い切る。リーダーが有能である必要はない。むしろ無能であることを自覚すべきだ。熱狂的なビジョンを持ち、周囲の人を巻き込むことでチームは活性化し、目標が達成できる。リーダーに必要な能力は実務能力ではなく、絵を描き、周りを巻き込む力なのだ。

リーダーの熱狂を持続させるために必要なキーワードとして、「ビーイング(ありたい姿)」「ビジョン(実現したい未来)」「バリューズ(行動基準)」の3つを掲げられている。

「ビーイング」とは「どんな存在でありたいのか」という目標。まずはビーイングを決めてからドゥーイング(何をやりたいのか)を決めよという。ビーイングが決まってなければビジョンもバリューズも描けない。

著者にとってのビーイングは「人の持つ可能性を爆発させ、未来の憧れとなる人組織を生み出すパッチ・アダムスです」と定義したと語る(パッチ・アダムスはクラウンの姿をして治療する臨床道化師を始めた医師で、映画『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー』のモデルとなった)。

定義したビーイングをもとに、未来に実現する構想を表現したものが「ビジョン」。ビジョンを考えるときには、ビジネスだけでなく、健康、学び、感情、恋愛、子育て、友人、家族、キャリア、経済状態などいくつもの場面で、人生全体を考えて描くことだ。

ビジョンをつくる上で大切なのが「ウィッシュリスト」を書き出すこと。やりたいこと、なりたいもの、願望や夢、目標を書き出す。それも「100個羅列せよ」という。10や20であれば簡単だが、100個となるとかなり大変だ。それもできるだけ具体的に書かなければ意味がない。著者のウィッシュリストには「スーパーボウルを生で観戦する」「家族でケニアに行きサファリを見る」「人の可能性を爆発させる世界一のコーチになる」といった項目が並んでいる。具体的に、本当にやりたいことを常に掲げること。「心から願ったことしか叶わない」と著者は力説する。

最後に、「バリューズ」は、抽象度が高いビーイングやビジョンを行動判断の基準とするもの。バリューズは実現したいビジョンに向けた価値基準であり、日々の行動判断の基準となるもの。ビーイング、ビジョンを定義する中で出てきたキーワードを参考に、自分の人生において大切にしたいと考える価値基準を書き出す。バリューズはビジョン実現への過程でさまざまな障害に直面したとき、進むべき道を指示してくれるものでなければならない。最後に一つ一つのバリューズを具体的な行動に落とし込んでいく。

熱狂するチームをつくるのに必要なのは

個人のビーイング、ビジョン、バリューズを考えたら、熱狂するチームをつくるために「パーパス」「ビジョン」「バリューズ」を考えていく。

チームにおいて「パーパス」は存在意義、「ビジョン」は最終的に獲得したい成果、「バリューズ」は行動判断の基準だ。

最近では「パーパス経営」という言葉がよく使われる。もちろん、「企業の存在意義は儲けることでしょ」ではない。社会や環境の課題を解決することが企業の存在意義であり、パーパスであるというわけだ。

本書は、昨今社会的課題として人気のSDGsやブランディングにはあえて触れていない。外に向けてパーパスを発信することは本質ではなく、内部の人たちがそのパーパスを信じていること、パーパスを中心においた経営を設計していることが大切なのだ。パーパスはチームを一つにまとめ、それが熱狂を生み出す。

著者は「リーダーの熱狂によって巻き込んだ人を、さらに熱狂させる。そうしてチームの力はどんどん大きくなっていきます。そのための最も大きなポイントは、メンバーがビジョンやパーパスを自分事化できるかどうかです」という。

「オレはこんなに頑張っているのにメンバーは冷めている」
「みんなが無能だからオレが全てやらなければ進まない」

こんな悩みを持っているリーダーは多いだろう。本書はビジネスでも学校のサークルでも地域の集まりでも、リーダーとしてチームを引っ張らなければならない人にとってお勧めの一冊だ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『「僕たちのチーム」のつくりかた メンバーの強みを活かしきるリーダーシップ』(伊藤羊一 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

実践型次世代リーダーを送り出すZアカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長である伊藤羊一が満を持して執筆 ! 一人ひとりの「自分ごと化」を促すチームのつくり方。本書では、一人ひとりの強みを活かし、成果に向かってともに進む「フラットなチーム」のつくり方を、1on1、会議、プロジェクト、ゴール設定など具体的なカテゴリごとに紹介する。(Amazon内容紹介より)

『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』(中塚敏明 著/クロスメディア・パブリッシング)

経営者と従業員の分断、上司と部下の溝。会社組織のなかで、さまざまな問題が山積みになっているのです。とくに中小企業では、人材に関わることで深刻な悩みを抱えている会社は少なくありません。そもそも人を採用できない。たとえ採用できたとしても、人が辞めていく……。本書はそのような悩みを抱えている企業に対して、ひとつの処方箋を提示したいと考えています。それが「スキルマネジメント」です。スキルマネジメントは、人に頼りすぎる能力開発をシステムで解決していく仕組みです。それは教育やリスキリングに留まらず、従業員エンゲージメントを高め、様々な問題の解決に繋がります! 人的資本経営を実現する仕組みでもあります!(Amazon内容紹介より)

『変化に強く、イノベーションを生み出す ネットワーク型組織のつくり方』(北郷聡、橋本洋人 著/すばる舎)

これまでの多くの組織は、生産性やガバナンスを重視した階層型組織と呼ばれるものであった。階層型は、社内における階層に応じて役割分担を定め、上位者が下位者に対して指揮命令を行うことで目的を達成する組織で、モノづくり等の効率的な業務運営に適している。しかし、社会環境、デジタル化、情報流通の変化、人の考え方・価値観の変化など、企業・組織を取り巻く状況は20年前とは全く異なる。階層型組織とネットワーク型組織の違いは何か。大きく3つの要素において変化している。(1)“業務中心”から“人間中心”の設計へ(2)“効率性”から“創造性”の重視へ(3)“画一性・標準化”から“差別性・個別化”へ。本書ではこのネットワーク型組織について解説していく。(Amazon内容紹介より)

『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わるポジティブフィードバック』(ヴィランティ牧野祝子 著/あさ出版)

リーダーが部下に伝えるべきことは何か。評価、注意、できていない(ネガティブな)ことの指摘と答えるリーダーは少なくない。しかし、時代が変わり、部下が求めるもの、成長に必要なことが変わってきた。部下は、自分が「貢献できている」「成長している」と感じたときに、仕事へのモチベーションが最も高まる。「年1度の上司から部下への評価」から「週5分、部下のやる気を引き出す伝え方」へシフトすることで、個人とチームの効率&生産性を最大化させることができる。本書では、世界10カ国でキャリアを積んだリーダーが、部下一人ひとりの強みを引き出し、成長させるポジティブフィードバック( FB )を使用した伝達法を指南する。(Amazon内容紹介より)

『職場のウェルビーイングを高める 1億人のデータが導く「しなやかなチーム」の共通項 』(ジム・クリフトン、ジム・ハーター 著/ ‎ 日経BP 日本経済新聞出版)

次にくるグローバル危機は、メンタルヘルス・パンデミックかもしれない――。幸福研究のギャラップが「5つのウェルビーイング」からしなやかで永続する組織やチームのあり方を問い直す。本書は、長年にわたり幸福の研究を続けてきたギャラップが「ウェルビーイング」の切り口から、しなやかで永続する組織やチームのあり方を問い直す一冊。世界中で収集した豊富なデータや過去の分析を踏まえ、リーダーや従業員が心身共に健康で充足した状態でいられる組織の条件を、「キャリア」「人間関係」「経済」「身体」「コミュニティ」の5つのウェルビーイングの充足に見出す。(Amazon内容紹介より)

著者プロフィール

土屋 勝(つちや まさる)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。