効率よく集客し、売り上げをアップする

マーケティングオートメーション(MA)という概念は1992年に米国で生まれ、2000年代から普及しました。日本で注目され始めたのは2014年頃で、2020年以降のコロナ禍が導入を促進したと言われています。現在も市場の拡大は続いており、今後も拡大すると予想されています。

MAが普及した背景には、インターネットの普及と顧客の購買行動の変化があります。マーケティング活動は顧客のニーズを把握し、その購買行動に対して最適なタイミングでアプローチをすることが求められます。しかし現代では、興味のある製品があれば、インターネットですぐに調べられ、企業の情報提供に頼ることなく必要な情報を収集し、競合他社の製品やサービスを比較することも容易です。そのため、営業担当は顧客と関係を築く機会を失い、従来の営業プロセスでは売り上げをアップすることが難しくなりました。オンラインを接点として顧客の購買意欲を高めていく施策が必要となったのです。

これまで人の手で行われてきたマーケティング活動を自動化したものが、MAです。MAを活用することで、将来顧客となる「見込み顧客」の属性情報やWebサイトへのアクセス頻度、閲覧ページの履歴を分析し、個々に合わせた効果的なマーケティング施策が可能となります。個人の興味に寄り添ったアプローチで効率よく集客し、売り上げアップにつなげるのがMAというわけです。

BtoB(企業間取引)においても、MAは有効なツールです。企業が受注数を増やすためには、商談の機会をできるだけ多く持つことが大切です。そして新規商談を獲得する際には、見込み顧客に対して継続的にコミュニケーションを取り続ける必要があります。すべての見込み顧客の興味・関心に即したコンテンツを提供し、タイミングを逃さず営業アプローチをするためには、莫大な工数が生じてしまいます。初回のアプローチから商談化まで数年かかることもあります。営業担当者が数千人の見込み顧客に何年もアプローチし続けるのは効率が悪く、商談化のタイミングを逃しかねません。MAを導入することで、営業活動の工程を自動化・省力化し、商談獲得数の増加につなげられます。

MAはどんなツールで何ができるのか?

MAでは見込み顧客(リード)の獲得・育成・選別ができます。この3つのプロセスを経て、見込み顧客の受注確度を高めていく手法を「デマンドジェネレーション」と呼びます。

●見込み顧客の獲得(リードジェネレーション)
リターゲティング広告やSEO、ソーシャルメディアの活用などでWebサイトへ誘導した顧客にアプローチして、見込み顧客を獲得する。

●見込み顧客の育成(リードナーチャリング)
獲得した見込み顧客の属性や嗜好、検討度合いなどの情報を一元化し、それぞれの顧客に対して、DM・メールマガジンの配信、製品資料の配布、商品説明会・セミナーへの参加募集などで、購買意欲を高める。

●見込み顧客の選別(リードクオリフィケーション)
育成した見込み顧客の購買意欲を「可視化」して、より成約確度の高い顧客を選別する。育てた見込み顧客は会社独自の「資産」になる。

Webサイトや展示会での名刺交換、広告媒体への出稿などで獲得した見込み顧客を分析。それぞれに合わせた最適なアプローチ方法で、購買意欲の高い顧客に育てた後、営業部門に引き継ぐという一連の流れがデマンドジェネレーションです。

営業部門が引き継いだ見込み顧客の案件や商談等の管理を「セールスフォースオートメーション(SFA)」で効率的に行いながら受注につなげ、受注後は「カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)」で顧客との関係性を向上させるなど、他のツールと連携することもできます。

MAには、あらかじめ決められたルールに従って、見込み顧客へのアプローチやマーケティング業務を自動化する機能があります。次の3つが主な自動化機能です。

リスト作成
見込み顧客の情報をリスト化して一元管理(有益な情報を提供)

メール配信
顧客リストに一斉メールを配信(継続的なコミュニケーション)

リードの選別
購入確度の高い見込み顧客を絞り込む(最適なタイミングでのアピールやフォロー)

MAのメリット、デメリット

MAを導入すると、複雑なマーケティング施策を自動化・効率化することで工数を削減でき、営業一人あたりの生産性が向上します。顧客の購買意欲が「見える化」するので、これまで見逃していた見込み顧客を商談化につなげることが可能になります。高度な分析によって、顧客の一人一人に対するきめの細かいフォローができて、顧客の興味・関心を引き上げやすくなり、売り上げのアップにつながります。一度獲得した見込み顧客の情報はツール上に保管されるので、企業にとって大きな「資産」になります。

しかし、MAを導入すれば、すぐに効果を得られるわけではありません。MAはコンテンツ作成費や作業工数(人件費)などの費用がかかります。それなりの投資と効果が出るまでの一定の時間が必要となります。また、MAには豊富な機能があり、使いこなすにはデジタルマーケティングの知識やスキルが求められます。適した人材がいない場合は、人材の育成が必須となります。MAの効果を高めるためには、中長期的な戦略と運営できる体制を整えることが重要不可欠です。

MAの導入で失敗しないために重要なことは、自社に最適なMAツールを選ぶことです。自社の業態や運用体制、利用目的に合うかどうかを十分に検討しましょう。既存のツールやシステム、今後使用したいツールと連携できるかどうかも確認する必要があります。準備段階で自社の業務とどう結びつけて効率改善していくかを洗い出すことが重要です。

MAツールを選択し、運用開始前にコンプライアンスの確認も必要です。個人情報を取得する際には利用目的の通知や公表、メールの配信解除に対応していかなければなりません。個人情報保護法や特定電子メール法などをきちんと把握しておきましょう。

近年、AI(人工知能)メタバースなど急速なテクノロジーの進展にともない、マーケティング手法も更新していく必要があり、MAを導入するケースが増えています。今後、さらにデジタル技術が進展することを考えると、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の観点からも、MA導入は効果的と言えるでしょう。

著者プロフィール

青木 逸美(あおき・いづみ)

大学卒業後、新聞社に入社。パソコン雑誌、ネットコンテンツの企画、編集、執筆を手がける。他に小説の解説や評論を執筆。