今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第17回

ソフトウェアで失敗した日本。挽回のカギはやはりソフトウェアである


『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』及川卓也 著

かつて「ものづくり」で時価総額ランキングを席巻した日本企業だが、現在その地位に居るのは「ソフトウェア」を武器にした世界各国のIT企業だ。ソフトウェアの潮流に乗り遅れて敗北した日本を復活させるためのカギ――それはやはりソフトウェアにほかならない。

文/成田全


変化が止まっている日本

 本連載の第12回「働き方改革の次はこれ! 令和時代には『DX』が求められる」で、2018年に経済産業省が公開した文書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をご紹介した。その内容は「もし日本の企業などがデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れず、現行のビジネスの維持・運営を続けると、古いシステムが複雑化・ブラックボックス化し、2025年以降には1年あたり最大12兆円の経済損失が生じる。その損失額は現在の約3倍」というものだった。

 1990年代前半のバブル経済崩壊以降、日本では「失われた◯年」の年数が増え続け、世界の時価総額ランキングを席巻していた日本企業に取って代わったのは、ITを活用した「GAFA」などの新しいビジネスだ。日本はどうしたら苦境から抜け出し、新しいビジネスの創出やさらなる成長ができるのか? その処方箋となるのが、実践的な内容が詰まった『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』(及川卓也/日経BP)だ。本書は発売前に重版となり、その後も版を重ね、ベストセラーとなっている。

 バブル経済崩壊後、日本は進化が止まっています。進化というのは、結果として後から見た時に進化と評価できることであり、すべての進化は変化から始まります。つまり、日本は変化が止まっています。
 その理由は、社会が変化を望んでいないからではないかと感じることがあります。変化には、苦痛を伴います。一時的に不幸になる人も出てくるかもしれません。しかし、今の日本は全員が平等に少しずつ不幸になる道を歩んでいるのではないでしょうか。不幸になる人を生んでいいとは決していいませんが、少しでも不幸になる要素がある変化を拒み続けた結果、全員が不幸になっているということはないでしょうか。

 マイクロソフトやグーグルなど世界的なIT企業で製品開発を担当し、現在は企業への技術・事業アドバイスを行っている筆者は、本書の冒頭にこんな文章を書いている。「そうはいっても、まだ大丈夫だろう」と考えている人に冷や水を浴びせるような内容だが、本書を読み進めると「なんとかしなければ」と思うようになる。

 本書は、ITビジネスに必要な「モダンなソフトウェア開発」と、それに伴う「人と組織の変革」をテーマに執筆されたという。こういう話になると「ソフトウェア? 私には関係ない」と敬遠する人がいるものだが、そういう人にも読んでもらいたい一冊なのだ。

日本の失敗と現状の把握

 本書は「日本の失敗の原因と現状の把握」をするところから始まる。

 1章「ソフトウェア・ファースト」では、現代はすべての産業が「サービス化」していることが説明される。その変化の潮流は「ソフトウェア」にあり、インターネットにつながる「コネクテッド」によって進化のパターンが激変したことなどがコンパクトにまとめられている(第11回「新世代消費者があらゆる会社をサービス業に変える!?」もぜひ参考にしていただきたい)。

 続く2章「IT・ネットの“20年戦争”に負けた日本の課題と光明」では、1980年代には世界の最前線を走っていた日本企業が、なぜソフトウェア開発力の競争に敗れたのかを分析する。ここで筆者は、AI、DX、サブスクリプション、クラウドなど、激変が続いているにも関わらず、日本企業は依然として「製造業的ものづくり」から脱却できておらず、IT=虚業という誤った先入観から、古いイメージでしかない「単なる業務効率化のツール」と捉えていて、システム開発を社外のシステムインテグレーターやITベンダーに任せてしまったことなどにあるのではないかと指摘している。

メインは「具体的なソリューション」

 20世紀的な製造業から、ソフトウェアを使った新たなものづくりへとシフトすること――アメリカや中国といったソフトウェア先進国との差を縮めるため、急務である「ソフトウェア・ファースト」をどう進めればよいのか? そしてソフトウェアを使ったものづくりのためにはどのような「組織づくり」が必要になるのか? それは本書の大半を占める3章以降の具体的なソリューションが参考となる。

 3章「ソフトウェア・ファーストの実践に必要な変革」では会社や組織、考え方をどのように変え、何から始めればよいかを指南し、4章「これからの『強い開発組織』を考える」ではエンジニアリングの組織づくり、職種、役割について、さらに自社に合う「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」の作成方法や、エンジニアを採用するにあたってのアドバイスが載っている。最後の5章「ソフトウェア・ファーストなキャリアを築くには」では、エンジニアのキャリア形成について筆者のキャリアを絡めて解説している。また巻末には付録として、専門的な技術知識である「モダンなプロダクト開発を行うための技術と手法」がまとめられている。

 本書はITに関する新たなサービスや名称、略称に振り回されることなく、時代の変化と先を見据えるため、エンジニアだけではなく働くすべての人が、開発するソフトウェアにはどんな目的があり、何のために使われるのかを共有し、リリース後の対応やアップデートはどうすべきなのか、そのためにはどんな職場や働き方が最適なのかを知るための礎となる。経営学者のピーター・ドラッカーは「変化はコントロールできない。できるのは、変化の先頭に立つことだけである」と言っているが、日本が再び世界の最先端に立つために不可欠なソフトウェアの重要性について、ぜひ知識を深めてもらいたい。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則』(ジム・コリンズ 著、土方奈美 訳/日経BP)

Amazonの成長は止まらないのは、ひたすら「弾み車」を回し続けているからだ! 平凡な「良い会社」から「偉大な会社」へと飛躍するためのキーコンセプト「弾み車(FLYWHEEL)の法則」にフォーカスし、この法則をフル活用して「ビジョナリー・カンパニー」へ道を歩み続けてきたインテル、アップル、アマゾン、バンガードなどの事例紹介を通じて、「弾み車」の基本的な考え方と活用ノウハウ、読者それぞれが「自分の弾み車」をつくるためのポイントを簡潔かつ具体的に解説した、「ビジョナリー・カンパニー」シリーズ待望の最新作!(Amazon内容紹介より)

『無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体』(ジョナサン・ハスケル、スティアン・ウェストレイク 著、山形浩生 訳/東洋経済新報社)

GAFAが台頭する中、無形投資の増大は生産性や格差にどのような影響をもたらすのか? 企業・投資家・銀行・政府はどのように対応すべきか? 有形資産とは異なる無形資産の4つの特徴とは何か? これまで計測できなかった無形資産の全貌を、初めて包括的に分析した画期的名著。『フィナンシャル・タイムズ』ベスト経済書。「世界経済最大のトレンド『無形資産』を理解したければ、本書を読むべきだ」――ビル・ゲイツ(Amazon内容紹介より)

『不道徳な経済学: 転売屋は社会に役立つ』(ウォルター・ブロック 著、橘玲 訳/早川書房)

転売屋、ヤクの売人、売春婦、満員の映画館で「火事だ!」と叫ぶ奴……。「不道徳」な人々を憎悪し、「正義」の名の下に袋叩きにする現代社会。おかしくないか――。彼らこそ、そうした偏見や法の抑圧に負けず私たちに利益をもたらしてくれる「ヒーロー」なのだから! 自由という究極の権利を超絶ロジックで擁護、不愉快だけれど知らないと損する「市場経済のルール」を突きつけた全米ベストセラーを、人気作家・橘玲が超訳!(Amazon内容紹介より)

『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(石川温 著/エムディエヌコーポレーション)

2020年春、日本でも5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスがスタート! いま誰もが当たり前のように利用している4Gに続く新たなシステムである5Gは、単に「高速・大容量」であるだけでなく「低遅延性」といった特長などから多くの可能性を持っています。すなわち「速い」以外に、さまざまなことが実現するのです。この本は、5Gの基礎知識から活用事例、今後の展望などを、やさしい文章と豊富な図解でわかりやすくまとめています。5Gが社会に広く普及するその前に、「真の5Gはいつからなのか」「5Gの本質とは何なのか」をつかんでおいてください。(Amazon内容紹介より)

『【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[新装改訂3版]』(斎藤昌義 著/技術評論社)

「技術の背景や価値、そのつながりまで体系だって理解できる」と大好評の『ITトレンド』が、5万部を超えアップデート! 「デジタル・トランスフォーメーション」「注目すべきテクノロジー」の章、「MaaS」「ニューラル・ネットワーク」の話題などを新たに追加。ITの「時流」も、そこから一歩先んじるための「本質」も、コレ1冊でかんたん総づかみ! 【特典】掲載の図版はすべてPowerPointデータでダウンロード、ロイヤリティフリーで利用可能! 研修教材や提案書など、学んだ知識をビジネスに活用する際にご使用ください。(Amazon内容紹介より)

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。