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第12回 ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)


DXやリモートワーク対応で高需要の仮想化環境インフラ

IT人材が不足する中、増えるデータ量や複雑化するシステム、デジタル変革への対応など、企業が直面するITまわりの課題は小さくありません。それを高度に集約されたサーバー仮想化環境により、インフラ面から解決しようとするのがハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)です。HCIにはどのような特徴があるのでしょうか。

文/ムコハタワカコ


仮想化に必要な機能をサーバーに集約して導入・管理を容易に

「ハイパーコンバージドインフラストラクチャー」(Hyper Converged Infrastructure:HCI)とは、計算やネットワーク、ストレージなど、コンピューターシステムの核となる機能をサーバーに集約(=コンバージ)し、仮想化ソフトウェアを組み合わせることで、サーバー仮想化環境を実現するプラットフォーム製品です。

サーバー仮想化とは、1台の物理サーバーを複数台の仮想的なサーバー(仮想サーバー)に見立てて利用する仕組みのこと。物理サーバーへ「仮想化ソフトウェア」を導入して仮想サーバーを動作させることができるので、サーバー台数やスペースの節約を実現し、保守費用の節約や運用の効率化を図ることも可能です。

HCIのような統合型のシステムインフラとしては、従来「コンバージドインフラ」(Converged Infrastructure:CI)がありました。HCIとCIの違い、HCIの「ハイパー」たるゆえんは、その集約度の高さにあります。

CIでは、サーバー、ストレージ、SANスイッチ(ストレージとサーバー間を接続する高速ネットワークに用いるスイッチ)などの機器はそれぞれ、独立したハードウェアとして存在し、それに仮想化ソフトウェアを組み合わせて一式の製品として提供します。このためシステム管理者は、それぞれの機器を別々の画面で管理する必要がありました。

一方、HCIでは、ストレージやネットワーク機器が持つ機能が集約され、サーバー内で完結。1つの管理画面でサーバーとストレージを一括管理できるため、運用コストの低減、管理やスケーラビリティの向上が期待できます。また、ハードウェアやストレージ、ソフトウェアが最適化されているため、導入にかかる期間を大きく短縮し、安定的に稼働させることも可能としています。

従来のサーバー仮想化環境とHCIの比較

導入から拡張時、災害時にもメリットが大きいHCI

HCIの特徴について、もう少し詳しく見ていきましょう。導入・稼働・運用・拡張の各時点と、イレギュラーな災害時におけるHCIのメリットは次の通りです。

1. 導入が簡易、短期間
HCIでは、1台の物理サーバーの中にサーバー仮想化に必要な機能がすべて集約されています。このため、外部ストレージやネットワーク機器を個別に設定する必要がなく、それぞれに関する専門知識やスキルがなくても初期導入が簡単に短期間で実行可能。担当者は業務システムの構築などに、より早く着手することができます。

2. 安定的な稼働
CIやHCIは事前に動作が検証された状態で出荷されるため、安定した稼働が見込めます。従来の仮想化環境では懸念材料となっていた、製品同士の相性や設定のチューニングなどに頭を悩ませる必要がなくなります。

3. 運用負荷の抑制が可能
従来の仮想化環境では、物理サーバーやスイッチ、ストレージを別々のツールを用いて管理する必要がありました。また、システムを構成する各機器やソフトウェアなどに問題が生じたときには、問題の切り分けや各所への個別の問い合わせのための専門的な知識や手間が必要でした。HCIでは1つの管理ツールで運用が可能なため、運用コストを低減することができます。問い合わせ先も一本化することができ、スキルや手間を軽減可能となります。

4. 拡張性が向上
仮想化環境の機器構成の複雑さは、システムを拡張する際にもネックとなっていました。HCIはシンプルな構成で仮想化を実現できるため、スモールスタートがしやすい上に、必要なアプライアンスを追加して簡単な設定を行うだけで、迅速に環境の拡張が行えます。

5. 事業継続・災害への対応
サーバーの仮想化を適用すれば、システムの冗長化を行う際に「各システムごとにサーバーを2台ずつ用意する」といった必要がなくなります。さらにHCIでは、仮想的な共有ストレージ機能をソフトウェアで実現しています。このため、更新データのレプリケーション(複製)が容易です。仮想マシンのクローンを遠隔拠点で稼働して、災害時にも事業継続可能な環境を簡単な手順で用意することができます。

なお、良いことずくめに見えるHCIですが、従来のサーバー仮想化システムで求められていたよりも高性能のサーバーが必要なため、その部分ではコストがかかります。また共有ストレージ機能をソフトウェアで実現していることから、どうしても処理性能には一定の制約が出てしまいます。さらに、細かい個別設定の必要がない分、サーバー、スイッチ、ストレージのいずれかだけを拡張したいという場合でも、必要なもののみを追加するというわけにはいきません。

とはいえ、導入や運用の時間的・人的コストを総合して考慮すれば、HCIの導入は全体としてはコスト削減につながるといえるでしょう。また、導入後の活用もスムーズに行えると考えられます。

DXやリモートワーク需要により国内外で成長するHCI市場

国際的な調査会社のMarkets and Markets Researchが2020年6月に公開したレポートによれば、世界のHCIの市場規模は2020年時点では推定78億ドル(約8892億円)でした。それが、2025年には271億ドル(約3兆894億円)に成長。期間中の年平均成長率(CAGR)は28.1%になると予測されています。

このレポートでは、企業がデータセンターの全体、または一部を自社内に統合する動きが、HCI市場の成長に大きく貢献すると予想しています。また、コロナ禍をきっかけとして、中小企業においても仮想デスクトップインフラ(VDI)やリモートオフィス/分散オフィス(ROBO)環境の構築のためにHCIの導入が増加しており、今後も当面、この傾向は続くだろうと予測しています。

日本国内においても、HCI市場は堅調に伸びています。調査会社のIDC Japanは、2021年6月に国内のHCI市場予測を公表。2020年〜2025年の期間中に市場は年平均8.7%の割合で成長し、2025年には783億3000万円の規模になると予測しました。

国内ハイパーコンバージドシステム市場予測:2020年~2025年(IDC Japan, 2021年6月)
※2020年は実績値、2021年以降は予測

IDCは国内のHCI市場について、「ITインフラストラクチャーの運用/管理の効率化、ビジネスニーズに対応する俊敏性や柔軟性の向上、導入の迅速性や容易さ、スモールスタートと柔軟な拡張性の実現などを背景に、今後も成長を継続する」と予想しています。

IDCでは、短期的には仮想化環境を実現するITインフラへの需要がHCI普及を進めると指摘。中長期的にはデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応や、既存ITインフラの効率化、エッジ、オンプレミスITインフラの実現や、ハイブリッドクラウド(複数のパブリッククラウドを統合的に管理するクラウド)の実現を目的に、HCIの普及が拡大するとしています。

中小企業にも導入が簡易で拡張性が高いHCIには利点が多い

DXによる競争力の獲得などが求められる企業にとって、ITインフラの重要性はますます高まっています。同時に、その構成の複雑さや運用の難易度も高まっているため、導入・保守・運用にかかる負荷も増加しました。日本では特に、少子化などの影響でIT人材が不足する中で、運用の効率化が可能で、冗長性に優れ、拡張性も高いHCIが注目されています。

HCIは、すでに多くのサーバーを運用する大企業だけでなく、DX実現、生産性の向上により、大手との競争力を確保したい中小規模の企業でも導入すべきソリューションといえます。スモールスタートして要件に応じて柔軟にITインフラを拡張したい、あるいは成長に見合うスケーラビリティを確保しつつ、インフラや人的コストは段階的に拡大したい、といった悩みにも応えることが可能だからです。

多様化し、変化が激しくなるビジネス環境に迅速に対応し、デジタル変革や新規事業立ち上げ、すばやい経営判断を実現するためには、それにふさわしいITインフラの構築と運用が求められます。サーバー仮想化環境を短期間で簡単に構築し、コストを抑えながら運用が可能、安定稼働や増大するデータに対応する拡張性も実現するHCIは、今後さらに広く利用される可能性を秘めています。

筆者プロフィール:ムコハタワカコ

書店員からIT系出版社営業、Webディレクターを経て、編集・ライティング業へ。ITスタートアップのプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。派手さはなくても鈍く光る、画期的なBtoBクラウドサービスが大好き。うつ病サバイバーとして、同じような経験を持つ起業家の話に注目している。