話題の最先端ビジネスから重厚長大産業まで

本書は、日経新聞の記者が日本の主要企業を取材し、注目企業、資本・業務提携関係、基礎知識や最近の動向などを表や図などのビジュアルを多用してわかりやすく解説した、いわゆる「業界地図」だ。毎年、同時期に発売される年鑑で、本書は本年8月に発行された2023年版。

注目の業界として本書がトップにあげるのが「メタバース」、2番手が「eスポーツ」となっている。その他「クラウドファンディング」「ワーケーション」など、最先端の業界を積極的に取り上げている。メタバースがトップバッターというのはくしくもライバル『「会社四季報」業界地図』(東洋経済新報社)と並んだ。いかにメタバースが経済メディアから注目されているかが伺える。

もちろん自動車、鉄鋼、電力、金融といった重厚長大産業も取り上げている。三井、三菱、住友といった旧財閥系やNTT、ソフトバンク、イオンなど企業グループごとの解説もあり、意外な提携関係が見えてくるなど、眺めているだけでも面白く、日本経済を支える主要な業界について広く知識を得ることができる。

日本企業も名を連ねるメタバース業界

注目のメタバース業界では、VRプラットフォーム、VRビジネス、ビジネス×メタバース、NFT×メタバース、ゲーム×メタバース、アバター、デジタルファッション、マーケットプレイスという8分野で主力企業・注目企業をピックアップしている。

「VRプラットフォーム」分野は、メタ・プラットフォームズ(Meta)、百度など、「VRビジネス」分野ではソニーグループ、「ビジネス×メタバース」分野ではマイクロソフトやエヌビディア、「ゲーム×メタバース」分野ではマイクロソフトが買収したアクティビジョンやPokemon GOのナイアンティック、スクウェア・エニックス、バンダイナムコなどが取り上げられている。社名をフェイスブックからメタ・プラットフォームズに変更し、メタバースの開発を事業の核に据えるとしたMetaが複数分野に名を連ねるのは当然のことと思われる。

基幹産業である自動車業界は複雑な関係

関連企業を含めれば日本の全就業者数の約1割を占める基幹産業である自動車業界は、国内、世界と2つに分け、それぞれ2ページ見開きで解説するなど、力の入ったページとなっている。半導体不足の直撃を受けて減産を余儀なくされた各社は増大するEV開発費を補うため資本提携や協業が相次ぎ、複雑な関係であることがわかる。

たとえば、トヨタはダイハツを100%子会社としているが、軽自動車分野でダイハツのライバルであるスズキとも資本提携しており、業務提携と完成車供給を行っている。どのように棲み分けているのだろうか。

世界で見ればまさに合従連衡。トヨタとGM、スズキとVW、マツダとフォードは提携を解消したのはなんとなく記憶に残っていたが、他にも合弁や株保有が成立したり解消したりが繰り返され、複雑に絡み合っている。知っている人にとっては当たり前かもしれないが、門外漢にとっては新鮮だった。文字通り業界を俯瞰する業界地図と言える。

あのブランドがこのグループだったのか

日常生活に密着した食品や小売り業界も、企業の関連という視線で見ると面白い。即席麺業界では「チャルメラ」の明星食品が日清食品の子会社であり、マルタイとエースコックは「サッポロ一番」のサンヨー食品から出資を受けている。製パン業界の東ハトと不二家は山崎製パンの傘下企業だ。

コンビニエンスストア業界だと、ダイエー系だったローソンは三菱商事の子会社であり、高級スーパー成城石井を完全子会社としている。西武系だったファミリーマートは伊藤忠商事の子会社となっている。

先日、東急ハンズが「東急」を取って「ハンズ」に改名するとのニュースを見た。本書では2022年3月にホームセンターのカインズが東急ハンズを完全子会社にしていたことが記載されている。もはや東急グループではないのだから改名も当然かもしれないが、マニアックな品揃えで一般的なホームセンターとは一線を画してきた東急ハンズの名前が消えるのは寂しい。

ファストフード業界や居酒屋業界は、チェーン展開している店名から会社名がなかなか思い付かず、どことどこがグループなのか分からないことも多い。そのような疑問にも本書は答えを出してくれる。

業界最大手であるゼンショーホールディングスは、すき家、なか卯、はま寿司、ココス、ジョリーパスタ、華屋与兵衛を展開しているし、モスフードサービスとミスタードーナッツを展開するダスキンとは資本・業務提携関係にある。コロワイドは大戸屋、フレッシュネスバーガー、牛角、かっぱ寿司などを傘下に収め、急速に多業態展開を図っている。

かと思えば、レアメタル・レアアース業界、風力発電業界、地熱発電業界といった、かなりコアな業界も取り上げている。旧財閥系を除けば、ほとんど聞いたことのない会社名ばかり。まさに経済・産業を裏で支えている存在なのだろう。

本書だけでビジネスに直結する業界研究ができるわけではないが、手元に置いておき、ニュースなどで企業名やブランド名が取り上げられたときに、関連性を調べるといった使い方もある。学生の就職活動から企業の営業、株式投資まで、さまざまな人に役立つだろう。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『「会社四季報」業界地図 2023年版』(東洋経済新報社 編/東洋経済新報社)

見えない時代の先を読む必読書――12年連続売上No.1、もっとも売れている「業界地図」の最新版(大手書店各社調べ )。ありとあらゆる業界の「いま」と「未来」がサクっとわかります! 2023年版の特徴:「メタバース」「NFT」「ESG」「エネルギー地政学」「代替食」「木材」など、見過ごせない重要業界を新たに図解。掲載数は過去最高となる182業界・テーマ!既存業界も『会社四季報』記者が総力アップデートしました。(Amazon内容紹介より)

『注目業界のトレンドを大予測! 業界地図&給料ランキング 2023年版』(鈴木 貴博 監修/宝島社)

年収統計だけでは見えてこない、各業界の赤裸々な給料事情を徹底レポート! 年収が上がらないといわれる日本の本当の「給料事業」とは? 自動車、IT、総合商社、メガバンク、物流など、話題の業界の「企業別 最新『給与』ランキング10」を完全掲載。そして、業界ごとのトレンドを大胆予測! ビジネスマン必携の一冊。(Amazon内容紹介より)

『図解! 業界地図2023年版』(ビジネスリサーチ・ジャパン 著/プレジデント社)

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『日本の消費者はどう変わったか: 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向』(松下東子、林裕之 著/東洋経済新報社)

足かけ24年(1997-2021)におよぶ1万人の時系列データで「暮らし」「家族」「消費」の価値観が明らかになる。NRIでは、1997年より、3年に一度、生活者1万人アンケート調査を実施している。訪問留置法による大規模アンケート調査を実施し、インターネットの利用によらない日本人の縮図を長期時系列で把握している。生活価値観や人間関係、就労スタイルなど、日常生活や消費動向全般の幅広い項目のデータを取得しており、生活者のリアルな実態がくっきりとみて取れる。他に類をみない豊富なデータと分析で明らかになる、日本の消費者が欲しいもの。アフターコロナに消費が戻るもの/戻らないもの、日本でいちばん幸福を感じているのはどのセグメントの層か、インターネット消費はどこまで伸びるかなど、これからの消費キーワードが1冊でわかる!(Amazon内容紹介より)

『モビリティ リ・デザイン2040 「移動」が変える職住遊学の未来』(KPMGモビリティ研究所 著/日経BP 日本経済新聞出版)

本書は、最新のトレンドを注視しながら未来社会を構想し、産業横断的な協働により社会課題解決に向き合う専門家で構成するメンバーが、今から約20年後の都市と地方の暮らし(働く、暮らす、遊ぶ、学ぶ)がどう変わるかを、モビリティ領域を軸に分析、予測し、近未来像を提示するもの。環境への配慮をはじめとした経済的成長とは異なる新たな価値観の広がりに伴う脱炭素化など社会からの要請の高まりは、あらゆる産業分野に抜本的なイノベーション、構造改革を迫っている。個人の欲求と価値観の多様化、SDGsや脱炭素など社会からの要請の変化、インフラ更新など喫緊の課題への対応……技術革新を契機に産業構造が大きく変わると予想されるなか、私たちの暮らしはどう変わるのか? (Amazon内容紹介より)

著者プロフィール

土屋 勝(つちや まさる)

1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。