今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第6回

働き方改革に苦戦したら「社員の幸福度」を上げてみよう!?


『パーパス・マネジメント 社員の幸せを大切にする経営』丹羽真理 著

働き方が変わらない限り、労働時間を短縮しつつ効率を上げることはできない。本書では解決のヒントが「幸福」にあると説く。「仕事は眉間にしわを寄せて苦しむもの」という思い込みを捨て、幸せを形作る4つの要素を意識しながら、社員の幸福度をアップさせると生産性や創造性が跳ね上がるという。

文/成田全


労働時間を短縮した上で生産性を向上させる「幸福度」

 昨今、組織での暴力やハラスメントが次々とニュースになっている。こうした事例は「気合い・根性・我慢」を煮詰めたような旧態依然とした世界で起こった特殊な出来事のように思ってしまいがちだが、今の日本社会が抱える構造的な欠陥と言えるのではないだろうか。長幼の序、上意下達、石の上にも三年……もちろんこれらの言葉にポジティブな面があるのは十分承知の上だが、制度疲労を起こしている20世紀型の組織や働き方は今すぐアップデートの必要がある。

 また「働き方改革」の推進によって残業時間を削減するため定時での帰宅が厳命されたことで、仕事を持ち帰る「サービス残業」が発生、根本的な問題がまったく解決しないばかりか「ジタハラ(時短ハラスメント)」という言葉まで生まれるなど、手段と目的を取り違えるような事態になっていることも日本的なことと言っていいのかもしれない。

 どうしたら労働時間を短縮した上で生産性を向上させられるのか? ググッと眉間にしわを寄せ、腕組みをして考えてしまう人にぜひお読みいただきたいのが『パーパス・マネジメント 社員の幸せを大切にする経営』だ。本書の論点はとてもシンプル。それは「働く人の幸福度を上げよ」ということだ。

 そんなことか、と拍子抜けした方もいらっしゃると思う。しかし幸福度を上げることこそ働く上でとても重要なのだ。著者の丹羽真理氏は、働くこと=大変なものと思い込んでいる日本中の職場から「眉間のしわ」をとりたい、と言う。

「Purpose=存在意義」を念頭に置く

 本書の「はじめに」には「『働き方改革』の本質は、誰もが活躍するというよりも、誰もが幸せに働くこと=『幸せ改革』にあるのではないでしょうか?」という問いかけがある。そして幸せに働くために大事なこととして本書で提示されるのが「Purpose(パーパス)=存在意義」という概念だ。Purposeは「あなたは何のために生きているのか?」「この会社は何のために存在しているのか?」という根源的な問に答えるものであり、「会社組織のPurpose」と、そこで働く「個人のPurpose」が一致することで、生き生きと働くことができるようになるという。

 懐疑的な人たちからは「幸せなんて人それぞれ、どうやって測ったらいいのか」と揶揄されそうだが、本書には「幸せを測る質問項目」がある。

・どのくらい幸せに働くことができましたか?

・どれくらいの熱意を持って働くことができましたか?

・仕事を行う際にどの程度自分の強みを活かせましたか?

・一緒に働いている人にはどんな気持ちで向き合えましたか?

・直属の上司にはどんな気持ちで向き合えましたか?

・お互いに心配りをすることができましたか?

・感謝されたり認められたりしましたか?

・心身の状態は良好でしたか?

 これを毎週継続的に行い、集計・改善を図っていくことで幸福度が向上して、会社の業績も上向くという(実際にヒアリングするための詳細なアンケート内容は巻末に収録されている)。様々な調査や研究によって「幸福度の高い社員の生産性は31%高く、創造性は3倍高い」「幸せな気持ちで物事に取り組んだ人は、生産性が約12%上昇する」など「幸せの効用」はしっかりと証明されている。仕事は苦しいのが当たり前という固定概念を一度捨て、幸福=楽(ラク)であるという誤解を一旦置くことが、社員の幸福度によって会社を発展させる取り組みの第一歩となる、と丹羽氏は記している。

 また幸福学の研究をしている前野隆司教授や、実際に問題に取り組んでいるユニリーバへのインタビューもあるので、多面的に理解することができるだろう。

幸せな職場を増やしていくために

 仕事における幸せを形作るためには、4つの要素があるそうだ。

Purpose(パーパス=存在意義)

Authenticity(オーセンティシティ=自分らしさ)

Relationship(リレーションシップ=関係性)

Wellness(ウェルネス=心身の健康)

 これは「自分が意義を感じられる仕事を、自分らしく、周囲とよい関係を築きながら、実現できること。そのための土台として心身の健康が備わっていること」を示し、「PARW」と覚えるといいそうだ。そして幸せに働くことを主導する経営職「CHO(Chief Happiness Officer)」を置き、より問題にコミットしていくことが必要になるとも説いている。感情を表に出さない日本では互いの仕事や長所を褒め合ったりすることは少ないと思うが、会社の空気を変え、周りに伝播させていくことができれば、意外と早く幸せな職場が増えるのではないかと丹羽氏は指摘している。

 新しいことを始める際、既得権益者や前例主義に陥っている人たちは必ず反対してくるものだ。しかしこれまで既得権益者の言うことや前例主義に則ってきたことで上手くいかなかった、という厳然たる事実があるのだ。働く上で「Purpose」の重要性を理解した方は「そこに幸せはあるのか? やる意義はあるのか?」と考えられるようになり、シンプルに問題を解決できるようになる。そして幸せな職場には、優秀な人材も集まってくる。やらない手はないのだ。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

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筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。