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2019/04/12

特集 働き方改革再入門 - 第5回

テレワークを成功に導くには、テレマネージメント能力の強化が不可欠



東京工業大学 比嘉邦彦教授インタビュー

テレワークを導入したが、思うような効果を上げられないという企業も少なくない。問題点はどこにあるのか? テレワーク導入を成功に導くためにはどのような変革が必要なのか? テレワーク研究の第一人者である東京工業大学の比嘉邦彦教授に伺った。

文/狐塚淳


比嘉邦彦教授
東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系・技術経営専門職学位課程。米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、同大学講師、ジョージア工科大学助教授、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学 経営工学専攻助教授に、1999年より現職。テレワークをメインテーマとした21世紀の情報システムのあり方、クラウドソーシング、組織改革、地域活性化などについて研究。著書に『クラウドソーシングの衝撃』などがある。日本テレワーク学会特別顧問。

Q:テレワーク導入がうまくいかない企業の問題は?
A:導入前の改革不足、人事部への丸投げ……

―― 働き方改革が浸透する中で、テレワークという言葉も一般に知られるようになりました。しかし、一度はテレワークに取り組んでみたが、思ったような効果が上がらず、制度を取りやめる企業なども出てきています。比嘉先生はテレワークの現状をどのようにとらえていらっしゃいますか?

比嘉 現在、テレワークと一言で言っていますが、その中には、モバイルワークや在宅勤務などの働き方の形が含まれ、それらを実現するための手法としてフリーアドレスやサテライトオフィスなどがあります。それを理解せず、目的が異なる働き方をテレワークとして一緒に考えていることで問題が発生してきます。

 テレワークの導入が失敗に終わるケースでは、経営層からはメリットがないと判断され、現場からは負担が増えるなど不満が噴出するという状況に陥ることがよくあります。特に、上層部が一般論としてのテレワークのメリットを聞かされて、テレワーク推進などのタスクフォースを作って進めさせるような場合はうまくいきません。これは、テレワーク導入前に行うべき改革を怠ったからです。

 また、そうした改革を含めて、人事部に丸投げする企業も見られますが、人事部は法令順守の中で齟齬がないよう仕事を進めることが基本の部署です。新しいことをするセクションではありません。テレワークのような改革を起こすことには不向きです。改革は別部署が起こし、その実践のための対応を人事部が担当する――。これが適切なアプローチです。

―― テレワークの前提として、企業・組織の改革が必要なのですね。

比嘉 まず、先行して導入が進んできたモバイルワークについてお話ししましょう。モバイルワークはICTを利用することで、営業職などが報告のためだけに帰社するような状況を変える取り組みです。

 従来の直行直帰とモバイルワークは異なり、モバイルワークのコミュニケーションにはICTが使われます。フェイス・トゥ・フェイスが基本で直行直帰がたまに組み込まれるのと、基本が直行直帰のモバイルワークではコミュニケーション、そして評価の方法も変わってきます。マネジメントも遠隔で行わなくてはならないし、営業もホウ・レン・ソウをモバイルに移行しなくてはならない。だから、これまでの営業の仕方をモバイルに移行するだけではうまくいかないのです。コミュニケーションの変革こそが重要になります。

 モバイルワークはテレワークの中でも、導入しやすくメリットが見えやすいものです。先行している企業もあります。例えば、日本IBMは20年以上モバイルワークに取り組んでおり、そこで得た経験とノウハウを元に、より高度なテレワークの導入に成功しました。

「全員テレワーク」が成功につながる

―― 日本IBMのテレワークについてお聞かせください。

比嘉 日本IBMは2009年に「在宅勤務すること」という社長通達を、勤続3年以上の社員2,000名以上を対象に出しました。テレワーカーにはどんな資格が必要かという質問をする人がよくいますが、日本IBMではテレワークは特別な働き方ではないと考えており、例えばモバイルワーク導入時も箱崎オフィスの外回り部隊全員ができるという想定の下で制度化したのです。

 もちろん中にはテレワークをできない人もいますが、それは例外でありケアすべき対象だという考え方です。デスクトップなし、社内PBXによるPHSの内線電話化、フリーアドレス、電話対応時間も決めて働きすぎにならないよう、きちんと制度を作りました。この結果、オフィススペースを40%節約することができました。

 日本IBMでテレワーク導入の旗振りを行った倉重英樹さん(現シグマクシス代表取締役会長兼CEO)は、2004年に日本テレコムの社長に就任し、再び完全テレワークの導入に取り組まれました。同社のオフィスは島型のデスク構成でしたが、汐留へのオフィス移転時に1万人の社員すべてを原則として完全フリーアドレスに移行しました。

 1年後のアンケートでは社員の80%以上が高評価でした。そのタイミングで倉重氏にお話を伺ったのですが、「まだ道半ばで社員の2~3割が理解してついてくれば定着する」とおっしゃっていました。

―― 成功する条件はあるのでしょうか? ICTを日常的に扱っている日本IBMや日本テレコムだから成功できたとも見えるのですが。

比嘉 日本IBMは大規模テレワークを開始する前に数十人から始めて数百人規模まで何年もかけて試行を拡大してきました。つまり、問題を洗い出してから、規模を大きくしたのです。また、モバイルワーク導入当時、新入社員の大量採用を控えオフィススペースの確保が課題だったという事情もありました。社内設備の変更以外にも、顧客である(製造業などの)企業が来てほしくない月曜朝(=営業部隊が外回りしなくてよいタイミング)に全員出社する、といったルール作りも同時に行ったのです。

―― 日本企業にはなかなか難しそうですね。

比嘉 80年代半ばからテレワークの実証試験を行っていた国内企業にヒヤリングした際、実証を重ねつつも自社導入の予定はないと話していたのですが、1998年に日本IBMがテレワークを導入したこともあり、その翌年に真似して導入したという事例があります。同社では、当時、初期投資に2~3億円かかる計算でしたが、実際はオフィススペースの節約だけで3~5年で回収可能でした。

 テレワークは、経営者が利益を得たいのであれば全社的に導入しないとだめです。全社的に行うことで、オフィスコストの圧縮という目に見える効果が出ます。それが難しい場合にも、「ある職種では全員がやる」といった判断を下さないとメリットは出ません。ということは、責任感が強い人とか自分を管理できる人といった「テレワーカーの資格」みたいな話はありえません。会社が決めれば全員出来るという前提で取り組む必要があります。

全社導入もしくは職種全体での導入がテレワークには必須だという。

「在宅勤務で生産効率向上」が誤りである理由

―― テレワークの中でも、モバイルワークと在宅勤務は違うというお話ですが。

比嘉 モバイルワークと同様、在宅勤務も日本企業は全然準備ができていません。育児と介護のサポートから始めて、そこから全体に広げていこうとして全社に拡大すると、テレワーカー用の特別業務評価など新ルールが導入され、評価の仕方など手間が倍になり上長の仕事が増えて不満が出ます。同様に、在宅勤務をしていない人の不満も起きます。

 厚労省がサテライトオフィスの実証実験をしたときのアンケートでも、サテライトオフィスを利用している人の業務効率は上がったのですが、オフィスにいる人の効率は下がったという回答が出ています。電話はオフィスにかかってきますし、資料が電子化されていないので会社にしかない資料を送ってほしいというテレワーカーからの依頼もあります。利用者を分けると生産性は上がらないのです。テレワークは全員がやるか、人手不足対策と割り切って、育児と介護対象に区切る方法しかありません。そして、このような導入経緯をたどりがちなため、在宅勤務は中堅以上の企業ではうまくいかないのです。

 また、モバイルワークの導入では利益の向上やコスト削減した実績があるのに、在宅・サテライトオフィス勤務ではこれらのメリットが出ないということを役員が理解できていない例も見られますが、それは間違っています。テレワークというくくりですが、フルテレワークがリンゴの栽培なら、部分テレワークはミカン栽培です。それぐらい違いがあるのです。例えば、営業効率向上を目的としたモバイルワークはフルテレワークであり、ワーカーの福利厚生を主眼とした在宅勤務は部分テレワークとなります。前者は部門所属の全員が対象であり、かつテレワークが主な勤務体制であるのに対して、後者は該当する一部の社員が必要に応じてテレワークするものなので、両者に同じ成果を求めることは間違っています。

 期待されているテレワークのメリットを享受するためにはテレワーク勤務を原則として、フリーアドレスなどの仕組みを作り、社員間に不公平感をなくすことが必要です。見よう見まねで始めるところが多く、あたかもテニスブームの時に基礎訓練をせずにラケットとウェアだけ揃えてテニスを始めるような危うさを感じます。

在宅勤務は4つに分類して評価する必要がある

―― 育児・介護を目的とした在宅勤務の場合、どのように導入すればいいのでしょうか?

比嘉 「育児・介護」と一口に言いますが、その中身は4つに分類して考えないといけません。まず、育児と介護では対象となる年代が全く異なります。育児は20~30代の社員が主な対象ですが、介護は40代後半からの管理職が対象です。育児は先が見えていて、半年から2~3年の期間だけキャリアが途切れないように会社が対応すればいいわけですが、介護は何年かかるか先が見えません。そして主な対象は管理職であり、彼らのキャリアパスをどうすればいいのかというのが問題です。そして、育児や介護に当たらなくてはならない社員が、「育児・介護」と「働くこと」のどちらを主にするかで制度対応も変える必要があります。介護の場合で言えば、ケアヘルパーが頼めるのか、自分でほとんどすべてを見なくてはならないかの違いです。

 このため、4種の勤務規定が必要になるのですが、1種類しか用意していない企業ばかりです。休職という制度を持っている会社もありますが、実際に2~3年休職すると、その間の情報の欠落やビジネスの変化から、会社には戻れても元の職には戻れないケースも多くあります。しかし、在宅勤務を継続していれば、同じ仕事に戻れます。三井住友海上では97%以上が復帰できたという報告もあります。

「育児・介護制度」は4つに分けてそれぞれ異なる対応が必要だ。

テレマネージメント能力を高める「社内テレワーク」のすすめ

―― これからテレワークを導入しようとした場合、どんな方法で取り組むのがいいのでしょう?

比嘉 「社内テレワーク」を試すことから始めるのがよいでしょう。これまで1つの島で仕事をしていたところを、別フロアや近くの別の建物に分散させるのです。お互いの顔が見えない状態を作り、Skypeでもなんでも必要なツールを使ってコミュニケーションの形を変えるのです。実際はすぐ近くに居ますから、何か問題が起きたらすぐに集まればいいわけです。まずは顔が見えない状態で仕事をすることに慣れて、テレワークのための精神的なハードルを下げることが重要です。

―― 中間管理職からは「目の前にいない部下を管理できない」という意見を聞きます。

比嘉 それがおかしいのです。管理すべきは出退勤ではなく仕事の管理ですから、目の前に部下がいないので管理や評価ができないというのは、管理能力がないということです。以前は残業代を稼ぐための残業みたいな形も横行していたのに、テレワークにするというと急に気にするようになるのですね。

 現在、管理能力が足りないのであれば、それを高めればいいのです。コミュニケーションの質も変わってきます。そして興味深いことに、部下のほうもテレワークになると『きちんと評価されないのではないか?』という不安を持っているため、逐一仕事を報告するようになるのです。

 営業職などで、従来、朝送り出し夕方報告を聞くスタイルだったのがモバイルワークに移行すると、3ヵ月ほどで評価の仕方も変わってきます。部下が逐一報告を送ってくるので、業務の流れが見えるようになり、これをグループ内で共有することで、他の社員が暗黙知として持っていた部分をアドバイスすることもできるようになります。

 こうした情報は人事も見ることが可能なため、契約の成否だけでなく、プロセスを評価できるようになります。頑張った過程も可視化して評価できるわけです。上司は指示出し以外の、頑張れメールは送る必要がなくなります。

 こうした働き方に慣れた上司が、モバイルワークをやっていない支社に転勤すると、逆に「部下の顔は見えるが何をやっているのかわからない」ということになります。ビジネスのコミュニケーションの仕方が変わってしまっているからです。

地方の人手不足をテレワークで解決

―― 中小企業がテレワークを導入するメリットは?

比嘉 これまで、中小企業のテレワーク導入はメリットを見出すことが困難でした。規模が小さいと、地元の方を雇用しているため都会のように通勤時間が問題になりません。しかし、現在は人手不足です。仕事はあるのに募集しても応募がない。テレワークで遠隔雇用ができればこの問題を解消できます。

 東京都港区のFIXERという120名の社員を抱えるITベンチャーでは、以前、三重県の就労支援のパネルに呼ばれて知事から「地元の高専の優秀な学生が地元には働く場所がないため皆東京に行ってしまう」という問題を聞き、津市にある三重県産業支援センターにサテライトオフィスを設け地元雇用に乗り出しました。

 その結果、現在では20数名が東京で受注した仕事に完全テレワークで従事しています。同社では金沢と名古屋でも同様の取り組みをしており、次の段階ではそれぞれの地元での仕事の受注を目指しています。

―― テレワークの管理能力があれば、どんな企業にもビジネスチャンスにつながる可能性があるのですね。ありがとうございました。

「特集 働き方改革再入門」
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※テーマは予告なく変更する場合があります。

筆者プロフィール:狐塚淳

スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。

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