ハイブリッドテレワークで柔軟な働き方を促す

ピー・アール・エフ(東京都新宿区、代表取締役社長 浜中健児、12人)は1999年に創業し、主に企業や個人の財務のリスクマネジメントや損害、生命保険のコンサルティングを手掛けている。

2020年4月上旬から5月末まで全社員が在宅勤務を始めとしたテレワークに取り組んだ。6月上旬からは、オフィスへ出社する(社内では「リアル出社」と呼ぶ)就労スタイルと、テレワークのハイブリッドとなった。その後は、全員が状況に応じて各自の判断で使い分けている。

12月現在は感染者数が増えているため、全社員にテレワークを奨励している。通勤ラッシュやオフィス内での過密状況を避けるためだ。社員各自が就労場所を状況に応じて決めることで、柔軟な働き方を促すためでもある。

リアル出社の社員は、毎日少なくとも数人はいる。扱う商品が損害保険、生命保険など個人情報に関するものであり、情報漏えいを防ぐためにもオフィスがより安全と考えているからだ。また、交通事故に遭った顧客が感情的になったり、威圧的な電話をしてきたりすることが稀にある。そうした際の対応は、オフィスの方が社員の安全管理が確実になると判断している。

営業担当は5人。そのうち役員(社長と専務)が2人、専門職が3人。現在、役員の2人はほぼ毎日(月曜日~金曜日)リアル出社。3人は本人の希望や営業の仕方や現状、顧客との関係をもとに以下の2つにわかれている。

・テレワーク主体:週3~4日(基本的に終日)がテレワークで、残りの日はリアル出社。2人が、このスタイル。

・リアル出社主体:週1~2日(基本的に終日)がテレワークで、残りの3~4日がリアル出社。1人が、このスタイル。

いずれもリアル出社やテレワークの日は各自の判断で決めるもので、会社の側から必要以上に制限を設けることはしていない。浜中社長によると、テレワーク主体とリアル出社主体の差は主に「ITスキル」「営業の仕方」が異なるために生じるのだという。

浜中健児 代表取締役社長

昭和の営業スタイルのままでは好ましくない

テレワーク主体の2人は、前々からITスキルが高いようだ。例えば、1人の男性(40代前半)は、顧客とのやりとり(最初のアプローチから保険商品の説明、契約成立、フォロー)をすべてメールのみで完結させることができる。そのうえ、契約数や契約高は保険代理店業界の営業担当者の相場と照らしても高いという。2020年4月以降は、メールやZoomなどのオンラインを使い、顧客とスムーズに意思疎通を図る。契約数や契約高は4月以前よりも増えているようだ。

一方、リアル出社主体の1人については、浜中社長は「時代の変化に即した営業力をさらに強化してほしい」と語る。

「この社員はZoomを使い、顧客と意思疎通を図ることはできるが、契約成立にたどりつかない場合も少なくない。例えば、Zoomでアプローチする場合、事前の準備がとても大切。画面上で保険商品の説明資料のどこをどのように説明するか。画面の切り替えやそれぞれの画面での説明、顧客へのご質問で考えを確認する方法が確実にできないといけない。オンラインによる営業は正確な商品知識があったうえで、高いITスキルがないと成約には至らない。」

現在、この社員は訪問営業や電話での商品説明で4月以前と同じくらいの契約数や契約高を維持できているようだ。「今後、DX(デジタルトランスフォーメーション)が企業社会に浸透すると、例えばオンラインツールを個々の顧客の実情に応じて効果的に使い分ける技術が求められる。使いこなせないと、顧客との接触機会が減る。その意味での意識のパラダイムシフト(劇的な変化)が、このような社員にはどうしても必要になる。昭和の営業スタイルのままでは好ましくない」(浜中社長)

6月からは、営業担当5人全員の月ごとの契約数や契約額は4月以前の数字に戻った。10月末の時点で1年の収支決算をすると、前年と比べ、売上はプラス3%となった。大きな理由の1つは、保険商品の解約がほとんどなかったことがある。顧客には旅行業や外食業の会社も多数あるが、事業縮小や廃業、倒産は少ないようだ。現在は「GoToトラベル」事業により、特に旅行業の会社の役員や管理職は「仕事が増え、社員が足りない」「利益が想定以上に出ている」と漏らすことが多いという。

オフィスのセパレート

オフィスにセパレートを設け仕事をする

「在宅でのスキャンが、在宅勤務の最大の盲点」

バックオフィスの4人(内訳は顧客対応のCSR 2人、総務2人)もハイブリッドの就労スタイルだが、営業担当よりはリアル出社が多い。4人とも週1~2日がテレワーク、週3~4日がリアル出社。全員が、通勤ラッシュやオフィス内での過密を避けるために時差出勤務をする。

●勤務時間は、3パターン
①  午前8時~午後4時
②  午前10時~午後6時
③  午前11時~午後7時

1か月単位で、4人の話し合いで調整をする。1か月間は3つのいずれかの時間で勤務するが、状況に応じて変更を申し出ることができる。変更する場合は、他の3人の了解を得ることが必要になる。

4~5月にCSRの2人が在宅勤務をした際、ある問題が生じた。ほぼ毎日、顧客から大量の契約書や申込書が郵送もしくはファクスでオフィスへ届く。2人のうち1人が2~3日に1回のペースでリアル出社し、それらの書類を処理した。4月以前と比べると、リアル出社する日が減ったために1日で処理する書類が増えた。時々、自宅に持ち帰り、作業をせざるを得なくなった。

さらに問題が生じる。2人の自宅のスキャナーがスムーズに稼働しなかった。家庭用機器であるために、大量の書類を一定のスピードで処理することができなかったのだ。浜中社長は、「在宅でのスキャンが、4~5月の在宅勤務の最大の盲点」と話す。6月からはスキャナーを新たに購入し、CSRの社員たちに在宅勤務用として貸与している。

CSRに限らず、社内全体でファクスを扱う量や件数は現在も4~5月の時期とほとんど変わっていない。特に交通事故の報告書を保険会社に送る時は、その約8割は依然としてファクスを求められるようだ。「手書きの方が事故の詳細まで書くことができて、読み手である保険会社の担当者に正確に伝わりやすい」と業界では前々から思われているのだという。

パラダイムシフトに対応できる態勢づくり

ハイブリッドをより効率的に進めるために、4月から現在までに主に次の態勢や仕組みを段階的に強化してきた。

1、情報共有態勢の強化

社員全員が参加するミーティングや朝礼は毎週1~2回、Zoomを使用して行う。4~6月は慣れるためにも、回数を増やした。オフィス内に大型のスクリーンを設け、そこに在宅勤務の社員の顔を映す。リアル出社の社員はスクリーンや自らのパソコンの画面を見て、話し合う。この場で、全員でZoomの効果的な使い方や顧客への商品説明を学習することもある。

社員全員が参加するミーティング

2、IT機器やツールの整備

全社員にスマートフォンを1台ずつ貸与した。バックオフィスの4人には、自宅での仕事がしやすいようにノート型パソコンを1台ずつ貸与。営業担当全員には、 iPadのタブレットを1台ずつ貸与している。以前から全員で使用していたビジネスチャットツール「LINE WORKS」を4~5月前後からフルに活用する。

スマホでラインワークスを使い、社員に指示をする浜中社長

3、顧客管理システムの整備

外部の専門家の協力を得て10年前から顧客管理システムを段階的にバージョンアップしてきた。このシステムにすべての顧客のデータを記録し、厳重に管理している。顧客との電話やファクス、メール、郵便などの接点やその内容を入力すると、営業担当の役員のもとへメールで届く。それを見た役員が迅速に確認し、必要があれば指示をする。今後もさらにバージョンアップしていく予定だ。

4、セキュリティ対策の徹底

社外で個人情報を扱うために、全社員で情報保全や守秘義務をあらためて確認した。例えば、フリーWi-Fiの使用を避けて、テザリングを利用することをルールとして決めた。「LINE WORKS」では、事務的な表現で伝えることを原則として、感情的な物言いや言葉を使わないようにもする。例えば、浜中社長は「大きな問題が起きている時には使えないが、少々の誤りなどの場合には絵文字で注意を促す場合もある」と話す。

5、フリーアドレス制

営業担当者の机を減らし、共有のテーブルを設けるなどしてフリーアドレス制を始めることを予定している。時期は未定。

これらの取り組みの先には、企業のどんな将来を見据えているのだろうか?

「企業社会全体のDXはある程度のペースで進んでいるが、この業界の商習慣は旧態依然の部分がある。例えば、依然として事故報告書などの隅々まで紙が浸透している。印鑑がテレワークをするうえでの壁と言われるが、少なくとも損保の業界では大きなネックは紙だと私は思う。これをすぐに変えるのは難しいのかもしれないが、時代の変化とともに変革を迫られるはずだ。そのパラダイムシフトに対応できる態勢づくりは今のうちからしていきたい」(浜中社長)

この規模の会社は、トップの経営力で左右される。判断を誤ると、業績がたちまち大幅にダウンすることすらある。経営危機に陥る場合もあるだろう。浜中社長は損保のあり方が日本よりは進んでいると言われるアメリカに視察に行く機会が多い。最前線の状況を見て、早くからIT化に取り組んできた。このような蓄積があったからこそ、ハイブリッドが可能になったのではないか、とも思えた。

オフィスで社員に社内外の現状を伝える浜中社長

「コロナに負けない!在宅勤務・成功事例」
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筆者プロフィール:吉田 典史

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。