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国内のIT投資は全ての産業で増加する
DXプラットフォームをas a Serviceで使いやすく

昨年9月1日、日本ヒューレット・パッカード(HPE)の新しいリーダーに望月弘一氏が就任した。望月氏は大学卒業後に日本アイ・ビー・エムに入社して20年以上にわたり日本およびアジア太平洋地域で営業、戦略、サービス事業などを担当したほか、米IBM本社でも活躍した。2010年10月からディメンションデータジャパン(現NTT Com DD)の代表取締役社長を務め、2015年11月にはレッドハットの代表取締役社長としてオープンハイブリッドクラウド戦略を推進し、同社の成長を加速させた。HPEの代表取締役 社長執行役員に就任して第3四半期がたった今年6月、HPEがグローバルで推進する「EDGE-TO-CLOUD PLATFORM AS-A-SERVICE」戦略と日本市場で注力する四つの事業領域での取り組みについて話を聞いた。

全ての産業でIT投資が増加
対象は散在するデータの統合管理

HIROKAZU MOCHIZUKI
Hewlett-Packard Japan, Ltd.
Representative Director
President and Executive Officer

編集部■世界中がコロナ禍に見舞われて1年以上がたちましたが、国内のIT市場への影響や見通しはいかがでしょうか。

望月氏(以下、敬称略)■新型コロナウイルスの感染拡大はあらゆる産業に大きな影響を及ぼしました。その一方で企業と個人のIT活用が加速し、ITの有用性を改めて認識する機会にもなりました。

 この流れの中で企業や社員のDXマインドが醸成され、業務や取引のデジタル化への要求の拡大に伴ってIT投資が進むと見ています。市場調査では2021年から3年間の国内IT投資のCAGR(年平均成長率)は3.5%で増加すると予測されており、全ての産業でIT投資はプラスになると見ています。

編集部■企業が今後投資すべきIT領域や解決すべきITの課題において、HPEが貢献できることを聞かせてください。

望月■この1~2年でDXへの関心や投資意欲が高まり、DXの実現に取り組む企業が増えています。ところがその取り組みは部門単位、施策単位で進められており、社内にプロジェクトが乱立しています。

 部門や施策ごとにDXのプロジェクトが展開されると、社内にさまざまなアプリケーションやデータが随所に散在してしまい、社内には有益なデータが膨大に存在しているにもかかわらず、活用できているデータはわずか三分の一程度だと問題が指摘されています。

 多くの企業のIT環境はエッジ、オンプレミス、クラウドにアプリケーションやデータが分散し、複雑化しています。こうしたIT環境の中で企業のお客さまは相互の連携に多大な労力と時間、コストを費やしています。そこを日本ヒューレット・パッカード(HPE)がお客さまに成り代わって分散化と複雑化が進むIT環境をシンプルに最適化し、連携させます。

 そしてエッジからオンプレミス、クラウドにわたって散在する全てのデータに対して統合管理するデータファブリックを構築し、AIを活用してインサイト(洞察)を得る仕組みを提供します。お客さまが部門やシステムを超えて全社で必要なデータに即座にアクセスできる環境を提供することが、お客さまのDXの加速につながると考えています。

編集部■分散するアプリケーションやデータを連携させる仕組みの提供においてHPEの優位性を聞かせてください。

望月■エッジからオンプレミス、クラウドにわたって散在する全てのデータに対して統合管理するデータファブリックを実現し、AIを活用してインサイトを得る仕組みを構築するにはエッジ、オンプレミス、クラウドのそれぞれにサーバーやストレージ、ネットワークが必要となります。

 HPEはサーバーやストレージ、ネットワークなど、お客さまのDXの推進に必要となるプラットフォームの構成要素において、それぞれ幅広いポートフォリオを提供しているという強みがあります。

 またHPEはお客さまに貢献できそうなテクノロジーをM&Aで獲得することを繰り返してきており、異なるインフラ間の相互連携を可能にするテクノロジーの提供を含めて、常にお客さまのビジネスに役立てていただける時流に合ったソリューションを幅広く提供できます。

 さらにHPEはオープンな企業文化であることも、お客さまへの価値の提供に好影響を与えています。一般的にメーカー系の企業は自社のテクノロジーにこだわってビジネスを推進していく傾向がありますが、HPEは自社のテクノロジーも大切にしながら他社のソフトウェアやサービスを取り込み、全体で価値を高めていくことを重視しており、他社ベンダーとの協業を盛んに行っています。

 HPEには「Pointnext Technology Services」という技術支援組織があり、グローバルで2万3,000人、日本に1,500人のエキスパートが他社を含めた全てのテクノロジーやソリューションについて、実装までの支援を行っており、自社および他社のテクノロジーを評価してベストオブブリードでプラットフォームを構築し、適材適所でお客さまに最適なソリューションを提供しています。

as a Serviceでの提供を強化
従来の物販も引き続き重視する

編集部■HPEは「EDGE-TO-CLOUD PLAT FORM AS-A-SERVICE」をスローガンに掲げてas a Serviceカンパニーに移行し、2022年までに全てのポートフォリオをas a Serviceで提供すると発表しています。製品提供がどのように変わるのでしょうか。

望月■クラウドの外側に存在するワークロードやアプリケーションも含めて、ITの全てをコンサンプションモデル(従量課金)で利用したいという要望が強まっています。

 エッジからオンプレミス、クラウドにまたがる全てのデータ発生ポイントからデータを集めてインサイトを得る仕組みが重要になる中で、その仕組みに必要な全てのテクノロジーを「HPE GreenLake」による従量課金で提供します。

 すでにほとんどのプロダクトを従量課金で提供できる準備が整っており、他社のソリューションも取り込む計画です。さらに保守などのサービスも含めて、お客さまが必要とするITをエンドツーエンドで全て従量課金で、マネージドで提供していきます。

 お客さまが利用しやすいように、例えば「HPE GreenLake for VDI」というように、ソリューションごとにパッケージ化したメニューの準備も進めています。

編集部■as a Service化を推進することで、従来のハードウェア販売というビジネスは縮小していくのでしょうか。

望月■結論から申し上げますと、これまで大事にしてきたサーバーやストレージなどのビジネスにおいて、今後も物販としてパートナーさまを通じて提供していきます。

 as a Serviceの推進はHPEの三つの注力施策の一つです。従来のビジネスを引き続き成長させること、新しい需要を取り込む施策としてas a Service化を推進すること、そして有望なテクノロジーを取り込み価値を高めること、この三つのテーマでHPEは成長を目指しています。

 パートナーさまはこれまでの物販を継続しながら、HPE GreenLakeを通じてサーバーやストレージの枠を超えてエッジやネットワークの製品やサービスも扱えるようになります。

 このように新しい提供方法を加えることで、パートナーさまのビジネスの機会を増やすことができると考えています。

顧客の関心の高い四つの領域で
DXプラットフォームを提供する

編集部■今後のIT投資の拡大に向けて、どのようにビジネスを展開するのでしょうか。

望月■お客さまのIT投資は四つのテーマに関心が高まっています。一つ目は5GおよびIoT、二つ目はニューノーマル時代の働き方を支えるデジタルワークプレイス、そしてお客さまのDXの推進を加速させるデータマネジメントとAIが三つ目、さらにハイブリッドクラウドの四つの領域に注力していきます。

 まず5GとIoTでは、これらの活用が広がるのに伴いアプリケーションのニーズが拡大していきます。そうした中でエッジでのサーバーやストレージの需要も増えていきます。

 そこで通信事業者やサービス事業者向けの5GおよびIoTに特化したソリューションの提供をはじめ、エッジでの無線通信やエッジ専用のコンピューティング基盤の提供、さらにHPEのソリューションと通信機器ベンダーやIoTソリューションベンダーとの協業を推進するなどして5GおよびIoTでビジネスを伸ばしていきます。

 具体的なソリューションとしてはエッジコンピューティングおよびローカル5G向けの専用コンピューティングプラットフォームであるHPE Edgelineや、IT/OTネットワークに接続された全てのデバイスをベンダーを問わず自動的に検出して認証と可視化するAruba ClearPass/ClearPass Device Insightなどを提供しています。

 2019年11月に発表した5G専用モデルのHPE Edgeline EL8000は日本でもローカル5Gで採用されています。また独自のソフトウェアやSI機能によって5Gネットワーク環境を提供でき、IoTにおいて幅広くご利用いただけます。

 5GおよびIoTの領域に対してHPEではエッジ分野に2018年から4年間にわたって4,000億円の投資を行っており、また2020年8月には米本社にHPE 5G Labを設置してパートナーさまとともにソリューション開発を進めています。

 ニューノーマル時代の働き方を支えるデジタルワークプレイスについては、これまでVDIやDaaSなどがフォーカスされていましたが、今後は複数のクラウドにまたがってリモートワークの環境、情報共有の環境をゼロトラストセキュリティで作っていくことが求められ、ID管理や認証に加えてセキュリティを含めた全体的な運用管理が必要となります。

 そこで自宅からオフィス、クラウドにわたって柔軟かつセキュアなネットワーク、ID管理・認証などのセキュリティソリューションデバイスからVDI、クラウドとの連携や運用管理までの包括的なテレワークソリューションなどを提供してデジタルワークプレイス領域でのビジネスを伸ばしていきます。

 具体的なソリューションとしては拠点や自宅からのシームレスなアクセスを提供するWi-Fi無線および有線LANのネットワークソリューションおよびSD-WANによる柔軟でセキュアな拠点・クラウド接続を実現するAruba Unified Infrastructure/SD-WANや、Wi-Fi無線環境ならびに有線LAN、WANまでを含めたAIを活用した総合運用とゼロトラストセキュリティを実現するAruba Edge Service Platform、デバイスからクラウドまでの総合テレワークインフラの導入を支援するHPE Digital Workplace Consultingなどを提供しています。

 データマネジメントとAIでは分散した拠点とクラウド間のシームレスなデータ連携、組織横断で活用可能な分析・AIプラットフォーム、HPC技術をAIに活用した高度な演算処理基盤、データ管理、分析・AIのためのソフトウェアやクラウドサービスを提供するパートナーさまとの協業拡大などにより統合データ基盤を実現して、お客さまの全社的DX推進を加速させます。

 具体的なソリューションとしてはデータ分析・AIのプラットフォームであるHPE Ezmeralやマルチクラウドで利用できるクラウドストレージサービスであるHPE Cloud Volumesによって組織横断でのデータ活用を促進します。またAIで必要となる高速なデータ処理を実現するコンピューティング基盤であるHPE AI Computing Platform、エッジからクラウドにまたがるデータストアの最適配置と導入を支援するHPE Right Mix Data Storeなどを提供しています。

 ハイブリッドクラウドについては、HPEの強みであるインフラで支えていきます。現在プライベートクラウドの需要が伸びており、いずれパブリッククラウドを抜くと見ています。今後は異なる複数のクラウドを利用したり、クラウドからクラウドへ移行したり、オンプレミスも混在したりするなど、環境にロックインされない柔軟なインフラが必要とされます。

 こうした要望に対して複数のクラウドをまとめた統合的な運用管理環境、AIを活用した自律的なインフラ運用を実現するHCI基盤、ハイブリッドクラウドベンダーやデータセンター事業者との協業拡大などによってハイブリッドクラウド領域でのビジネスを伸ばしていきます。

 具体的なソリューションとしてはリソースの可視化とシステム配備、運用サービスをハイブリッドクラウド環境にまたがって提供するHPE GreenLake Cloud Services、クラウドのような柔軟かつ迅速なリソース配備と運用が実践できるHCI基盤、AIを活用した自律的なインフラ監視サービスのHPE InfoSight、ハイブリッドクラウド化の全体計画を立案するとともに、クラウド活用のPoV(価値の検証)を通じて実行計画を提示するHPE Right Mix Advisorなどを提供しています。

産業別営業体制を細分化して
DXプラットフォーム推進チームを新設

編集部■IT投資の増加が期待できる国内市場の顧客に対して、どのようにアプローチするのでしょうか。

望月■お客さまと長い信頼関係を築くには、お客さまが自身の経営課題に対して何をしようとしているのかを推察して課題解決に貢献できるテクノロジーを提供することが求められますが、その対応には各産業分野の知識や知見が必要です。

 そこで2021年度から産業別営業組織体制を強化しました。従来の通信・メディア、製造・流通・サービス、金融・公共の三つから、通信サービス、製造、流通・サービス、金融、公共の五つに産業別営業体制を細分化しました。

 また、お客さまを理解して課題解決に貢献するにはいろいろなテクノロジーの組み合わせが必要になりますが、一人の営業担当者が全ての知識を網羅するのは厳しい。そこで「DXプラットフォーム推進チーム」を新設しました。

 ハードウェア製品部門、ソフトウェア製品部門、サービス部門からスペシャリストを集め、先ほど説明しました四つの事業領域でそれぞれ混成チームを編成してお客さまに最適なソリューションを構築します。今後はDXプラットフォーム推進チームと産業別営業担当者の両輪をうまく回してお客さまのDXの推進を支援していきます。

 ただしHPEの営業体制だけでは限られたお客さましか担当できません。全国のお客さまと会話をするには、全国の各地域に密着したパートナーさまを網羅するダイワボウ情報システム(DIS)さまとの協業が不可欠です。

 新しいテクノロジーや新しいビジネスに貪欲なDISさまと、DISさまの全国のパートナーさまと連携してサーバーやストレージだけではなく、新しいテクノロジーの再販についてもぜひ協業していきたいと考えています。DISさまとその先のパートナーさまとの協業は、HPEが掲げるas a Serviceカンパニーになるという目標を成功に導く大切な要素の一つです。