GIGAスクール構想によって掲げられた1人1台の端末と高速大容量のネットワークの一体的な整備。その環境をセルラータイプのタブレットを採用し、2017年から実現していたのが渋谷区だ。2020年9月には端末をSurfaceGo 2にリプレースし、マイクロソフトツールとの親和性の高い学びの環境で、新しい“渋谷区モデル”をスタートさせた。

KeyPoint.1

日常的な端末活用

渋谷区の小中学校全26校全ての児童生徒にSurface Go 2を導入。プログラミング教育はもちろん、多様な科目の中で日常的に端末を活用している。教室にはプロジェクターも設置されており、課題の見通しや映像の閲覧などを投映して学んでいる。

KeyPoint.2

教員用端末は1台に集約

教員用の端末としてもSurface Go 2を整備している。教員は端末1台で、個人情報系、教職員事務系(校務系)、学習系のネットワークにアクセスできる。個人情報系のネットワークには仮想端末を経由することで、各ネットワークへの安全な接続を実現している。

KeyPoint.3

持ち運びに適した筐体

Surface Go 2は、軽くて薄く、持ち運びがしやすいため家庭での持ち帰り学習にも適している。ほかの機種と比較したスペックも優れており、すでに導入されている Office 365 を含む Microsoft 365 A5 を組み合わせることで最先端のICT環境を拡充できる。

Withコロナ時代を見据えたICT基盤に
1万2,500台のSurface Go 2を導入
――渋谷区教育委員会

■どこでもつながる学習者用端末

 渋谷区では2017年9月から、区内の公立小中学校に通う児童生徒に対して、1人1台の2in1 Windows端末の貸与を行い、「渋谷区モデル」としてICT教育を推進してきた。渋谷区モデルではセルラータイプのタブレットを学習者用端末として採用することで、持ち帰り学習を可能にしている。クラウド化による管理の効率化や閉域LTE網を採用することでセキュリティも確保した。

 2017年度から2019年度まで総務省が文部科学省とともに実施していた「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」の実証地域としても指定されており、「学習系システム」と「校務系システム」の間で安全かつ効果的にデータの受け渡しを行う連携方法などについても検証し、データを連携し可視化させることにより生活面における指導に役立てるなどの取り組みも実施していた。

 全国的に見ても渋谷区のICT教育への取り組みは非常に先進的だ。2020年9月からはこれまでの渋谷区モデルの課題をもとに、児童生徒や教員に対して、より質の高いICT環境を提供するため、全面的にシステムを再構築した新しいICT基盤の稼働をスタートさせている。

 再構築の方向性は大きく四つある。一つ目は現行の渋谷区モデルにある1人1台のタブレット端末配布や常時LTE回線の接続環境、持ち帰り学習に利用できるといったコンセプトを引き継ぐこと。二つ目は教育の検証改善(PDCA)サイクルの加速、三つ目は教員のワークライフバランスの改善、四つ目は新たな技術への対応ができることだ。そうした取り組みを実現させていくため、渋谷区では学習者用の2in1端末をSurface Go2に切り替え、2020年9月から順次区内の小中学校全26校全ての児童生徒に配布している。その台数は1万2,500台に上る。

■マイクロソフトツールをフル活用

 渋谷区教育委員会 教育政策課教育ICT政策係 係長 山﨑卓夫氏は「新しい渋谷区の教育ICT基盤は三つのコンセプトから成り立っています。一つ目はWithコロナを見据えた児童
生徒へのよりよい学習環境の提供。二つ目はセキュリティと将来性を踏まえた安定運用。三つ目は教職員が本来の業務に専念できる環境の提供です。この内、Withコロナを見据えた学習環境を実現するには、Microsoft Teamsをはじめとしたマイクロソフトツールをフル活用することが重要になると考えました。そしてマイクロソフトツールと高い親和性のある最新のタブレットとして、Surface Go 2を選定したのです」と語る。

 Microsoft Teamsは、コロナ禍における臨時休校期間にも積極的に活用され、新しい学習方法を実現していた。例えば、デジタル教科書を児童生徒に共有したり、黒板を表示したりしながら行う遠隔授業や、Teamsの共同編集機能を使ったグループ課題への取り組みなどの双方向の学びだ。また3密を防ぐため、始業式や終業式などのイベントもTeamsのライブイベント機能を活用してオンラインで開催した。臨時休校期間終了後も、Teamsのオンライン会議機能を利用して、離れた学校の子供同士が交流する遠隔交流学習や、ALT(外国指導助手)とつないだ遠隔授業などを実施する、Teamsを要とした新しい学びのスタイルに挑戦している。

■Teamsとの高い親和性

 映像の活用もMicrosoft 365によって大きく進んだ。動画共有サービス「Microsoft Stream」を活用し、体育の授業では器械運動などを動画で撮影し、3秒遅らせて体の動きの確認に利用していた。また話し合い活動の中でも、録画をすることでその会話を客観的に聞いたり、隣のグループの話し合いを確認したりするような振り返りが可能になったという。

「 2020年9月からSurface Go 2が導入されたことで、端末の使い勝手も非常によくなりました。軽量で持ち運びもしやすく、画面の解像度も高いのでコンテンツが見やすいのです。以前利用していた端末はTeamsの動作が保障されておらず、臨時休校をきっかけに急きょ渋谷区で動作検証を行い導入するなど、マイクロソフトツールとの親和性が高くありませんでしたが、Surface Go 2であれば親和性が高く、またスムーズに動作します」と渋谷区教育員会 教育政策課 ICT教育技術支援主査 宇都篤司氏は語る。

 渋谷区教育委員会 教育指導課 統括指導主事 山口信忠氏は「今回導入しているSurface Go 2をはじめとした教育ICTインフラは、GIGAスクール構想による国からの補助金だけでは整備できません。しかし、学校側がこの教育基盤を活用し、子供の教育に向き合える環境を整えるべく、国が想定するよりも高い水準の環境を整えました。この新しいICT教育基盤はまだ導入して半年も経っていませんので、今後使い勝手の面で要望などが出てくることでしょう。改善要望があれば対応できる部分は適宜対応していき、対応できない部分は代替の手段を考えるなど、課題への対応を進めていきます」と展望を語った。